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福井県の港町に「篪庵(ちいおり)」が新たな宿泊施設をプロデュースします。半年間の雇用後、そのまま独立して運営を引き受ける人材の募集。こんなチャンスを狙っていた人には、絶好のタイミングかもしれません。
新幹線で東京から米原に、そこで特急に乗りかえて福井へ。2両編成のローカル線「えちぜん鉄道」は、終着駅の三国港駅に向かってのどかに走る。
終点1つ前の三国駅。このまちが舞台です。
ゆるやかな坂をくだって、すぐ日本海へ注ぐ九頭竜川が見える。地図を見ると、坂井市三国町は横長に1キロほど広がっているとわかる。
北前船の寄港地として栄えた三国は、古くても立派な建物が多く残っている。
この建物は元銀行。交易が盛んだった当時の記憶をいまに伝えていた。
だが、空き家になっている建物も多い。所有者がいても普段は住んでいないケースも増えている。限界に来た建物からつぶされていき、まち並みに穴が空いていく。
3年前から県や市の補助金を受けてはじまったのが、にぎわいも同時に生み出そうという「三國湊町家PROJECT」だった。
その1つに宿泊施設をつくる計画が持ち上がった。打診したのは、古民家を改修したゲストハウス運営の実績があるアレックス・カーさんの会社「篪庵」だ。
改修施設の企画と運営を担当するのが、篪庵の井澤一清さん。
アレックスさんとの出会いは約10年前。当時、京都で町家を改修したゲストハウスを立ち上げたころだ。
徳島で「篪庵」や「桃源郷祖谷の山里(東祖谷落合集落)」などの宿泊施設を運営するほか、全国で宿のプロデュースを手がける。
「アレックスが創造的な改修後の姿を描き、それを僕が設計の企画にまとめて現場に伝えます。オープン後の運営方法までトータルにコンサルティングしています」
宿のスタイルは、滞在型ゲストハウス。ドミトリーではなく一棟貸しで、一人あたり1万〜1万5,000円くらいを想定している。
来年3月までの運営は井澤さんたちに委託されているが、4月からは半年の経験を積んだ採用者が、独立して運営を任される。
いま、ゲストハウスは人気だ。本格的に準備を進めている人もいれば、なんとなくやってみたいという人まで、さまざまだろう。
「具体的な物件を探し、それにどれくらい投資できるか判断するとき、経済面をクリアしなくてはいけません。でも、この募集では『器』ができていますから、自分で設備投資しなくていいんですね。ゼロからやるよりもかなりハードルが低くて、バックアップ体制もあるのがメリットです」
非常にいい話だが、雇われる意識の人にはつとまらないだろう。
「4月からは売り上げを自分で稼いでもらう必要があります。ただ、僕たちが完全に離れてしまうわけではないです。篪庵がプロデュースした物件の1つとして広報するので、品質を保持する必要がありますから」
物件の大家さんは、どなたになりますか?
「まちづくりを目的に結成された『三國會所(みくにかいしょ)』という地元の社団法人です」
三國會所で「町並み委員会」の委員長をつとめるのが、浜田 剛さん。
浜田さんの普段の仕事は音響オペレーターだ。大阪で音響の学校に2年通った以外は、三国で生活している。
地元をよく知る、浜田さんにも話を伺ってみる。三国はどういうまちですか?
「クルマで10分の東尋坊が有名なので、観光客が立ち寄りますね。裕福だった時代の建物を生かすようになったこの15年くらいで訪れる人も増えた気がします」
浜田さんは39歳で、住まいは中心部。同世代で家を建てようとするとき、郊外に土地を買って建てる人が多いという。三国では過疎ではなく、ドーナツ化現象が起こっている。
まちに活気が戻るのが毎年5月19〜21日の三国祭の日。6メートルある山車が出ると、祭のハイライトだ。
「祭の担い手がいなくなってしまうのが淋しいです。うちは3人の子どもがいて、みんなお囃子をやってきました。来年は8年に一度の当番区なので、一番下の2年生の子が1月ぐらいから太鼓を練習します。21軒のうち、小学生がいるのはうちだけになってしまいました」
その半分は、お年寄りだけの世帯だ。
「祭りを継続するためにも子どもを連れている人がまちに戻って、住んでほしいです。そうやって、自然に賑わいがつくれるといいのですが…」
「そのために、このプロジェクトがあるんですね。今回のゲストハウス以外にも、物販店舗として運営者を募集している物件もあります」
このまちの人たちが残そうとしたい、ここから失われつつあるもの。それは、目に見えるものと見えないもの、両方ある。
それなら、家族で応募する人がいれば、一番いいかもしれないですね。
「子育てするには持ってこいの土地です。ここには待機児童なんて言葉はありませんから。魚やカニなど、食べものも美味しいです。夕方の競りにかけられた新鮮なものが食べられます」
秋の味覚に、冬のカニ。春には大きな祭があり、夏はマリンスポーツが楽しめる。一年を通じてできるのが釣りで、波が高くなる冬場はサーフィンもできる。
発信されていないだけで、観光資源は多い。それを見つけて、じっくりと県外や宿泊客へ伝えられる人が求められている。
そんな話を聞いてから、まちを散策してみた。クネクネと曲がる路地を歩く。それだけで面白い。
三国は文人のまちでもある。かつてはパトロンも多く、昔の作家がこのあたりに多くいたのだ。遊郭の女性にひかれ、流れ着いた文士もいたらしい。
アレックスさんが候補として考えたものの、傷みがひどくて断念した空き家も見学した。あと数年早ければ、と悔やまれる。
改修中の現場に到着した。
明治期に建てられた蔵のある薬局の建物。広い調合室などもあったため、入口が横に長い。柱などは元の構造を残す方針だ。
これをそれぞれ4人棟として運営する。
宿で食事は提供しないが、IHクッキングヒーターのキッチンが各棟につく。海産物が豊富な三国港、市場や商店で食材を仕入れての調理もいい体験になるだろう。
地元牧場の新鮮な牛乳を使った美味しいジェラートを食べながらまち歩きを続けると、「三國バーガー」のポスターを見つけた。
この立派な建物は「三國湊座」。ライブやイベントも定期的にしているまちの拠点となるカフェで、2006年にオープンした。
さっそく三國バーガーを、店長の出地さんにオーダーする。出地さんのご主人は、近隣の越前市(旧:武生市)出身。三国が好きで、住むならここだと移り住んだ。
このまちって、どうですか?
