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あたらしいふつうをつくる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

はじめは慣れなかったスマートフォンも、時が経つとみんなが手にするようになった。

新しいものや取り組みは、いつしか多くの人の当たり前となって、やがて文化へと昇華していく。

そんな動きの生まれそうな場が、京都・福知山で開かれようとしています。

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福知山を中心に丹波の食材を活かした料理を提供する“YANAGIMACHI”

向かう先は単なる飲食店ではなく、人々が集う交流の場です。

長年、福知山で居酒屋を営んできた鳥名子が、オープニングスタッフを募集します。

人と人をつなげて、自分自身もプレイヤーとして参加しながら、新しい動きを生み出していく仕事。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

 

 

福知山駅を降りると、ビルの向こうから福知山城がひょっこりと頭を出している。

古くは城下町として栄え、いまでも“呉服”や“鍛冶町”などの地名がのこる、歴史あるまち。

文化財に指定された木造屋敷が建ち並ぶ通りの一角に、YANAGIMACHIはあります。

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4月下旬のオープンに向けて工事中の店内を覗いていると、横から足立さんが声をかけてくれた。

足立さんは、福知山にある居酒屋“鳥名子”の2代目。

これまで福知山になかった場としてYANAGIMACHIを開くことにしました。

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「まずは建物の中をご案内しますね。」

そう言って中に入ると、通りから見たよりもずっと大きな空間なのが分かる。大正10年に建てられたという立派な町家だ。

「このあたりは、福知山のなかでもとくに古い町並みがのこっています。そのうちひとつの町家を改装して、カフェとかバーとかショップとか、いろんなものを詰め込んだお店をはじめようとしていて。」

入口からお店の奥へと続く通路。壁一面には、黒谷の和紙作家がつくる和紙のパネルが貼られている。

1階のカフェ&バーはたくさんの本を並べられる大きな棚が囲っていた。ここには本だけでなく、全国でものづくりをしている人の作品や、よい技術があっても知られていない人の作品なども展示して、販売まで行なうという。

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「料理に使う食器にも、職人さんのものを使おうと考えています。ここで飲食していて、このお皿がいいなと思ったら買うことができる。使う場所と買える場所をシームレスにしたくて。」

足立さんは食材やものにこだわって、実際に全国各地の産地を訪ね回っているという。

京地鶏を育てる人はどんなふうに飼育しているのか。丹波焼の職人はどんな想いでお皿をつくっているのか。

産地を訪ね、生産者と話すことでしか分からないような情報と物語をお客さまに伝える。そうすることで、値段よりも本質的な価値を見てもらいたいと考えている。

「安くて使い捨てできるものは便利です。だけど『これでいいや』って買物するより『これがいい』と、丹誠込めてつくられたものを選んでほしい。」

「そして、それを使うのが当たり前になって、その人の“普通”ができたらいいなと思っています。それがここに住む大勢の人たちの普通になれば、やがて福知山の文化になっていくと思うんです。」

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文化をつくる。

食器や食材といったライフスタイルの一部を提案すること以外にも、人と人をつなげ、新しいものが生まれるような循環を生み出していくという。

「少ない人口でも、まちには面白い考えを持っていたり、すごい技術を持ってる方がいる。でも場所と機会がないから、つながることがないんです。ここを交流の場として、僕らがコネクターとなって集まった人と人をつなげようと。」

「そうすることで新しい何かが生まれると思うんです。そこから生まれたものも福知山の文化として全国に発信していけたらなって。」

きっとまったく新しいものというより、新旧それぞれのよさを織り交ぜた新しいものができあがっていくのだと思う。

それは地元の人にも、外からやって来た人にも受け入れられる。

「先に行き過ぎると、あまり人に受け入れられなくなってしまうので。一歩先じゃなくて半歩先。自分たちができる範囲内で、少しずつ新しいことをやっていこうと思っています。」

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交流の拠点として新しい文化を生み出すYANAGIMACHI。足立さんは3年前から構想していたという。

福知山の知られていない美味しい食材を伝えたい。壊れゆく歴史的な建物を有効活用したい。足立さんはさまざまな想いをすべて体現する場をつくろうと考えている。

「一番は自分が育った地元が誇れるものでありたいと。でも、そういうものがないから、自分自身でつくろうと思って。」

「学生のころは、東京でファッションデザインの研究をしていました。でも、ファッションじゃなくても自分がつくったもので誰かが喜んでくれるのだったら、手段はなんでもよかった。いろんな想いを詰め込んだYANAGIMACHIをはじめようということで、僕が主導で進めています。」

いろんな理想の形を描きながらも、YANAGIMACHIには鳥名子のような飲食スペースを設けることで、しっかり収益性を確保するという。

ただ多くの地元の人に愛される鳥名子本店とは違い、個室などをつくり、落ち着いた空間にするそうだ。

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今回募集する人は、基本的に飲食業の仕事を担うことになる。

