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物流網は発達し、都市部でも新鮮な食材を手に入れやすくなりました。一方で、「つくる」と「食べる」の距離はまだまだ遠いのかもしれません。
食は、産地に受け継がれてきた暮らしやつくり手と深く結びつくもの。その関わりを大切にした食に関心がある。なりわいにしていきたい。そんな方に読んでみてほしいです。
今回の舞台は、奈良県五條市の新町通り。
2010年には、88番目の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。
ここで「チャレンジレストラン」がはじまります。

自分でお店を開きたいと考えている方が、小さく試せる場です。
関西圏の方なら、週末を中心に出店する。少し距離のある方なら、近くに宿を取って滞在し、週2日ぐらいで試してみる。お客さんや生産者との関係を築いた上で、いずれはお店をはじめてみる。あるいは畑を歩き、じっくり時間をかけて特産品を開発。
調理学校・法人利用も考えられます。
「こんな使いかたはどう?」そう思った方は、気軽に問い合わせてみてください。
一足先に、現地を訪ねました。
和歌山県との県境に位置する奈良県五條市は、約33,000人の暮らすまち。
京都から電車で約90分。JR五条駅を降りると、取材当日は登山客で溢れかえり、改札が渋滞するにぎわいでした。

チャレンジレストランの窓口でもある向井さんは、旧西吉野村の出身。2005年に五條市と合併し、現在は五條市西吉野町となっています。
かつては水運の要所として栄えたまち。
「吉野は、日本有数の木材産地です。吉野川の上流で切り出した木材がいかだに乗り、全国へと運ばれていきました。逆に、下流でとれた大豆が上流へと運ばれて高野豆腐に。瀬戸内から石を上流へと運んだ歴史もあります。」
10月には、成熟した落ち鮎をとる“やな漁”も行われるそう。

「江戸時代に、二見(ふたみ)城の城下町となりました。城主の松倉重政が、税制特区に位置づけ、商売のまちとして大にぎわいしたんですね。」
2010年には重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に選定。今後は保存してきた建物の利活用を考えていくところ。
チャレンジレストランの舞台である「大野屋」を訪ねました。
「持ち主であった大野清五郎の名前を残してほしい。地元からの要望を受けて、この名前にしたんです。」

「かつて新町通りは、商いのまちでした。現代においても、次々とあたらしい起業家を輩出する場として活用したいんです。」
「外から新町通りを訪れた人が、滞在できる場が求められていたことも背景の一つですね。」
カフェ、ギャラリー、そしてレストランからなる大野屋。
奈良県庁のサポートも受けつつ、市の運営ではじまります。
五條市は、酒樽に用いられる良質な杉の産地。16席の店内には、ふんだんに地元の木材を使用。気持ちのよい空間に、リノベーションされていました。

レストランの仕組みは次のようなもの。
「使用日数に応じた利用料(1日あたり400円、光熱水費を含む)を払う代わりに、売上を出店者の収入としてもらいます。出店者の募集は、3ヶ月に一度行います。」
運用面では、まだまだ試行錯誤の段階にある。
「開館時間はいまのところ、9時—17時。市としても、ためしためしなんです。将来は、場を切り盛りするコミュニティマネージャーも必要でしょうが、まずは、ちいさくはじめていきます。」
今後は希望してくれる方に向けて、説明会を予定。オープン前には、その場で料理の実演もしてもらうとのこと。
第一期出店者の方は、お店をやってみての感想や意見を、今後のチャレンジレストランの運営に反映させたり、出店者の方同士がお互いに協力し合う場面もあると思います。
そうしたことも含めて、お店づくりを楽しめる人に来てほしいという。
新町通りでは、商いをはじめる人も現れています。
大野屋のお隣は、2014年にオープンしたセレクトショップ「MON Chou Chou(モンチュチュ)」。
取り扱う商品はインポートを中心とした雑貨や洋服。価格帯は1,000円から5万円まで幅広い。

大阪で服飾の製造卸に就いた後、独立。
地元で物件を探すも、なかなか見つからない中で、新町通りの方から声をかけてもらったそうだ。
現在、新町通りには年間で10,000人以上が訪れるそう。
「週末になると、神戸大阪そして橋本から、女性がグループで訪れますね。」
「買い物ついでに『どこかお茶のできる場所はありますか?』とよく聞かれるんですよ。ランチであれば1500円ぐらい。手軽にご飯やお茶を楽しめる場があるといいのかな。」
暮らす環境としては、この上ないという。
「ご近所さんが野菜を持ってきてくれることもあります。これから来る方も、近所のおばちゃん、おじちゃんから『どこの子?こんな若い子が来て』と声をかけられるところからはじまると思います。」

