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銀座と日本橋の間、東京駅にも近い京橋の路地にラ・ボンヌ・ヌーベルはある。砂糖やバター、生クリームなどをつかわない、主に野菜と魚のフレンチをだすお店。オーナーシェフである佐々木さんと一緒に働くスタッフの募集です。
朝早く築地の正門でラ・ボンヌ・ヌーベルの佐々木さんと待ち合わせ。

「フランスでシェフが毎朝マルシェに買い付けに行っているのを見ていて、自分も同じことをやろうと思っていました。それならお店はやっぱり築地の近くがいいなと思って。」
まずは魚を見て回る。
大間のマグロだとか、松皮カレイだとか、なんだかすごい魚を物色している。あまり表情に出さず多くの言葉を交わさないけれども、いい魚を選ぼうという真剣な思いが伝わってくる。
とある魚屋さんに行くと太刀魚があった。せっかくだから僕も何か魚が欲しいなと思って購入することにする。あとから聞けば、一番いい太刀魚を選んでもらったようだ。

「僕の紹介があったとはいえ、一見さんに対してあの行動が取れるって。どうせ素人だから、という人もいるんでしょうけど。ああいう事が出来る人と、僕はお仕事がしたい。それがプロですよ。喜ばせる仕事。だから彼と仕事してるんですよ。」
喜ばせる仕事、か。
それにしても朝の仕入れは楽しい。新しく働く人も週一くらいは参加してもえらえたらうれしいな、とのこと。自分の魚を買うこともできるだろうし、選ぶ目も養われると思う。

それにしても佐々木さんはなぜこの仕事をはじめたのだろう。聞けば、もともと演劇を志し、その後アパレル業界に進んだのだそうだ。
「学生時代、4年間演劇でした。つかこうへいさんの事務所に行ったり、あと大学の劇研で脚本家や演出して。さらに役者までマルチでやってて。プロの劇団のオーディションも受けたし、週に10本以上演劇も見てたかなあ。」
「それで就職どうしようという時期になったんです。つかさんの事務所に残る選択肢もあったけれど、富良野塾を受けてみた。そしたら最終で倉本聰さんと面接して落ちてしまった。同時に就職活動もしていたのですけど、絶対スーツは着たくなかった。サラリーマンにすごい嫌悪感持っていたので。」
あははっ(笑)。わかります。
「真夏にウールのスーツはあり得ない。最低限、自分の好きなかっこが出来るのはアパレルだろうと思って。バブルのときだったから20以上の内定もとれた。」
大手の会社もあったけれど、中には面接でうんざりすることもあったそうだ。
「もう大喧嘩ですよ、圧迫面接で。隣の人とか『どんな服が好き?』とか聞かれてるのに、俺だけいろんなこと聞かれる。『グラフィックはできる?』『英語は喋れる?』とか。『いや、出来ないですけど、なんでもできるようになります。』って答えて。」
言わせたいんでしょうね、「出来ない」って。
「最後に質問あるか聞かれても、『もう何もないです、二度と来ないと思います』って言ったら、3時間後くらいに連絡が来て。内定だった。でも神戸のもっと若い人が多い会社で働くことになったんです。」
結構とんがっていました?
「ソフトですよ。でも… 理不尽なことが嫌いなんですよ。白は白って言えないのが嫌で、そういうので上司と大喧嘩する。大人の都合って嫌いなんですよ。」

「まあ飲んでいるときは仕事してないから関係ないけどね。働いているときはプロフェッショナルでありたい。最低限のことってあるじゃないですか。食べ物扱ってるんだから手を洗うとか。そういうのを怠る人は怠るので。常識的なことをクリアしていれば怒らないですけど、そこを越えられると、まあ。でも怒ったりはしませんよ。やんわりと話します。」
アパレル業界で働いたあと、縁があってイタリア料理店の手伝いをはじめることになった。すぐに実力があることがわかって、フレンチのお店で働いたり、カフェを任されることもあった。やっぱり舌には自信があるようだ。食べたら材料が分かるらしい。
最初は芝居の世界、アパレルの世界、そして料理の世界へ。
「どれも一緒だと思いますよ。エンターテイメントなんです。喝采を浴びて、役者はカウンターのこちら側で踊るっていう。どんなお客さんが来るか想像しながら築地に行って、サプライズが出来ればとか思いながら。常識的に考えれば、大間のマグロなんてやらないですよ。やっぱり驚かせたい、サプライズなんですよ。」
サプライズ。カウンター席だと、お客さんが驚いている様子が伝わりますね。
「そう、ダイレクトですよね。そこが僕もすごい好きで。皆カウンターに座ってほしいな。最初カウンターだけの店にしようと思ってたくらい。」

