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福永紙工は紙の加工と印刷をしている会社です。いろいろな紙を印刷したり、型抜きしたり、穴を開けたり、折ったり、切ったり、糊付けしながら、パッケージなどの紙製品をつくっています。

それがあるデザインディレクターとの出会いから「かみの工作所」というプロジェクトをはじめます。それまで積み重ねた技術を用いながらも、まったく新しい製品をつくっています。
今回は紙製品全般の開発、企画、構造設計のアシスタントを募集しています。
中央線を西へ進んでいく。新宿から30分ほど。すっかり空が広くなったかと思ったら、大きな街が出現する。
立川駅で降りてテクテク15分ほど歩いていくと、住宅街の中に福永紙工の工場とオフィスがある。
建物の上にあがるとオフィスがあって、そこで代表の山田さんが迎えてくれた。
山田さんはもともとアパレル会社で働いていた方。この会社で働きはじめたころの話からはじめていただいた。
「ずっと地域のお菓子屋さんとか、古くからのお客さんを相手にしていたんです。ただ、下請けからの脱却というけれども、下請けで安定してきちっと利益の出る仕事を続けることも幸せなことなんです。そういう形をつくった会長はすごいな、と思います。」

あるとき、近所にできた「つくし文具店」を訪ねることがあった。
つくし文具店の2代目店主である萩原修さんはデザインディレクターでもあり、大手の印刷会社に勤めていたこともあったので、山田さんが求めていることに可能性がありそうだとすぐに感じた。
「ほんと近所だったのでぶらっと寄ったんです。なんの予備知識もなく。それで、ぜひ工場にいらしてください、と修さんにご案内しました。」

「はじめはクライアントにアピールできるものがつくれればいいかな、と思ったんです。こんなこともできるくらい技術がありますよ、というように。でも修さんと一緒にはじめて、下請けから、もう少し川上にいけるんじゃないかと思うようになったんです。」
当初、想定していたような、企業へのアピールはあまりできなかったそうだけれども、いろいろなデザイナーさんたちと出会うことが増えてきた。
そんな関わりを通して、あるとき「商品をつくって売ったらいいんじゃない?」という話がでてきた。
「当時はデザインされた紙のプロダクトはあまりなくて。それで『かみの工作所』が生まれたんです。インテリアライフスタイル展などに出店していたら、いきなりMoMAからオファーが来たりして。盛り上がりましたね。じゃあやるか、という感じになった。5年前、2回目ぐらいの発表のときにAXISに宮田くんがたまたまやってきたんです。」
宮田さんはデザイナーと工場をつなぐキーマン。今回の募集は宮田さんのアシスタントになる。
はじめて宮田さんが福永紙工とつながったのが、このAXISでの「トクショクシコウ展」だった。
そのときのことを宮田さんに聞いてみる。
「それまではプロダクトのデザイナーをやっていたんです。ちょうど職場を変えようとしていて、何をしようか考えているときに、かみの工作所を知りました。しかもAXISでトークショーが予定されていたんです。それで社長に会いに行ったんです。」

なぜ紙に興味をもったんですか?
「それまで樹脂や金属を仕事にしていたんですけど、図面をつくってからできあがったものをみると『なんか違うな』と思うことがあって。試作や修正をするにも自分の手元に届くまで時間もかかりますし。でも紙って自分でそれなりにできてしまう。思ったことを時間のロスなく、ちゃちゃっとやってみて、修正がその場できくので、すごく便利でフレキシブルな素材。それで興味をもったんです。」

