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うつくしい音を求めて

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

「すばらしい音を出すバイオリンを、人はただ、わけも分からず『神秘』だという。でも、すばらしい音にはちゃんと理由があります」

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そう話すのは、窪田さん。弦楽器専門店シャコンヌの創立者です。

40年、バイオリンに触れ、うつくしい音を探り続けてきました。

窪田さんのつくるバイオリンは、弦に弓が触れるとふわーっと音がでて、遠くまで鳴る。

その音は、1700年ごろつくられ『神秘』と評されるバイオリン「ストラディバリウス」と同じ音がする、と注目する演奏家もいるほどです。

楽器をつくることは音楽的な感性が必要なのかと思っていたけれど、むしろ科学や物理に近いといいます。

「『音が鳴る』という物理の法則そのものが『神秘』だから。その法則に限りなく近づくようにつくっていけば、放物線を描くように性能があがっていく。ぼくは、その法則通りになることがすごいなって思うんだよね」

今回はシャコンヌで、バイオリンの修理、販売、製作に携わる人を募集します。

特別な音楽の経験や知識はなくてもよいそうです。

なによりも「うつくしい音」が好き。そう思う人へぜひ、シャコンヌの仕事を知ってほしいです。

シャコンヌの本店は、名古屋の伏見にあります。

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向かいにある大きな公園の中には美術館や科学館があり、文化的な雰囲気のするところ。

このビルの2階にシャコンヌの保管室、3階は店舗と工房、11階にも工房があります。

エレベーターで11階へ向かい、窪田さんにお会いしました。

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シャコンヌは、40年前窪田さんが立ち上げた会社。

はじめはバイオリン製作に憧れつつも、親に迷惑をかけたくないと断念していたそうです。

そんなとき、大学時代の先輩からもらった音楽雑誌で見た弦楽器のオークションに可能性を感じます。

「楽器が好きだったから、どうしても楽器に携わりたかった。なにがなんでもディーラーをやりたいと思ってヨーロッパへ行きました」

はじめはヨーロッパのオークションで楽器を仕入れ、独学で修理し販売していた。

「最初は何も分からなかったけれど、オールドイタリーなどの名器をじっくり眺めてるうちに目がきくようなってね。状態がわるくても、いい楽器というのを見つけて安く買うことができたんです」

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1550年ごろに誕生したといわれるバイオリンは、1700年にイタリアのクレモナという地域で性能のピークを迎えます。

なかでも、アントニオ・ストラディバリのつくったバイオリン、「ストラディバリウス」は至宝といわれ、今のオークションでは一本数億円の値がつくそう。

「安くても良い楽器かどうかわかるようになったから、そういった名器でも大胆な修理もできた。壊しちゃったのもないわけじゃないよ。でも、そのおかげで情報も得られた」

窪田さんは2つのことに気がつきます。

ひとつは、ニス。

オールドバイオリンの中にはなんども修理され、当時の状態とは違っているものも。後年のニスを剥がしてみると、音がよくなったそうです。

もうひとつは、音程。

「ニスをはがしたバイオリンの板を叩くと、どこを叩いても同じ音程だったんです」

ふつうの工房では、ストラディバリなどのかたちを真似て、バイオリンの板厚をミリ単位で計り揃えてつくっているそう。

「でも、ストラディバリウスの時代にそんな道具はないはずだから、昔の名人は耳で聞いてつくってきたはずなのよ。それ以外にやりようがないし、実際にばらしてみて叩くとそうなっている」

ストラディバリのつくられた時代と同じようにつくれば、いい音がなるだろう。

そうして窪田さんは、音程でバイオリンづくりを始めます。

「ちゃんと音が似ているかどうかだよね。ついでにかたちが似てりゃあいい(笑)」

そう言っていたけれど、窪田さんたちのつくるバイオリン「シャコンヌ」は、写真でみせてもらったストラディバリウスと、形も色もそっくり。当時使われていたと思われる松ヤニを煮込んだニスを使っているそうです。

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「弦楽器っていうのは、オーケストラの主役。ソロでやっても負けないわけだ。もちろん調整が必要だけれど、良い楽器は3000人くらいのホールでやっても一番後ろまで遠鳴りする」

こんなに小さな楽器なのに、そんなふうに音が鳴るなんて不思議ですね。

「そう、不思議なんだよ。宇宙みたいな感じだね」

宇宙。

「たとえば、よくいうんだけど、月っていうのはずっと地球の周りを回っていて落ちてこない。不思議だよね。バイオリンもそういうことだと思うんだ」

「厳密につくられたストラディバリウスはなんの無駄もない。全部が利用されて、純粋な響きだけでうつくしい音がでる。それはまさに宇宙の法則のようで、この小さな箱の中でこれだけの音が鳴るのがすごいなって思うんだ」

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「そのために結局、なにやっているかっていったら、ものすごく集中しながら同じ音程かどうかを聴いて揃えていく。真面目にしつこくね」