同業の人たちがお店に来ることが多いそうだ。
「ミシュランの星を持っている人が、一緒に友人と来て頂けたり。なんかこう…クリエイティブなんですよ。俺なんかからでも、何かを奪おうとしてる。なんかヒントがないかなって常に見てる。」
「あと今日はアイスコーヒーのガムシロップがなくなってしまったので、角のコーヒー屋さんに行ったんです。そしたら5、6個くれて、申し訳ないからマフィン買ったんですけど『いつでも困ったらどうぞ』って。」
常連さんも、築地の小松さんも、そして同業や地域の方々も。いい関係があるように思う。それはなぜなのだろうかと聞いたら、佐々木さんは次のように答えてくれた。
「どうせやるんだったら高いレベルで仕事した方が気持ちいんですよ。とにかく満足してもらいたい。サプライズも同じ。お客さんもたくさん選択肢があるから、その中でうちを選んでくれた人に対しては最低限満足を与えるっていう。そこが是が非でもやります。信念ですね。」

どんな人がいいのだろう。佐々木さんと一緒に働いている永易さんに話を聞いてみた。

やっぱり料理の仕事だと思ったのはなぜですか?
「なんだろな… なんか自分でつくる方が楽しいなって。デザインは私がつくるわけではなかったので、やっぱりものづくりがしたい。直接自分がつくったものを食べてもらって、その反応をもらえる。あと料理が楽しいなって思って。反応も早いし。」
このお店はどういうお店なんでしょう?
「決まりごとがない。きれいに食器を洗ってから洗浄機に入れてくださいとか、最低限の決まりはあるんですけど、それ以外はもう、思ったようにやっていい。お客さんに失礼がないように。」

「ありますよ。お客さんに聞かれたら自分で答えていいのかとか考えます。お客さんが佐々木さんと話したくて来ているとか、ワインでも佐々木さんに選んでほしいんだなって常連さん、やっぱり多いので。だから聞かれたら自分の出来る範囲でやりますけど、佐々木さんに一応聞いた方がお客さんが喜ぶっていうのが分かるので。そういうときは佐々木さんに聞いて、その間に入って。」
今度は佐々木さんに聞いてみる。どんな人がいいのだろう。
「当たり前のことを当たり前にできることですかね。例えば挨拶から始まって、掃除とか、会話とかそういうのがきちんと出来ればまずいいかなって。前提として大事だから。」
まずは佐々木さんが求めることは柔軟に受け入れて、完璧にできるよう目指す。その上で、少しずつ自分で考えて行動すればいい。どうしたらお客さんは喜んでくれるのか考える。
続けていけば、きっとお客さんとつながっていくと思う。それはとてもうれしいこと。

こんなエピソードがある。佐々木さんがフランスに行って、働きはじめたときのこと。
はじめは包丁も触らせてもらえない。掃除くらいしかできないから、まずは掃除は全部まかせてくれ、と料理もせずにがんばっていたそうだ。
すると若いスタッフが「ここ汚れてる」とか言いはじめた。それでも「任せろ!」と掃除しているのをシェフがずっと黙って見ていた。
ある日2番手の人から明日から自分の代わりをしろ、よく働いたから今日は帰っていい、と言われたそうだ。
一方で掃除を任せた若手にはひどく叱りつけて、翌日からシェフの横で働くポジションを得ることになった。
「次の日からシェフのとなりで盛り付けを担当しました。まかないをつくるのは、2番手の仕事だったのだけど、材料がどこにあるかもわからなかったから、はじめは「これだけかよ!」ってえらいことになっちゃった(笑)」
こういうことってあると思う。
ラ・ボンヌ・ヌーベルでも、目の前にいる人たちに喜んでもらえるようなことを続けていけば、ちゃんと見てくれていると思う。

(2015/3/12 ナカムラケンタ)