土橋さんは、定期的に大阪で手編み教室を開催。同時に作家さんとのつながりをつくり、昨年は2回の展示会を行った。
チャレンジレストランでも、同じようなコラボレーションが考えられるかもしれません。
続けて訪ねたのが、五條野菜レストラン「源兵衛」。
築250年の町家の利活用をコンセプトづくりから取り組んだのが、料理長の中谷さん。
隣町から移住して、五條で割烹料理屋を営んできました。
「250年変わらぬ風景は、地元の人にとっては見慣れた通学路であり、通勤路です。けれど外からきたわたしは、五條の町並みや育まれてきた文化に惹かれたんですよ。」

商店街の人たちが「それはないやろ」と首をかしげる中のスタートでした。
「すぐには理解も得られないでしょうし、きっと経営も厳しい。それでも、外から訪れた人をもてなし、食を通して五條に出会ってほしい。長い目で見たときに、ゲストのよろこぶ姿が、地域の誇りにつながると思ったんです。」
古民家再生で知られるアレックス・カー氏をプロデューサーに、リノベーションを実施。2010年にオープンした。
中谷さんは、今回のチャレンジレストランを心待ちにする一人でもあります。
「創業当時、源兵衛は野菜に特化すると決めました。5年、10年すると次に続くお店がきっと現れてくる。源兵衛だけでお客さんを囲い込むのではなく、新町通りが一つの“面”として盛り上がってほしかったんです。」
源兵衛のランチは、五條産の野菜が50種類提供されます。
価格は2500円、ディナーは5,000円から。
客層の中心は、大阪・神戸の女性の方。
「片道2時間、日帰りの旅にちょうどいいんですね。ランチで2時間ほど、ゆっくり時間をかけて食べていかれますよ。」
ところで流通網の発達により、新鮮な食材は都市部でも手に入れやすくなりました。
産直野菜や農家レストランも増えました。最近では、奈良・大阪・京都から食材を探しに訪れる料理人もいるそうです。
そうした中、五條で料理をする意味はどこにあるのでしょう。
「わたしは、休日に農家さんの畑に入らせてもらい、一緒に収穫をするんです。源兵衛では料理を出しながら、農家さんとの話を伝えます。対話が生まれるんですね。」
中谷さんは、食を通して五條をキュレーションする存在といえる。

「都会でビジネスを行うのであれば、用意周到に企画を立てて広報を行い、土日の2日間で10万円を売り上げるのが賢明でしょう。いっぽう、五條では1日1万円の売上げを10日間積み重ねるのも一つだと思います。」
「というのも、信頼できるつくり手との出会いは、宝探し。ここで過ごす中で、見えるものはきっとありますよ。」
たとえば、献立。
事前にたくさん予約をいただいても、直前に台風が来て、野菜が育たないこともあるそうだ。
またビジネスに限らず、ライフワークとしての食の視野を深めてくれる機会かもしれません。
日本の農家の平均年齢は66歳。
サラリーマンであれば、定年退職後の人たちが支えていることになる。10年後の日本の食卓はどうなっているのだろう。

最後に、生産者の方を訪ねました。
手作りハム・ソーセージ工房「ばあく」は、お母さん仲間が出資。1983年に起業しました。
話をうかがったのは、代表の泉澤さん。

「きっかけは、子どものアレルギーでした。自然の素材だけでおいしいものをつくろうと、試行錯誤をくり返してきました。」
ばあくでは、泉澤さんのご主人と息子さんが豚を飼育しています。
パンくずやビール麦等のエサを自家配合。自伐した山桜で燻製します。
「かっこいいものじゃないのよ、お金がないから全部やっているの(笑)。」

昨年ばあくでは、日本の気候に合わないとされる強力小麦の栽培に成功。五條市の人気パン屋yumyumと共同でパンを開発しました。
このパンは、キッチンでも提供できるとのこと。
「ここにしかないものをつくり、わざわざ人が五條へ食べに来る。そう考えています。」
日の沈みかけたころ、ばあくの農家レストランで遅めの昼食をいただきました。
外の畑を眺めながら、そして泉澤さんの話を聞かせてもらいながら。1日、五條市内を体感した後のご飯は格別でした。
ちいさくはじめる。
すると、自分の想像を越えた出会いが生まれ、あたらしい動きも見えてくるもの。まずは、気軽に説明会を訪れてみてください。
(2015/3/31 大越元)