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足元に眠るものはなに?

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「今あるものが当たり前になっていて、そこに価値を感じていない人が多いと思うんですよ。外からきた人がここでの生活を楽しむのを見て『うちの町ってすごいんだ』って気づいてくれたら」

これは真室川町で、地域おこし協力隊として活動する梶村さんの言葉です。

mamurogawa01 真室川町(まむろがわまち)は、山形県内陸部最北端に位置し鳥海山、月山、神室連峰などの山々に囲まれた小さな町。大部分が森林でおおわれ、古くから農業と林業の町として栄えました。

ここには、廃れずに守られてきたもの、残ってきたものがたくさんある。

わらべ歌に、五穀豊穣を願って舞を奉納する番楽、昔話などの民俗文化。

農家が何世代にもわたって栽培し、種をつないできた伝承野菜。

”スローフード”という言葉も、最近よく耳にするようになりました。この地だけではぐくまれ、風土になじんだ地域特有の野菜たちと食文化は今ふたたび注目されはじめています。

mamurogawa02 一方で、ピーク時に1万7千人いた人口はゆるやかに減少し、現在は約8,300人が暮らしている。なんとかにぎわいを取り戻したいところ。

今回募集するのは、この町の良さを価値に変えていく人。外の視点をもちつつ、住みながら町の良さを発見してもらえるといいそうです。

任期は3年間。その後もここで働くこともできるし、経験を生かして別のことをはじめることもできるそう。

まずは、真室川町がどんな場所なのか知ってください。


東京から新幹線と在来線を乗り継いで4時間ほど。駅を降りると、しんと冷たい空気に思わず背筋がのびる。

駅から3分ほど歩くと、町役場が見えてきます。迎えてくれたのは交流課に勤める須田さん。

mamurogawa03 真室川町はどんなところですか。

「賃金水準は、全国でも低いほうかもしれません。現金収入としてはけっして豊かなわけではないけれど、精神的に豊かに暮らすための知恵を持っているんだと思います。番楽などの祭事を楽しむっていうのもそうだし、とってきた山菜やきのこを、お互いにおすそ分けしあったりしてね」

三世代同居が多く、子育てと仕事の両立もしやすいそうだ。コミュニティがあまり大きくないからこそ、互いに支え合いながら暮らしをつくってきた。

真室川出身だという須田さん。この町のどんなところが好きですか?

そう聞くと、「その質問いつも悩んじゃうんだよなぁ」と少し困った様子。

「うちらにとっては、当たり前のもんだからよ。川で遊んだり、山菜とりにいくのも。たとえばこういう料理も、昔はどっちかっていうと好きじゃなかったからね。ハンバーグとか食べたいなぁって思ってました」

話しながら見せてくれた写真にはかぶのお漬物、芋煮、鮎の塩焼きや山菜のふきを使ったお菓子。

どれも私から見れば十分魅力的。あたたかいご飯とこの料理たちがあれば、それだけでうれしくなってしまうのだけど、日々の暮らしに溶け込んでいると気がつかないかもしれない。


真室川での暮らしに想いをめぐらせていると、須田さんが小野寺さんを紹介してくれた。

mamurogawa04 真室川町では、現在3人の地域おこし協力隊が活動していて、小野寺さんはその一人。やわらかい笑顔が印象的な方だ。

もともとは仙台と東京のスキンケア用品店で接客販売の仕事をしていたという。真室川にくるきっかけはなんだったのだろう。

「小さいころからガールスカウトをやっていて、地域の中に入ってなにかするのが好きだったんです。休みの日には東北を旅したりしていたけど、趣味の範囲じゃなくて仕事にしたいっていう思いがだんだん強くなっていって」

30歳という節目でもあり、今のままの生活を続けていくのか考えていた時期でもあった。

とはいえ、まったく知らない土地に飛び込むことに不安はなかったですか。

「やっぱりすぐには決心がつかなくて、実際に行ってみて違うと思ったらやめようと思っていました。2014年の10月に面接を受けに来たんです」

そんな小野寺さんの心を動かしたのは、『人』のよさだったという。

「面接までの時間、商店街をぶらぶらしていました。どこのお店でも、お母さんやお姉さんたちが『見ない顔だね』って声をかけてくれたんです。温泉に寄ったら、おばあちゃんに『背中の湿布をはがしてけろ』って言われたりして(笑)」

「初対面でこういう交流ができるところがすごくいい!って思いました」

はじめて来たとは思えないほどの、居心地の良さとあたたかさ。気づけば、あっという間にここで働きたいと思うようになっていた。

mamurogawa05 日々どんな仕事をしているのだろう。

力を入れているのは、伝承野菜をつかった商品の開発やイベントの開催だという。

『伝承野菜を食べてみたい』と全国から人がきてくれても、提供しているお店は少ないし、町の人にもあまり浸透していないのが現状なのだそう。

そこで、東京で飲んだ「かっぱ割り」が使えないかと思いついた。

「焼酎にきゅうりを入れて飲む飲み方なんですが、それを伝承野菜の勘次郎胡瓜(かんじろうきゅうり)でできないかなと。行きつけのスナックのママさんに話したらすぐにやってみようと言ってくれて」

