求人 NEW

海と人が近い町

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「この町を見てもらって、こんな生活スタイルができそうだなって、逆に提案してくれるとうれしいですね」

そう話すのは、伊根町の活性化を手がけながら、温泉旅館「油屋」の経営を担っている、濱野さん。

aburaya00 海に面した集落には、1階が船のガレージで2階が居間になっている、舟屋とよばれている建物が230件ほどずらり。

丹後半島の北東部にある伊根までは、京都から車で2時間ほど。日本海に面した独特な町なみは、映画やテレビドラマの舞台にもなっています。

 
温泉旅館「油屋」があるのは、伊根の中心地からはさらに奥。昭和時代から民宿を営んでおり、そのころは陸路が通じていなかったため、渡し船でお客様を迎えていたそう。20年ほど前に温泉掘削に成功し、新しい施設を建築して旅館としてスタートしました。

aburaya01 今回募集するのは、伊根でのくらしを楽しみながら、料理の配膳や接客を担当する、おもてなしスタッフ。

 
まずは、ここ油屋の経営を行っている濱野(はまの)さんに話を聞いてみます。

「僕は3代目なんですが、子どものころから旅館の仕事を手伝っていましたね。高校卒業後は伊根町の役場で公務員を20年近く務めていたんですが、公務員としてやれることはやりつくしたこともあって、4年前に辞めてここを継いだんです」

aburaya02 伊根の観光客は、年に21万人ほど。油屋は伊根の中では最も大きい旅館であり、毎年6万人ほどが、油屋を利用している。関西だけでなく、東京からもお客様が訪れるそうだ。

「祖父や父から『町が良くなれば、この宿もよくなるんだよ』って、よく言われているんです。町が悪かったら、誰も来ないじゃないですか。だから、宿の経営はもちろんだけど、それ以外のこともやっていかないといけない。この町が元気になればお客様も自然と増えると思うし、現に増えていっているんです」

そう話す濱野さんは、油屋の経営だけでなく、町会議員やNPO法人い~伊根っとの理事長も担っている。今年は、伊根の町なかで、1日1組のみの舟屋の宿と、カフェの運営も始めた。

油屋やカフェを切り盛りしているスタッフは、全部で60人ほど。他の地域に住んでいて短期で手伝ってくれる派遣スタッフもいるけれど、伊根の町に住む社員をもっと雇っていきたいと考えている。

「これからのお客様は、普通に宿に来てご飯を食べて温泉に入るだけでは満足しなくなってくるんですよ。旅って、人が大事ですよね。この町で楽しんでいる人に接してこそ、『次もまた来たい』って思ってくださる。自分が暮らしていていいなあと思ったところを、お客様にもおすすめしてみる。そういうおもてなしスタッフを、もっとつくりたいんです」

 
実際におもてなしスタッフとして働いている石間(いしま)さんは、10年ほどここで働いているという、ベテランさん。

「舞鶴出身なんですが、高校生のときに油屋の求人を見て、ここに来ました。今は寮に住みながら働いているんですが、あっというまに10年位たってしまって。このへんは空気がきれいやし、朝昼晩と毎日景色が違う。不便なのも、ずっといたら気にならないですね」

aburaya03 お客さまには、ここを故郷のように思ってほしいということもあり、接客も過剰にしすぎずに付かず離れずのほどよい距離を保つのが、油屋のスタイル。

「リピーターのお客様が顔を覚えてくれて、来たときに声を掛けてくれたりするのはうれしいですね」

「お客様がお帰りになられたあとは、『ありがとうございました』とひとりひとりにお手紙を書くんです。誕生日や結婚記念日で来た人には一言添えたり、印象に残ったことがあったらお伝えしたりしているんですが、お返事がいただけることもあるんですよ」

一日の流れは、朝6時半に出勤して、朝食の配膳をするところから始まる。片づけや夜の準備をしたあとは一旦休憩して、15時にもう1度出勤。釜飯をつくるなど夕食の準備や配膳を行い、片付けを終えて帰宅するのは21時ごろ。

休憩時間やお休みの日は、寮で過ごしていることが多いそう。独身寮は、旅館から歩いていける距離にある。ここは、石間さんが住んでいる女子寮。

aburaya04 近くには男子寮もあり、車で少し行くとファミリー用の物件もある。

独身寮のキッチンやお風呂はみんなでシェアしており、シェアハウスのような感じなので、ひとりでこの町に飛び込んできても淋しくないかもしれない。休みの日はスタッフ同士で一緒に遊びに出かけたり、お花を習いに行ったりもしていて、仲がいいそうだ。

 
油屋の本館で働くおもてなしスタッフの仕事は、大広間にお料理を運んで今日の料理について説明するという、レストランの配膳に近いスタイル。いきなり難しい仕事になることはなく、未経験者でも大丈夫だそう。

今回募集するスタッフは、石間さんのもとで仕事を覚えていく形になる。はじめは何から仕事をおぼえていくんですか?

