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長野県・白馬村。高くそびえる山々に囲まれたこの村は、四季の変化に応じて折々の表情を見せ、冬になると上質なパウダースノーが降り積もる。
東京から新幹線とバスを乗り継いで2時間半ほどというアクセスのよさもあり、世界屈指のスキーの名地として、国内のみならず海外からもたくさんの観光客が訪れるといいます。
そんな村に唯一存在する高校が、長野県立白馬高等学校。
上村愛子さんや渡部暁斗さんをはじめ、これまでに数多くのオリンピック選手を輩出してきたスキーの強豪校です。
しかし、そんな輝かしい実績とはうらはらに、村全体の人口流出や高齢化に伴い、生徒数が年々減少しているという現実もあります。
一昨年、昨年と、2年続けて県の再編基準である生徒数160人を割り込んだため、一時は統合や廃校の話まで浮上しましたが、これまでの実績に加え、地域の特性を活かした新たな学びの環境づくりを提案することで、存続することが決まりました。
そこで提案された取り組みのひとつが、来年4月の国際観光科の設立です。多数の外国人観光客が訪れる環境を活かし、地域内で実用的な英語に触れながら観光を学ぶことを目指して、全国から生徒を募集しています。
そして白馬高校を支えるもうひとつの柱となるのが、白馬村・小谷村と共同で運営する公営塾「しろうま學舎」です。
放課後の時間を使い、個別にカリキュラムを組んだ映像授業を導入したり、アクティブラーニングの考え方にもとづいた実践的なプロジェクト学習を実施していきます。
これからいろいろなことがはじまっていきますが、その根っこにあるのは「学校や家だけでは学べないことを学ぶ、第三の居場所をつくりたい」という想い。
学力のアップだけでなく、教育を通じたまちづくりという新たな取り組みと捉え、この挑戦を楽しめる人が求められています。
今回は、そんな学びの場を生徒たちと一緒に模索しながらつくっていく「しろうま學舎」の講師と、村内に新設する教育寮「しろうまPal House」の専任スタッフを募集します。
東京駅から北陸新幹線で1時間半ほどかけて長野駅へ。そこからバスに揺られること約1時間で白馬駅に到着する。
肌寒さは思っていたほどでもなく、澄み切った空気が清々しい気分にさせてくれる。
駅から10分ほど歩くと見えてくる白馬高校の校舎。その隣に併設されているのが公営塾「しろうま學舎」だ。
出迎えてくれた藤岡さんは、全国の離島や中山間地域の高校魅力化プロジェクトに携わる方。
島根県海士町の隠岐島前高校や沖縄県の久米島高校など、白馬高校以外にもさまざまな地域の高校と同時進行で関わっている。
「離島・中山間地域には、20年後に日本全体が抱えるであろう問題が詰まっていると言われています。地方だからこそ、その問題を今体験できるっていうのは大きいと思うんですね」
今この地域で抱えている課題に向き合うことが、ゆくゆくは日本全体の未来を切り拓く力となっていく。
そのための学びの場は、学校や家庭のなかだけには決してとどまらないという。
「地域って、小さい社会の縮図だと思うんです。政治経済、行政、法律、自然、ものづくり、医療、福祉、教育、歴史、宗教。たぶん社会に必要な構成要素がすべて詰まっているんですよ。学びたいと思ったら地域に出ればいい」
けれども各分野の専門家が至るところにいて、なんでも教えてもらえる、というわけではない。地域ごとの特色に合わせて考える必要があるだろうし、地域のいろいろな人と出会うことで、分野を横断した視点を持つことを大切にしている。
ひとつのモデルとなっているのは、デンマークで行われている放課後学校だ。
「午後3時で学校が終わったあと、子どもたちが集まる放課後学校というものがあって。生徒がこんなことしたいって言ったら、コーディネーターが地域から“ちょいプロ”を呼んできて、無料で授業をするんです」
プロはめったにいないけれど、少し得意な“ちょいプロ”は地域内にきっといる。
ギターを勉強したければ、弾ける人を探して教えてもらう。裁縫の得意な人を呼んで布小物づくりを教えてもらう。
そこで専門的な知識や経験を身につけることは難しくても、自主的に提案したことに取り組むなかで、自分のやりたいことや問題意識に気づくきっかけになるかもしれない。
「異年齢交流することで、得られるものはたくさんあると思います。コミュニケーションのとり方や、プロジェクト学習を進める際にも大人の知恵が活きてくる。言い方は悪いかもしれないですけど、生きた教材と捉えて活用してほしいですね」
新設される教育寮「しろうまPal House」の考え方にも共通するものがある。
「生活寮から教育寮へ」をコンセプトに、生活上のルールを設けて縛るのではなく、気づきや出会いのきっかけをつくった上で、生徒たち自身が考え自治していく場を目指している。
いずれも、自分の頭で考えて発信することを大事にしている環境のように感じる。
ある生徒さんのエピソードを、校長である北村さんが紹介してくれた。
