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「レストランで、うちの野菜を食べながらお話ししましょうか。」そう電話で伝えられる。名古屋から電車で20分ほどの南大高駅で降りると「カフェ&レストラン にんじん」が見えてきた。

このレストランを運営するのが、株式会社にんじん。東海地区を中心に約1,700件の家庭に、有機野菜を宅配する「にんじんCLUB」からはじまった会社です。
2010年にはショップ、レストランを立上げました。今後も新たな展開を見せようとしているところ。
まさに第2創業期にあたるいま、にんじんのこれからをつくっていく人を募集します。
訪ねたのは、暑い夏の日。
レストランは、患者さんから近所の家族連れまで、いろいろな人でにぎわっている。料理を待ちながら話を聞いていく。
「わたしたちは、循環型社会を実現していこうという思いから27年前にはじまったんです。有機農業って、安全な野菜づくりだけでなく、土や微生物などあらゆる命との関わりを大事にする農業なんですね。」

からだにいいとか、おいしいとか。消費者目線で捉えられることが多いと感じるけれど、にんじんCLUBはどんな思いで有機野菜を届けているのだろう。
「もちろん、おいしくて安全なものを食べてほしいという思いもあります。でも、私たちが一番大切にしたいことは、生産者の生活に寄り添うことかもしれません。」
生産者の生活に?
「ええ。有機農業って、除草剤をまかずに雑草を自分たちの手で抜いたり、とても手間ひまかかります。それでも、自然の力で野菜を育てようとしているんですね。さらに、販路の開拓が難しくて生活が厳しいという問題があります。そこで、私たちは流通をお手伝いさせてもらっています。」

「野菜づくりには、よい年もあれば悪い年もあるわけです。これから野菜が生育していくときに虫が大量発生してしまった。このまま有機を通せば、収穫ができなくなってしまう。そんなときには、農薬を使用しても取り扱いをさせていただきます。」
「その方が30年間、自分の農業に取り組んで生活していくことが大事だと思うんです。私たちは、カタログを通して、経緯を会員さんに正直にお伝えします。そうすることで理解して購入もしていただけるんです。」
ここで、料理が運ばれてくる。
どんな野菜だろう?そう思っていると、スタッフの方が嬉しそうに話してくれた。
「今朝採れのキュウリですよ。こちらにある生のとうもろこしは渥美半島の天恵グループさんのもの。いまが一番おいしい時期なんです。」

ところで、どうしてレストランをはじめたのだろう?
「宅配だけでは出会えなかった人たちににんじんを知ってほしい、と思ったんです。」
「宅配で“素材”として提供している野菜の“食べ方”を提案する場所なんですね。『こんな風に食べられますよ』とか『こう食べたら、からだも元気になりますよ』と伝えられたらと思います。お出ししているものは、隣のショップで販売もしています。だから、友だちとランチを食べにきたお母さんが、その料理を家でつくり、家族に味わってもらう。そんな機会も生んでいきたいです。」
現在は、スタッフの提案で農場の立ち上げを計画している。新たなチャネルを持つことで、もっと多くの人と出会う場をつくっていく時期にあるという。

30分ほど車を走らせ、小牧市にある本社へ到着した。
はじめに、商品企画の森さんにお話を聞かせてもらう。
「いつも生産者にインタビューをする側なので、すごい緊張してます(笑)。」そう話す森さんは、もともとはフリーランスの編集者として、さまざまな媒体で仕事をしてきた。

「お話を聞かせてもらったことを人に紹介はできても、それ以上は相手に踏み込めないんですよ。『ここまでしか入っていけない』という線をすごく感じて。一つのテーマにしぼって、深く関わっていこうと思ったんです。」
そこで選んだのが食だった。
「食は、農業、環境、エネルギーに生活… 全部つながると思ったんです。それにおいしいものを食べると、笑顔で幸せな気持ちになる。そこはみんなに共通していると思って。」
森さんが手がける商品企画は、生産者の方と直接話し合い、取り扱う商品を決め、紹介する仕事だ。
カタログを見ると、扱う商品は野菜に限らず、服や雑貨まで多岐に渡る。
一人で、これだけのものを選んでいるんですか?
「そうですよ。最初はね、だだっ広い海の前に一人でぽつんと立っているような気持ちだった(笑)。どうやってここから見つけていくの?って。でもね、一つ一つの商品を調べるうちに気づいたの。『きちんとつくられているものには共通することがある』。豆腐も、お酒も、パンも、肉も、それに服だって一緒だなって。そのことがわかると、どんなものも提案できるんだと思います。」