「まずは掃除ですね。トイレ掃除や拭き掃除・掃き掃除がひととおりできるようになってから、料理の配膳や、釜飯をつくるための調理補助などもやっていきます。1か月もたてば、だいたいのことはできるようになると思います。お食事を運ぶ時間は忙しかったりもしますから、きびきびした人が向いていると思います」

aburaya05 「料理のコースが多いし季節によってメニューも変わるので、最初はそれを覚えるのが大変でしたね。全部わかっていないとお客さまに料理の説明ができないので、紙に書いて暗記したりしていました」

町のことについて聞かれたときに答えられるよう、女将さんが伊根の観光に連れて行ってくれたりもするそう。

「お客様に伊根や橋立のことをよく聞かれるので、そういうことをもっと詳しく説明したいんですけど、私もまだまだで、もっと覚えられたらいいなって。自分でも、遊びに行った帰りにお土産屋に寄って、何が売られているかを見たり食べたり、チェックするようにしています」

スタッフは温泉にも無料で入れる仕組みになっており、まずは働いている自分たちが宿の良さを体感して、お客さまに伝えていくことにこだわっている。

aburaya06  
働き方についてはわかったけれど、この町での暮らしは、どんな感じなんだろう。伊根の中心地まで車で足を伸ばし、自転車で町を案内してもらった。

「20年前にテレビドラマの舞台になるまでは観光客も少なくって。もともと漁港集落だったので、町の人はみんなシャイですね。今では観光地として少し知られるようになってきましたが、外の人をどうおもてなししていくかは、まだまだこれからなんです」

aburaya07 旅館の近くまで来る移動販売車で日常のものは買えるし、宿の送迎バスや路線バスを利用して隣の市まで出ることもできるので、車がなくても生活はできる。ただ、海や山など自然を楽しむなら、車はあったほうがいいかもしれない。

「田舎だから、楽しみやレジャーは自分でつくるしかないんです」

「うちで働いている男の子たちは、休憩時間に素潜りや魚釣りをしている人もいます。スタッフに、ボートやシーカヤックを貸したりもしていますよ」

伝統的な建造物として保存されているという、舟屋も見せてもらった。それぞれの舟屋では、食べた魚のアラを網にいれて沈め、それを食べに入ったタコや魚を捕まえて調理するという、漁村ならではの循環的な暮らしをしている。

aburaya08 舟屋の物件は人気が高くて、残念ながら住み家としてはなかなか借りられないそうだけれど、舟屋カフェでは釣竿を貸したりもしていて、ここでの暮らしをちょっぴり体験することはできる。

「舟屋でのこうした暮らしも、私たちにとっては当たり前のもので、昔は価値がわかっていなかったんです。外からお客さんが来るようになって、あらためて自分たちの暮らしや町なみに価値があるんだなって思うようになりました」

議員やNPOの理事長もつとめている濱野さんは、油屋のことだけでなく、伊根の未来を考えている。

「町の課題は、一番は人がいないことですね。過疎化が進んでいて、2300人の町で毎年100人位ずつ人が減っています。若い人が働ける場所も少なくて、町役場に務めるか、水産業を営むか、うちの旅館で働くくらいしかない。もっとこの町の観光を盛り立てて仕事をつくっていきたいし、ここでのライフスタイルを発信していきたいんです」

aburaya09 「『海のそばで働きたい』って、家族で東京からIターンしてくるような方もいらっしゃるんですよ。今は漁業をやっていらっしゃいます。伊根は、海だけでなく山もあって畑もできるので、移住してきて農業をやる人もいます」

新しい人が来て、この町の楽しみ方を外からの目線で見つけてくれるとうれしいとのこと。

「いきなり永住などを考えるのではなくて、まずは1年働いてみるのでもいいんです。うちの独身寮やまかないは無料ですし、お金も貯まると思います」

子どもは1学年に10人位で、保育所の待機児童もいないそうです。ファミリーでも、子育てしやすい環境だと思う。

「僕は若い人を採用するときに、町を連れて歩いて『ここで何がしたい?』って聞くんです。来年4月に入ってくる子は香川県からIターンしてくるのですが、夢をいろいろ語ってくれて、おもろいなあと思って」

「この町を楽しんでくれる人が入ってくることで、この町も面白くなるし、宿も面白くなる。お互いに、いい意味で刺激し合えるような関係ができたらいいなと思うんですよ」

aburaya10 高速道路が開通して、京都市内へのアクセスもよくなった伊根町。海の近くでの暮らしが好きな人には、たまらない環境だと思います。

伊根での暮らしを楽しみながら、ここの面白さをお客さまに伝えていける人。そんな人を、油屋では待っています。まずは一度、この町を訪れてみてください。

(2015/10/13 田村真菜)