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誰かの役に立っていると確実に思える、地道な陰の仕事。株式会社システムリバースの取材を通じて、そんなふうに感じました。会社を支えるのは、セールスエンジニアと呼ばれる営業職と現場スタッフ。社長を含めて全員が施工現場に立つ、アットホームな会社です。
小学校や公園など、公共施設の補修事業に注力するシステムリバース。仕事内容だけではなく、どこか建設業界が持っているノリと違う。
会社があるのは、葛西臨海公園にも近い東葛西。東京メトロ東西線「葛西」駅から歩いて7〜8分ほどにあるマンションの1室がオフィスだ。
出迎えてくれたのは、工事部長の郷間(ごうま)大輔さん。
入社して7年。ビルメンテナンスの会社に勤めたあと、知人の紹介で入社。「路頭に迷いかけていたところを社長に拾ってもらいました」と語る郷間さん、いまは取締役だが、最初の1年はアルバイトだった。
「会社の方針、営業スタイル、MMAという新技術。それらを学ぶうち『ここにはチャンスがあるな』と思って入社を希望したんです。」
システムリバースの強みは、MMA(メタクリル樹脂)を使った補修、改修、修繕の施工技術を持つことにある。
MMAは、強度と耐久性を兼ね備える素材。そして、すぐに固まるという特徴がある。夏場だと10分くらいで固まるので、工事がスピーディーで済む。公園の遊具の補修なども、ほとんど1日で終えられるという。
アルカリや酸に強い特性があるので、トイレの床材などでも大きな力を発揮する。紫外線による劣化がほとんどないのもメリットだ。
「FRPでできている遊具が傷んでくると、これまではほぼ撤去しかありませんでした。古すぎて、どこも直せないですから。」
直すだけではない。たとえば、足立区の遺跡公園にある土偶像。MMAで補修をかけたあとに「どうせならもっとリアルに」と水性系塗料でエイジング塗装した。
「僕も足立区に住んでいるので、娘たちを連れて見せにきました。6歳になる上の子には『ふーん』て言われましたけどね(笑)」
「MMAにもいろんな種類があります。うちの会社には材料メーカーがよく出入りしているので、最新の技術情報も使ってさまざまな提案ができるんです。これもMMAです。」
まるでゴムのようにやわらかく曲がる。けれど、とてもちぎれそうにない。
「このMMAは、高速道路のエキスパンションなどに使われますが、クラック(ひび割れ)の補修にも使えます。硬いものからやわらかいものまであるので、補修用途によって選べるんですよ。現場ごとに最適な方法を考えて提案させていただきます。」
「なんだか、メーカーの宣伝みたいだな!」と笑いながら、話に入ってきたのが後藤 悟社長だ。
MMAによる「よみがえり工法」という商標名は登録しているものの、自社で特許を取っているような技術ではない。施工技術は企業秘密だが、どうやらシンプルな方法らしい。
「従来の建設のやり方とは発想を変えているだけなんですよ。ただ、ほかにやれる業者がいないので引っ張りだこ。うちの仕事は素人ほど早くできるようになるんです。固定概念がなく、ゼロから教えたほうが早く覚えられるから。」
どうして1社独占なんだろう。
「大手は面倒だから参入して来ないんです。彼らがやるのは、工期が長くて金額が大きいものばかりだから。」
楽しく仕事をして、どんどん給料を稼いで、自分の夢を実現してほしいと語る社長。ボーナスも年3回出す。
「会社のお金で資格も取らせてあげたいです。そうすれば、たとえうちの会社がつぶれても、それを生かせるじゃないですか。自己啓発したくない社員は、別にいいんだけどね。ただ、うちの弱点は仲がよすぎなことかな。」
飲み代がかさんで困っているとこぼすのは、社長の奥さんで経理担当の紀子さん。
いい居酒屋も会社の周りに多いみたい。
「うちはね、お酒の注ぎっこはしないの。一杯目は乾杯するけど、酒の強要はない。これはどんなお客さんともだね。」
いわゆる接待営業はこの会社にないという。
「なんで仕事相手にそういうことができるか。それはうちが技術を持っているから。この補修は、塗装屋さん、左官屋さんの仕事じゃないからどうしよう、という “困ったときのシステムリバース”。頼りにされた仕事はできないとは言いたくない。飲みながらみんなで方法を考えるんです。」
いま増えている工事は、学校のトイレや水飲み場。写真はMMA樹脂にピンクの色粉を入れて、人造大理石を補修した例だ。
また、多くの保育園や幼稚園にある「非常用すべり台」は、使用禁止になっていることが多いそうだ。風化してボロボロになってしまっているため、いざ使うときにケガをしてしまう。
後藤さんは、遊具メーカーにはこういうものを修繕する人がいないという。モノを直して長持ちさせるのではなく、どんどん新しくつくるほうが儲かるからだ。
「建築業界もそうだけど、アパレル業界もそう。」
実は後藤社長、前職は売れっ子のファッションデザイナーだった。
「もともと宮城県の山奥で育ったから、いっさいデザインの勉強はしていなかったんです。自分では『農業ファッション』と呼んでいたけど、それがウケてしまってね。とにかくデザインした服がものスゴく売れましたよ。」
絶好調だったある日、札幌へ出張した夜。同業者との宴会の帰り道、ふいに仕事への情熱を失ってしまう。
「いまで言うと心の病気というのかな。それまでの仕事を辞めて、田舎で農業をやろうかと思って。」
突然のことにアレ?と紀子さんは思ったという。
「金もない、人も知らない、技術もないという状況で、女房には迷惑かけたね。」
紀子さんは賛成しなかった、就農への夢。
次の仕事を模索していたとき、建設業界の知人に出会う。そこで知ったMMAに可能性を感じて、2000年に紀子さんとこの事業を立ち上げた。
いまでは東京本社6人、仙台支社1人のファミリーになった。
いちばん新しく入社したのが、郷間真吾さん。はじめに紹介した郷間大輔さんの弟だ。
「働きはじめてから、ちょうど1年です。僕も兄と同じく路頭に迷いかけていて(笑)。以前は会社員でしたが、そこを辞め、1人で建築の世界に足を踏み入れたばかりのとき、兄が『うちの社長に会ってみれば?』と。」
お兄さんのやってる仕事は詳しく知らなかったという。
「何をするのかもわからないし、現場の言葉もわからない。最初は大変でした。それでも、自分たちでなにか考えてやったり、自分で調べて新しいことをできる会社だから面白いと感じたんです。」
最近、印象的だった仕事はなんですか?
