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こころほどくアート

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

何度訪れてもほっとする宿があります。

ときの流れを気にせず、ゆっくりと温泉につかり身体にやさしい料理を味わう。

新鮮な空気をめいっぱい吸い込んで、気ままに散策する。

そうして身体と心が満たされて気持ちに余白がうまれたら、アートに触れて自分の内面を見つめなおしてみる。

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創業464年。もともとはおかみさんが出迎えてくれるような、老舗の和風旅館だったという。現在の代表でもあり、16代目にあたる室井さんがおよそ30年前から現代アートを経営に取り入れて『保養とアートの宿』という新しいかたちの宿に生まれ変わった。

現代アートを取り入れる、と聞くとなんだかアートを前面に押し出してくるように思うかもしれない。

だけど大黒屋は館内を飾り立てたり、過剰なサービスでおもてなしをしようとは考えていない。アートが空間に自然と溶け込んでいて、訪れる人・働く人にとって心地よい空気をつくりだしている。

今回はそんな大黒屋で一緒に働く人を募集します。フロント、配膳、調理スタッフなど役割はさまざま。

想像している旅館での働き方とは、少し違うものになるかもしれません。どんなこともやわらかい心で、素直に受け入れながら働ける姿勢が重要だと感じました。

東北新幹線で東京から約1時間。あっという間に那須塩原に到着した。そこから車で30分ほど、少しずつ緑が深くなっていく様子をながめながら山道を進むと、板室温泉が見えてくる。

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那須連山の西端、那珂川の上流沿いにある板室温泉は古くから湯治場として有名だけど、ほかの地域と比べてなにか特別なところがあるわけじゃない。そんな立地ながら、大黒屋にはたくさんのお客さまが訪れていて、リピート率は70%に達するという。

宿に到着し、まずは館内を散策することに。フロントのすぐ横にあるサロンでは、ちょうど毎年大黒屋で行われる公募展の大賞受賞者による展示会が開かれていた。

サロンでは毎月作品展を実施していて、現代アートや工芸などさまざまな作家さんが出入りしているそう。

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さらに歩いてみると客室からお風呂まで続く廊下や庭、いたるところにアート作品が飾られていることに気づく。

ぐるりと館内を歩いてから、代表の室井さんにお話を伺う。

物腰はやわらかいけれど、話しているとぐっと引き込まれるような、不思議なエネルギーを発している方だ。

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なぜこういう宿が生まれたのでしょう。

「若いころから旅館の後継ぎとして、先代と同じことをしているだけでは自分のアイデンティティーがなくなってしまうと感じていました」

どうすればいいのかわからず葛藤しながらも専務に就任し、黙々と働く日々が続いた。

「あるときお客さまに『専務さん、あんまり楽しそうじゃないね』と言われたんです。ホテルや旅館は非日常で、夢を売るような場所なのにそんなふうに働いている自分にショックを受けました」

「それでお客さまに『楽しんでる人っているんですか』と聞いたんです。仕事は楽しいことよりも辛いことのほうが多いんじゃないかと思っていたから。でも『そんなことはないよ、楽しそうに仕事している人もいるよ』って。それが芸術家だと言われたんです」

自分のように仕事は仕事、と切り分けるのではなく、ひたむきに自らの作品に向き合う姿。つくりあげるまでの過程では、何度も試行錯誤を繰り返し失敗することもある。だけど自らの頭で考えて行動することができれば、そこに楽しさを見出せるのではないか。

そんなふうに仕事と自分の人生を切り離すことなく、一体感を持って働ける場づくりをする。芸術作品を取り入れることでそれができると室井さんは考えた。

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「仕事イコール働き方、生き方だから。そういう働き方をして生きていれば充実感もあるし、にこやかに働いていくこともできると思うんです」

室井さんの「一体感を持って働ける場づくり」には確かにそうだなと思えるのだけど、訪れるお客さまにアートはどんな効果があるんだろう。

そんなことを考えながら、本館から5分ほどのところにある『倉庫美術館』へ。

ここを案内していただいたのが八木さんです。

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もともと美術館で働いていたことがあり、今はフロント業務と広報、そして倉庫美術館の案内役もしているそう。

倉庫美術館には、木や石、針金などの身近な素材をつかった作品がずらりと並ぶ。どれも館内にも多く飾られている、菅木志雄(すがきしお)さんの作品です。

一目で何を表しているのかがわかる作品ではないから、これは何をイメージしているの?とよく聞かれて大変なんじゃないかなと想像する。

すると八木さんに「この中で1つだけ持って帰るならどれがいいですか?」と声をかけられる。1つ選ぶと、「どうしてそれを選んだんでしょう?」とまた少し掘り下げて尋ねる。

いつもこんなふうにお話ししているんですか。

「ここは美術館ではなく温泉宿なので、リラックスした状態で見てもらえればいいんです。作家さんの想いや考えを受け取るということも大切ですが、まずはそこでご自分がなにを考えたのか、探求していくことからはじめようと。そのお手伝いをしています」

