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営みに浸る町

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※こちらの求人は、予定より早く募集受付を終了させていただきました。
取材先で、こんなやりとりがありました。

「何回か取材にこられたり、大学のインターン生を受け入れたりしたこともあるんです。うちの仕事とか手伝ってもらうと、『体はすっごい疲れたけど、心が元気になったよ』とか、『東京に比べたら、ないものはないけど、こっちのほうが満たされる』って言ってくれて。いまだに遊びにきてくれたり、ご家族を連れてきたりする方もいますよ」

それはなぜだと思います?

「なんでですかね…。ずっとここにいるから、わからないんですよ(笑)。『いってもいい?』って聞かれるから、『いいよ』って言うだけなので」

P1060302 まちのなかをぐるっと紹介していただき、いろいろな方と出会うなかでも、頭の片隅には常にこの話が残っていました。

訪れる人の心を満たしているのはなんだろう。日が暮れかかるころになっても、その答えはまだぼんやりとしたままです。

結局、答えと呼べるようなものは見つかりませんでした。

ただ、あえてこの感覚を言語化するとしたら、訪れる人たちはここでの暮らしの営みに浸っているんじゃないかと思います。

遠くからきたからといって豪華にもてなすわけではなく、ご近所さんと同じような感覚で迎え入れてくれる。だからこそ、はじめて訪れる人も気を遣わずに過ごせる環境なのかもしれません。

s-IMG_7870 ここは鹿児島県・錦江町。大隅半島の南西部、先端近くに位置する人口およそ8200人ほどのまちです。

2005年に旧大根占町と旧田代町が合併してできたまちで、農業が盛んです。なかでも園芸や畜産業が主力だといいます。

今回は、このまちの地域おこし協力隊として、「移住定住促進協議会(仮称)」の立ち上げから関わっていく人を募集します。

外からの「移住」を進めるのも、ずっと住み続けてもらうための「定住」への取組みも大切。その業務は多岐に渡るため、3つの役割を求めています。

具体的には、町内外に向けた情報発信や相談対応をする「広報担当」と、移住者と地域住民が良好な関係を構築するためのサポートや、特産品・観光資源の発掘を担う「地域づくり担当」、協議会の責任者として、運営マネジメントや新規事業の立案を行う「事務局長」の3つです。

まずはここがどんなまちなのか、そしてどんな人がいるのかを知ってみてください。

羽田空港から鹿児島空港まではおよそ2時間。空港でレンタカーを借り、南に向けて進む道のりには、山と海、田畑がひたすら広がっていた。

2時間ほどで錦江町役場に到着。政策推進課課長の池之上さんにお話を伺う。

池之上さんは錦江町の生まれで、大学卒業後、すぐに役場の職員になったという。

P1060414 「もともと民間で働きたくて、銀行の内定ももらっていたんです。だから若いときはずっと後悔していましたね。なんで戻ってきたんだろうって」

「そのぼくが今は『みなさんきてよ!帰っておいでよ!』っていう仕事をしているんですからね。不思議なものですね」

この仕事を続けるなかで、大事にしてきたことがある。

「新しく入る方にも根本で忘れてもらいたくないのは、地域のみなさんを置き去りにしないこと。もっとまちのなかの人やモノにスポットを当てて、ぼくたちと一緒に、今までとちょっと違う視点から地域を元気づけてもらいたいんです」

移住定住に関する業務を主としつつ、将来的には特産品や観光資源の発掘、地域住民と移住者の交流を支援するイベントの企画運営などを通して、錦江町全体を盛り上げていく人が求められている。

「このまちにはいろんな方がいるんです。これからご案内しますね」

車に乗せていただき、まずは畜産農家の貫見(ぬくみ)さんのもとへ。

冒頭で紹介したエピソードは彼女から聞いたものだった。

P1060329 池之上さんと同じく、錦江町に生まれ錦江町に育った貫見さん。小さなころから家の仕事を手伝ってきた。

「父と一緒に黒毛和牛の繁殖を仕事にしています。普段は牛のえさやりをしたり、人工授精をしたりですね。今は親牛が25頭、子牛が17、8頭ぐらいいます」

生き物相手だと、お休みもなくて大変ですよね。

「たしかに大変ですけど、休みがないから大変って思ったことはないです。休みがあっても、たぶんなにしていいかわからないと思いますし(笑)」

驚くことに、貫見さんと同年代の女性で畜産を営まれている方も多いという。

「このあたりだけでも十数人いますね。結婚してからも続けている人もいますし、若い農家さんはけっこういます。農業が好きで、四季折々の自然が好きで、人付き合いが好きな人ならいい環境だと思いますよ」

決まった休みはまずないけれど、時間を合わせてバレーやグラウンドゴルフをしたり、終わった後に飲み会をしたり。近所の人たちみんなで参加する行事がよくあるそうだ。

s-IMG_9826 「このへんの人は、雨降りそうなときに布団干してたら隣のおばちゃんが勝手に入れといてくれたりとか、2日ぐらい顔見ないと『大丈夫け?』って心配になったりする。お年寄りの一人暮らしも多いから、そういうところはいいですよね」

「玄関先に誰が収穫したかわからない野菜が置いてあるんですよ。しいたけの季節はしいたけがたくさんきて、たけのこの季節はたけのこがいっぱい届くんです (笑)。なんかもらったらなんか返す。人を喜ばしてあげようっていう人が多いのかもしれません」

