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結婚をして、進学を機に、通勤しやすいから。それぞれのきっかけで、同じまちに住みはじめた人たち。
お互いが関わりあい、自分をいかして、働き暮らしていく。
いまもチンチン電車が走り、どこか懐かしい景色をみせる東京の荒川都電沿線。
この春、まちにもう一つの食卓、「都電テーブル」がはじまります。
こんな場になればと思います。
キッチンでは、お母さんたちが食材片手にわいわい、あたらしいメニューを話し合っている。すぐ隣の小上がりには、子どもたちの姿。
イベントの企画をすすめる学生たちが、子どもの遊び相手になることも。
訪れるのは、仕事帰りの人から、ベビーカーを押すファミリー、そしてご近所に長年暮らしてきた人まで。
池袋からも歩いて15分ほど。豊島区の向原(むこうはら)駅ではじまる都電テーブルに、立ち上げから関わる人を募集します。
一緒に働きたいのは、まちに住むお母さんです。
子育てが一段落して働きたい。育児をしつつ、人とも関わっていきたい。子どものそばで仕事がしたい。
料理や人と接するのが好きな方はもちろん。広報が得意、事務、はたまたインテリア… それぞれの「好き」や「得意」を活かせる場になればと思っています。
そして、これから社会に出る学生さん。
料理を通して、人と人をむすびたい。地域に根ざした仕事がしたい。場をつくりたい。自分の働きかたを考えるきっかけになるかもしれません。
訪ねたのは、都電荒川線・向原(むこうはら)駅。
山手線で言うと、大塚と池袋のあいだに位置します。
歩いて2分ほどで見えるのが、ROYAL ANNEX(ロイヤル アネックス)です。
1988年に建てられたこのマンション。外観は極めてふつう。けれど、入居希望者の行列ができるマンションとして、メディア掲載もしばしば。
その理由は、「自分らしい賃貸」にありました。
家業を継いで、2008年に大家になった青木純さん。
「僕はもともと賃貸住宅が好きじゃなかったんです。」
けっして短くない時間を過ごすのに、床に傷をつけないように気を使い、壁に画びょうの一つも刺せない。どこかよそよそしくて、きゅうくつなイメージがあったからだ。
けれど、家は買わないと自分らしく住めないのだろうか?
暮らし手の目線で住まいを考えて生まれたのが、「自分らしい賃貸」だった。
服を選ぶように、壁紙を選べるカスタム賃貸。間取りから水回りの設備までを住まい手・オーナー・デザイナーが話し合い、形にしていくオーダーメイド賃貸。
自分の手をかけることで、家に愛着が芽生える。すると、日々の暮らしを楽しむ住民たちが増えていった。
「暮らし手にとっての“ふつう”をはじめただけなんです。」
ROYAL ANNEXでは、かつての長屋のような風景が見られるようになった。
入居者の結婚式をみんなでお祝いし、仲人を青木さんが務めたり。家に人を招く住民も増えてきた。
「家は、もっとまちに開かれていいんじゃないか。」
そう思い、2014年には、co-ba(コーバ) ROYAL ANNEXという場が立ち上がりました。
ここはオフィスワーカーに限らず、まちにいる多様な世代の人が、ライフワークを持ち寄れるコワーキングスペース。
仕事を打ち合わせる隣では、地域のお母さんたちがクラフト教室を開く。学校帰りの子どもたちが宿題をしたっていい。
少しずつ、まちのライフワークがぎゅっとつまった場になりつつあります。
ところで青木さんは、大家業を営みながら、沿線に住む仲間たちと都電家守(やもり)舎を営んでいる。
家守とは、一言でいえばまちの大家さん。
あるまちに「住みたい」「働きたい」と思う人と、物件をつないでいくような存在。
仲間たちと「あったらいいね」と話していたのが、食堂だった。
「ROYAL ANNEXの住民を見ても、共働きの人も多かったり、仕事の帰りが遅かったり。毎日ご飯をつくれるわけじゃない。けれど脂もの中心の外食が続くと、体が疲れてしまって。」
「ご飯があって、味噌汁があって、あと湯豆腐とか。おいしくて体も元気になる粗食が食べられる場があったら。週に一度でもゆっくりご飯を食べることは、自分の暮らしを振り返るきっかけにもなると思うんです。」
都電テーブルをはじめる上で、どうしても欠かせなかったのが、まちに住むお母さんたちの存在でした。
「お母さんたちの働ける場をつくりたい。僕らが提示した条件に合わせるのではなく、働いていける条件を一緒に考えたいんです。」
そう話すのは都電家守舎の一人、らいおん建築事務所代表・嶋田洋平さん。7年前に雑司が谷へとやってきた。
岩手県から鹿児島県まで、リノベーションを通したまちづくりで日本全国を奔走する日々。
いっぽう、家を構える雑司が谷でも地区のお祭りに準備から携わり、保育園の父母会長となり、商店会会長も引き受けてきた。
「日本全国でまちづくりをするいっぽうで、『自分の住むまちではどうなんだ?』という思いがあって。」
「都電家守舎が大切にしたいのは、『ちゃんとまちしよう』ということです。」
嶋田さん自身がまちの人と関わり、見えてきたのが、お母さんたちの存在だった。
「色々な声が聞こえてきたんです。」
