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目玉焼き、オムレツ、親子丼、サンドイッチ、フレンチトースト…。たまごの料理を思い浮かべると、つくってくれたお母さんや、いっしょに食べた家族との会話も思い出す。
「よかったね、とか、きょうこれ食べられて幸せやね、とか。ほんのささいなことでもいいんです。わたしたちのたまごで、生活が豊かになるような瞬間が実現できたら。それが毎日繰り返されたらいいなと思うんです」

ここは養鶏から販売まで一貫してたまごを生産しています。
今回、新しくオープンするお店で東山産業のたまごを伝えていく人を募集します。
具体的には、たまごをつかったお菓子の製造、その加工品とたまごそのものの販売がメイン。夏にはカフェもはじまる予定で、ゆくゆくはイベントなども企画し、人の集まる場になってゆくそう。
職業としてお菓子づくりの経験がなくても大丈夫。なによりたまごが好きで、会社の思いに共感できる人に出会いたいと思っているそうです。
東山産業のたまごがどんなふうにつくられているのか。まずはそこから知ってほしいです。
東京から飛行機で1時間半。高松空港から出ると、志渡聡一郎(しど・そういちろう)さんが迎えてくれた。

じつは、東山産業は志渡さんのおじいさまとこの地域の仲間が創業した会社。志渡さん自身は、香川大学を卒業後、1年ほど三重県にある伊賀の里モクモク手作りファームで働きながら研修し東山産業に入社した。
「実家が農家だと、継ぐのはいやだという人もいるんですけどね。すんなり入社しました(笑)」
学校から帰ると、おやつのゆでたまごが並び、あそぶ約束がなければカバンを置いてご両親の職場へむかう。たまごを生産することが生活の一部で、自分が携わっていくことも自然なことと思っていたそうです。
ふと外をみると、池の多いことに気づいた。
「香川は雨が少なくて、昔は渇水になることも多かったですから。農地のために池があるんです。農業やっている人は、近くの池を一緒に使います。管理のことや誰が一番に水を引くかまで、ひとつひとつみんなで話し合って決めていくんですよ」
「うちも含めて、農業をするというのは地域のつながりありきですから。地域貢献というのはわざわざするものではなく、ふつうのことなんです」
お互いに助け合う循環のなか、安定してたまごをとどけることが志渡さんたちの役目になるのですね。
「そうですね。味がいいといってくれるお客さまもいらっしゃってうれしいです。けれど地域のみなさまにうちのたまごを届ける最大のメリットは、食べたときの充実感なのかなと思っていて」
充実感?
「『食べる』ことには、味わうだけではなく東山産業がつくっているという安心感や新鮮さも含まれています。目に見えない価値がそこにはあって、それが充実感につながっていくと思うんです」
だからこそ、どんなふうにつくられたたまごなのかよく知って選んでほしい。今回募集する人はそのことも伝えていけるといいのかもしれません。
東山産業のたまごは、どんなふうにつくられているんだろう。
志渡さんの車で30分ほど走ると、鶏舎がみえてきた。

「どんなに合理化が進んでも、鶏って生き物なんです。たまごも人間が食べるもので、そこに加工のない食品。機械の力も借りますけど、ぜったいに機械任せにはしません」

「毎日毎日の積み重ねなんですよね。そうすることで何か異常があったとき、おかしいな、と気づくことができる。もちろん鶏の健康状態を見回り、人の手や耳でかならずチェックします」
とれたたまごは、近くにあるGPセンターに運ばれる。中を見学させてもらった。

機械での流れ作業かと想像していたけれど、ひとつひとつ人の手と目でチェックされていた。


すべて一貫で生産することで流通にかかる時間が短くなり、地域のひとに新鮮なたまごを届けることができる。
ひとつひとつが淡々と、けれど丁寧にミスなく進められていた。
志渡さんが、パッキングや納品、管理などをしているハマダさんを紹介してくれました。働いて9年になります。

