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「家」は暮らしの舞台。人間にとって必要なものだし、自然にそれぞれの居心地の良さを追求しているものだと思う。
そういう意味では「不動産」だって、もっと身近な存在になってもいいはず。
引っ越しを考えている人や資産家だけではなく、色々な人があちこちから不動産を考えたら、きっと面白いと思う。
今回は、アーティストがつくった不動産屋で働く人を募集します。
東急池上線の池上駅を降り、徒歩10分。不動産会社にしてはずいぶん駅から離れたところに「赤龍馬ハウジング」の文字を見つける。
赤い看板にのぼり旗と、かなり派手な外観だからすぐに分かった。
入口の前にスーツ姿の方が立っていたので話しかけると、代表の鳥居さんだった。
中に案内されると、真っ赤な壁に印象的な絵画がかかっている。
これは鳥居さんが描いたものだそうだ。
鳥居さんは「赤龍馬ハウジング」を運営する傍らアーティストとしても活動している。
2年前に「アート×不動産」というテーマでインターネットで独自の視点で集めた物件情報を紹介しはじめ、それが話題になりこうして不動産の実店舗も持つようになったそうだ。
賃貸・売買問わず、家を探している人や売りたい人をサポートする仕事をしている。
ゆくゆくは、不動産業で培ってきたノウハウやアーティストとしての経験を生かして、地域創生に関する新しい事業も立ち上げたいと考えているそうだ。
その思いは「シティーデザイン」という社名にも表れている。
不動産、街、地域。鳥居さんの興味は、どうしてそこへ向かっていったのだろう。
「向かっていったというよりも、とにかく昔から自分がいる空間を快適にしたいと思っていたような気がします」
「自分が絵を描きはじめたきっかけも、家なんです。ちょうど大学を卒業したころ、家族が所有していた古い長屋が2棟空いたので、壁を壊して2つをつなげて大きな部屋をつくったんです。それまでそんなに大きなスペースを自由に使えることはなかったから、ここをどんなふうに使おうかって。そして、5、6メートルほどのサイズの絵を描きはじめたんです」
「その家がなかったら、自分は絵を描いていないと思います。だから不動産って、色々なものを生み出すきっかけになるような気がします」
アーティストの活動がメインだった頃、フランスのマルセイユに留学していた。そのとき、あまり絵画の授業は受けずに、よく隣の建築学校の授業に潜り込んでいたそうだ。
日本に帰国後、建物や建築に関わる仕事がしたいと思うようになった。
そして、不動産仲介の会社に就職する。
「そもそもちゃんとした企業で働くこと自体が初めてでしたから、ストレスもそれなりにありました。芸能人のお客さんを対応したり、海外のお客さんに英語で怒鳴られたり、暑いなか外でポスティングをしたり。いいことも辛いことも色々でしたね」
「でも、やっているうちに不動産って面白いな、と思えるようになったんです」
「一筋縄ではいかないところが面白い。それに、自分で広げようと思えばいくらでも広げられる仕事なんです」
給料は基本給+歩合制だから、高額の物件を決めることができれば自分にお金が入ってくる。
けれど、値段が上がれば上がるほど、そのぶんお客さんとの交渉も難しくなる。
法律やファイナンシャルのことなど、自分に足りないことは勉強しながら、どうしたらお客さんに納得して契約してもらえるか考える。
やろうと思えば、出来ることは沢山あると気づいた。
「この仕事をしていると、ゼロから仕事を作ったかような瞬間があるんです」
「前にこんなことがありました。朝、散歩をしていたら、マンションの前で花壇に水遣りをしているご婦人と会って立ち話をしていたんです。聞けば、その方はマンションのオーナーさんで。僕が『もし空き家あったらうちで紹介させてください』と言ったら、『ここはいま空室がないけど、近くの倉庫は売りに出しているのでお願い』って。それが14億円の物件だったんですよ」
日々の地道な仕事に対して、思いがけないところに仕事のチャンスがあったりする。そうした振れ幅の広さも、不動産の面白さのひとつ。だんだん仕事にのめり込んでいった。
そんなとき、「赤龍馬ハウジング」をはじめるきっかけになった物件に出会う。
「リビングに能舞台があるんです。それを見たとき本当にびっくりして。こういう面白い物件を集めて紹介するウェブサイトをつくりたいと思ったんです。それで実際にはじめてみたら、サイトが評判になってテレビ取材も来るようになって」
リビングに能舞台、屋上に庭園、トンネルの奥にある家。そんなユニークな物件を紹介していくうちに、リフォームの依頼がきたり、まちづくりの相談もされるようになってきた。
ゆくゆくは自分たちで場をつくる機会ももっと増えていくかもしれない。
「日本の街を見ると、『らしさ』がないんですよね。その街が、その街らしくない。近代化の過程で日本全体が平均化されてしまっているような気がします。綺麗で安全なのはいいけれど、特徴がないんですよね。そういう失われた『らしさ』を回復する活動がしたいんです」
「らしさ」を回復する。
「ファッションも、昔は雑誌に載っているブランドの服を着るのがステータスでしたが、いまはたくさんの選択肢のなかから自分の好きなものを選んで着ることができますよね」
「不動産はファッションにすこし遅れをとっていて、いま、すこしずつ頭が自由になってきたところだと思うんです。やっとリノベーションとか、自分の好きな場所を自分でつくっていくという流れになってきた。そういうことをしたい人に手を貸すような仕事ができたら面白いかな」
たとえば、どんなことができると思いますか?
