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ちょっと元気を注入したいとき、ほっこりした気分になりたいとき。いつも決まって行くお店がある。
部屋に置きたくなる雑貨。手の込んだおいしい料理。お喋りが楽しいお店の人。
自分の好きなモノやコトのまわりには、同じように好きだと思える人たちがいる。その人たちとの心地いい関係が、いつまでも続いていったらうれしい。
そんなことを感じるお店に、奈良町で出会いました。
「NAOT NARA」と「風の栖」。
NAOT NARAは、イスラエルの職人がつくる革靴のブランド「NAOT」の専門店。風の栖は、奈良の作家さんがつくったものを中心に、服や小物を扱うセレクトショップです。
運営する株式会社loop&loopが、それぞれの店舗スタッフとグラフィックデザイナーを募集します。
奈良には数回しか来たことがないけど、来るたびにいつも「いいところだなぁ」と感じます。
歴史のあるまちなのに、京都のような背筋が伸びるような感じはなくて、どこかのんびりしていて親しみがある。
とくに「奈良町」といわれる奈良駅の南側エリアが好きで、人通りの多い商店街がいくつもあって、駅から離れたところにも覗きたくなるお店がたくさんあります。
NAOT NARAと風の栖があるのも、そんな奈良町。
店先にある履き古された靴と店内の小屋が目印のNAOT NARA。
もともとカフェだった建物を改装して、昨年の4月にオープンしたばかりの新しいお店です。
運営する株式会社loop&loopは、言わば日本におけるNAOTの輸入総代理店です。
スーツを着て輸入業バリバリの人たちなのかと思いきや、若くとても自然体なご夫婦でした。
代表の宮川敦さんと美佐さんです。
宮川さんたちがNAOTを輸入することになったきっかけは、美佐さんのお母さまのお店「風の栖」にありました。
もともとは、風の栖に置く人気商品のひとつだったNAOT。当時輸入販売を行なっていた会社が、突然輸入を取りやめることになってしまったといいます。
「NAOTの靴を長く履き続けて愛用している人も多かったんですけど、日本にまったく入ってこなくなってしまって。ちょうどそのころ、僕と嫁は放浪していたんです」
「放浪」という言葉があまりにも自然に出てきたからちょっとびっくり。
放浪ですか?
「20代のとき東京で知り合ったんですけど、ふたりとも夢があったんです。ピラミッドとかマチュピチュとか、行きたい場所がいくつもあって。でも会社勤めじゃ1週間休みをとるだけでも大変。一度きりの人生で、行きたいところに何回行けるんかなって。どうせ行くならいっぺんに。それやったら一緒に会社を辞めて、行こうって」
はじめはアジアを横断して、アフリカ・ヨーロッパ・南米など、世界中を約3年半旅したそう。
「それは1日1日がすごくエキサイティングで、いつ死んでもいいかなってくらい楽しかったです。けど、いよいよ4年近くもなると、旅が日常になってくるんですよ。だから逆に、日本での生活が新鮮になるんじゃないかなって」
日本で生活しようと帰国したとき、敦さんは34歳。これからのことはまったくのノープランで、奈良のとあるお店でお手伝いをはじめた。
そんなとき、美佐さんのお母さまから輸入中止となったNAOTについて相談されたそう。
「ないと困るというお客さんからの声がものすごくあって。東京の貿易会社で働いていたことのある僕に、どうにかしてくれへんって」
実は、僕はNAOTを毎日履いています。ものすごく履き心地がよくて、履き育てる楽しみのある靴です。
インソールはふかふかで、長距離歩いても全然疲れないほど。履くたびに革が柔らかくなって足に馴染んでいくし、見た目の経年変化も楽しい。すり減るかかと部分なども修理可能で、5年10年とずっと履き続けられるそうです。
「お客さんがよく冗談で言うのが『風の栖はなくなってもいいけど、NAOTの靴だけはなくさないで』って(笑)。足腰にすごくいい靴だというのは母も私も身をもって知っていたので、なんとかしてまた続けられないかなっていうのがスタートだったんです」と美佐さん。
敦さんは「起業なんてまったく意識してなかった」と話していました。困っている人たちが目の前にいて、自分たちにとっても欠かせないものだから行動してみた、という感じ。
会社を立ち上げてNAOTの輸入をはじめると、全国のお店や愛用者から問合せがあったそう。
2014年には東京の蔵前にNAOT TOKYOを、翌年に風の栖の近くにNAOT NARAをオープンするまでとなりました。
お店には老若男女さまざまなお客さんがやって来るといいます。
「前に来てくれたお客さんがご家族を連れて来てくださって。ご結婚されたカップルも、子供が生まれたら履かせたいって言ってくれたり。やっと合う靴が見つかりましたとか、この靴にしてから膝の痛みが治ってきましたとか」
「毎日そうやって『ありがとう』と言っていただけるんです。こちらこそありがとうございますっていう思いで。そんな『ありがとう』の循環の中にいることが、心地いいというか」
そんな柔らかな雰囲気はお店の中にいて感じます。
