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「世界に向けて日本の木工家具を発信する」そんな想いを胸に、高度な加工技術と職人の熟練された手仕事で、日々ものづくりを続ける会社があります。
創業から今年で88年目を迎える、株式会社マルニ木工です。
近年では、デザイナーの深澤直人さん、ジャスパー・モリソンさんとともに新ブランド「MARUNI COLLECTION」を立ち上げたり、ファッションブランドのminä perhonenとコラボレーションしたりと、ものづくりの幅をより一層広げています。

新たに生み出して届ける仕事と、時間が経ってそれを直す仕事。どちらを希望するにしても、まずは両方の仕事について知ってもらえたらうれしいです。
取材に訪れたのは、茨城県にある坂東工場。東武野田線の愛宕駅から車で10分ほどに位置するこの工場では、木工家具の修理を専門に行っている。
先にお話を伺ったのが、企画部部長の土井さん。大学卒業と同時にマルニ木工に入社し、6年間の営業を経て、現在は主にイベントや新製品のお知らせなどといった広報業務を担当しているという。

無印良品やFrancfrancなど、小売店では一部海外に進出しているブランドもある。けれど、メーカーとして名前の挙げられる会社って、たしかにないのかもしれない。
そんなある種の危機感から、10年ほど前に本格的に海外へと進出しはじめたマルニ木工。深澤直人さんの手がけた「HIROSHIMA」シリーズが高い評価を受けるなどして、今では27カ国40店舗で取り扱われるまでになった。

けれども、営業担当は2名+アシスタント1名。世界各国を飛び回るには限界がある。
「展示会の案内や新製品の発表にしても、メーリングリストにメールを発信して終わりでは、あまり意味がない。より日常的に、世界各国のメディアの方々とコミュニケーションがとれるような環境をつくっていきたいんです」
過去にも、Wallpaper*やMONOCLE、FRAMEなどのグローバルな情報誌に取り上げられたことで、著名な設計事務所や個人のお客さんからの問い合わせはあったそう。
これをもっと継続的で、深いつながりにしていきたい。
「たとえば、どこかの出版社の編集長に対して、『この企画を取り上げてくれないか?』とメールでアプローチできるぐらいには今後していきたいですよね」
となると、やはり英語は必須でしょうか。
「そうですね。TOEICでいえば、730点以上は必要だと考えています」
「あとはタフさも重要です。時差の問題もありますし、海外の方とも前向きに、しっかりとコミュニケーションをとっていける方にきていただきたいです」

他業種で、海外広報の経験がある方はどうでしょう。
「それは人によると思うんです。インテリア業界の雰囲気もあるし、前職の経験が邪魔をしてしまうこともある。経験をうまくこの仕事に結びつけるのもその人次第だと思うので、出会った人によりますね」
その人の経験次第では、Webサイトのリニューアルなどをやってもらうこともあるかもしれない。
とにかく広報業務は多岐にわたるので、入ってくる人に合わせてやることも変えていきたいと考えている。
「今ここにない役割なので、ひとつひとつ一緒に考えていきたいですね。やりがいのある、面白い仕事だと思いますよ」

「ぼくらはあくまでメーカーなんです。小売店さんはトレンドに乗って商品を変えることができますけど、我々は自分たちの商品しか売れないので。そこが小売店さんとの大きな違いですね」
「うちのよさをどこまで深掘りしてアウトプットしていくか。その想いやプライドは、つくる人も売る人も、広報の人も事務の人も、みんな一緒だと思うんですよね」
続いて修理工場の仕事についてもお話を伺います。
海外広報を希望する方であっても、この先はぜひ続けて読んでみてほしいです。
新たに生み出して広める仕事も面白いけれど、一方で何十年と使われた家具を直し、再び使えるようにする仕事があることも知ってもらいたいからです。
きっとそこまで含めて、マルニ木工の目指す「100年経っても『世界の定番』として認められる木工家具づくり」なのだと思います。
この坂東工場の責任者を務めている井上さんは、もともとカヌーの選手だったという。
「マルニは昔、カヌークラブを持っていて。わたしはここでカヌーをやろうと思って入ってきたんです」

