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あらわる姿

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

どうして山へ行くと安らぐのだろう。

「山へ入ると、木は皆やさーしい姿じゃなかですか。庭に植わっとる木が街路樹のような『まっすぐな木』だと疲れるでしょ?森の中にいるような、早く家に帰りたいと思えるような、そういう庭にしたい」

グリライ - 1 (14) 代表の古閑さんは、そう話してくれました。

『まっすぐな木』とは、緑化木といい、支柱や接ぎ木をしてまっすぐに育てられた植木のこと。公園や街路樹など、公共工事によく使われる。

一方で、古閑さんたちが扱うのは、雑木(ぞうき)といい、山で育った自然の姿を生かした木。

あばれたり、曲がったり、いろんな個性があるといいます。最近では、そんな雑木を求める人が増えているそう。

今回は、植木の生産・販売・流通から、自社生産の木を活かした造園設計、その後の管理までを手がけるグリーンライフ・コガで働く人を募集します。

どこを担当するかは自由。好きなところに携わってもらいたいと思っています。

社員として働きながら学び、ゆくゆくは独立するのも歓迎だそうです。


飛行機で熊本空港へ。

空港から1時間ほど車を走らせると、事務所に到着した。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 建物を囲むように植えられた木々は、まるで初めからそこに自生しているよう。

中へ入ると、代表の古閑さんと奥さまの尚子さんにお会いしました。さっそくお話を伺うことに。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 四代目という古閑さんの家は、代々山に関わる仕事をしてきました。

「初代は木挽(こびき)でした。山の木を間引いて売ってたんです。木を切ればまた木を植えないかん。そこで二代目が苗木の生産を始め、三代目であるわたしの父が、それを流通させるようになったんです」

苗木の最盛期は冬。夏は仕事がなく、古閑さんは苗から育てた、自社生産の植木を販売する会社を立ち上げます。

「今もそうですが、当時は一級品と呼ばれるまっすぐな木がより求められました。けれど、中にはどうしてもまっすぐにならない木があった」

曲がった木は二級品と呼ばれ、植木としての商品価値はなかったという。

「でも、それが本来の姿ですよね。阿蘇の山にどうして人が集まるかというと、自然の姿に安らぎを感じるからです。紅葉なんか、まっすぐ立っているのより、曲がったのが格好いいでしょう?」

けれど周りは昔ながらの植木を使う職人さんばかり。どんなに雑木の良さを伝えても、「薪にするような木だ」とそっぽを向かれた。

誰も自然の木を使ってくれないのなら、自分で使おう。そうして始めたのが、雑木を用いた庭の造園設計。

「自然な姿の木で庭をつくれば、お客さんが本当に求めている『安らぎ』を提供できると思ったんです。もちろん、商売ですから二級品でも売らないと、という本音もありました」

事実、古閑さんの手がけた植栽が人を呼んでいるそうです。

「緑の力はすごいです」

そう言って、近くの商店街の写真を見せてくれました。

グリライ - 1 (3) ゆったり伸びる木々とおちる影が心地よさそう。

「ここは13年前、人気のない寂しい商店街でした。今では年間30万人以上の人が訪れるんですよ」

阿蘇市、一の宮町にある門前町商店街。

商店街の奥には、縁結びで有名な阿蘇神社。参道から続く桜並木が、商店街へと人を誘い、ついふらりと寄ってみたくなる。

賑わうようになったきっかけは、商店街の方からのあるお願いでした。

「肉屋のとり宮さんは、毎月うちにホルモンを売りに来ていました。商店街は人が来なくなって、バイクで売って回ってたんです。あるとき、『商店街に木を植えたいから協力してほしい』と相談されました」

『阿蘇とり宮』さんは40年ほど前、隣町からここ一の宮町へ越して来られた方。肉屋を営み、子どもも大きくなったころ「商売をさせてもらったこの町に、恩返しがしたい」と思うようになったといいます。

その気持ちに応えたくて、「それなら木はわたしが寄付しますけん」と古閑さんが応えたのが始まりだそう。

古閑さんは、神社へお参りに来た人を商店街へ呼ぶために、参道と同じ桜を植えることを提案。とり宮さんは、商店街を一軒一軒まわり、店の一画に木を植えさせてもらう土地を交渉。年に2~3本ずつ、今でも植え続けています。

「背の高い木なら車や人通りの邪魔にならんけん、枝を切らなくて済む。すると枝はやわらかく横に伸びて、緑のトンネルになるんです」

使ったのはもちろん、自分で育てた自然な姿の木。今では、阿蘇の森に建物を建てていったような、自然な町並みになっています。

グリライ - 1 (5) やがて人が集まり、新しいお店が開いたり、他所に出ていた後継者が帰ってきたりと、うれしい事が起こり始めた。それは緑で町をおこした事例として、他県から視察に来ることもあるほどだそう。

尚子さんにも、嬉しいことがあったといいます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「実は、帰って来られた若い方の中には、『大きい木はうっとうしいから切って』という人もいました。社長が説得に行ったんですが、どうしても切ってくれと言われてしまって…」