続いてお話を伺ったのは、ピーマン農家の竹下さん。

前職では広島で車の設計をしていたものの、子育ての環境を見直そうと、錦江町の実家に戻ってきたという。

P1060274 「農家には人それぞれのやり方がある。それが魅力的だなと思いました。親が今まで築いてきた輪があるなかで、ほかの農家の方にも親切に教えてもらえるので。本当にいい環境で農業させてもらってるなと思います」

この日の朝も、摘芯と呼ばれる工程について父と言い争ったという竹下さん。まだピーマンを育てて3年目ではあるけれど、正解はないから思った通りに話すそう。

もちろん、自然に対してもマニュアルは通用しない。

「一昨年は、ピーマンを植えたてのときに台風がきて。ビニールをはいで、ネットを一行ずつ全部かぶせて、ねかせて、台風が過ぎたら外して、枝を立て直す。やっぱり自然が一番やっかいですね」

「それだけに、やりがいっていうのも比例するのかなと思います」

池之上さんも、このまちの農業にはまだまだ可能性があると話す。

「本州に比べれば温暖ですし、土壌もいい。現にさまざまな作物をつくっています。一方で、農業従事者の高齢化は進み、後継者不足で空き農地が増えてきています」

「学生さんの研修を受け入れたり、新規就農者のサポート体制を整えるなどして、もっと若い人が入ってこれる環境をつくりたいですね」

s-田園 ちなみに竹下さんは、広島に勤めていたころと比べて生活の面での変化は感じますか。

「どこかに出かけるとなると遠出なので、その不便さはあるかもしれません。ただ、日常生活に必要なものはそろいますし、なによりご近所付き合いは確実に増えますよね。今子どもが2人いるんですが、上の子は広島で育てていたときの人見知りがこっちにきてからだいぶよくなりました」

「それから、保育園の運動会では親もけっこう競技に参加しますよ。父親サプライズといって、父親だけで踊る時間まであるんです。最初は子どもの運動会じゃないの?って思ったんですけど、小さいうちにそうやって親同士のつながりもできると、子どもが大きくなったときにも悩みを相談できる場もつくれるんじゃないかと思います」

地域の消防団にも入ったことで、大工さんや林業家さんなど、異業種の方ともつながりができたそう。

「そういう付き合いをめんどくさがらずに首を突っ込むほど、輪は広がっていくと思いますよ」と竹下さん。

はじめてこのまちにくる人であっても、遠慮する必要はあまりなさそうだ。

移住定住を考えている人に対してその事実を伝え、つないであげることも大事な仕事になると思う。

ビニールハウスを後にして、次の目的地へと向かう道中で立ち寄った花瀬川は、千畳敷と呼ばれる珍しい石畳を持った川。

そばには薩摩藩主である島津氏ゆかりの史跡「お茶亭跡」も残されている。

毎年夏には「やまんなか音楽会 in はなぜ」を開催、竹灯篭を並べた会場内でライブが行われ、4000人近い来場者が訪れるという。

s-DSC01516 原生林のなかに佇む神川大滝は、ものすごい迫力だった。近くには小さい子どもが遊べる遊具や茶屋もあり、まわりをぐるっと散策した後に、滝を眺めながら一休みするのも気持ちがよさそうだ。

そのうち、巨大なやぐらが目に飛び込んできた。聞くと、漬物用の大根を干すやぐらだという。

周辺の大根農家を巻き込み、これをライトアップする活動を行っているのが、宿利原地区の公民館館長である厚ヶ瀬さん。

P1060377 ほかにも、鹿児島大学の学生ボランティア団体「フリースポット」と共同で、地元の子どもたちを対象に「寺子屋塾」を開いたりするなど、錦江町のなかでもとくに活発な地域づくりに取り組んでいる。

まちからの助成を受けつつも、基本的には事前の準備から当日の運営まで、地区独自で行っているという。

「会議は月に5、6回はざらですよ。イベントに向けての準備の会とか、終わってからの反省会もあるもんだから。ひとつの行事に対して前後に集まる機会が多いですよね」

「大根農家さんも一番忙しい時期なのに、手弁当でやってくれるんです」

s-大根やぐらイベント12月中旬 (7) みなさんものすごく熱心ですよね。

「今自分たちでできることは、今の世代の人たちでやりたいなというのが一番思ってることです。高齢化が進み、児童数も少なくなっていくなかで、この地区はこんな元気があるんだよっていうことを示したいですね」

「それに、まちの進めていることも納得できることが多いし、自分たちと同じような考えを持って進めてもらえるからやりやすいんですよ」

取り組みの内容を見ると、若者との交流を積極的に取り入れているように感じる。

厚ヶ瀬さんは、昨年の夏にボランティアで訪れた学生の言葉をよく覚えているそう。

「都会の子はきっと擦れてるだろう、っていう感覚でおったんですけど。全然違ってですね。純粋なんです」

「『車の音がしない』とか、『こんな空見たことない』とか。普通に言うんですよね。自分たちにとっては当たり前になっているので、新鮮でした」

イベントで一時的に大勢の人がくるのもいいけれど、こうした何気ないやりとりのなかに、それよりもっと大事なことが含まれているのかもしれない。

s-IMG_9845 このまちの営みに共感した方は、ぜひ応募してみてください。

その気持ちから出発したのなら、これからもっと好きになっていけるまちだと思います。

(2016/02/02 中川晃輔)