出産を機に仕事を退職。育児も一段落したけれど、働きたい場がない。未就学の子どもを預けての時間短縮勤務も、片道1時間の通勤時間がのしかかる。家での育児に追われる日々でも、週に2、3時間でも働き、色々な人と関わりたい。
「そこで浮かんだのが、自分の住むまちに、暮らし働くこと。都電沿線を、職住近接のまちにしよう。都電テーブルは、そのはじまりなんです。」
年末に行われたプレイベントの様子。中央が、店長の前山俊夫さん。
「外から誰かを呼ぶよりも、まちに住む人が、自分の手で暮らしを面白くしていく。仕事を通して、自分の生活を考えるきっかけにもなると思うんです。しっかり働ける機会を探していたお母さんも、子育ての真っ最中で、合間に働きたい方にも来てもらえたら。」
周辺に住む学生の方にも来てほしい。
時給のよい仕事は、他にもたくさんあるかもしれない。けれど、仕事を通して人に出会い、自分の将来を考えるきっかけになると思う。
都電テーブルでの主な仕事は、ランチからディナーまでご飯の提供が中心になる。くわえて夜にはバータイムを設けたり、イベントの企画も考えられる。
希望があれば、どんどん仕事をつくっていけると思います。
都電テーブルは、色々な方が集い、集まった方から場をつくっていくことになる。
「店ありきではなく、人ありき。だからこそ働き方、メニュー… 考えることは色々あると思います。特にお母さんたちは、週に一度しか働けない人も、子どもが急に熱を出すことだってある。どうしたら、みんなが働き続けられるか。そのモデルづくりなんです。」
将来、都電テーブルは都電沿線での展開を考えている。
「都電沿線は、住民の高齢化が進み、シャッターの目立ちはじめた商店街と空き家が続きます。将来は、まちに暮らし働く。向原でできたら、早稲田でも、三ノ輪でもきっとできると思っています。」
今回一緒に働く人の中から、次の都電テーブルの中心を担う人も現れてくればという。
「思いがけないことが次々に起きると思う。きっと大変ですよね。でも、一緒に乗り越えていきたいんです。」
続けて話を聞いたのは、店舗のオペレーションを担う馬場祐介さん。
「食は、一つの手段だと思っているんです。」
目白のご飯屋「なるたけ」を営む馬場さんは、ひょんなことから飲食の道に進んだ人。
馬場さんが一貫して行ってきたのは、お客さんの「食べたい」という声にこたえること。
なるたけの定番メニューには、一人のお客さんのリクエストから生まれたものも少なくないという。
「住む人の暮らしに必要な店でありたい。お客さんの『食べたい』を聞いて、まわったんですよ。それをつくって、出して。」
目の前のお客さんにこたえると、人が人を呼ぶように。
「仕事って、関わる人を豊かにしてくれると思うんですよ。よいものをつくる生産者が、きちんと収入を得られる。料理をつくる人は、よそ行きではなく自分がおいしいと思えるものを提供する。そして、食べる人が豊かな気持ちになる。」
最近馬場さんには、うれしかったことがあるという。
「うちの奥さんに相談したら、『都電テーブルのような店がほしかった』はじめて、そう言ってくれたんです。その一言が大きかったですね。」
馬場さんも、二児のお父さん。都電テーブルを、子どもが気軽に来られる場にしたいという。
「親が子どもを連れていける場を増やしたいんです。いまはファミレスぐらいしか選択肢がなくて。居場所のある空間で、安心・安全なご飯を食べてほしい。自分の子どもに食べさせたいものを、提供したいんですよ。」
食材を提供するのは、早稲田で「こだわり商店」を営む安井浩和さん。
こだわり商店は、都電の台所のようなお店。安井さんが日本全国の産地を訪ねて集めた食材を販売しています。
都電テーブルでは、料理の経験を問わず調理できる“半加工”の食材を中心に扱うという。
「揚げたり、ゆでたり。シンプルな調理で、おいしい料理が提供できます。高知県の室戸岬産のアジフライ。高知では学校給食にも出されている定番です。それから、山形県でつくられているハンバーグも提供していきたいです。」
「というのも、料理が得意な人だけでなく、経験の浅いお母さんにも働いてほしいんです。」
都電テーブルでは、集まった人が楽しく働くことから、メニューを考えたいという。
「たとえば野菜のえぐみをどう楽しむか。サラダをメニューに入れたいんですよ。料理経験の浅い学生でも手軽につくれる。一方で、料理好きのお母さんには、オリジナルドレッシングをお願いするのもいい。入り口は広く、それぞれが自分をいかせますよね。」
都電テーブルは、4月のオープンを控え、着々と準備を進めています。
そこで大切にしているのは、「ほしい暮らしは、まちに住む人たちの手でつくろう」ということ。
最後になりましたが、ぼくも都電沿線の雑司が谷に住んでいます。最近は仕事終わりに集まり、日付けが変わるまで打ち合わせる日も増えてきました。
3月には、クラウドファンディングも行う予定です。
働きはじめたお母さんが、自分の暮らしを楽しもうと住まいをリノベーションしたり。学生が自分の進路を見つめるきっかけになり。
寝に帰るだけだったオフィスワーカーが、自分の暮らしをはじめていくのかもしれません。
そして、色々な大人の背中に触れて、子どもたちは育っていく。
都電テーブルから、なつかしくて、あたらしいまちがはじまろうとしています。
(2015/3/3 大越元)