「カタログを読んで、その場で注文いただけたら一番ありがたいけれど、すぐにそこまでいかなくても、ちょっと、心に残ってもらえたらと思っています。」
心に残る?
「カタログを読んだり、にんじんの野菜を食べたり。そうした経験が積み重なることで、あるとき『注文してみようかな』と思ってもらえたら。いつか、はわからないけれど、芽が出る日まで、種まきをしていくんです。毎日、少しずつ。」
伝える取組みは、紙面に留まらない。体験する場を企画・開催することも。
今年は、畑を借りて綿の栽培から収穫、さらには布をつくるワークショップを行っているそう。

「ワークショップの先生は、綿栽培から布づくり、製品化までを一貫して企画している方です。ほんとうにものがよくて。全然違うんです。その分、価格もどうしても高くなってしまいます。会員さんからすると、『どうしてこの値段なの?』って思うのも当然なんです。そこで、自分が一連の流れに携わってみることで、改めてもののよさを実感して、価格も腑に落ちるんですよ。」
これも一つの種まきなんですね。
「そうなの。いくらいいものをつくっても、使う人がいないことには続けられませんよね。だから体験を通してより理解を深めてもらう。ちゃんと意味があるんです。」
最後に、配達から戻ったコミュニケーションドライバーの方に話を聞かせてもらう。

これから入社する人も、はじめに1年ほどコミュニケーションドライバーとして働き、仕事への理解を深めたのちに、希望があれば自分の進みたい方向へ歩んでいくこととなる。
話をうかがったのは、愛知県出身の吉川さん。
もともと食に関心があり、休みの日にはオーガニックカフェなどを訪れていたことがきっかけで働きはじめた。
どんな仕事をしているのだろう。
まず聞いたのは、コミュニケーションドライバーの朝は早いこと。
配達の準備を終えて、事務所を出発するのは朝9時。一日に40〜50件のお宅に配達をしていくという。
会員さんとは、どんなやりとりがあるんだろう?
「家に不在がちで宅配を選ぶ方もいます。直接お話するのは、半分ぐらいの方ですね。小さいお子さんがいると、ちょっと遊びながらお母さんとお話ししたりしますよ。それから、会員さんにいろいろと教えてもらうこともあります。『最近○○の朝市が面白いよ』とか、最近夏バテ気味だと話すと、『これ食べてみたら?』とにんじんCLUBの食材をつかった料理を持たせてくださる方もいるんです(笑)。」

「一人一人が新聞をつくってお配りしているんですよ。そのなかで取り上げさせていただくと、『わたしもやってみたよ』と別のお宅から声をかけてもらうこともあります。そうやって少しずつ輪が広がっていく関係がすごく面白いですね。自分の引き出しも増えていくわけです。」
新聞ではそれぞれが自己紹介もするので、“にんじんCLUBのドライバー”ではなく、“カフェに詳しい吉川さん”として顔を覚えてもらうようになる。
吉川さんは、働きはじめて3年目。
コミュニケーションドライバーの大切な仕事の一つに「現場を伝える」ことがあるという。
「生産者を訪ねて話をしたり、草取りから収穫まで、農作業もお手伝いさせてもらうんです。自分でからだを動かして、感じる。そうした体験に基づく言葉を会員さんに伝えていくことが大切だと思います。」

「7人のコミュニケーションドライバーがそれぞれのおすすめ商品を持ち寄って、『夏の福袋』という企画をやったんです。お客さんからはとても評判がよくて。またやってほしいという声もいただいています。」
もう一つ、知ってほしいのが研修制度。
にんじんCLUBは全国に流通から生産までパートナーがおり、若いうちからいろいろな経験を積んでほしいと考えている。
たとえば、九州のパートナー会社で働く平田さんを、1年間の研修を受け入れたこともある。
これから働く人は、希望に合わせて全国へ行くことも考えられる。
帰り際に、こんな話を聞かせてもらいました。
「手間ひまを惜しまない農家さんから学ぶことはほんとうにたくさんあります。野菜づくりだけじゃなく、あり方や姿勢もそうです。畑の上に立つと、全身で感じるものがあって。そこで生まれる『伝えたい』という気持ちから自然に動きはじめると思うんです。」
農業に関する情報は本やインターネット上にもたくさんあるけれど、生産現場には比べものにならないくらい、大切な何かがある。
まずは一度、にんじんを訪ねてみてはどうでしょうか。
(2015/1/22 大越元)