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古都のおおらかさ

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

麻素材を中心に、衣食住にまつわる暮らしを提案する「井上企画・幡(ばん)」は、奈良市の企業。28年の歩みを着実に続けてきました。

店舗のスタッフと本社の企画職、新しい世代を担う人材の募集です。

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近鉄奈良駅からクルマで15分ほど走ると、京都府との県境に入る。そこは企業や省庁の研究施設が立ち並ぶ学研都市。丘陵地帯に豊かな緑が残され、落ちついた場所だ。

井上企画・幡の本店「Lier(リエ)幡」に大きな看板はついていない。自然な佇まいで、ここに11年建っている。今年リニューアルを終えたばかりで、外も中も真新しかった。

入口をくぐると、蓮の花の大きな写真が出迎える。露に濡れた花びらの表情がやさしく、美しい。

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この写真を撮ったのが、3年前に他界した井上博道(はくどう)さん。大和路の風景を収め続けた写真家だ。

1987年、奥さんの千鶴さんと一緒に有限会社「井上企画・幡」を立ち上げた。

「それまで主人の仕事を手伝っていたんですが、娘の子育てがひと段落して何かやってみたいと思ったんです。そのころ、主人を担当する東京の編集者がいらしたとき、ちょうどいいお土産がないか探すことがあって。自分たちの手がけたものを差し上げたかったんですね」

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当時を千鶴さんはなつかしく振り返る。写真のニコニコした博道さん、笑顔でなんでも応援してくれる人だったようだ。

「奈良で女性の職場はまだ少なかった時代でしたから、女性たちが活躍できる会社をつくりたかったんです。夫婦とも日本の文化が好きなので、それぞれの時代に応じたいいものをつくって発信していきたいと思いました」

社名の「幡」とは、法要のときにお寺で掲げられる旗のこと。博道さんが撮った青空にひるがえる幡の写真を見せてもらった。小さくても、凛とした存在感の会社をつくる決意が伝わってくるようだ。

テーマは繊維製品。特にやりたかったのが「手織りの麻」だった。

「生まれ育ったのが、奈良の麻問屋なんです。麻に対する需要は潜在的にもっとあるんじゃないかと思って」

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千鶴さんの実家は、日本仕事百貨でなじみがある中川政七商店。現社長の淳さんは甥にあたる。

「兄と私のふたり兄妹でした。素材に対する考え方が違うのかな。いえ、似ているからこそかもしれませんが、別々の道を歩むことになりました」

仕入れ先も、得意先も、一からコツコツ開拓していった。

この日、千鶴さんが着ていたのも手織りの麻の服。「もう10年も着ているのでくたびれているんですけどね」と笑うが、いいものは本当に長持ちだ。

「会社をはじめたとき、すでに手織りの麻は保護しなくてはいけない伝統産業でした。テーブルウェア、インテリア、雑貨、小物といった商品には気軽に使えない価格だったんです」

現代のライフスタイルに、麻のある暮らしを持ち込みたい。そう考え、機械織りの麻素材も生産することにした。

「企画したものを中国で織ってもらい、日本に入れて、糊を落とし、染色して、縫製して、販売するまでを一貫してやってきました。時代に応じて素材を取り巻く環境も変わりますから、商品の見せ方や企画も変化していきます」

日本の伝統産業の保護政策、新興国の人件費の高騰、為替相場、ものづくりの環境は目まぐるしく変わっている。

「私たちの“根っこ”にある部分は変わりません。それは、日本に伝わる暮らしが好きだという気持ち。食べものも、美術も、自然環境も含めてです」

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「奈良の夏はとても湿気がありますが、そんな四季折々の季節感が素敵だなと思うんです。いいものを見て、蓄えて、表現する。それが私たちの役割です」

窓の外に広がる大らかな景色を眺めていると、奈良で暮らし、働くことの実感が湧いてくる。
 
 
Lier幡の店長、中馬(ちゅうま)絵利子さんに店内を案内してもらいながら話をうかがった。入社9年目で、本店のほか奈良市内にある他の2店舗も統括して見ている。

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本店スタッフは8名。300坪ほどの大きな空間だ。ちなみにLierは「つなぐ」というフランス語だ。

メインとなる商品はやはり麻素材によるものと、奈良を産地とする蚊帳(かや)生地のもの。

「蚊帳の生地は奈良県の南部、広陵町と田原本に機場(はたば)があって、そこで織り上げています。奈良で染色するものもありますし、糸から染める場合は滋賀の工場ですね」

中馬さんは大学卒業後、暮らしに密着した仕事がしたいとインテリアの学校で1年弱ほど学んでいた。そのころ、家具店と、大阪にあった井上企画・幡のショップ、2つのパートを掛け持ちしていた。

「パート時代は麻を身に着けることは少なかったですが、本店のLierに来てからは麻の魅力を感じて着るようになりました。すると徐々にお客様へもお勧めしやすく、買っていただくことも増えましたね」

麻の魅力は、具体的にどんなところですか?