その夜、宿に帰って那珂川の流れる音を聞きながら食事をいただく。不思議とテレビをつけようという気にはならなかった。ゆったりとした時間の中で、今日の出来事や自分の感じたことを振り返る。

訪れる人にも働く人にも、自分の内面と向き合うきっかけになる。アートがここにある意味は、こういうことなのかもしれないと感じた。

ここで働くことって、どんな感じなのだろう。翌日、実際に働いている人に話を聞いてみる。

大黒屋には若手作家への支援の一貫として、少し変わった制度がある。それは作家志望スタッフと呼ばれる、将来アーティストとして独立を考えている人に働く場を提供するというもの。

ルームサービスを担当している宮澤さんは、そんな作家志望スタッフの一人。将来は陶芸家になることを目指している。ここにきて4年目で、以前は高校で美術を教えながら陶芸をつくっていたという。

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「自分は陶芸しか知らなくて、それで自分を維持してきて。自分一人でやっているものですから、まわりの人やものとの関係性を知らないというか。ある日自分は何にむかってつくっているのかわからなくなったんです」

働きはじめたころは、陶芸から離れたいという気持ちすらあったといいます。

ここにきて考えは変わりましたか。

「自分が一歩踏み込むと、お客さまからも反応をもらえる。それがすごく楽しいですね。たとえば、夕食のお膳を持っていったときに『焼物が好きなんです』って話しかけたら、『私も好きなの。あの作家さんの作品良いから見てみて』なんて教えていただけることもあります」

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お客さまからの情報で勉強になることもあるし、気になったら自分で調べることで考えが広がったり思いが深まることもある。

館内にある器の展示室の展示を任されることもあるという。

「展示は一緒に置く器の統一感や、窓から見える外の風景との関係性、季節感も意識しながらどんなふうに空間をつくるか考えています。担当者によってそれぞれの色が出るのもいいんです」

日々の仕事を通して、人やものと一方的ではないつながりが持てることを体感している。いきいきと話してくれる宮澤さんは本当に今の働き方を楽しんでいるんだと感じました。

隣でニコニコと嬉しそうに宮澤さんの話をきいていた池田さんにもお話を伺う。

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フロント主任の池田さんは10月で入社して28年になるという。ここでは一番古くから働いていて、思わず「ただいま!」と言いたくなるような安心感がありました。

「最初は現代アートを取り入れるということに戸惑いもありました。旅館への固定概念みたいなものもあって、『これが作品なの?』と受け入れられないところもありましたね。だけどここで働いているうちに一体感というのがだんだんわかってきて」

どんなときにそう感じるのでしょうか。

「たとえば休みの日も、なにかいつも働くときのヒントを探していますね。どこかお店に入ったら接客のことに目がいって、何かあれば私も気をつけようとか、こういう態度だとお客さまも気持ち良いかなと考えたりします」

意識しているわけじゃなく、自然とそうなってきた。

「そうですね。でもそういうことを考えるのも楽しいんですよ。作家さんや作家志望スタッフの子たちに直接お話を聞けることもとても良い刺激になっています。頑張っている姿を日々みているので、いいものをつくってほしいと応援しています」

池田さんと宮澤さんのお話を聞いていると、芸術家を目指す人とそうでない人がお互いに関わることでいままでなかった考えや思いに気づいたり、良い関係が育まれているのだなと感じる。

「こういう空気感が、お客さまにも自然と伝わるんじゃないかなと思います」

大黒屋では、働く人の個性を生かした企画も催されているといいます。

「楽々の会といって、たとえば自然や天気などが得意分野のスタッフは、板室周辺の自然や天気図の見方なんかをテーマにお客さまとお話ししています。宮澤は陶芸の知識を生かして金継ぎをやっていますね」

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自分で考えながら行動できたら、活躍のフィールドはどんどん広がっていくような環境なのだと思います。

いろいろな仕事を任せてくれるということは、裏を返せば大変な仕事ということでもある。そのあたりはどうなのでしょうか。

「早い人は朝の6時半ごろから出社しますが、そのぶん休憩時間を長くとったり、働き方には心を配っています。ただ、お客さまの命を24時間預かっているという心構えは常に持っていますね」

旅館という場所だからこその大変さもある。どんな人がいいのでしょう。

「毎月の作品展の展示替えを手伝ったり、調理スタッフも作家物の器をたくさん扱っています。どの役割であっても、アートや文化に興味や関心のある人にとっては働きがいのある職場だと思いますよ」

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「あとは話をしたときに、素直に受け入れる姿勢があるといいですね。チームで働くので、協調性を持って働いてもらいたいと思います」

アートと人の心地よい関係が保たれていて、訪れる人も働く人もゆるやかに影響を受けながら、考えや働き方を変化させていく。それがまた来たいと思えるような場の空気をつくっている。

押しつけられていると感じないし、こうあるべきだという答えもない。自然と良い循環が生まれている宿でした。

興味を持ったら、ぜひ応募してみてください。

これを機に、一度板室温泉を訪れてみるのも良いと思います。

(2015/11/11 並木仁美)

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