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未来を持たない自由

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未来を決めつけてしまうと不自由になることがある。未来を持たない自由もある。

kingstongrill01 金沢でキングストングリルやハムアンドゴーコーヒーアンドストックを運営しているおまめ舎は、まさにそんな自由がある職場。ケーキがつくりたいスタッフがいればケーキ屋さんをつくり、雑貨屋さんをやりたければつくってしまう。

未来は決まっていない。だんだんと形づくられていくもの。

目の前のことにしっかりと関わっていけば、思いは形になっていき、自ずと行きたいほうに近づいていくように思います。

そんな感覚があるから、ここで働く人たちは生き生きとしているのかもしれない。

今回は自分たちのお店とともに、いろいろなお店を一緒につくっていってくれる人を募集します。まずはお店で働くところからスタートです。



金沢駅。もうすぐ新幹線が開通するこの街は、なんだか少しワクワクしているように感じる。街には新旧の洗練された文化があり、たくさんの海の幸にめぐまれている。住みやすい土地だと思う。

そこから北陸本線で一駅、さらに北鉄に乗り換えて、金沢市の郊外へ向かう。

kingstongrill02 電車には、沿線に住んでいる大学生や高校生がたくさん乗車していた。四十万駅で降りたら、歩いて5分ほどでキングストングリルがある。

実はご依頼いただいたときに、はじめに感じたものは、「お役に立つのはちょっと難しいんじゃないか」というものだった。第1印象は「普通のオシャレなカフェ」だし、地方都市の普通の郊外にあるし、掲載してもあまりお役に立てないのでは、と心配した。

でも今だからこそ、この職場で働くことの魅力がよくわかる。

お店の前に到着すると、まわりには住宅と田んぼが半々くらいの風景が広がっていた。すぐ近くに低い山が迫っている。

短パン姿の久木さんが迎えてくれた。このお店のオーナーだ。

kingstongrill03 最初に少しだけ、キングストングリルの店長である北野さんとお話した。

もともとアパレル関係の仕事に就いていたそうで、友人が働いていることもあって転職したそうだ。まだ働いて1年に満たないけれども、志願したことも実って、最近店長に抜擢された。

話していると、すごい生き生きと自然体で働いているように感じた。もちろん、まだ店長として試行錯誤していることの苦労は伝わったけれども、変にモチベーションを上げているわけでもない。ほかのスタッフも自然に接客している。

kingstongrill04 なぜそんなに生き生きと働いているのだろう。

そんなことをふと思ったあとに、オーナーの久木さんとの会話が印象的だった。

「これから他のお店のプロデュースなどもやっていきたいんです。ただ、新しく入ってきた人は、まずは現場で働いてもらう。ある程度スキルを身につけたら、次のステージにいってもらいたい。それが何だかわからないけれども。」

何だかわからない、のですね。

「たとえば店長の北野はアパレルやっていたから、アパレルやってもいいかもしれない。」

kingstongrill05 なるほど。いい意味で無計画。一緒に働くメンバーやタイミングで、次にやっていくことを決めているのでしょうか。

「まったくそうですね。はじめに夫婦でお店をスタートしたんですけど、女の子がひとり入ったんです。彼女はお菓子をつくる学校に行っていて、お菓子づくりがしたかったんですね。でもまあ、全体の中でお菓子をつくる割合は小さい。」

「2年くらいしたら、『もうちょっとお菓子をつくりたいので、ほかのお店に移りたい』って言うんです。『いいよ』って言ったんですけど。そこでも思ったよりお菓子がつくれてなかったそうで。」

それでタイミングがよかったこともあり、お菓子屋さんをはじめたら戻ってきてくれるか提案してみたそうだ。喜んで承諾してくれて、お店の一部を改装してマフィン屋さんをはじめることになった。

「あとは店長の北野の友人が、雑貨屋さんの店長をやっていて。何度かお店の手伝いに来るようになったので、『雑貨屋したい?』って聞いたんです。そこからお店をつくることになった。」

kingstongrill30 「ぼくは何もできないんで。まあ料理は少しできますけど、専門的ではない。学校も行ってないし。」

はじめからすべて決めないで柔軟に行動する久木さん。過去を振り返ってみると、目標しか見えなくなって身動きが取れなくなったことがあった。

「小中高って、サッカーしていたんです。結構本気でやってて、割とちやほやされていて。プロになりたかった。叶うと思ってた。」

「けど上には上がいる。薄々気づいていたんだけど(笑)あんま見ないようにしてた。」

高校進学ではサッカーの強いところを受験することにした。学力はギリギリだけれど、サッカーがあるから大丈夫と言われていたそうなのだけれど…

「受験失敗して。それでちょっとだけグレるんです。グレるっていうかバンドやったりね。」

そのあと大学進学もあきらめて、イベント会社に入社する。

「みなさん、いい人ばかり。お給料もたくさんいただいて。けどこのまま繰り返しなのかなって。」

繰り返し。

「そこで50年も勤め上げた専務。自分もそうなるかもしれないと思った。それも素敵なことだと思ったんだけれど、自分には向いていないのかなって。」

あれほど未来への目標を持って生きてきた久木さん。けれども、だんだんと違う価値観が芽生えていったのかもしれない。

ひとつの未来が見えても、それが達成できるかわからない。それならひとつひとつ目の前のことに向き合ったほうが、自由だし、結果としてうまくいくかもしれない。

イベント会社の先輩に悩みを相談したときに連れていってもらった飲食店で人生が大きく変わった。

「衝撃だったんですよ。あまりに素敵なお店で。それで先輩も『悩んでるくらいなら働いたらいい』って言ってくれて。そのままそこで働くことにしたんです。親が寿司屋で、子どものときにかまってもらえなかったので、飲食だけはしないでおこう、と思っていたんですけどね。」

