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「いつか自分のお店を出したい」そう考えている人は少なくないかもしれない。そんな人に、今回は鹿児島県鹿屋市を紹介します。
鹿児島県の東側・大隅半島の中心地。広い空と鮮やかな緑、そしておいしい幸の豊富な海のあるこの場所で、新たな挑戦をする人を募集します。
具体的には商店街で店舗をかりてお店をはじめる人。そして街がにぎやかになることを一緒に考えてくれる人。
起業支援として最高100万円と家賃補助が用意されているので、はじめるにはチャンスかもしれません。なにより、ここには頼もしい先輩や仲間がいます。
鹿屋はなんだかいい予感がする場所でした。あなただったら、ここでなにをはじめますか。
鹿児島空港から1時間ほど車を走らせる。
車から見た鹿屋の街の第一印象を正直に言うと、寂しい商店街の多い街。いくつも商店街らしき通りがあるけれど、シャッターの開いているお店はちらほらとしか見かけなかった。
その中で今回は北田・大手町商店街の一角にある、北田・大手町商店街振興組合の事務所にお邪魔した。平日の昼間、小さな商店街の中央を走る道路は車がひっきりなしに通るけれど、歩いている人の姿は見かけない。
お話を伺ったのは左から川畠さん、井之上さん、前田さん。
まずは商店街振興組合の理事長でもある前田さんに、この場所のことを教えてもらう。ハキハキしていて、話をしていて気持ちのいい方。
もともと鹿屋が地元の前田さん。社会人になってから数年は東京に行って修行をしたけれど、実家を継ぐためここに戻ってきた。
「僕が子どものころには桜デパートっていう、大隅半島で唯一の百貨店があって。一番ピークのときには64店舗も軒を連ねていたんですけど、今ここで営業しているのは7店舗だけになっちゃいましたね」
今残っているのは前田さんの時計宝飾店のほかに本屋、仕出し弁当店、酒屋、食堂、電気屋、寿司屋、そして登山用品店。
数だけきくと随分寂しくなったように感じるけれど、それだけの人が店をたたむ中、残っている7店舗は逆にすごいお店なんじゃないだろうか。
そんなことを思いながら、引き続き話を伺う。
「当時は時計業界がすごく儲かっていて。全国の商店街、どこも一番いいところには時計屋さんがあったんですけどね。今はいろいろなアイディア出しながら、なんとかやっているところです」
前田さんのお店には時計を買う人だけではなくて、修理を頼む人も多く訪れるそう。商店街の周辺にある病院の帰りに、ここで時計の修理がてら話こんでいくおばあちゃんもいるらしい。
ただ時計を販売しているというよりは、立ち寄る場所になっている。
「店を構えているからには、ここで食っていけるようにならないといけないので。商店街のことはその一環でもあります。このままダメになっていく街を次の世代に渡すのは忍び難い。いろいろ文句を言っているうちに、理事長になってしまいました(笑)」
自分の店の経営で必死になると、周りのことをかんがえる余裕がなくなってくる。どんどん店舗が減っていく中で、商店街が寂しくなっていくことを諦める雰囲気が漂っていたそう。
そこで前田さんが提案したのは、老朽化したアーケードの改修。資金的に新しくつくり変えるわけにはいかなかったけれど、屋根を外し、地域に豊富な水をミストカーテンとして出せるようにした。
「街がにぎやかになればまた屋根をつけることができるかもしれない。できる範囲でやっています」
「時代の流れもありますからね、そのまま残るべきだとは思っていません。商店街といっても今後は物販じゃなくて、人が集まる場所になっていくのかな、と思っています」
そんな中、大きな希望となったのが「BARAIRO商店街フェスティバル」の開催。
このイベントを主催したのが川畠さんだった。
「父が鹿屋で不動産屋を営んでいて。僕は千葉で設計の勉強をして戻ってきました。当時、鹿屋で家を設計事務所に頼む、デザインを頼むっていう文化があまりなかったんです」
デザインにお金を払う文化をつくりたい。
そんな想いから鹿屋近郊で活動をする作家、雑貨屋、建築やデザインに関わる人が集まり、広いスペースを使ってイベントを開催した。
回数を重ね規模が大きくなる中「これを街中でやったらおもしろいよね」という話が出た。そこで舞台となったのが、この北田・大手町商店街。
「BARAIRO商店街フェスティバル」と名前を変えたイベントが開催された当日、それまで10年以上閉まっていたシャッターが開き、1万人もの人が小さな商店街に溢れかえったそうだ。
「みなさんに協力してもらって、凄まじい数の人が来てくれたんです。その勢いで次の話も進んでいって。そんなことをしているうちに鹿屋の街や都市計画のことをやっている人がいないなって気がついて。ぼくが勉強していこうと思いました」