交流が生まれる場として、人と人をつなげるコネクターのような役割も求められる。

もし興味があれば新しい動きに参加したり、自らはじめることもできるそうだ。

たとえば期間限定でイベントをやってみたり。会社が所有する畑で好きな野菜を育てて、新メニューを開発したり。

ゆくゆくは、ここでつながった人と一緒に何かをはじめることになるかもしれない。

「やりたいことがあるんだったらできる限りやらせてあげたいし、提案してほしい。僕だけの考えより、そのほうが盛り上がると思います。」

「僕もこんな面白い人を知っているからって、スタッフに人を紹介してあげられる。交流はお客さん同士だけじゃなく、スタッフとお客さん、スタッフ同士でも広まってほしいです。」

たとえば一線を退いた主婦の人が、ここで自分の経験を活かせる場だと思う。

社会人経験がなくても、こういったことが好きな人なら上手くやっていけると思う。むしろ一番大切なのは、好きかどうかかもしれない。

自分から新しいことをはじめるほかに、担当してくれる人さえいれば動き出しそうな事業もあるという。

たとえば、通販。いまは鳥名子の商品をオンラインショップで販売しているけれど、ここに職人の作品や福知山の特産品をラインナップすることができるという。

YANAGIMACHIのホームページには、お酒や食材の情報や物語を一つひとつ記事にして随時更新していく予定。そのうち冊子にまとめてお店に置くことも考えているそうだ。

「話を聞きにいって記事を書くのは、いまのところ僕だけ。ひとりで全国を回れないので、こういうのもやってくれる人がいたらいいですね。気になるところがあったら行ってもらって、買付をしてもらって。やろうと思えばいろんなことができると思います。」

 

 

YANAGIMACHIを後にして、歩いて10分ほどの距離にある鳥名子の本店へ向かう。

鳥名子は、ここ3年間で東京の恵比寿と三軒茶屋に出店を果たした人気店。

社長である足立さんのお父さまが東京のお店の運営し、足立さんは福知山の本店を任されている。

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お店は夜の営業に向けて準備をしていた。

店内は親しみやすい雰囲気。テーブルの上に置いてある小物や外看板は、社長がスタッフの人たちと一緒に手づくりしたものだという。

キッチンからは仲のよさそうなスタッフの笑い声が聞こえてくる。

ここでは、YANAGIMACHIの店長を務める大槻さんに話をうかがいます。

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大槻さんは以前、福知山で自分のお店を開いてバーテンダーをしていた。

鳥名子から歩いて5分ほどの近所。足立さんや鳥名子のスタッフがよく利用していたという。

「鳥名子の閉店後に、みんなや社長も来てくれてはって。そこからの縁で、このお店の従業員とは仲良くて。事情あってそのお店を閉めることになって、次の仕事が決まってないときに社長から『うちにバイト来いや』って声かけてもらって。それきっかけに、ここでずっと働かせてもらっています。」

大槻さんは鳥名子に勤めて4年になる。同じように、長く働くスタッフが多い飲食店だ。

「自分やスタッフみんなもそうだけど、社長の人柄に惹かれたんですよね。」

足立さんとは別のタイプらしい。どんな人なのだろう。

「いままで出会ったことのないような面白い人ですね。2代目と軸は一緒だけど、全然違う考え方をするので。社長と2代目は意見が違うからいろんな展開があると思います。そういう意味でもYANAGIMACHIは楽しみで仕方ないですね。」

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YANAGIMACHIは会社にとっても新しい取り組みだけど、基礎の部分では鳥名子のDNAが流れることになると思う。

大槻さんに鳥名子の社風について聞いてみると、こう話してくれた。

「この店では、一つひとつの判断を自分でします。お酒の量は何mlきっちりじゃなくて、氷の量もこのくらいでいいと。いい意味でいい加減さがないとしんどいかな。」

基本的に料理のレシピはつくっていないという。スタッフ一人ひとりが自分で分析し、いろんなことに対応できるようになってほしいと考えている。

だから調理の経験がない人でも、一から教えてくれる環境にある。素材を活かした料理がメインだから、複雑な調理をすることはないという。

「決めちゃえば教えるほうも教わるほうも楽なんですけどね。」と足立さん。

「でも長期的に考えたらよくないなって。100年前の味ってたぶん美味しくないと思うんです。やっぱりその時代に合わせたものを、そのときどきで判断してつくっていかなきゃと思うので。はじめは覚えるのが大変かもしれないですね。」

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取材の終わり、大槻さんがこんな話をしてくれた。

「自分の店を閉めることになって、後悔したり、いつかはまた独立してリベンジしよう思っていたけど。4年お世話になって考えも変わって、そういうのもちっぽけだなって思える会社なんです。もちろん独立願望はありますけどね。」

「温かい社長がおって、まわりみんなもそうだし。この先を考えても、楽しみでしゃあないですね。」

これから実際、どんな場になっていくのか。まだ見えないことばかりだけど、足立さんや大槻さんと話していると不安はなく、むしろ楽しみな気持ちでいっぱいでした。

福知山に誕生する新しい場。

ここで働く人自身も新しい文化の一部となる、そんな仕事かもしれません。

(2015/3/21 森田曜光)