「勘次郎割りを提供してみたら、スナックにも人が集まるようになったし、町の人たちにも伝承野菜に興味を持ってもらえました」

ほかにも、自分で畑を借りて大豆を育てていて、仙台のガールスカウトの子どもたちをよんで豆腐作りのイベントをやったこと。町で一番人気のお魚屋さんでランチの提供をしてもらえないか考えていること。

mamurogawa06 話を聞いていると外から来る人、町の中の人を巻き込んだ企画が次々と出てくる。提案していくと、役場の人たちも応援してくれる環境なのだという。

どんな人が向いていると思いますか。

「人の話が聞ける人かな。実際に町をまわってみると、本当は話を聞いてほしい人がすごく多いと感じるんです。あとはここでの暮らしを楽しんで、町の人たちにも伝えられる人」

外に、ではなく町の人たちになんですね。

「最初のころ『なにを好んでこんなところに来たんだか』ってよく言われました。この町のことをあきらめているような空気も感じて。でも最近は『楽しそうだにゃ~』と私たちのやっていることに興味を持ってくれるようになったんです」

自分たちが体現することで、いっしょに暮らす人々の気持ちを変えていく。自らもこの暮らしを楽しむ小野寺さんの言葉には説得力があるし、信頼される存在になっているのだと感じました。


伝承野菜を育てている農家さんにも連れて行ってもらいました。

訪ねたのは甚五右ヱ門芋を育てる佐藤春樹さん。

mamurogawa08 室町時代から佐藤家だけに伝わる「甚五右ヱ門芋」を育てながら、築150年以上の古民家を自宅兼宿としてリノベーションした「森の家」を営んでいる。

佐藤さんが農業をはじめたきっかけは、会社勤めのかたわら祖父の畑の農作業を手伝ったことだという。

当時米を栽培していた祖父の家は、生計が立たない状態だった。

「そんなときに町の回覧板で『伝承野菜を探しています』というのが回ってきたんですよ。ばあちゃんに聞いたら、毎年種を取っている里芋があると。調べてもらって、在来種だと認定されたんです」

mamurogawa09 この芋をブランド化して売りだせないか。

佐藤さんは県立農業大学校で社会人向けの研修を受け、技術と知識を深めていった。会社を辞め、専業農家となったのは今から7年ほど前で、27歳のとき。

普通の里芋と比べて、ねばりが強くねっとりとなめらかな口あたりの甚五右ヱ門芋。もっと多くの人に知ってもらいたいし、きっと町の特産品になるはず。

そんな想いからはじめた芋祭は、実際に芋掘りを体験できることもあって今では200人以上の人が訪れるイベントに成長した。東京では芋煮のワークショップも行っているという。

mamurogawa10 「少しずつPRして流通を増やしていけば、やりたいと思う人が出てくるかなと。そうなるといいなと思うし、今は町のファンをつくりたいというのが一番の思いかな」

一方で、甚五右ヱ門芋はこの地域特有の粘土質の土でしか育たないため、他の地域に持ち出すことはできない。繁忙期の春と秋には作業を手伝ってもらうこともできるけれど、雇用を生み出すにはまだまだ課題も多い。

だけど佐藤さんのような人が地域にいることは、これから農業をはじめたい人にとっても良いモデルになるし、一緒に町おこしを考える上でもとても心強いと思う。


最後に、地域おこし協力隊の梶村さんにもお話を伺います。

mamurogawa11 大学卒業後、“農業フリーター”をやっていたという、ちょっと変わった経歴の持ち主。

農業フリーターとは、なんですか?

「各地を転々としながら、農家さんのところで住み込みで農業のお手伝いをするんです。地域の困りごとや、これから農業はどうなっていくのか。農作業の合間とかお茶の時間にそんなことを話すんですけど、だいたいどこでも同じような問題を抱えているんですよね」

「彼らが困っていたことと同じようなことが真室川にもあって。それを解決していけば、今まで受け入れてくれた農家さんにも何かしらお返しすることができるんじゃないかなと感じています」

梶村さんが最近の取り組みを教えてくれました。

「須田さんや春樹くん、この町をなんとかしたいという若い人たちでワークショップをやっています。真室川らしさってなんだっけ?と地域の良さや課題を一つずつ掘り起こしていくところからはじめていて」

mamurogawa12 「このあたりだと、まちおこしは役場がやることだっていう意識が強い。でも僕は町の人が中心で、役場はフォローするくらいがいいと思うんですよ。そのきっかけというか、自分たちで企画して動き出せるようにしたいと思って、こういう場をつくっています」

UIJターン促進のためにも、町の人たちが自分たちの住む地域の魅力に気づき、主体的に動き出す。小野寺さんも梶村さんも、そんなきっかけをたくさん生み出している。

「次はスポーツツーリズムを企画しています。ここに住む人たちは雪に対して『たくさん降って大変だ』と、ネガティブな感じなんですよね」

「雪深さを逆に活かしたいなと。町の人も外の人も楽しめるようなイベントにして、雪のイメージをプラスに変えたい。いろんなひとを巻き込んでいきたいですね」


手探りで進めることも、きっと多いと思います。

まちおこしは、ついほかの地域とくらべて何か新しいことをしたいと考えがち。だけど足元に眠る価値を掘り起こして、そこから何かを生み出していくことが町の未来につながるのかもしれません。

mamurogawa13 真室川町に残されてきた暮らし。その魅力を編み直し、伝えることが求められています。

2月20日には、地域おこし協力隊の体験ツアーも開催されます。真室川町を訪ねて、ぜひ自分の目で確かめてみてください。

(2016/1/29 並木仁美)