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Bean to Barって知っていますか?カカオは、両手で持ってもはみ出すくらい大きい。これはポッドという殻。中には30粒ほどの種子が入っている。取り出した種子を発酵させた後、乾燥します。それがカカオ豆です。
このカカオ豆とサトウキビからつくられるケインシュガーだけ。そこからホンモノのチョコレートを生み出す。
豆(Bean)からチョコレートバー(Bar)へ。‘Bean to Bar’ と呼ばれるムーブメントが静かに進行しています。素材にこだわり、手でつくる。クラフトのチョコレートです。
サンフランシスコにあるDandelion Chocolate(ダンデライオンチョコレート)は、そのBean to Barムーブメントを牽引するお店のひとつ。
そんなダンデライオンチョコレートが日本にやってきます。
場所は蔵前。今回はDandelion Chocolate Japanのメンバーとしてクラフトチョコレートをつくり、あたらしいカルチャーをつくっていく人の募集です。
募集するのは、プロダクションマネージャー、パティシエ、カフェスタッフと、広報やウェブ、総務などのオフィススタッフの4つ。
とくにプロダクションマネージャーは、一ヶ月ほどアメリカ・サンフランシスコのお店で働き、技術を学ぶことになります。
流暢に英語を話せなくてもいいけれど、コミュニケーションがとれることは必須になるそう。なにより、チョコレートへのパッションが求められます。
チョコレート、そしてクラフトムーブメントというカルチャーを牽引する。
そんなことにわくわくできる方をお待ちしています。
朝9時半。サンフランシスコは遠いので、日本での取材の前にスカイプでお話を聞くことになった。向こうは、夕方の5時半。ちょうど仕事が終わるころ。
「Hello,はじめまして。」
挨拶してくれたのは、トッド・マソニスさん。Dandelion Chocolateの共同創業者です。
カメラを回して見せてくれたのは、サンフランシスコのミッション地区にあるお店。
「チョコレートが好きな人はたくさんいる。食べている人が幸せそうな顔をしているのを見ると、こちらまでうれしくなるよ」
そう話すトッドさんは、もともとIT業界の方。どうしてクラフトチョコレートをつくることになったのですか?
「純粋に、子供のころからチョコレートが好きなんだ。15年まえ、サンフランシスコのあるお店の手づくりチョコレートを食べたらほんとうに美味しくって。『もう、今までのチョコレートには戻れないな』と思ったんだ」
数年前、運営していたコンタクトリストの自動更新サービスの会社を売却。そこで得たお金を元手に、自宅のガレージでクラフトチョコレートをつくりはじめます。
「手探りだったよ。ぼくらがつくりたかったのは、大量生産される工業的なチョコレートじゃなくて、100年前に作られていたようなほんとうのチョコレート。カカオ豆とケインシュガーだけでつくる小規模生産のチョコレートのことは、大量生産の流れもあって忘れ去られていたんだ」
「けれど、おいしいチョコレートをつくることは、なかなか難しいことだった。限られたレシピしか手に入らなかったし、専用の機械はあるにはあっても僕らにとっては不満だらけだった。焙煎機やグラインダー、テンパリングマシン。自分たちで既製品の機械をひとつひとつカスタマイズしていったんだ」
もう一人の共同創業者キャメロンさんと、ガレージで機械をつくり、レシピも手探りで試していった。
そんななか、クラフトチョコレートのコミュニティがあることがわかってきた。
「こだわりをもった彼らから情報をもらったり、意見を交わしたり。お互いに刺激しあうことで機械やレシピ、そしてぼくたちがつくるチョコレートの質が高まっていった」
「周りのコミュニティの一員になって、おいしいものを一緒につくってきたと思っている。だから僕たちはつくり方をオープンにしているんだ」
昔から続いているやり方も学びつつ、より洗練させていく。その情報をまたみんなに提供する。オープンシェアで広がるやり方は、どこかあたらしい感じがします。
ダンデライオンのチョコレートは、カカオ豆を仕入れるところから始まる。ひとつの産地のカカオからチョコレートをつくるから、シングルオリジンとよばれる。それぞれの産地やカカオ豆のもつ風味を楽しめます。
実際にカカオをつくっている農場を訪れ、農家の人たちと直接お話もするそう。
「コロンビアやベネズエラなど、いろんな産地から買い付けるのだけれど、うまくいかないこともあった。まったく届かなかったり、貨物船が正常に動いてなかったりしてね」
そうして仕入れたカカオ豆を浅く煎り、細かく砕く。砕いたものをすりつぶし、3日3晩練る。そうしてできたチョコレートのリキッドとケインシュガーを混ぜ、温度調整をしながら固めていく。シンプルな工程のなかに、精度が求められているのだと言います。
「つくる過程でなにが一番大事かを話し合うんだけど、最後は『すべてのステップが重要でミスすることができない』ってことになる(笑)たとえば、豆が悪かったらそれでおしまい、とかね。どこかひとつの工程がだめだと、それ以降はだめになってしまう」
厳しいのですね。
「そうだね。でも、それがクラフトの楽しいところ。すべてのディティールやステップを確実にきちっとこなさなければならない」
正確さが大切になりそうですけれど、日本でお店を出すことはどう思っていますか?