そこで古閑さんは「剪定するから、それを見てから決めてほしい」と早朝に剪定しに行ったそう。

「後日わたしが買い物に行ったとき、その方から『とても良くなりました。切らなくてよかった、ありがとうございます』とお礼を言われました。木の良さを分かってもらえたんだなって、うれしかったですね」

ふたたび、古閑さん。

「自然の木とはいえ、その雰囲気を生かすには手入れも必要です。剪定も、ただ枝をぶつぶつ切ってしまうと、そこから新しい枝がワッっと出る。そうなると『うっとうしいから根元から切って』となってしまうんです。むやみに切られてしまわない様に、これからは植えた後の管理にも力を入れていきたい」

「うちは自社生産の木を使う分、木の特性を良く知っているし、自然の木にまつわるノウハウも持っています。そういった意味では、業界でもリードしていると思いますよ」

自然の木にまつわるノウハウとは、どんなものですか?

「たとえば庭をつくる時、図面で『ここに○mの○○を植えて、石を○個据えて』という風に細かくは決めません。実際に木を持っていって、『これならここに植えようか、ここにはこれを添えようか』と合わせながらつくるんです」

グリライ - 1 (13) 木の姿を生かせるような、やわらかな感性が求められるそう。

一方、力仕事もある。女性でも出来るのでしょうか。

「指示が出来れば大丈夫です。造園会社の社長さんは女性も多いんですよ。わたしの気持ちに近づきつつ、自分の感性でつくってほしい。色んな個性があれば面白かでしょ」

「現場だけでなく、生産でも、管理でも、どこでもいいんです。自分の好きなところに携わって欲しい。もちろん、はじめは木を育てている畑に入って勉強してもらうと思います」

木が好きな人にとって、一から覚えるチャンスかもしれません。


「人が育つと嬉かですね。うちは、独立も応援していますよ」と古閑さん。独立して10年になる、松永さんを紹介してくれました。木の生産をしている方です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 松永さんは長崎の五島列島の出身。社員として働いていたとき、自分で木を育ててみようと思い立ちます。育てた木を古閑さんが購入するようになると、段々とのめり込み、やがて緑化木の生産農家として独立しました。

「木は生きものじゃけん、いろんな格好ができる。太りすぎた木は剪定して抑えたり、まっすぐに伸ばしたいときは日向をつくって支えたり。可愛がれば可愛がるだけ良かもんの出来るけん、面白かね」

松永さんが育てているのは、まっすぐの木。自然の姿の木が求められ始めているとはいえ、まだまだまっすぐの木の注文も多いそうです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 今では「松永さんの木が欲しい」と指名が入るほどだそう。

すると、古閑さん。

「松っちゃんがこげん良か木ば作るとは、誰も思わんかったな(笑)。独立すれば泣いても笑っても自分の責任、一生懸命になるもんな。そうやって一生懸命になれる人になら、別会社として連携しつつやっていけるように、畑や機械の応援も惜しみません」

「もちろん、社員として一緒に働いてくれる人も歓迎します。たとえば彼は、仕事の合間にこつこつと勉強して樹木医の資格を取りました。木の知識はもちろん、在庫や畑の管理など、今じゃ彼がいないと会社が回らないくらいです」


もうひとり紹介してもらったのは、生産、販売の管理をしている土川さん。控えめな、やさしい話し口の方です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 生まれは山梨県。以前は東京で自動販売機にジュースをつめる仕事をしていました。

「子供が喘息気味だったこともあり、田舎に住みたいなと思っていて。もともと木が好きで指物職人になりたかったんですが、当時30歳で所帯も持っていましたし、弟子入りには遅かった。同じ木なら、とここへ来たんです」

入ってみて、厳しいこともあったといいます。

「体力には自信があったんですが、また違う体の使い方でした。それと、入ったばかりのころ、社長に『返事が軽い』と言われたことがありました。何でもすぐに返事をすると、相手はかえって『よく考えているのか?』と不安になる、と。そういった人への接し方でも、教わることは多かったです」

「けれど、ここへ来て良かったですよ。今は山の中に家を買って住んでいるんですが、子どもの喘息も落ちつきました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 今年で11年目になる土川さん。普段、どんな仕事をされているのでしょう?

「自然の木は在庫もそれ1本限りだし、値段もそれぞれ違うんですね。たとえば『1m×1mの場所に植えられて、窓にかかるような木が欲しい』という注文が入ると、その人の好みを想像しながら畑の中を見て歩くんです。いいかな、と思うものを選んで見積をつくり、決まれば出荷の準備をします」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「最近では、会社でなく直接わたしに電話が来ることもあるんです。『いい木を選んでくれたね』と言われると、うれしいですね」

松永さんも、土川さんも、ここで一から覚えていきました。

グリライ - 1 ここグリーンライフ・コガでは、人も木も、初めから特別なものはいりません。

「みんなで協力せんと出来ん仕事ですから。素直で一生懸命であればいい。そしてやっぱり、木が好きな人に来てもらいたいですね」

自然の姿をあらわす仕事。

それは木にとっても、木に触れる人にとっても心地よいものだと感じました。

(2016/1/8 倉島友香)