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都市と森のつなぎ役

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日本の国土の約7割を占める森林。

わたしたちは、この森林についてどれだけのことを知っているのだろう。

森林を保持するためには、ただ苗木を植えるだけでなく、過密になっている木を適度に間引いて活用することも大切であるということ。

世界で広大な面積の森林が失われつつある一方、日本国内の森林面積はほとんど変わっておらず、むしろ体積は増大していることなど。

建物だらけの街中で暮らしていると、そういったことを知る機会ってなかなかない。なんとなくのイメージで、誤った見方をしてしまっている人もいるんじゃないだろうか。

一般社団法人more treesは、こういった森林の現状や可能性をさまざまな方法で伝え、都市と森林をつなぐ役割をしています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA たとえば、国産の木材を使ったプロダクトの開発や、丸の内朝大学での講義やワークショップ、全国各地の森林を訪ねるツアーの企画などはその一環です。

今回は、これまで専任のいなかったPR担当のスタッフを募集します。

とはいえ、都内でのイベント運営を手伝ったり、産地の林業家さんと交流する機会も出てくるでしょうし、今年は海外への展開にも力を入れていくとのこと。

幅広い活動に関わって学びたい、そして森林の大切さをより多くの人に伝えていきたいという方なら、きっとこの環境を楽しめると思います。


東京・千駄ヶ谷。

都営大江戸線の国立競技場駅で降り、東京体育館の外周に沿って歩くこと約5分。見えてきたのは、一見ふつうのマンションだった。

警備のおじさんに確認し、ここで合っていると教えてもらって一安心。インターホンを押して玄関先までいくと、スタッフの方が招き入れてくれた。

P1060267 部屋のなかは吹き抜けになっており、棚にはさまざまな木製のプロダクトが並んでいる。時計やけん玉、本体がヒノキでできた携帯電話など。

備え付けのペレットストーブもいい味を出していて、なんだか家のように落ち着く空間だ。


はじめにお話を伺った水谷さんは、立ち上げから事務局長を務め続けて9年目。more treesのこれまでを一番よく知る方かもしれない。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA 水処理系のプラントメーカーに4年間勤めた後、インドネシアで植林をするNPOに転職し、ファンドレイジングや現地のツアーコンダクターをしていたという水谷さん。

親しかった現在のmore trees理事の方を通じて、坂本龍一さんと出会う。
当時はNPOやNGOに対する認知度がまだまだ低かった時代。前職の団体でも、活動できる幅の限界や資金集めの大変さを身にしみて感じていた。

「音楽家であり、文化人である坂本龍一という人のつくる組織なら、もっとブレイクスルーできるんじゃないか。都会の人たちに向けた、従来とは異なるアプローチの仕方ができるNGOになれるんじゃないかと、直感的に感じたんですね」

「今でもそこをぼくらの強みにしていこうっていう想いはあります」

前提として、寄付の重みをちゃんとわかっていてほしいし、企業や一般の消費者ともきちんとコミュニケーションをとっていく必要があるため、少なくとも3年は企業での勤務経験のある人がいいという。

ただ、アウトプットの方法は従来の植林や森林保全活動のみにとどまらない。

イベントや森林体験ツアーなどの企画運営、国産材を使ったプロダクトの開発など、いろいろな人が森林に興味を持つきっかけをつくっている。

TW端末 「とっかかりはポップなものでいい。多くの方は、食わず嫌いなだけだと思うんですよ。なので、まずはやわらかく入っていける入り口をつくるのがぼくらのやり方です」

「たとえば丸の内朝大学の講座なら、都会でバリバリ働いているビジネスパーソンの入り口になるかもしれません。国産の木材を使ったプロダクト製作やイベントの運営も、間口を広げるひとつの方法です。デザイン性やポップさは意識して取り入れていますね」

そのほかにも、人に伝えるときの言葉選びに気を配っているという。

「林業の世界では当たり前の言葉なんですが、一般的に『かんばつ』っていうと、日照りの『干ばつ』が出てくると思うんですよ。『間伐』は決してポピュラーな言葉ではないんですね。木材のことを略して『材』と言ったりもしますが、これも一般的には通用しづらいです」

「誰に伝えるかによって言葉を使い分けることで、入っていきやすさが全然変わってくると思うので。子どもに対しては、『木材』ではなく『この木はね…』と話すようにしたり、当たり前の言葉を噛み砕いて伝えることは常々意識していますね」

PRを担当する人は、とくにこの点を意識しなければならないのだと思う。

たとえば、世界的に森林は減少しているのだから、植林が大切だというイメージが一般的に強いかもしれない。

けれども、日本国内の森林面積は昔からほとんど変わっておらず、むしろ体積で言えば増えてきているのが現実。適度に間引くことで、若い木がちゃんと育つような環境をつくることも必要だ。

林業の世界で生きてきた人にとっては常識でも、都市で生活している人からすると「そうなの?」と驚くようなことが多々ある。それは逆もまたしかり。

林業が停滞している理由のひとつはここにあるという。

「都会の論理で山のことを言うと、上から目線になりかねない。でも、林業が衰退して苦しいからといって支援だけでもよくないし、地元の方々も正直そこは望んでいないと思うんですね」

