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老舗の未来

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

老舗企業が日本仕事百貨に掲載を依頼いただくときは、たいてい何か新しいものを求めている。

小豆島にある島乃香(しまのか)株式会社もそのようです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 昭和21年に創業し、つくだ煮を製造・販売してきました。今回は一緒に新しい商品をつくり、製造から販売まで担当するスタッフを募集します。

羽田空港を飛び立った飛行機が関西上空を過ぎると、もうすぐ小豆島が見えてくる。牛の形をした島だからわかりやすい。

後ろ足の付け根、お腹のあたりが今回の目的地だ。

simanoca02 高松空港からバスで高松港に向かい、そこから船で小豆島に向かう。

瀬戸内海はおだやかだ。船はゆっくりと進み、1時間ほどで草壁港に到着した。島乃香はここから車ですぐの場所にある。

社屋は工場のすぐとなりにあった。新旧の建物が混在している。

simanoca06 ちょうど大きなトラックが横付けしていて、商品を出荷するタイミングのようだった。

工場はほかに島内に3つ、岡山に1つ、そして中国にもあるそうだ。

事務所の中に入ると、代表の木下さんに迎えていただいた。

まずは今、どんな状況なのか話を伺った。

「戦後の食糧難のときには、少量の佃煮でごはんがおいしく食べられたので、勢いよく伸びていた時代があったんですね。でも今は佃煮を食べる世代は高齢になってきていて、若い人はあまり食べないんです。勢いがあったのは20年くらい前までかな」

simanoca03 「佃煮はもともと昆布だとかカツオだとか、おいしい成分を持ったものを、さらに醤油や砂糖で煮て、保存性を持たせた食品なんですよね。だから味が濃いけども、とってもおいしいものなんですよね」

島乃香はどういう状況なんですか。

「当社は佃煮業界の中では全国で10位ぐらいなんです。1番はフジッコさんでね、2番目はちょっと曖昧なんですけど、桃屋さんだとか。もう10番目くらいになると、なかなかスーパーと商談もできない」

そんななか、いろんな工夫もしている。たとえば小売店の要望に合わせてパッケージや量を変えて商品化したり。細やかなニーズに対応できるように努力してきた。

「少量がいい、ということでつくったこともありました。売れたんですけど、それを手に取るのは普段あまり佃煮を食べない方。でもヘビーユーザーの方は、今でも1キロ2キロ買われるんです。少量がいい、というのはあまり食べない方なんですよね(笑)」

「ほかにも数年前にうなぎの値段があがったときに『土用のうなぎが売れなかったら土用のしじみでどうやろか』というスーパーの要望に対して、いちはやく提案したことで商売につながることもありました」

いろいろな工夫を重ねてきた木下さん。実はもともとはプログラマーだった。

大学を卒業してから東京の会社に勤めていたけれど、跡取りがいないということで、小豆島に呼びもどされた。

でもそこは木下さん。元プログラマーだったことも活かして、いろいろなことにチャレンジしていく。

たとえば工場の機械化だったり、中国への工場進出だったり。人や設備への投資は積極的なんだそうだ。

simanoca04 木下さんの机にはパソコンのモニターが並び、うしろにはたくさんの本が並んでいる。本当に勉強熱心な方だそうで、新しく知ったことは社員にも共有し、気になるものは取り入れてきた。

そんななかで日本仕事百貨のことも見つけていただいたそうだ。

いろいろな知識を得て、それを目の前の要望や課題に活かす。そういうことをつづけてきた方なんだと思う。

そんな木下さんもこれからどうしていくか考えている。

「わたしもあんまりいわんほうがいいと思っているんですけどね。成長していくにはビジョンが必要なんですよ。それは私の責任のところやからね。」

「たとえばカット野菜は、佃煮の市場よりも大きくなっている。ここ10年ですよ。もともとカット野菜なんて『あんなん売れるんやろかいな』いうような感じでしたけど、10年の間に2000億の市場になっとんですね。佃煮は1千数百億」

大手と同じことをしていても、そもそも体力で負けてしまう。佃煮をやるにしても、何かを変えないといけない。もしくはほかのことをはじめるか。

少しヒントになりそうなのが、無添加の海苔の佃煮。しかも、海苔は地元小豆島産のものを使っているそうだ。さらにまわりには醤油蔵がたくさんある。

simanoca05 自分たちの目で確認できるいい材料が揃っている。

「私は一貫して担当するような仕組みが必要かなと思っています。たとえば、鍋で炊いた人が、そのまま自分で売るようにしていくみたいな」

今回募集して入社する人は、まさに商品開発も製造も販売もすべてできる人に育てていきたいそうだ。

なぜなら今は全国に営業拠点が散らばっていて、生産の現場と営業が乖離していることが問題になっている。

営業は現場を知らないから提案力が乏しくなってしまう。現場はどんなニーズが世の中にあるのかうまく把握できていない。

となりの部署が何をやっているのかわからないようでは、スピードも遅いし、新しいことも生まれにくい。

こんな状況なので、新しく入る人は、生産と営業を横断できる人が求められている。具体的にはまずは既存の生産現場に入りつつ、営業にも同行していくことになる。会社の強みを知りつつ、世の中のニーズも把握していく。

