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もっと楽しいものをつくりたい。顔の見えない“誰か”よりも、友人や家族、なにより自分の暮らしに根ざした仕事に取り組んでいきたい。
もし、あなたがそんなふうに思っていたら、知ってほしい試みがあります。
この春、奈良県ではじまるのが「OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO(オフィス キャンプ 東吉野)」。
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グランドオープンを一週間後に控えた3/24。現地を訪ねると、三重、兵庫、広島、長崎など日本全国、そして海外からやってきた人たちに出会いました。
今回は、この場の紹介です。気になった方は、気軽に問い合わせてみてください。
東吉野村は、大阪・京都・奈良のいずれからも車で1時間と少々。
この日は、最寄りの近鉄線・榛原(はいばら)駅で待ち合わせをしました。
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車に乗り込み、東吉野村へ。
デザイナーの坂本さんは、大阪府堺市の出身の方。
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「あるとき、仕事のための仕事をしていたことに気づきます。自分がどんな生活をしていきたいのか。そこから仕事の位置づけも見直していきたい。そう思いました。」
浮かんできたのが、東吉野村で山村留学をした1年間だった。
2002年にご両親と弟さん、その3年後に坂本さんが移住をした。
「東吉野は、きれいなところです。水がおいしい、空気がきれいということもあるんですけど、それだけじゃない。お寺に行くと清々しい気持ちになることがあるでしょう?あの感覚に近いんです。」
さらに少し進むと、坂本さん。
「あれ、僕の仕事ですよ。」
見えてきたのは、日本で最後に、ニホンオオカミが捕獲された地であることを伝える看板。
東吉野村は、面積の90%以上を森林に囲まれている。中でもひのきの品質は日本一と言われている。
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引越後、坂本さんは、近隣地域から仕事を受ける機会が増えたという。
たとえば十津川村では、空き家を改修した宿泊施設のプロモーションを手がける。その他にも、黒滝村、山添村などで仕事をしている。
「周りにデザイナーが少ないんですよね。仕事の幅も広がりましたし、一つひとつが仕事になるまでのプロセスも変わりましたね。」
榛原駅から20分ほどで、東吉野村の中心地へ。
かつての目抜き通りだった小川集落を抜けたところに、オフィスキャンプ東吉野が現れた。
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「解体作業に入る前、大家さんが掃除しているところに、移住者の一人である菅野くんが通りがかって。『家具もらえませんか?』『ええよ』そんなやりとりからはじまりました。」
東吉野村は、過去30年間で人口が半分以下に。若者の定住・移住に向けてさまざまな取組みをしてきたものの、期待する効果は得られずにいた。
そんな中、坂本さんが東吉野村へ引っ越してきた。
さらに周りには、都市にしばられることなく、暮らし働きたいと思うクリエイターたちがいた。
そこで、坂本さんは自宅のアトリエを開放。東吉野の滞在拠点として人を受け入れはじめた。
2013年には、2組の夫婦が移住してきた。
「アトリエでは、どうしても迎えられるのが友人・知人に限られます。『誰でも来ていいよ』そういえる場所があったらと思っていたんです。」
そして2015年。解体寸前の民家が、オフィスキャンプへと生まれ変わった。
1階はキッチン、ミーティングスペース、コーヒースタンド、そして吉野産プロダクトを扱うギャラリーからなる。2階は、畳敷きの個室オフィス。
坂本さんは、自ら建物の内装レイアウトを手がけた。
実現のためのサポートを、役場が柔軟に行ってくれたことも大きな後押しをしました。
グランドオープンをこの4月に控え、運営者となる坂本さん、そして菅野さんに話を聞きました。
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お子さんが生まれたタイミングで、広いところへ移り住もうと一年ほど探す中で、知人の坂本さんを訪ねて東吉野に通いはじめる。
「BBQをしたり、ホタルの現れる時期に、遊びにきていたんです。」
そして空き家バンクで住まいが見つかると、2013年の夏に引っ越しました。
「大抵のことは何とかなるだろう。僕はそういう気質なんです。来てからも、はたから見たらデメリットが起きているんですけど、都度解決して。あまり覚えていませんね。それぐらいのほうがいいんじゃないかな。」
次第に、仕事の軸足を東吉野に寄せてきた菅野さん。
ここで、和紙のプロダクトを見せてくれた。
「吉野町で、手漉き和紙職人の植(うえ)さんという人がいるんです。人からの紹介で訪ねたら、意気投合して。商品つくってみようか、ってなったんです。」
はじめに見せてくれたのは、和紙のコースター。
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コースター片手に「いい感じになってきたな」と菅野さん。
東吉野に来て仕事のしかたが変わったそうだ。
「自分の生活から商品をつくるんですよ。暮らす中で、『これ、和紙でつくったら面白いな』。浮かんできたら、職人さんにアポをとって、訪ねてみます。」
たとえば、と見せてくれたのは和紙のストール。
あるとき和紙を首に巻いてみると、意外にあたたかいことに気づいた。草木染めをして、手で和紙をつねり、フリンジをつくってみた。
阪神百貨店の催事会場で販売をしてみると、一本だけ売れたという。
「そのとき、照明にも使えるんじゃないかと思ったんです。ろうそくの時代には考えられなかったことも、LEDならばできる。自分でかたちをつくることができて、その日の雰囲気で、色を変えることもできます。」
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「開発してすぐに販売するのではなく、自分たちで試して、反映して。寝かせる時間があります。」
「逆にいえば、生産する現場に近いからこそ、片手間に商品開発もできないんですよ。」
片手間にはできない?
