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文化祭前日のままで

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

ダンボールでひたすら通路を組み立てる人と、その横で細かな装飾をつくり続ける人、ちょっと教室の外に出て驚かす演技を練習している人。

文化祭の前日には、きっとこんな光景が広がっていると思う。

目の前の地道な作業も楽しみながら、できあがっていくお化け屋敷とお客さんが驚く顔を想像してみんながワクワクしている、あの感覚。

そんな感覚を忘れずに、仕事でも大事にしている人たちと出会いました。

東京都台東区にある谷中銀座商店街。

その一角に軒を連ねるのが、「邪悪なハンコ屋 しにものぐるい」です。

外観写真

昔ながらの活気ある商店街のなかで、エメラルドグリーンの屋根とゆるいイラストが一際目をひきます。

店内にずらっと並んだイラストから好きなものを選び、書体やインクの色なども選んでオーダーシートを渡すと、30分ほどでオリジナルのハンコが完成。

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選びきれずについ何本か買ってしまったり、少し変わったプレゼントとして買っていくお客さんも多いそう。

今回は、この店舗での接客やECサイトの運営、さらには新規事業の企画運営も一緒に進めていくスタッフを募集します。

文化祭前日、あの感覚が好きだったという方はぜひ続けて読んでみてください。

谷中のお店を訪ねてまずお話を伺ったのは、代表の伊藤さん。

店名からはとても想像できないような、穏やかな雰囲気を醸し出す方だ。

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けれども、ここに至るまでの経緯はまさに「しにものぐるい」だった。

「大学入学と同時にボクシングをはじめたんです。当時世界チャンピオンを最も輩出していた協栄ジムに入門して、3年生でプロになりました」

プロに。すごいですね。

「当初は本気で世界チャンピオンになるつもりでした。でも、結果は2勝3敗で挫折。就職もしていなかったので、愛知県の実家に帰って半年間、ずっと引きこもっていました」

そんな現状をどうにか変えなければならないと思い、東京に戻ったものの、待っていたのは7年間のフリーター生活。伊藤さんにとって、この時期が今までで一番大変だったという。

「ぼくは目標がないとつらいタイプで。当時は、がんばりたいのに自分がどっちに向かえばいいのかわからない。やりたいことが見つからなくて、とにかくつらかったです」

そんなある日、転機が訪れる。

さまざまなクリエイターが集うデザインフェスタというイベントで、オリジナルTシャツを販売しているのを見たとき、「これなら自分もやっていける!」という根拠のない自信が湧いてきたそう。

「極端な話、Tシャツは最初の絵を描いてしまえば、あとは業者さんにプリントしてつくってもらうことができる。食べていける形があるなと直感的に思ったんです」

そんなはじまりだから保証はまったくなかったけれど、朝から晩までTシャツのことを考えつくり続けた結果、2年目で本当に生計を立てられるようになってきた。

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すると今度は、店舗を構えたいと思うように。それまではインターネット販売のみに絞っていた。

「実店舗を持つなんて無謀だと思っていました。効率が悪いし、リスクも大きい。それがなぜか、面白そうだからやってみたいなと思いはじめてしまって(笑)」

ちょうどそんなタイミングで知り合いを通じて一緒にご飯を食べたのが、「青空洋品店」という当時の谷中を代表するお店の店主だった。

「谷中いいところだよ!って言われて。当時は若い人がお店をはじめたり、谷中がこれから盛り上がりそうな雰囲気もあったので、ここから一本裏の通りで2008年にお店をはじめたんです」

しかし。

「もうね、めっちゃ売れないんです!本当に売れないんですよ(笑)。店舗は赤字の月もありました」

「一方、ネットではきちんと利益が出ていたので、作業場を借りたと考えればなんとか維持できるような状況でしたね」

ここで店舗をやめてまた実家に帰るか、場所を移転して一発逆転を狙うか。

伊藤さんは後者を選んだ。

1年後に表通りの商店街内の物件が空いたため、そこに店舗を移転。すると店の前を通る人に見てもらえるようになり、売上もだんだんと上がっていった。

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ただ、移転先の物件は定期借家だったので、先を見越して商店街内の物件をもう一軒借りることに。

これを機に、Tシャツに続けてハンコも販売しはじめたという。

なぜ、ハンコだったのでしょうか。

「頭の中にビジネスモデルがいくつもあって、それを次々に試している感じなんです。うまくいくかどうかはやってみないとわからないので、とにかく行動します。そのなかで残ったのがハンコだったんですね」

Tシャツのときと同じく、保証はなかった。

「十回やって一回成功すればいいと思っています。その過程には、声を出して笑うような楽しさではなく、心の底からジワジワと湧き上がってくるような楽しさがあるんです」

たしかに、伊藤さんは過程を楽しんでいる感じがする。結果として売れること、食べていけることはもちろん大事だけれど、それと同時に、どうなるかわからない状況で試行錯誤するワクワクをとても大切にしているんだと思う。

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ハンコに入れるイラストやインクのバリエーションを増やしたり、手書きの書体も加えたり、ディスプレイのしかたを変えてみたり。