23歳のときに独立する。出会ったのが、今もキングストングリルのある場所だった。

kingstongrill09 「ここが売りに出てて。『こんなところで誰がやるの?』って場所だった。でも奥さんがこのへんの出身なんですよ。決めちゃいなさいって(笑)」

奥さんはいけるだろうと?

「そうですね。あと金沢駅のあたりはのんびりしていなくてきらいだって。大丈夫かな、と思いながら、まあとりあえずやっちゃおうとなりました。」

「200万円だったし。もともと飲食店の建物で150万円で改装して。でも全然ダメだった。夫婦ふたりがやっと食べていけるくらい。しかも、はじめはジャマイカ料理屋だったんですよ」

ジャマイカ料理!?

「そう。でもそのときのアルバイトが『女性は野菜食べたい。ジャマイカ料理よりも』と言って。」

kingstongrill07 ジャマイカよりも(笑)

「それで今みたいなスタイルになって。当時は野菜とかオーガニックとか、そういうお店がなくて。地方紙に出たらすぐに行列になったんです。」

そんなに無計画に行動していて、失敗したことってありますか?

「そりゃ、いっぱいありますよ。たとえば、冷凍のジャークチキンをつくって、ネットで売ろうと思ったんだけど、月一で注文はいるくらいで。こういう細かい失敗はいくらでも。お店をつぶすようなことはなかったけれど。」

売上目標とかないんですか?

「そうね。もちろん、お金はついてほしいですけどね。」

kingstongrill21 この柔軟なスタンスはほかのスタッフに対しても同じなんだそうだ。はじめに話を聞いた北野店長も久木さんのことを「違うと思えば違うと言うけど、何か提案したらやってみればいい、と言ってくれる」と話す。

自由なことで、いい循環になっている。

でも、たとえば目の前で間違ったことをしているスタッフがいたらどうするのだろう?久木さんに聞いてみる。

「緊急性があれば、その場で言いますよ。でも教育に関しては店長に任せているから。だから何か気づいても一度胸にしまって。あとで店長に話したり、遠回しに聞いてみたりね。まったく気づいていないなら話しますけど。」

「自分が現場にいたときは、すごい怒ってたんですよ。その場で『こら!』って。そうすると辞めちゃうんですよ。」

ふとメニューを見ると、よくデザインされていることに気づく。これは誰がやっているのかと聞いてみる。

「もともと検索して知った近所のデザイナーさんですよ。近所だから会ってみようということになって。すごく意気投合して、新店舗つくったときに事務所もつくって、そこをシェアしながら一緒に働いていますよ。」

キングストングリルを離れて、新店舗であるハムアンドゴーに向かった。もともとコンビニエンスストアだったとは思えない。雑貨屋さんでもあり、コーヒーショップもあり、事務所スペースもある。

kingstongrill06 中に入ると、先ほど話にでてきたデザイナーである小松さんを紹介してもらった。

小松さんに久木さんの第1印象を聞いてみる。

「なんか若いのに、よく考えているというか。デザインすることで何が変わるかよくわかっている。はじめはすでにあったお店に合わせたようなデザインを提案したんです。そしたら『何か違う』って言われて。」

kingstongrill10 なるほど。そうなると、より深く考えないといけませんね。

「そうそう。『それならわかった!』と思って。でもやりやすかったですね。そもそも『何をする?』というところから一緒に考えられたんで。」

自由だからこそ面白い反面、簡単ではなさそうです。なぜ久木さんはみんなに任せる人なんでしょう?

「経営者って、普通はすべて自分でやりたくなっちゃうんですけど、そういうことがない。どんどん任せるんだよね。たぶん、マーケティングが好きなのかな。」

たしかに。久木さんは自分やまわりが思いついたことを、どんどん試すのが好きなのかもしれない。だから任せる。

ハムアンドゴーの店長である道下さんも任された一人。

kingstongrill11 雑貨屋さんをはじめたいと思って、お店をつくることになり、商品のセレクトまで担当している。

ときには久木さんからノーと言われることもあるそうだけれども、基本的には「やってみよう!」という感じなんだそうだ。

求められることをしっかり続けていけば、どんどん自由になっていく職場だと思う。

もちろん、全員が全員、やりたいことができるわけじゃないかもしれない。たとえば「いつか自分が理想とするカフェをやりたい」というような未来のことばかり考えていても、何も起こらないと思う。

kingstongrill12 未来にとらわれることなく、まずは目の前のことに黙々と打ち込んでみる。

すると自分がやりたかったこと、求められていることが、すっと目の前に出てくる。そんなとき、人は自由って感じられるように思います。

(2015/2/20 ナカムラケンタ)