窪田さんがつくりはじめると、社員さんたちが集中してその手元を見つめる。

窪田さんは、曲げた指の関節でコンコンコンコン、とバイオリンの板を叩く。

「ちょっとでも音が高かったら削る。叩いて高かったら削る… 同じ音になったらやめておく」

けれど、木は生き物だから、しばらくすると削ったところが酸化して硬くなる。

一旦音が合っても、また削って音を合わせる。

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「それをしつこくやるかどうかですよ。そこをしつこくしつこくやって完全に合わせていくと、純粋な物理の数式上のところにくるわけです」

きっと、とても根気のいる仕事になると思う。

「だから、うつくしい音が好きな人に向いているんだろうね。うつくしい音に『うわぁ、きもちいいな』と感動できるかどうか」

「シャコンヌでは、これ以上いい音はでないってところまで集中してやろうってぼくが言うから、社員が苦労するわけだ(笑)でも、真剣になってやれば本場ヨーロッパよりもいいものをつくれると思うよ」

ここで働くみなさんは、どんなふうに仕事に向き合っているんだろう。

3階へおりて、お話を伺うことに。

ここではバイオリンの修理、販売、製作をしています。

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手前は店舗。カウンターより奥は工房になっていて、お店に立ち寄った人でも修理や製作の様子を覗くことができる。

ここでお会いしたのは、左から小川さんと、入社3年目で副店長を任されている川上さん。

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「小学校のころから音楽が好きで、ずっとオーケストラに入っていました」という小川さんは、入社して11年目になります。

この日もちょうど1700年代のオールドバイオリンの修理をしているところでした。

だんだんと年代の古い難しい楽器の修理も任されてきたといいます。

「はじめは、技術習得するっていうのがすごく難しいです。最初はわけがわからないし、教えてもらっても、感覚的なところがわからないこともありましたね」

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「あとは、これは今でもそうだけれど、やっぱり音程が難しい。いまは窪田が削り出すところとニス塗りをしているので、我々はそのサポートをしています。新しく入ってくる人も、サポートや、最初は簡単なところからつくりはじめるかな」

技術を磨きつづける大変さのある一方で、うれしいこともあるそうです。

ハンガリーのプロの演奏家が来日したときのこと。

来日して楽器の調子が悪くなり、窪田さんのもとを訪れた。

「調整しているときに、試しにうちの楽器を弾かれたんです。そしたら気に入ってくださって、その日の演奏会で使ってくれたんですね」

小川さんが貸し出した楽器を受け取りに演奏会へ足を運ぶと、会場からものすごくいい音が聞こえてきたそう。

「お客さんが『いまの楽器なんだったんだろうね』って話しているのが聞こえてきたし、演奏家の方も『すごくよかったよ、楽器のほうからパワーをもらえた』とおっしゃってくださって」

楽器のほうから?

「いい楽器って、自分が力を入れなくても、楽器のほうがちゃんと鳴ってくれるんです。楽器がいいと、弾き手は音楽に没頭して弾くことができる。それで良い演奏になったらうれしい」

「そんなふうにクラッシック音楽全体に関わっていることは誇りですよね」

すると、隣で聞いていた川上さんもこう話してくれました。

「ぼくも入ったときシャコンヌのバイオリンの音を聴いて、この楽器はほかとはちがうと感じたことがすごく印象にのこっています。そんな楽器の一部分でも携われると思うと、出社前は毎日、すごくわくわくするんです」

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川上さんはこれまでバイオリンの修理と制作にたずさわってきた。

来春からは、全国のバイオリンの先生や学校のオーケストラなどへ営業をするそうです。

「うちの売りは技術です。音程でつくるやり方は、世界で何人かやっているんですけど、窪田のやり方が一番精度が高い。どうやってつくられているかを知ることで、営業もしやすくなると思います」と小川さん。

ふたたび、川上さん。

「ぼくはシャコンヌのバイオリンが好きなんです。同じように音のよさをわかってくれるお客さんと出会ったり、意気投合してお話できるのは、最高に楽しいときだと思います」

「とはいえ、営業に移っても技術向上を目指して、時間を見て製作するようにしています。ただ、やる気があっても、なかなか実力がついてこなくてつらいなと思うときもあります」

ときには、ガッツも必要だといいます。

川上さんは昨年イギリスの展示会に立ち、得意でないけれど英語での営業にも挑戦したそう。

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「この仕事は、常にやる気や向上心を持っていないといけないです」

その根底にあるのは、音楽が好きという気持ち。

「ぼくは小さいころからバイオリンを弾いていて、音楽がすごく好なんです。ここへは、自分の好きなことを仕事にしたいなと思って入りました」

きっとすぐにはうまくつくれないし、こつこつと長く積み上げていかないといけない。

だからこそ、うつくしい音が好きとつよく思う人が続けていけるのかもしれません。

興味がわいたらシャコンヌのバイオリンの音をきいてみてください。「好きだな」と思ったら、ぜひ応募して欲しいです。

(2015/2/22 倉島友香)