「サラッとしているので肌になじむので涼しいですし、天然素材なので身体にもいいです。パソコンからの電磁波をバリアするという力もあるそうですよ」

売れ筋の商品をきいてみた。

「この先染めの格子バッグは、この夏とてもよく売れていますよ」

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シンプルなのに柄が大胆なので、存在感がある。麻の印象と藍色の染めが爽やかだ。

そのほか、夏場に増えるのは、蚊帳の素材の洋服など。綿100%で心地いい。冬は服でなく、小物類などがよく出るという。

「50代から60代のお客さまが多く、4割くらいがポイントカードをお持ちのリピーター」だそうだが、若い世代への商品も増えている印象を受けた。

高級品と思われがちな麻製品だが、時代にあわせて、さまざまな商品を開発している。

オリジナルだけでなく、仕入れた商品で世界観を出していくのが店のコンセプトだ。

「アクセサリー類は手づくり感のある作品をセレクトしています。女性作家がほとんどですね。奈良の作家さんだけではありませんが、うちの会社で働いていた人の作品もあるんですよ」

食品コーナーでは、奈良のものをなるべく集めたいと仕入れている。

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47席あるカフェでは「中食(なかしょく)」とよんでいるランチを提供していて、使われている古代米や味噌が売れ筋商品になっている。

「良く売れているのが、無農薬のほうじ茶。こちらもカフェで提供しているものです」

採用されるショップスタッフは、カフェの接客も担当する。

「やりがいが持てる店だと思います。マンネリの仕事はなく、常に前を向いていなくてはいけませんし。自分の思ってることにスタッフの気持ちを掛け合わせ、引き出してうまくお店を回すようにしています。お客様のリピート率が高いという意識がスタッフにもあるので、緊張感がありますね」

自然に恵まれた環境だが、それゆえの苦労もある。

「山を切り開いている場所なので、ムカデなどはしょっちゅう見ますから、虫が苦手な人は大変かもしれません(笑)」

26歳で店長になった中馬さんが、最初に就職を決めたきっかけは「器」だったという。

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「売れている器を使うのでなくて、この店に合ったもの選んでいました。器に麻をあわせ、季節によって暮らしを提案できるお店だったのが魅力だったんです」

中馬さんがすぐにどこかへいくわけではないが、新しく店長になれる人を育てたい思いから、ある程度たったらひとり立ちして店長になってほしいそうです。

「お店に来てから、いろんなことがわかりはじめました。たとえば、テーブルセッティングも季節によって変えられる。やらなくてもいいことですが、もし暮らしの中でやれたら、気持ちも明るくなる。そんな提案をしていけたらと思います」
 
 
今回はショップスタッフのほか、企画職も募集します。

林田千華さんは、入社して19年。当時はまだ10人に満たない会社だったという。

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「大学はデザイン学科でインテリアのコースに進みましたが、建築にも関心がありました。その一方で、布に触りたい、布に携わることがしたいとも思っていたんです」

千華さんは、博道さんと千鶴さんの娘だ。卒業後は額装屋で働いていたが、母から誘われて井上企画・幡へ入った。

「それまで創業から8年、母たちの仕事を見てきました。雑貨も好きだし、趣味で洋服やバッグも学生時代からつくっていましたね。『自分でなにかをつくって、売るというのを生で感じられるのは、自分のところの会社だな』と」

現在はパートやアルバイトを含めて54名の会社に。成長したきっかけは、カタログをつくって東京の展示会で配布して、取引先が増えてからだった。

「ここ4年くらいは父の写真を表紙にしています。卸先はデパートもありますし、呉服屋さんだったり、街の小売店や雑貨屋さんだったり、雑貨も販売するカフェなど。企画が充実して、営業も拡大しているところです」

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企画職が働くのは、Lier幡からクルマで10分ほど行った場所。夕方、大勢のスタッフが出荷作業に追われていた。20〜30代の女性が中心だ。

「ここで素材を裁断して、バッグにするファスナーなどをそろえ、近隣にいる70〜80人いる内職さんにドライバーが運んでいくんです。でき上がった製品を回収して、検品してから出荷します」

もともと住む予定で建てたという本社の建物は、工場というより大きな1つの家で働く感じ。お昼もダイニングでお弁当を広げる。

どんな人がこの会社に向いているか、千華さんにきく。

「お店のスタッフは、商品が好き、食べることが好き、という気持ちがないとつとまらないと思います」

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どちらの職種も経験者ではなく、新卒ではじめられるという。

「これは企画の部署も一緒で、物欲がない人が企画してもいいものはできないから、欲のある人に来てほしいですね」

麻素材と同様、派手さはありませんが、素朴でやさしい雰囲気の会社。根強いファンを大事にしながら、次の時代に漕ぎ出す準備をしていました。

地域に密着した暮らしと仕事をしたい人にとって、古都の歴史と自然を身近に感じながら、感性もみがける職場だと思います。

(2015/8/10 神吉弘邦)