「私も子どもを育てるなら田舎がいいと思ったんです。ある程度、大きくなったら都会でね。元気いっぱいな子育て! それが理想でしたから」
でき上がったハンバーガーを、ご当地ソーダ「ローヤルさわやか」とセットでいただく。
福井県産ビーフと国内産ポークのハンバーグ。開発した専用バンズには、炊いたご飯が練り込んである。味つけは自家製バーベキューソースと手づくりマヨネーズ。刻んだ三国産らっきょうをアクセントにしている。
ふわふわ食感のパン、ジューシーな肉、とても美味しい。食が充実している土地というのは、本当にいいな。
三國會所で事務職として働いている松浦さんも同じ意見だ。
「もうすぐ住んで14年です。このまちは食べものがいいですよ。水も美味しいですしね。福井市まで行かなくても、三国の中で済んでしまう。コンビニは駅の近くまで行かないとありませんが、大きなスーパーもありますから」
彼女は子育てがひと段落した3年前、三國會所に就職した。
「保育所もありますし、女の人が自立しやすい環境だと思います。私は県外から来ましたけど、周りのお母さんたちや、そのおじいちゃん、おばあちゃんが子育てに協力してくれたんです」
「上の子が熱を出したら、下の子を預かってあげるよ、とか。下の子がてんやわんやのときは、上の子にお昼を食べさせてあげると言ってくれたり」
旦那さんは隣町の人だが、やはり三国が好きなのだという。ふたりの娘さんは、公立の学校にスクールバスで通っている。
今回、採用された人もはじめは三國會所に席を置くことになると思う。職場の雰囲気はどうですか?
「催事の前は忙しくて大変ですが、愉快な人たちです。建築やまち並みなど、それぞれに強みがあります。メンバーは100人くらいいるのですが、浜田さんや私くらいまでが一番下。60代、70代の人も多いですね」
地域の中で上の世代と上手にやれるタイプ。こうした素養は案外、重要だと感じる。
30代から40代の人たちも、まちを盛り上げていた。
出地さんと松浦さんに勧められたのが「辛み蕎麦」。現在14店舗で食べられる。地域の名産にしようとパンフレットやWeb(「越前坂井辛み蕎麦」)での展開に取り組んでいる。
いただいたのは、越前蕎麦にかつお節とネギを載せ、辛味大根のしぼり汁を混ぜた出汁をかけて食べる、ぶっかけ蕎麦。たしかにとても辛いが、蕎麦の甘みを引き出すような辛さで、やみつきになって何軒もハシゴしたくなる。
飲食店以外の仕事につく三國會所のメンバーたちが、こうした食の要素で楽しみながら、まちを盛り上げる様子は頼もしい。
1人きりで見知らぬ土地へおもむくのは、不安も強いと思う。でも、仲間や先輩のように慕える人たちは見つかりそうだ。
井澤さんは今回、宿を運営するにあたって“キーマン”を募集する。
「運転免許だけは必須ですね。パソコンも少しはできてほしいですが、性別も年齢も学歴も経験も問いません」
それよりも「腰を据えてくれる人」が求められているので、短期間でいなくなってしまう人は論外。地域からの期待も非常に高い。
「一人ではできない1つ1つの課題も、自分がキーマンとして力を発揮できれば解決できると思うんです。地元の方も手伝ってくれると思います」
宿泊ゲストを少し離れて見まもり、快適な環境を整える。同時に、積極的に三国のまちづくりに関わる。その両方ができなくてはいけないだろう。
取材を通じて、また訪ねたいと思う土地が増えました。冬の日本海は寒そうだけれど、カニの季節になると観光客もまた戻るという。
名産の「塩うに」などを買い込み、「黒龍」「梵」といった地酒で飲むのは格別だろうな。宿でもてなしてくれる人がこの記事を読んで採用された人なら、最高だ。
そんな日が来るのを楽しみにしています。
(2015/9/2 神吉弘邦)