「7年経って、自分はなにが一番好きだったんだろうって悩んだとき、生き物が好きだったことを思い出したんです。ここで働いていた後輩に声をかけてもらって、一ヶ月働かせてもらいました」
「そのとき、ここは自分に合っている職場だなって実感しました。いまは準備したとおりに仕事をすすめ、毎日いい気分になって仕事を終えています」
ゆっくり淡々とお話しをしてくれるハマダさん。ここへきてほんとうに充実しているんです、と続けた。
なにか大変なことはありますか?
「一番大変だったのは、機械が壊れたときですね。課長と必死に直したんですけど、時間がかかってしまって。運送のためのトラックがずらっと並んで待っているんです」
機械が1時間止まるだけでも、5万個のたまごがパック詰できなくなってしまう。明日もたまごは生まれるから、どんなに大変でも終わらせなければならない。
すると、志渡さん。
「流れを止められないんです。約20万個のたまごが、今日も明日もあさっても、毎日うまれる。洗って包装してお客さまに届けてはじめて完結するんですよね」
365日。まじめな日々の積み重ねが、大きな信頼になっている。
東山産業は今年で54年。かわらずたまごを提供してきました。


「東山産業という農事組合法人は、私の父がこの地域の仲間とともに創業したのがはじまりなんです。当時、ほとんどの地域の方が農業に携わっていました。自分の家を守り、働く人と共に幸せになることが基本の考え方ですから、将来へつづくことや自分たちのやり方を考えたんだと思います」
稲作や果樹は土地の気候と合わず生産が伸び悩むなか、養鶏は年間を通して安定していることに気づいた。
「日本人は一人あたり年間約330個たべているんですが、たまごが好きなんですね。さらに、たまごは完全食品といわれるほど栄養価が高い。身近なたまごを毎日届けることで生活を豊かにしたい。その思いはいまも同じです」
とはいえ、当時は自分たちで生産から販売まで一貫して手がけることは珍しかった。一時は収益も厳しく、生産のみに特化することも考えたそう。
「私もはじめは、販売にこだわりはありませんでした。けれど、よく考えてみると自分たちでつくったものは自分たちで売っていかないと恩恵がないんですよね」
こだわりをもってつくったたまごが、価格競争に巻き込まれてしまう。それよりも、きちんと説明をした上で、東山産業のたまごを確実に届けていきたい。
そうして始まったのは、生協さんでの販売。生協さんを通して、収穫後農薬を使わないトウモロコシを母鶏に与える、ポスト・ハーベスト・フリーの取組みや、一貫生産による新鮮さなどを伝えてきた。お客さまからは、アンケートを通していい反応をいただくこともあるそう。
けれど、志渡さんはさらに、直接じぶんたちで伝えていこうと考えています。
今回募集する人がはたらくことになる、あたらしいお店もそのひとつ。

はじめはたまごと、たまご菓子の販売から。夏にはカフェがはじまり、イベントスペースにもなるそうです。
募集するのは、店長と製造スタッフ。はじめは志渡さんと一緒にお店をつくり、運営していきます。
イベントは外注することもできるので、店長は製造を手伝ったり、お店全体をみていくことになる。
製造スタッフは、オープンに合わせてお菓子づくりの研修にいくことができるので、経験がなくてもいいそうです。つくるのは、プリン、シュークリーム、カステラ、エクレア、クッキーなど「たまごがわかるお菓子」。
「たとえば、ショートケーキだったら主役はたまごじゃなくてイチゴですよね。だから、お菓子がつくりたい、というより、たまごが好き、という人がいいです」
たまごの知識は必要なのでしょうか。
「たまごソムリエという資格をとってもらったり、うちを見学するので大丈夫だと思いますよ。じつはゆでたまごって、時間の経ったたまごでつくったほうが美味しいんです。そんな小さな情報もやりとりできたらいいですね」
「お店では、お客さんに楽しんでほしいです。『きょうたまごを買った時にこんなことがあってね』みたいな会話が家で生まれたらいい。お客さんと一緒に体験するイベントもそうですけど、スタッフとお客さんが一緒の空間で過ごすことが大事だと思っているんです」
何気ない会話や、そこで過ごした時間や体験もたまごの一部になって生活にとけこむ。
志渡さんは、どんな人とはたらきたいですか?
「素直で努力できる人がいいです。私もはじめて取り組む事業なので、きっと壁もでてくると思います。そのときに、乗り越えていこうって自発的に動いてくれる人。素直で、ちゃんと人にきけるとかね」
「たまごが好きで、お客さんのために何かをして『ありがとう』って言ってもらえたら嬉しい。そういう循環ですよね」

たまごを通して生活を豊かにする。ほんのささいなことかもしれないけれど、ほっこりとした日々の幸せをつくる仕事だと思います。
(2015/12/1 倉島友香)