「さきほどの植和紙工房は、息子さんで6代目。つくり続けてきた人たちです。完成品だけを見るのではなく、楮(こうぞ)の栽培、皮剥きもやらせてもらい、密にコミュニケーションがとれる。すごい刺激になると同時に、自分たちの役割も明確に気づきます。僕らは“媒介”なんです。」
つくり手の思いを受けつつ、暮らし手の求めるものを開発することが役割。
「難しいことじゃないんです。自分の『ほしい』から仕事がはじまる。これからも生活の中で、次々と商品が出てくると思います。」
そうした仕事に取り組みたい人はいるかもしれない。一方で、食べていけるのでしょうか。
ここで坂本さん。
「どれぐらいお金がほしくて、どんなご飯が食べたい?そこから考えるとシンプルだと思います。」
「だから、まずはこの場を使いつつ、試してもらえたらいいと思うんですよ。じょじょに馴染んで、いずれは引っ越してくるのもいい。もちろん通い続けるのも全然アリ。自由につかってもらえたらいいと思いますよ。」
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今年、フランスのパンを中心としたパン屋さんがオープン予定。ご夫婦で営まれるそうだ。4月からは、“狩猟女子”がやってくるという。
そんな中、昨年すでに移住した革職人の定さんを訪ねました。
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「同じ革職人とはいえ、家業はけっして楽しくなかったんですよ。15歳でアメリカに行ったときに、いまの技法に出会いました。これは面白い、とはじめたのがきっかけです。」
大阪で工房を8年間営んだのち、移住。空き家バンクを活用して、昨年の7月に東吉野へやってきました。
東吉野の工房にはミシン、糸、革のストックなどがところ狭しと並ぶ。
定さんは、大阪の仕事を受けつつ、じょじょに奈良へと仕事の軸足を移しつつあるそうだ。
「鹿革の有名な工房があるんですね。そちらの方を訪ねて、コラボレーションをはじめつつあります。それから、革の教室をはじめようと思っているんです。」
今回のシェアオフィスについてはこう考えているそうだ。
「いきなり移住をして、ここで仕事をつくるんだ、と意気込んでもなかなか難しいかもしれない。ちいさく試すことからはじめてよいのではないでしょうか。」
定さんの工房をあとにして、再びシェアオフィスへと戻ります。
建物内は大勢の人でにぎわう様子。
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WEBデザイナーとして働く男性は、インターネット上でオフィスキャンプの存在を知ったそうだ。
「場所にしばられない仕事だからこそ、こんな場所ないかなぁ、とまさに思っていたところなんです。」
また、同じく兵庫から訪れたご夫婦。
「教育に関する事業をはじめたいんです。お金になりにくい分野だけれど、神戸や大阪といった大きな都市では、稼がないといけないラインが高い。利益を優先した教育が増えていて。ちょうどいい場所を探す中で、今日は一緒に来たんです。」
ほかにも長崎県出身のデザイナーで、一ヶ月間休暇をとり、全国を自転車旅行している人。日本の伝統やものづくりに興味があり、2週間の日本滞在中に、東吉野へとやってきたドイツ人女性2人組の姿も。
全国から訪れた10人以上の人でにぎわっていました。
最後に、1日東吉野村を案内してくれた役場の岡本さん。
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地元の人も気にしているそうだ。
「これから訪れる人が増えることで、地元も慣れて、積極的に交流が生まれると思う。面白いことがはじまりそうです。」
ちいさくはじめると、少しずつかたちになりつつあるようです。
東吉野には、もう少しで桜が咲きはじめます。夏になると、目の前を流れる高見川で水遊びをする姿も見える。
季節のうつろいを感じるように。おのずと地域の人と話しているように。ここでは仕事から、広がっていくものがあるようです。
(2014/3/31 大越元)