靴は置いてあるけれど、どこか靴屋っぽくない感じ。ところどころに作家さんの小物が置いてあるし、ゆったりとしたスペースもあります。
「風の栖と表現するものは同じなんです。自分たちの楽しみとか、自分たちが好きなものを表現できる場所でありたいなって」
「なので、靴だけじゃなく本とか雑貨も置くし、イベントもやる。いろんなモノのつながりや人とのつながりを大切にしようって。それはNAOT NARAでも風の栖でも一緒です」
作家さんの想いが込められた作品を置いてみたり、縁でつながったミュージシャンにライブをしてもらったり、やってみたいと思っていたコーヒー教室を開いてみたり。
どれも自分たちの好きなモノやコト。自信を持って、素直な気持ちで伝えることができる。
集まって来るのも自分たちが好きだなと思える人たち。心地いい関係が築けて、こんどは一緒に楽しいことができる。
「うちのスタッフさんみんなには、自分の好きなことを伝えてほしいと言っていて。僕たちはマニュアルがないんですよ。売る接客じゃなくて会話を楽しんでほしい。自分の好きな作家さんの作品を置いてもらってもいいです」
loop&loopでは売上目標を設定していないといいます。
数字に追われるよりも、目の前のお客さんがよろこんでもらえるようなことを一つひとつ積み重ねていきたい。
「会社を大きくするとかってあんまり考えていないんです。唯一あるのが、自分たち自身も楽しんで、お客さんに『また来たい』と思ってもらえる場にしようという気持ち。スタッフさん一人ひとりが生き生き働いてくれる会社だったり、笑い声が響くようなお店」
「そういう価値観を共有できる仲間がほしいんですよね。一従業員ではなくて、一緒にワクワクしたり笑ったりする仲間。そういうのがお客さんにも伝わって、広がっていくんじゃないかな。そんな気がしています」
お店のスタッフさんにも話をうかがってみます。
写真左から、奥口さんと西さん。
ふたりともここで働く前から履いていたNAOTの靴を通じて宮川さんたちと出会い、loop&loopに入社することになったといいます。
奥口さんの前職はシステムエンジニア。ちょうど転職を考えていたタイミングで、東京の会社からloop&loopにやってきました。
西さんは新卒入社。もともとは鹿児島出身で、高校生のころに風の栖に来たことがあったといいます。
「観光で奈良町がすごく好きになったんですよ。こんなところで住めたらなって、京都の大学に通うようになってからは、休みのたびに奈良に来ていて。就職も奈良でしたいなと思っていたとき、宮川さんがおいでって言ってくれて」
奈良町のどんなところが好きなんですか?
「京都と全然違って、ガツガツしない感じなんです。売る気がないというか、のんびりしていて、人も柔らかくて」
「なので接客もそんな感じ。この靴がいいなって素直に思っている人が、素直にいいですよって勧めているお店で。旅行に履きたいというお客さんがいたら、『あそこのお団子おいしいですよ』とか話がどんどん脱線していって、気づいたらもうこんな時間って(笑)」
「靴は結果的に売れたらって。その日お客さんが買わなくても、また来てくれたらうれしい」
そんな働き方に、西さんは「正直でいられるようになった」といいます。
奥口さんもこう話してくれました。
「素でいられるんだ、素直でいていいんだなってすごく感じました。みんなと自然に喋ったりするし、一緒にご飯も行くし。スタッフがご主人連れてきたりとか、家族ぐるみなんです」
奥口さんは、どんな人に来てほしいですか?
「言われた通りにやるんじゃなくて、自分の頭で考えて行動できる人。やりたいことを言葉にしてたら、ちゃんと実現する環境なんです。わたしもまさかここで自分が好きなグラフィックデザインの仕事ができると思ってなかったので」
「もちろん勉強は必要だし、重い靴をたくさん運んだりするような大変な作業もあります。けどここなら、自分の好きなことやしたいことができるんじゃないかなと思っています」
NAOT NARAを後にして、こんどは近所にある風の栖へ。
お店に入ると、美佐さんのお母さまが迎えてくれました。
「もともと染めと織をやっていたんです。陶芸も趣味の域で10年くらいやっていて。ずっといままであたためてきたものをここで表そうと思って、お店をはじめて」
長年のつながりのなかから、手づくりの洋服や奈良をはじめとしたさまざまな作家さんの作品を置いているそうです。
風の栖でも音楽ライブをしたり、3ヶ月に1回マルシェを開いたりしているそう。
「お客さんは女性が多いかな。ここからNAOTのお店に行ってくださったり、その逆もあって。近いので両方来てくださる方がいっぱいいますね」
風の栖スタッフの谷口さんは、NAOT NARAでも風の栖でも、お客さんとの接し方に違いはないと話していました。
お店にあるのは、自分も好きで大事にしたいと思えるモノ。いいと思うことを素直に伝えて、一緒に共有できたら自分も楽しい。
「いい方に来ていただいて、一緒に楽しい場にしていけたらいいです」
お店の居心地はいいし、気になるものがいくつもある。取材を終えてからも、ついつい長居をしてしまいました。
ああ、好きだなぁと思えるモノやヒトたち。
そんな環境が、ここにはあります。
(2016/2/6 森田曜光)