その後も音楽フェスティバルや、空き家の活用方法を考えるリノベーションスクール@鹿屋など、街をにぎやかにするイベントを開催してきた。
すべてがうまくいくわけではなかったようだけれど、ここから生まれたプロジェクトがあったり、実際に夜カフェやパン屋などあたらしく店をはじめた人も出てきた。
「おかげで本業があんまり進まないんですけどね(笑)これから先はイベントだけではなくて日常の中で仕掛けていきたいんです」
いくつか計画中の“企み”の1つが「地方都市の未来をつくるゼミ」。10月から来年の2月まで、まちづくりの経験者などを招き定期的に講義やグループワークを開催することになっている。
「一緒に考えていく仲間を増やしたいと思っています。この形なら行政の人も巻き込んで一緒に学んで、考えていくことができる。今後鹿屋がおもしろくなるための基礎体力をつけるプロジェクトです」
今回の募集でお店をはじめる人もこのプロジェクトに参加することができる。実際に商売をするノウハウを学ぶ機会も用意される予定だ。
この秋からは20年ほど使っていなかった元靴屋「にっしん」の建物をリノベーションして、あらたなプロジェクトも立ち上がる。商店街と鹿屋市、そして「かのやんがーる」というチームが協力し、女性視点から考える場づくりがはじまっている。
カフェやケーキ屋、惣菜などの小さなお店や、棚ごとにハンドメイド雑貨の並ぶスペース、イベントなどを行うことも計画しているそう。
商店街の中心にある施設なので、ここが開くと全体の様子が変わっていくと思う。きっと人が集まる場所になるから、まずはここからはじめてみるのもいいかもしれない。
「今ある事業が同時並行で進んでいくと『なんか鹿屋すごいことになってるね』って感じになっていくと思います。はじめたからには街を活性化しないと。もうやめられないんです」
あたらしく場所を構えるためには、時間やお金、勇気が必要になる。そう簡単なことではないかもしれない。
けれど、はじめてみないと、なにもはじまらない。
もちろん自分である程度の計画や覚悟をすることが必要にはなるけれど、ここにはヒントをくれる先駆者や、相談できる先輩がいる。
カフェや食堂、雑貨店やゲストハウス。美容室なんかもいいかもしれない。どんなアイディアでも、ここでやってみようと思ったら、まずは相談をしてみるといい。
そんな先輩の1人が井之上さん。商店街振興組合の副理事長や街のにぎわいづくり協議会の会長を務めるなど、さまざまな肩書きを担っている。
井之上さんのお店は一見“ふつうの”電気屋さん。けれどメーカーの販売実績で九州2位だったり、販売キャンペーンで全国1位になったりと、ちょっとした有名店。明日も朝から東京に出張にいくそうだ。
やっぱりこの7店舗には、なにか秘密があるみたい。
「都会と田舎、どちらも知っているつもりです。東京とかにいくと、3年前にあったラーメン屋が別のラーメン屋になっていたりしますよね。人が多いからいっときは入るけれど、しばらくしたらダメになる。その繰り返しをよく見かけます。ここではきちっとビジネスのベースができれば、比較的長続きすることが可能なんです」
ベースですか。
「がつがつビジネスをしていくのは難しいかもしれない。けれど人として評価してもらえれば、きちっと成り立つんです。人が好きだったり、人に喜んでもらうことからはじまっていれば、受け入れられる場所だと思います」
「あとこっちはすごく飲み会が多いんですよ。会合ってことで集まって、そのまま飲みにいく。ほとんどメンバーは同じなんだけどね(笑)」と前田さん。
この夜も商店街にある食堂で、おいしい魚と焼酎を囲む会合が開催された。交わされる会話は、街をにぎやかにするための話。これが鹿屋流のチームづくりなのかもしれない。
翌日、商店街の周りを散歩してみる。
水神様が祀られているというので行ってみると、湧き水を汲んでいく人が「おいしいのよ、ここの水」と教えてくれた。
すぐそばにある鹿屋市市民交流センターに入ってみると、子どもをつれたママたちが料理教室やヨガ教室をたのしんでいる姿がみえる。
ふと路地に入ると雑貨も並ぶカフェを発見。広い店内はあっという間にランチをたのしむ人たちでいっぱいになった。
今回お会いした方々が「いい雰囲気になってきた」と口を揃えて言っていた。
私も、車で通り過ぎるだけでは感じられなかった「いい予感」を少し感じることができた気がする。
9月14日には、井之上さんを東京にお招きして「しごとバー 商店街ナイト」も開催します。こちらはどなたでもお気軽に、話を聞きにいらしてください。一緒に日本最小商店街の秘密を探ってみましょう。
そして10月16日には、物件や商店街の人をめぐるツアーが企画されています。ピンときた方は、鹿屋を訪れてみてください。鹿屋ではじめる理由がみつかるかもしれません。
(2015/9/12 中嶋希実)