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色鉛筆のように

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

「書く」ということ。

仕事でも、友だちに連絡するのも、日常のふとした気づきをメモするときでさえも、いつしかパソコンや携帯で「書く」ようになっていた。

このままデジタル化が進めば、紙やペンはなくなってしまうのでしょうか。

先のことははっきりとはわかりませんが、きっと、なくなることはないと思います。

むしろ、その価値は増していくんじゃないか。

東京・蔵前にある「カキモリ」というお店を訪ねてみて、そう感じました。

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ここでは「書く」ための道具を買うだけでなく、つくることもできます。

たとえば、表紙や中身の紙、留め具まで自由に選べるオーダーノートの棚や、十数種類のなかから選んだ色を混ぜ合わせ、好みのインクをつくるインクスタンドを併設。オリジナルの便箋だってつくることができる。

それは選ぶ楽しさだけでなく、これから書く楽しみや贈る人を思い浮かべたワクワクも一緒に買う体験なのかもしれません。

今回は、表参道にオープンする新店舗の店長と販売スタッフ、そして蔵前の本店スタッフも募集します。

表参道では、蔵前で培われてきたものを引き継ぎつつ、新しい風を吹き込んでくれるような、いろんなバックグラウンドを持った人との出会いを楽しみにしているそうです。

興味が生まれたら、ぜひ続きも読んでみてください。

カキモリの店舗は、都営浅草線の蔵前駅から歩いて3分ほどのところにある。

窓際に置いてある機械が気になるけれど、それ以外の全体的な外観は至ってふつうのビルのよう。

しかし、一歩足を踏み入れると雰囲気がガラッと変わった。

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あちこちに散りばめられたカラフルな色と、ぬくもりを感じる木製の壁や床。それに囲まれるようにして並ぶ、筆記具やレターセットなどの数々。

「この設計は色鉛筆のイメージなんです。色鉛筆って、昔から親しんでいるものだけれど、新しくなにかを生み出すものでもあります。あたたかみと新しさは、全体に共通して取り入れていますね」

そう教えてくれたのが、代表の広瀬さん。

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先ほど気になった窓際の機械は、製本機だった。特別な技術は必要なく、スタッフ全員が扱うものだという。

「目の前で見られるので、きっと最初のうちは緊張しますよ。すぐに慣れるとは思いますけどね」

オーダーノートは、店内にある棚から表紙や中身の紙、留め具などを選んでもらい、その場で製本する。かかる時間はおよそ10分ほど。

3週間ほど時間をもらえば名前を箔押しで入れることもできるし、中紙がなくなってしまった際の交換にも対応している。

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「ずっと使い続けられることが大事かなと思っています。そのためには、お客さまが使い続けるところまで想像する必要があります」

そこまで想像しているか否かの違いは、たとえばノートの罫線に表れるという。

「罫線がはっきりと書いてあるノートは、たしかにかわいいんですが、書いた字が打ち消されてしまう。カキモリでは後々字が映えるように、印刷色を抑えて出しています」

「それにillustratorのまっすぐな線は、どこか目がチカチカするんです。うちでは、印刷の元データに万年筆で引いた線を使っているので、実はにじみとかインクだまりがある。お客さまはあまり気づいていないかもしれませんけどね(笑)」

文字を書くときは直感的に書いているから意識しないことが多いけれど、実はこうした細部の積み重ねが大きな違いとなって感じられるそうだ。

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そんな広瀬さん、群馬県にある実家は祖父の代から続く文房具屋だった。

「ぼくが子どものころは、ちょうど大量消費時代で。家じゅうに各メーカーのわけわからない商品があふれていました。それで嫌になって、正直文房具には興味がなかったんです」

しかし、兄がその会社を継いだのを機に、東京の子会社を任されることに。

当時はアスクルなどの通販サイトを利用するのが主流となりつつあった時代。B to Bの御用聞き営業では太刀打ちできないことはわかっていた。

「ネットでできないことをやろうということで、対面型の小売店として2010年にカキモリをつくりました」

「決してマニアックな専門店ではなく、お客さんの立場で考えたときに、こういう店なら楽しいだろうなという目線で常に見ています」

そのおかげで、蔵前のお店には老若男女さまざまなお客さんが訪れるという。

「近所の小学生やおじいちゃんおばあちゃん、遠方から観光でいらっしゃる方もいれば、海外の方がここを目がけてきてくださることもあります。『こんなことはわたしの国ではできないわ』と言ってくださる方も多くて、リップサービスだとしても感動しますね」

「それから、耳の聴こえない方にも利用していただいています。筆談はとても重要なものなので、そういう方に使っていただけるのもすごくうれしいです」

ただ、新たに出店する表参道では、蔵前とは客層がまた違ってくるかもしれない。

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裏通りの小道に静かに佇む2階建ての古民家を改装し、抹茶やお香、お酒の専門店、それにコーヒーショップなどと一緒に「裏参道ガーデン」がオープンする。