「法学部をAO入試で受ける3年生の子でした。小論文のテーマについて、講師のみなさんと一緒に3時間以上にわたって話したそうです。『君はそれについてどう思うの?』というふうに、自分の考えを引き出してもらったのがいい経験になったようで」
「公教育として、学校で一人ひとりのニーズに応えるには限界があります。そこを掘り進めてもらえるというのは、学校にとっても生徒にとっても、非常にありがたいことだと感じますね」
生徒一人ひとりに個別のカリキュラムを組んだ映像授業も取り入れることで、今後は学力の面からも掘り下げていくという。
公営塾と本校舎の距離が近いこともあり、普段の授業を講師がのぞきにくることもしばしば。
各界で活躍するゲストを呼んでの「グローバル講演会」は、地域住民も無料で参加できることになっているので、生徒と住民との間にも自然と交流が生まれている。
「地域と学校と公営塾で一体となって、グローバル人材を養成していきたい。この狭いエリアに年間6万人以上の外国の方がくるというのは、ものすごい密度なんですよ」
「海外からいらっしゃる方々の多さと、山岳自然環境。白馬の資源を端的に言うなら、このふたつになると思います」
新しいスタッフとして、どんな人にきてほしいですか。
「構えることなく、自分の夢や想いを語れる人であれば、わたしはいいんじゃないかと思っています」
ここからは、公営塾のスタッフの方にお話を伺う。
役場の職員として白馬高校の魅力づくりに関わる渡邉さん。
公営塾では企業や外部機関とのコラボレーション企画を主に担当している。
「母が白馬村出身で、小さいときからよく遊びにきていました。高校生のころは夏休みにバイトをしにきて、いろいろかわいがってもらったりして。移住するなら、こんな田舎がいいなあと思っていたんです」
土日休みで、子どもができたときにしっかりと関われる、ノルマにあまり追われない仕事として公務員を志望した渡邉さん。
ゆったりと白馬にやってきた。
「10年前のことなので、当時はまだ今みたいに地方創生の流れもなく。白馬を盛り上げてやるぜ!みたいな志を持ってきたわけではありませんでした」
「けれどもやっていくなかで、地域に対する恩返しをしたいと思うようになりましたね。小さい村で、少ないながらもお世話になった人たちがいて。その人たちのためになるような仕事ができればなと」
温めてきた想いを胸に、今は白馬高校の生徒と向き合っている。
「“生徒が輝けば、学校が輝く”っていうスローガンがあるんです。それはここの職員や地域にも言えることだと思います」
「自分が楽しめれば生徒にも伝わるし、それを見てまた次の生徒も集まる。若者が地域を盛り上げて、その地域をフィールドに次の世代が学ぶ。そんな循環をつくっていける人にきてもらいたいですね」
若い人や観光客が多いということもあり、よそ者や新しいことを受け入れる土壌は比較的整っているそう。
とはいえ、地域に根付く取り組みは一朝一夕にできることではない。
「ここでやること、生徒や学校との関わり方、ルールなんかもまだまだこれからつくっていくところなので。立ち上げから裁量を持って関われるのは、逆に言えばやりがいにもなりますしね」
そんな環境を楽しんでいるのが、講師を務める奥田さん。
大学時代に地方創生や地域活性化を学び、人づての縁で白馬村にやってきたそう。
講師として取り組んでいることのひとつが、生徒一人ひとりのファイルづくり。
その日の目標や達成できたことに加えて自由記述欄が設けてあり、そこでコメントのやりとりをしている。
「覚えたことがバーっと書いてあったり、勉強とは関係ない会話だったり。生徒たちにとっては、きっと先生というよりもお姉ちゃんのような感覚なんだと思います」
「かなりラフに書いているので恥ずかしいんですが…」と言って見せてくれたファイルは、たしかに交換日記のようなスタイルで綴られている。
前日のコメントに対する返事が翌日に書き足されていたりする。こうして日々のやりとりが残っていくのを、生徒も楽しんでいるという。
「普段の雑談でも、自分はネガティブだって言い張る子がいて。ポジティブになるためにはどうしたらいいかを一緒に考えたりもしましたね。将来なりたい人物像を書いてごらんって言ったら、ポジティブな人って素直に書いていました(笑)」
学校でやるような授業をしてほしいと頼まれたらやるけれど、この場所に求められている役割はもう少し違うところにあるみたいだ。
「わたしもそうでしたけど、高校時代って、家に帰りたくないし学校にもいきたくないときがあったりするんです。そんなときでもここに帰っておいでって言いたい。3つめの居場所になればいいなと思います」
取材後、ちょうどいらしていた外部の方による特別授業の様子を覗かせてもらった。
渋谷のまちで白馬村をPRする方法を考えたり、その過程でKJ法を実践してみたり、からだを動かしながら「プロジェクトとはなにか」を一緒に学んだり。
想像以上に実践的な内容で、思わず参加してしまいたくなる授業だった。
なにより印象的だったのは、まわりにいるスタッフの方々の眼。
温かい視線に見守られていたおかげで、みんなのびのびと言葉を交わしているように感じました。
自分も楽しみながら、この第三の居場所を育てていきたいという人はぜひ応募してみてください。
(2015/12/25 中川晃輔)