「ぼくはデザインを勉強していたので、製造側に入って、どういうふうにつくられているのかとか、加工されているのかを勉強したかったし、外部のデザイナーさんとのやり取りがある中で『デザイナーさんがやりたいことを上手く現場に伝えるとか、できるかもしれません。そんな人必要じゃないですか?』って言ったんです。」
ポートフォリオを提出して、なかば強引にまた会いに行って、働くことになったそうだ。
会社の第1印象はどうでしたか?
「今思うとけっこう甘く考えていました。」
甘く考えていた。
「加工ってもっと簡単だと思っていたんです。印刷して、型で抜いて、というように。入社して、色々と現場の人と話してみたり、製品をつくってみると、色々な制約があったりとか。パッと見て簡単にできると思ったものが、わりと難しい壁がいくつかあったりするんです。」
たとえばどんなことでしょう。
「型さえあれば、どんな紙も抜けると思っていたんですけど、紙の質や厚さによってできないこともあるんです。たとえば、刃と刃のあいだには『ふところ』があるんですけど、厚い紙だったら刃が届かなかったりします。あとは厚い紙だと潰してしまうこともある。」
印刷も簡単じゃない。たとえばコピー用紙のような質感の紙に金色を印刷しようとすると、全然キラッとした金色にならなかったり、黒いインクでもいろんな黒があるということがわかったり。関わっているデザイナーの方が、自分よりも印刷に詳しいこともある。そういう人たちと対等に仕事をしていくには、たくさんの経験が必要だ。
ほかにも自分たちがメーカーになることもあるので、ちゃんと売れる商品をつくる、という目線も必要になってくる。
もしかしたらデザイナーよりも全体を考える役割なのかもしれない。
どんな商品があるのか教えてもらった。
「そうですね。1/100のスケールのテラダモケイとか。」

はじめは設計事務所や建築学科の学生とかが、模型をつくるときに使用することを想定していた。使う人が限られるし、そんなに売れるか不安もあったそうだ。
ところが販売してみると、思わぬ反響があった。プレゼント感覚で、気軽に買っていく人が多かった。たしかに見ているだけで面白いもの。今では売上の半分を占めているそうだ。
「実際に組み立てている人は多くないかもしれません。ぼくもサッカー編を買いましたが、組み立てませんでしたから。ただ、普通に置いていても、かわいいんですよね。」

もっと詳しく宮田さんの仕事について聞いてみる。一言で言えば「翻訳家」とのこと。デザインを商品化できるように翻訳する役割。
15.0%アイスクリームスプーンのパッケージデザインのときのことを話していただいた。
「デザインはほぼできていたんですけど、構造の部分は考えてほしい、ということだったんです。最初のイメージだと段ボールを積層させて、そこに穴をあけてスプーンを固定しようと考えていたんです。でもそれだと積層するだけでも多くのパーツが必要になってきます。」

アイスクリームスプーン、ぜひ手に取ってみてください。開けてみると、いろいろな工夫にあふれていることに気がつくと思います。
こんな働きぶりをデザイナーたちは「宮田マジック」と呼んでいるそうだ。
「かけこみ寺ですね。『どこも受けてくれませんでした』みたいなこともありますし。」
最初の試作品はどうやってつくっているんですか?
「まずはコピー用紙を切りながら、なんとなくつくってみます。これならいけそうだ、と思ったら、もう少し厚手の紙でつくってみる。さらにそれをスキャンして、図面をつくっていくんです。」

「そうですね。図面からつくると難しいこともあって。明らかなものは図面からいけるんですけど。」
面白い仕事ですね。
「もちろん、失敗もありますよ。型で抜いて製品にしようとしたら、一部きれていなくて、スタッフ総動員で一部分を切ったり。想定外のことがたくさんあるんです。」
どういう人に来てほしいですか?
「そうですね。あまり年上だと気を使いすぎてしまうかな。基本的には『わかりました、やってみます』と言ってくれる人。仕事の幅が広いので、なんでも吸収したい、という方が良いと思います。自分の意思もあって、ぼくに『ここ違いませんか?』と指摘してくれるぐらいがいいですね。『待ち』の状態ではなく、提案してくれる人がいい。」

そのあとも宮田さんは、いろんな工夫にあふれた製品の説明をしてくれた。その話はとても面白くて、ぼくも飽きずに聞いてしまった。
最後にあらためて代表の山田さん。
「これからもデザイナーとの協働は続けていきたいです。今まで見たこともないものをつくってみたい。すでにあるものは価格競争になってしまうので。それで利益がでれば、また新しい試みに投資もできます。」

昨年の秋には工場を開放して、「紙工祭」というお祭りをされたそうだ。おしゃれなメーカーだと思っている人が多いようで、古い工場を見るとびっくりされるようだ。

そのためにも、デザインと工場をつなげていく人が必要です。
(2015/2/3 ナカムラケンタ)