創意工夫を凝らしながら、今の形を築き上げてきたそうだ。

「これからは、もう少し効率を上げることが課題ですね。受注管理やハンコのつくり方も独自で考えてやっているので、もっと改善できるはず。そうすれば、少なくとも今の倍ぐらいの速さでつくれる気がします」

たとえば、大手の企業でそういった経験をしてきた人はいいかもしれない。「手間がかかっているからこそいい部分は残しながら、やりたいことをやっていくために効率を突き詰めたい」と伊藤さんは話す。

「強く言っておきたいことがひとつ。一緒に働く上で最も大事なのは、やっぱり僕たちのやっていること、これからやっていくことに共感できるかどうかだと思います」

具体的に、これからどんなことをやっていきたいですか。

「まずやりたいのは子ども写真館。普通のスタジオで撮ってもらったりもするんですけど、ぼくはどうも満足できないんです。だから自分が望む、自分が撮りたいと思う写真館をやってみたい。衣装は一着ずつ、ここにしかない服をつくって。背景もブルーバックじゃなく、徹底的にこれでもかとつくり込みます。たとえば、きれいな湖を背に白鳥の衣装を着ている子供の写真とか、シュールで面白いですよね(笑)」

「もちろんお客さんにも撮りたいと思ってもらえなきゃ続けられませんが、まずは自分がこんな写真館あったらいいよね、と思えるものをつくりたいです」

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ゆくゆくは、3階建ほどのビルにやりたいことを全部詰め込んだ“伊藤ランド”をつくりたいという構想もある。

冗談のような話に聞こえるかもしれないけれど、真剣に語る姿を見ていると、ただの夢物語で終わらせないぞという決意を感じる。伊藤さんは特に口にはしなかったものの、過去にはクラウドファンディングで300万円以上を集めて実現したプロジェクトもあったようだ。

ここで紹介してくれたのが、20代の夢と30代の夢の話。

「若いときの夢は、本当にただの夢。現実味はあまりありません。ぼくで言えばボクシングで世界チャンピオンになりたいというようなことです。けれども、大人になってからの夢は、現実も一緒に生きていかないといけない。現実と夢のせめぎ合いが起こります」

「現実とすり合わせながら実現していく夢をつらいと言う人もいますが、実はそのほうがより楽しいんじゃないかと最近思っていて。今は大人のほうが楽しいぞ!って言いたいんですよ」

そんな伊藤さんの言葉に耳を傾けながらうなずいているのが、スタッフの吉岡さん。

吉岡さんにどんな人がいいか聞いてみる。

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「もちろん、うちのテイストが好きな方がいいです。そのほうが、お客さんの要望に的確に答えられるし、商品の魅力をうまく伝えられると思うので」

「ですが、基本的には地味な作業も多いので、そこをちゃんとわかった上で入ってくれるとうれしいですね」

ネットショップの受注管理やメールでの顧客対応、ハンコの作成など、パソコンや機械と向き合う作業が大半を占める。店頭での接客やTシャツ屋さんでの接客もすることになるそうなので、お客さんがきたタイミングで一旦手を止めたり、並行していろいろなことを進める大変さもあるかもしれない。

「うれしいのは、お礼のメールをいただくときです。『買おうか迷ったけれど、やっぱり買ってよかった』という声であったり、『選べなかったからふたつ買いました』と言ってもらえるのもうれしい。そういう喜びを一緒に感じられる人にきてほしいですね」

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お客さんからは「ありがとう」と言ってもらえることも多いという。どうしてそんな関係性が生まれているのだろう。

「うちで扱っているモノは、すべてコミュニケーションツールだと思っています」

コミュニケーションツール。

「たとえばハンコを会社のオフィスで使うとき、名前と一緒にイラストが入っていることでちょっと笑わせたりとか、あなたらしいよねとか、コミュニケーションがはじまるきっかけになるんです。ハンコもTシャツも、見たら思わず突っ込まずにいられなくなるものが多いので(笑)」

「単に道具を買うというのではなくて、自分でいろいろな組み合わせから選んだり、実際に使ってみたら会話が生まれたりという体験があるから、感謝の言葉をいただけることが多いのかもしれないですね」

さりげなく、しかもゆるやかに毒が含まれているのもポイント。

「ちょっと毒があるものって、意外とみんな好きですよね。自分の一面を投影するのかな(笑)」と吉岡さん。

伊藤さんは、「日常に悪ふざけとほくそ笑みを」という企業理念を教えてくれた。

「ハンコをつくる作業自体は地味ですけど、それを届けた先でコミュニケーションが生まれたり、ふふっと笑顔になったり、ちょっと幸せな状態にできると思うんです」

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「人の幸せを提供してるんだよって思えると、目の前の淡々とした仕事にもきっと意味が見いだせるんですよね」

この言葉は、おふたりのノリというか、仕事に対する向き合い方をよく表しているような気がする。

いたずらっぽくもありつつ、その裏に使う人への愛情と思いやりが込もっている感じ。

形は変われど、今も根本にあるのは文化祭前日にワクワクしていたあの感覚なのだと思います。

最後に、マスコットキャラクターである「伊藤ネコ」からのメッセージを。

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興味のある方は、谷中銀座商店街のお店を一度訪れてみるのもいいかもしれません。

(2016/01/14 中川晃輔)