再開発までの2年間限定で、カキモリは5坪ほどの小さなスペースで出店することに。

「蔵前と比べて、外国の方にきていただくことが多くなると思っていて。英語の説明資料は一応全部つくってあるんですが、万年筆のインクの入れ方なんかは日本語で説明するのも難しいので、英語対応は今苦労しているところですね」

となると、英語の得意な方のほうがいいのでしょうか。

「もちろんそんな方にきていただけたらうれしいですけど、物怖じせずコミュニケーションがとれることのほうが大事だと思います。ジェスチャーでもいいから、なんとか伝えようとできる人がいいですね」

お客さんに対してだけでなく、スタッフ同士や他のお店とのコミュニケーションも重要。

利き酒など体験型のお店も多く、他の店と一体となって心地いい空間をつくっていきたいと考えている。

「表参道ならではのスタイルだったり、感性をどんどん拾って、新しい風を吹き込んでほしい。しばらく旅に出て放浪していたような人でも面白いし、とにかくいろんなバックグラウンドの方にきていただけたらうれしいです」

続いて、スタッフの中谷さんにもお話を伺う。

来年の2月で丸3年。スタッフのなかでは一番長くカキモリにいる方で、現在は店舗に併設されたインクスタンドを主に担当している。

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もともと手紙を書くのが趣味で、お客さんとしてカキモリに遊びにきていたという中谷さん。

取り揃えられているモノのよさだけでなく、スタッフの接客が印象的だったそう。

「お会計のときに、すごく笑顔であたたかい感じがしたんです。スタッフさん同士も仲のよさそうな雰囲気が伝わってきて、好きな文房具や雑貨に囲まれて、とにかく幸せな空間だったんですね」

いつしかここで働きたいと思うようになり、ホームページから求人情報を見つけて応募した。

接客される側からする側になって3年、いつも意識していることがあるという。

「その方がどうしたいのかを察するんです。基本的にはお客さまに委ねますけど、お話を聞いてみたり、第三者の意見が聞きたいんだなという場合には『わたしはこちらのほうが好きですね』と正直にお伝えします」

積極的に関わるというよりも、まずは自分でじっくり考える時間を楽しんでほしいから、商品には短文の説明書きがついている。

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短いコメントひとつひとつのなかに、その商品に対する愛情が込められているようにも見える。

「文房具は好きですが、マニアというわけではないんです。インクや文房具が大好きだというお客さまに対して、知識が追いついていかないときもあります」

「わたしは、それをカバーするためになにが必要かなって考えていて。他の部分で、お客さまに楽しい時間を過ごしてもらえるように意識しています」

そこであたふたしてしまうよりも、知らないことは逆にお客さまから教えてもらおうというぐらいの度胸と素直さが大切なのかもしれない。

どんな人と一緒に働きたいですか。

「やっぱり、カキモリが好きな方。それとやさしい方ですね。べったりするわけではなく、いそがしいときにフォローしあえるような気遣いとか、やさしさのある人たちばかりなので。お客さんにもそれが自然に伝わっていくといいですよね」

「そういう思いやりとか、いろんなことを想像できることが本当に重要だなと思います」と言葉を継いだのが、スタッフの村田さん。

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「お客さんの気持ちを想像するのもそうだし、これからのお店の商品やサービスについて、もっとこうしたらよくなるっていうことを想像できる人。それを苦じゃなく面白がれる人がいいですよね」

先のことを考えて進めていくのは、代表である広瀬さんだけではない。

実際、オーダーノートやオリジナル商品に関するアイデアのもととなるのは、スタッフからの提案がほとんどだという。

村田さんがお気に入りのオーダーノートを見せて紹介してくれた。

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「わたしのノートの表紙は布製で、刺繍も入っています。代官山のcoccaという生地屋さんの生地を使っているんですが、これはスタッフからの提案だったんですね」

蔵前には、もともと文房具関係の下請け会社が多かった。

生地屋さんの他、印刷屋さんや革職人さん、断裁屋さんなど、徒歩圏内の人たちと協力してオリジナルの商品を開発しているそう。

下町らしいつながりやまちのことをよく知ってもらうため、カキモリでは手書きの地図も作成している。

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「地元の方が、遠方のお知り合いにプレゼントとして商品を贈られることがあるんです。そこに『わたし、今こういう素敵なまちに住んでいるんだよ』っていう紹介も兼ねて、地図も入れて送っていただいたり。『もし蔵前にくるなら、この地図使ってね』というような方もいらっしゃいます」

まちと一緒に育っていく。

2年間という期間限定だけれど、新しいお店も「表参道」というまちの空気をいっぱい吸い込んで、育っていってほしいなあ。

最後に、広瀬さんの言葉を。

「書く姿ってかっこいい。みんなが書かなくなるにつれて、手書きの価値はかつてなく上がってきていると思うんです」

「単純に物質としてうれしいのもあるけれど、自分のために時間を使って書いてくれたっていうことが、実は一番うれしいはずで。これからそういうところの価値を伝えていこうと思っています」

しばらく「書く」ことから離れていた方も、ここでもう一度向き合ってみたら面白いことがはじまるかもしれません。

(2016/01/04 中川晃輔)