「とにかくフラットな目線で、対等な立ち位置で。ビジネスも、お酒を飲むのもフラットに。橋渡し役として、そんなふうにコミュニケーションをとっていきたいんです」


フラットな関係を築くという意味では、森林ツアーやイベントのなかで体験を共有するというのもきっと大切なことなのだろう。

そう思って聞いてみると、ツアーの企画やイベントの運営などを手がける李さんが印象に残っているエピソードを教えてくれた。

P1060235 昨年のゴールデンウィーク、アークヒルズで開催したイベントでのこと。

「木のかんなクズ、材木の表面をカツオ節みたいにピロピロって削ったものですね。あれをためて、子どもたちが遊べる場所をつくったんです。そこで、ある子にかんなクズをわっしゃ〜!ってかけてあげたら、『わー、お風呂みたい!』って言ったんですよ」

え、お風呂ですか?

「わたしもそう思って『なんで?』って聞いたら、『あったかいから』と。木が温かいっていうことを、その子はそこで知ったんです。わたしはちょっと涙が出そうになって」

「都会のコンクリートジャングルのなかでですよ。木が温かいことを、あの瞬間に、あの子が知った。それを少しでも伝えられたというのが、すごくうれしかったんです。“都市と森をつなぐ”というmore treesの活動テーマを思い出して『あ、今つながった!』と思った瞬間でした」
OLYMPUS DIGITAL CAMERA 幼少期から皮膚が弱い体質だったことから、天然のものや環境の問題に興味を抱いたという李さん。

前職のときに水谷さんのフィールドワークに参加し、寝不足で痛い頭を抱えながらも森のなかを歩いていると、だんだんと痛みが和らいでいくのを感じたそう。

「そのときに、森は人間にとって必要だっていうことを頭でも理解したし、体験としても感じました。触ったり、匂いをかいだりしたことって、やっぱり強く印象に残るんですよね」

それはきっと、地域に入っていくときにも同じことが言える。

行政が窓口になることもあれば、森林組合に森の現状の話を聞きにいったり、林業を営む方に直接働きかけることもある。

頭で考えて議論し合うだけじゃなく、一緒に森のなかに入る。食卓を囲んで、お酒を飲みながらざっくばらんに語らう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「実際に木を切るのはプロの仕事なので、その人たちが気持ちよく動けるようにお膳立てをするのがぼくらの仕事なんですよね」と水谷さん。

外からの人をツアーに連れていくことで、地域の方にもいい影響を与えられると考えている。

「地元の人は、普段当たり前に口にしているお米とか野菜とか水を『おいしい!』って言ってもらえると、やっぱりおれらの村はいいところなんだって誇りを持てる。外の人の声が鏡になって、再認識する機会になるんですよね」


「森林のことを知らない人たちにも、興味を持つきっかけを与えられるような仕事がしたいですね」と話すのは、プロダクトの商品開発やイベントの企画をしている兒玉さん。

もともとは建築分野に興味があったという。

P1060221 「国産材を使ったプロダクトをつくっているんですが、最近はプロダクトと空間のボーダーレスなアイテムをつくりたいなと思っていまして」

それは具体的にどんなものなんですか。

「積み木ですね。普通の積み木ってブロックのような形をしていると思うんですが、これは建築物の躯体のような要素ももたせつつ、さまざまな組み方ができるようになっています。この形は針葉樹を意識しているんですよ」

kidsのぞく たしかにこの形だと、組み方のバリエーションが広がっていろいろな遊び方ができそうだ。

聞けば、建築家の隈研吾さんと共同で製作したものだという。

「毎年秋に東京ミッドタウンの芝生広場で開催されるイベントがありまして。昨年のコンペにエントリーして通ったんです。この積み木を巨大化させて組み上げ、芝生の上に配置してインスタレーションに仕上げました」

これまでは新商品をつくってもお披露目の場がなかったというが、今回イベントに出展して空間表現の可能性を見せたことで、建築やインテリアの方面からも注目されるようになった。

新しいPR担当の人にも、こうした今までにないPRの方法を一緒に考えてみてほしい。

「ここに入ったとき、いろんなコンテンツがあって面白いなって思ったんですね。3、4年経った今でもその感じはあって。チャレンジさせてもらえるところでもあるので、いろいろと興味を持てる人ならPR+αで楽しいんじゃないかなと思います」

新設されるオリンピックのスタジアムも「木と緑のスタジアム」がテーマということで、兒玉さんは新たなコラボレーションを模索しているという。


水谷さんも、新規のプロジェクトに今年着手するらしい。

「昨年、インドネシアで大森林火災がありました。前職で4年間ずっと関わっていた地域も含めて、わずか半年の間に東京都10個分ほどの森が燃えてしまったんです」

「お世話になった地域ですし、東南アジアを代表する熱帯雨林、なかでもホットスポットと呼ばれる重要地点でもあります。グローバルなイシューをきちんと一般の方に発信していく上でも、今年はインドネシアへの展開をがんばっていきたいですね」

都市と森に加えて、国内と海外。

つなぎ役の出番はますます増えていきそうです。

(2016/01/29 中川晃輔)