そういうなかで、新しい商品や生産現場をつくっていくことになる。

さらにもう一歩進めるならば、今までは小回りのきく動き方で小売店のニーズを拾っていたけれども、マーケットが小さくなっているなか、それだけでは難しい。

自分たちで新しい商品を開発して、マーケットをつくっていかなければいけない。

たとえば、となりにある醤油蔵をリノベーションして、製造から販売、そして飲食できる場所をつくるのもいいかもしれない。

simanoca07 少数精鋭のチームが会社や地域の大先輩の教えを活かしつつ、自分たちの感覚で商品開発し、場所を育てていく。海苔の生産からはじめてもいいかもしれない。

さらに全国のこだわりの商品を扱う小売店に卸したり、自社で通販もはじめていく。

これはあくまで想像のことなので、どうなるかはわからないけれども、これくらい新しいことを考えて、実行できる人が必要になってくる。

そんなことを話していると木下さんは「ぜひやりたい」と話してくれた。

「わたし自身、そういうようなことをイメージする力がないから、担当できる人がいたらいいですね。わたしももうこの歳だから、それほど自分でっていうことはできないんです」

これだけ聞くと、なんだか責任重大で大変そうにも感じるけれど、社内には一緒に協力していく若い人たちがいます。

まず紹介したいのが藤木さん。今は製造の現場で働きながら、商品開発や営業のサポートもしている方。会社になくてはならない存在だ。

もともとは大学を卒業してから、岡山で働ける場所を探した末に、出会ったのが島乃香なのだそうだ。

「はじめは福山の食品会社に内定もらっていたんですけど、今の嫁さんと付き合ってて『福山には行きたくない』って言うんで、探したら条件に合うのがここだった。まあ、不純な動機というか、狙って入ったわけじゃなかったんです」

simanoca08 入ったときの第1印象はどうですか?

「正直に言っていいですか?(笑)まあ、田舎くさい会社だなあ、って思いましたよ。あとは社長のことは、はじめ社長だとは気づかなかった」

でも働きつづけて19年。どうして辞めることもなかったんでしょう。

「仕事が面白くないわけじゃなかったんです。農学部だから、もともと研究室で実験とかしていて、ここでは学生のときよりも任されていたし、それでお金がもらえる。楽じゃないけど、やりがいはありますよね」

これから会社はどうしていけばいいと思いますか?

「佃煮市場は収縮しているので、新しい商品をつくらないといけない。ただ、今ある人や設備を、まずは活かしていかなければいけないから、ある程度の量を売っていけるものが必要だと思います」

simanoca09 「煮炊きや乾燥の技術はある。食品というところは外れたらいかんと思うんですけど」

藤木さんが会社の商品で好きなものってなんですか。

「なんやろ… 汐ふき昆布ですね。汐ふき昆布をお茶漬けにして食べるのが、個人的には一番好きですね。他社とくらべても、うちの商品はおいしいですよ。」

もう一人紹介するのは木下佐代さん。代表である木下さんの娘さんです。

研究室に所属して、製品の品質を管理したり、生産と営業の現場をつなげるための仕事も担当している。

「小さいころは何の仕事につこうか、まったく何も考えていなかったんです。どちらかというとお菓子やパンをつくるのが好きだったので『佃煮なんかいやだ』と思っていたんですね」

simanoca10 大学を卒業してからは、高松にあるパン屋さんに就職した。けれども人間関係に悩んだそうで「一回帰って実家の仕事を手伝おうかな」と思ったそうだ。

父親に相談したところ、「中国を勉強してほしい」と言われて、まずは上海の語学学校で勉強しながら工場にも通うことになる。

「中国に1年間行ったあとに戻ってきて、今はそれから1年ちょっと経ちました。帰国してからは各地の工場をまわったり、中国から来ている研修生に日本語を教えたりしていましたが、今の仕事に配属になりました」

佐代さんは、これから会社はどうしていけばいいと思っていますか?

「わたしはうちの佃煮はすごくおいしいと思うんです。でもなかなかスーパーにあっても、目に届かないところばかりに置かれていて。だから形や宣伝のしかたをどんどん変えていかないといけないのかな、って思いますね。新しいこともはじめていきたいです」

「あと以前働いていたところはすごい体育会系で、長時間はたらいていたのですけど、島乃香はめぐまれているな、と思います。仕事は8時から5時まで。残業は少ないです」

simanoca11 話を聞いたあとは食事をみなさんとご一緒した。熱い話もしたし、愉快な時間となった。みなさん、いい方ばかり。

一泊して朝起きてから、島内をランニングしてみた。

香ばしい醤油の香りがただよってくる。見上げれば、新緑にあふれた山。空気もおいしくて、とても気持ちいい。海は澄んでいて、波もなくおだやかだった。

simanoca12 小豆島は船もたくさんあるから、とても便利な場所だと思う。それに島には、醤油にオリーブオイル、ごま油など、たくさんの産業があるから活き活きとしているようにも感じる。

興味があれば、ぜひ一度訪ねてみてください。

(2015/6/19 ナカムラケンタ)