「寂れた温泉街にもう使われていない古いストリップ小屋があったら、ここで地元の文化になるようなショーを作りましょうよ、とか。それから、これから東京オリンピックに向けて海外の観光客が増えるからゲストハウスを作ろうとか」
「不動産屋として、それからもともと絵を描いたり学生時代は演劇もやっていたので、そういう経験も生かして、過疎化や少子高齢化などの日本が抱えている問題にもっとコミットしていけたらなと思っているんです」
そこに行けばそこにしかないものがある。
そんな「らしさ」をつくるお手伝いをする新事業がこれからはじまる。
新しいスタッフはどんなことをすることになるのだろう。
「まずは不動産仲介の仕事をやってもらって、それをがんがんやりたいならそれでもいいし、そこだけではなく新しいこともはじめたいという人は、自分で新規事業を進めていくのでもいいと思います」
「どちらにしても、最初は仲介の仕事を学んで欲しいです。というのも、地域活性化や街づくりに関わる上で、不動産の知識って絶対に役に立つんですね。それから、普通より金額の高い商品を扱うので、場数を踏めば踏むほど営業力が身につく。きっと色々な仕事ができるようになると思いますよ」
鳥居さんに聞いてみた。
どんな人と一緒に働きたいですか?
「人間的に色々な経験がある人がいいですね。たとえば、日本中を旅した人とか、なにか趣味を突きつめてきた人とか、自分で事業をはじめて失敗してしまった人とか。そういう人なら面白い営業ができると思います」
不動産は未経験でも大丈夫なんですか?
「はい、僕もありませんでしたから。不動産の面白さを教えてあげられると思いますよ」
「たとえば、僕、いま自転車で出ていったら、帰って来るまでに仕事を1本持って帰って来れるんですね。そういうゼロから仕事を作る楽しさも、教えますよ」
それは、鳥居さんだから出来るという特別なスキルじゃない。
今までまったく不動産の経験がなかったスタッフも、ここではそれぞれ自由に営業しているそうだ。
たとえばアルバイトの中国からの留学生は、日本への不動産投資を考えている中国の方たちに向けて、SNSに間取り図を掲載して情報発信をはじめたらしい。
可能性は、街なかにインターネット上に、至るところにある。
「不動産はそんなに難しくないですよ。知識より、人間力だと思います。気持ちがある方は売れるんです」
そう話すのは、ここで働いて2年になる谷口さん。
谷口さん自身、人材派遣や広告など様々な仕事を経て不動産の世界に飛び込んだそうだ。
「実は、わたしがここで働きはじめたきっかけは社長の鳥居なんです。前職の時に、わたしがお客さんを現地販売会へ連れていったのが最初の出会いでした」
「そのとき、彼は物件の話はほとんどしなかったんですね。説明しすぎず、好きなように見てくださいって。それから、マイナスな部分を教えてくれました。それがまた買い手を安心させる。こんな仲介のやり方もあるんだと思って。一緒に働きたいと言って入社しました」
実際に働いてみて、どうでしたか?
「好きにやらせてもらっているので、そんなにギャップはないですね。面白いのは、お客さんが『こんな家が欲しい』という希望の裏側。『どうしてそれが欲しいのか』という部分をしっかり聞かないと、本当に相手にマッチした物件は紹介できないということですね」
「だから、いかに『この人になら話せる』と思ってもらえるか。我々の仕事は、家を売るのと同じくらい、自分を売らなければいけないんですよ」
満足してもらえると、次に家族や友達を紹介してもらえる。そういうとき、自分がやってきたことの価値が認められたんだなとうれしくなる。
「こんなに高い物件が売れた!という数字の部分より、お客さんとのやりとりのほうが、自分は喜びを感じます」
話を聞くまで、不動産はなんとなく覚えることも多そうだし、「専門職」だと思っていた。
でも、実は家という大きな買い物をしようとしている人をあらゆる面からサポートする仕事なのかもしれない。
だからこそ、知識やスキルよりも「人として」というところが大事になる。
シティーデザインという会社も、鳥居さんだからこその視点が求められてこうして広がってきたのだと思う。
自分がこれからそこに加わるとしたら、どんなことができるのか。
なにかピンときたりワクワクしてきたら、ぜひ連絡をとってみてください。
(2015/08/17 笠原名々子)