「クラフトチョコレートを日本でつくることができるのは自然なことだと思うよ」
「ぼくは日本に行くたびに、日本のあらゆる分野での質の良さ、気づかい、こだわりを感じていて。もともとある日本の文化やクラフトマンシップは、ぼくらが大事にしたいチョコレートづくりとすごくマッチしていると思うんだ。日本での活動がアメリカにもフィードバックできたらなと思っているよ」
そんなふうに国を超えて、チョコレートの質が上がっていったら面白いだろうな。
トッドさんは、どんな人にきて欲しいですか。
「基本的には、チョコレートが好きな人がいいよね。チョコレートに愛のある人。でも、それだけじゃないよ」
それだけじゃない?
「いま、ワインやビール、コーヒーもそうだけれど、クラフトフードのムーブメントがあるよね。それって、口にするたべものがどこの原産地で、どこでつくられたものか、そういう部分までケアする文化がとても重要になってきているということだと思うんだ」
「そのちょうど曲がり角にいて、ぼくたちはクラフトチョコレートを通して新しい文化をつくっている。チョコレート業界でみれば、クラフトチョコレートはまったく新しい動きだし、僕たちが業界をリードしている。そう考えると、すごくわくわくするんだ。ぼくたちもそうだけど、きっと働く人もそのことに誇りを持てると思う。だから、新しいカルチャーを一緒につくりたい人にきて欲しいし、一緒につくっていこう、って思うよ」
最後に、Dandelion(たんぽぽ)の由来を聞いてみました。
「ぼくらがつくるのは、ひとつひとつどこの産地の豆でどうつくられているかが分かる、おいしいチョコレート。だから、地に足のついたイメージにしたいと思ったんだ。たんぽぽの花は、シンプルで美しくて、どこか新しい感じがしたしね」
手でつくること。それに加えて、農家やコミュニティなど、人との関わりの中から生まれるつくり方もクラフトの魅力なのかもしれません。
もうひとり、日本でのダンデライオンチョコレートの代表をつとめる堀淵さんにお会いしました。
待ち合わせたのは、蔵前のお店。
いまは改装中で、1階はチョコレート工場、販売スペース、カフェになる。写真は2階で事務所やイベントスペースになるそう。
お店の前にはひろい公園があって、子どもたちが遊んでいた。
「いろんな人が居て良いでしょう。年配の方が散歩をしていたり、子どもの遊ぶ声がする。いい場所だと思うんだ」
カフェに場所を移す道すがら、堀淵さんはそんなふうに話してくれた。
堀淵さんは、40年前に渡米し、10年ほどヒッピーだった。その後、日本漫画の出版社をサンフランシスコで起業。いまは、日本カルチャーを発信する複合商業施設の企画運営やJ-POPサミットの開催、日本からアメリカへ進出する企業のお手伝いをしています。
日本の文化を輸出するだけでなく、輸入もしています。そのひとつが、ブルーボトルコーヒーの日本での立ち上げ。じつはダンデライオンに出会ったのは、ブルーボトルコーヒーがきっかけだったそうです。
「ブルーボトルコーヒーを知ったとき、クラフトに惹かれたんです。コーヒー豆を丁寧にグラインドして、ゆっくりとドリップする。こういうふうに飲めば、コーヒーってこんなにおいしいんだ、って気づいて。小さなことですけど、毎日自分で淹れる時間が幸せなんです」
同じクラフトのコンセプトをもったダンデライオンを知り、店を訪れた。
「ガレージのような佇まいの小さなカフェがあって、その後ろではチョコレートがつくられている。まずその空気感がすごくかっこよかった」
「そこでホットチョコレートを飲んだら、すごく美味しくてびっくりしたんです。それに、チョコレートってこんなふうにできるんだって驚きもあって。クラフトの面白さとか、刺激、このチョコレートのことをみんな知ったほうがいいって思ったんです」
堀淵さんは面白いと思った文化に飛び込み、どんどん紹介していく。
「じつはブルーボトルコーヒーは、オーナーが日本の喫茶店文化からインスピレーションを得て、いまの成功があります。それをまた日本にもってくるっていう文化の循環がすごく面白い」
文化の循環。
「そう。いま、世の中がどんどんグローバル化して、人もお金もビジネスも行き交っている。さまざまな軋轢や摩擦が起こるなかで、文化の理解がないと、根本的な世界平和につながらない。そういう意味で、文化ビジネスはすごく大きな仕事だと思っています」
僕がミーハーで、それしかできないっていうのもあるんだけどね、と続ける堀淵さんは、純粋にチョコレートに惹かれてしまったんだなと思う。
あたらしいチョコレートのカルチャーが、2つの国のあいだで刺激しあって育っていく。そんな面白さもあるのかもしれない。
「何かあたらしいことをぼくたちと一緒に経験しよう」
そうメッセージをくれたのはトッドさんです。
あたらしいチョコレートの世界へ、飛び込んでみませんか。
(2015/10/2 倉島友香)