その後カヌークラブは廃部という形になってしまったけれども、その延長線上ではじめた修理の仕事も面白かった。
「やればやるほど奥が深いんですね。生産はある程度ラインで管理されていたりもしますが、こちらは毎回違う状態のモノが届いて、それを直すんです。その面白みにはまってしまい、今に至ります(笑)」
同じ型の家具でも、損傷のある箇所や度合いはそれぞれ異なる。

「それでもなるべく残せる部分は残すように、その都度考えながら工夫して直すんです」
一個一個状態が異なるから、機械で自動化することは困難だ。
手仕事の複雑さが、きっとやりがいにもつながっているのだろう。
「ただ、それをやりがいだと感じられるまでにはかなりの時間が必要だと思います。一人前になるには、おそらく10年はかかりますね」
10年も。
「ひとつの工程で、ですよ。ファブリックの張り替えでも、木部の塗装でも。もちろん、まったく無知の状態からでも大丈夫です。手取り足取り教えるので、経験の有無は問題ありませんが、まずは目の前の作業に向き合えないと厳しいかもしれません」

過去にはここで修行を積んで、自分で家具づくりの工房を持ちたいという人もきたけれど、やりたいこととマッチせずに結局やめてしまったという。
決して単純な作業ではないけれど、まずは教わったことを素直に受け止め、手を動かしながらとことんまで突き詰める情熱と根気強さが必要な仕事だと思う。
実際にどのような作業工程があるのか。ここで、現場を見せていただくことに。
工場の内部は、各工程ごとにエリア分けされている。
家具をパーツごとに分解するエリア、木部の傷を研磨するエリア、塗装するエリアというように分かれていて、各エリアに担当の職人さんがいる。

広々とした倉庫に、オーダー表の貼られた修理前の家具がずらっと並ぶ光景はなかなか迫力がある。近づいてみると、たしかにどれも損傷の具合や箇所が異なっていて、それぞれの歴史を歩んできたことを感じさせる。

そう言って井上さんが指差した先には、段ボールでできた大量の型紙が。

ひとつひとつの工程を習得するのにかかる10年という時間は、簡単には想像がつかない。
けれど、それぞれのプロの仕事を目の当たりにしたおかげで、思わず納得してしまった。
「やっぱり調和は大事ですよね」
調和。
「ひとりの能力がどれだけ優れていても、完成はしないんですね。みんなの気持ちをひとつにしないと、作業がうまく流れないんです」
毎朝のショートミーティングで全体のスケジュールを共有し、各担当部署内でも作業の進め方についてよく話し合う。
ホテルやレストランから大量の家具が搬入されたときでも、うまく工程を組み、予定通り家具が組み上がっていくのが面白いと井上さんは話す。
一通り回り現場を終えて先ほどの部屋に戻ると、こんな話もしてくれた。
「修理のオーダー表に、『これは子どもが小さいころにつけた傷だから、消さないでほしい』っていう注釈が入っていることもあるんです」
傷をあえて残すんですか。
「お母さまから譲ってもらったものであったり、亡くなった方の形見代わりに使われてる方もいらっしゃいますしね」
修理の仕事と聞いて、そこまでは想像できなかった。
「修理品には、新品と同様、もしくはそれ以上の価値があると思いますよ」と土井さん。
「以前は営業担当だったのでわかるんですが、お客さまからアンケートの返信があるんですね。そこには、『修理していただいたおかげで、再び我が家に迎え入れることができます』というようなことが書かれていて。モノというより、まるで息子や娘のように扱う方も多くいらっしゃるんですよ」

自分たちのつくったものを届け、大切に使ってもらう。時間が経ったら修理して、また使えるようにする。代々引き継がれていくことによって、味わいが増していく。
そんな循環が世界に広まり、100年後も続いていてほしい。
マルニ木工の家具を広める人、届ける人、直す人。
それぞれの立場から支える人を募集しています。
(2016/2/22 中川晃輔)