「昨日の現場ですが、公園の砂場の枠を補修してきたんですね。そこは初めて僕が飛び込み営業で行って、いきなり仕事を取れたところ。うれしかったですね。」
今後は「建築に関わるすべてのものを自分でできるようになりたい」と言う真吾さん。「うん、がんばってください!」と兄が声をかける。
もうひとり紹介したいのが岩崎秀明さん。入社して9年、ベテランのスタッフだ。会社のユニフォームは、社長の「いかにも建設業っぽいのはイヤ」という発案で、コットンパンツにジャケット。
千葉在住で、趣味はサーフィン。本音では「がっちり半年働いて、がっちり半年休む生活ができないか」と思っている。
二十歳位から建設業に携わってきた。
「僕は100%現場に出ています。防水とか塗装とか、以前にやってきた作業は生きたんですが、ここはほとんどが元請けの仕事なので、お客さんと話すことが多いです。それまで直接オーナーさんと話す機会がなかったから、大変でした。最初のころはスムーズに状況を説明するのが全然できなかったんですが、いまは慣れました。」
朝は8時ごろに集合。都内の移動だと小一時間、9時から現場に入る。
「受ける仕事がこれだけ細かくなると、それぞれの現場が違います。先に考えて材料だとか道具だとか、ちゃんと段取りしなくてはいけません。大がかりな現場だと協力会社さん、個人でやってる職人さんに手伝っていただきますね。」
同じ現場がない。淡々と日々同じ作業を繰り返すような、頭を使わず身体だけを動かしたい人には向かないかも知れない。コミュニケーション力もいる。
「やってることが新しいから、現場でも新しいやり方が自然に生まれる。どうやったらきれいになるか、早くなるか。そこを極めるのに、やりがいを感じます。」
社長の故郷である宮城県。震災前に施工していた物件の耐久度が評価され、復興の一翼を担う仙台支社がある。
最近は東京に似てきたという仕事内容。先日は「ベガルタ仙台」のホームスタジム(ユアテックスタジアム仙台)にある通路を補修した。
「仙台の地元の人を採用したいです。アパートを用意するので、半年間、東京で技術を覚えてもらってから、仙台へ帰ってもらえれば」と郷間さん。
「仙台支社のほかにも、昨年は兵庫、今年は大阪や九州からの問い合わせもありますし、海外にもチャンスはあると思っているんです。社長は売上高じゃなくて、利益率を考えろと言います。でも、僕はこの新しい技術を困っている人たちに広めたいんですよ。」
「おまえ、経営者みたいだよ!」という突っ込みが社長から入る。テンポがよくて明るい雰囲気の職場だ。
近所の公園で、人生の数年をすごす子どもたちの心を想像してみた。
ある日の朝。突然、なれ親しんだ遊具が撤去されていたら、どんなにさびしいだろう。
そうではなく……。
なれ親しんだ遊具がピカピカに生まれ変わっていたら、どんなにうれしいだろう。
朝8時に集まって精いっぱい働き、17時には終わらせる。
「明日あの遊具を見て、子どもたちはどんな顔をしてくれるかな」と思い浮かべながら、ファミリーのような社員たちで乾杯するビール。さぞかし美味しいだろうな。
この仕事には力が必要なシーンもあるし、古いトイレの現場だってある。楽ではないだろうけど、仕事に矛盾を感じることがなく、葛藤も少ないと思う。
職場から得られるのは「誰かのため、確実に役立っている」というやりがいだと感じました。ガテン系のようでそうでない、一風変わった会社。気になった方は、社員のみなさんとぜひ会ってください。
(2015/3/10 神吉弘邦)