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こどもはどんなふうに育つのだろう。笑ったり、歩いたり、おしゃべりしたり。教わらなくても、お母さんや周りの大人たちのまねをしながら覚えている気がする。
「小さい子ってなんにも分からへん、ってよく言いますよね。そうではなくて、小さいからこそ、よく見て吸収しているんです」
触れるもの、見るもの、食べるもの。それに聞いている言葉や一緒にいる人まで。
こどもにとってほんとうに大切なことはなんだろう。
そんなことを考えて、理想の環境をつくってきた人たちがいます。
岐阜県・瑞穂市にある清流みずほ保育園をたずねました。
今回は、保育士を募集します。
保育士の資格があれば、経験はなくてもいいそう。もしも今までのやり方に疑問を感じていたり、もっといい幼児教育を探していたら、ぜひ読んでみてください。
名古屋から最寄りの穂積駅まで電車で25分。そんなに街から離れたという感じはないけれど、梨や柿の畑がひろがるのどかなところ。
車で10分ほど走ると、赤やピンクの色をした木造のたてものが見えてきた。
おなじ敷地にあるのは、3つの園。
「清流みずほ幼稚園」と、0から5歳児をあずかる「おひさま保育園」。そして赤い建物が今回募集する「清流みずほ保育園」。こちらは、0から2歳の子が通っています。
保育園の中へ入ると、とても静か。木造でつくられた園内にまっすぐな廊下はなく、通りすぎる先生たちはピンクのエプロンをしていた。
ここはどんな保育園なんだろう?
はじめにお会いしたのは、理事長の加納先生。先生でもあるけれど、禅宗のお坊さんでもある方。
「大学では仏教を修めていたのですが、そこでドイツの教育法のひとつであるシュタイナー教育に出会いました。こういう世界は夢があるな、と卒業と同時に母の運営する幼稚園へ入りました」
ところが入ってみて驚いたことがあったそうです。
「当時の園は、教育の中身が“園のため”であることが多かった」
園のため。
「地域のなかの幼稚園や保育園は、こどもの入園をねらってなのか、教育の中身を揃えてしまいがちなんです」
「たとえば、運動会の鼓笛隊。園としては華やかにみえるので、親御さんの印象はいいんですね。けれどその裏側では、徹底的に練習させ、こどもが円形脱毛症になってしまったりする。幼児期にこういうことは必要なの、と思ったんですね」
ほんとうにこどもの成長をサポートしてあげられるような考え方を見直そう。そうして焦点をあてたのが“シュタイナー教育”だった。
創始者であるお母様の美智子さんが、まず取り入れてみた。加納先生は本場ドイツでシュタイナー教育を勉強し実習を積んだ。
そしてひとつの結論に至った。
「教育の理論に国境はないです」
「ただ日本には日本の伝統文化、民族、宗教性という違いがありますから、そのまま使うのでは日本人に合わない。そこで、シュタイナー教育をベースに日本の伝統文化と融合させた“リーベリースタイル”の構想を12年前にうちだし進めてきました」
こどものための物的・人的な環境と、健康な体や意志力、想像力が育まれるような保育プランを実現しようと続けてきた。
鼓笛隊をやめるのに10年かかったそうだけれど、隣接する清流みずほ幼稚園ではじめたこの教育は話題となり、市のほうから「保育園もやってもらえないか」と依頼をうけた。
早速、保育園の現状を知るために視察にいくと、ひどい状況を目の当たりにしてしまった。
「ちょうどミルクの時間で、ベッドに8人くらい並んだ赤ちゃんに、保育士が哺乳瓶をぶらさげるように入れていくんです」
「ぼくは視察をお願いした立場だったんですけど『動物じゃないんだからちゃんと抱っこしてやりなさい』と言ってしまって。園長先生がでてきて、『視察に来て文句いわれる筋合いはねえ、でてけ!』と言われて『出てくわ!』って喧嘩してでてきたんです」
やるからには最高の保育園をつくろう。そうして清流みずほ保育園ができた。
「ここは第二の家庭のように暖かく、そして安全であることにこだわりました」
防腐剤のはいっていない県内の間伐材木でつくられた建物、体にふれても安全な天然素材のクレヨンや粘土、オーガニックのおやつやごはん。
ほかにも、五感で感じるものを大切にしているため、おもちゃは天然素材でできているし、カーテンや先生のエプロンはピンクの色が使われている。
「あとは、じっさい携わるのは人間です。保育士がどんな保育をやるかでこどもの成長は変わります。だから、うちは先生も非常に穏やかで、よほどのことがない限りこどもたちを怒鳴りません。先生が穏やかだとこどもも穏やかになっていくんですよ」
「こどもの笑顔みたら裏切れん」という加納先生は、何年もかけて教育環境を変えてきた。
幼稚園では、やり手のいないPTAではこどものためにならないと廃止した。保育園でも、できる子に答えを言わせるような保育参観をやめ、“保育参加”のかたちをつくった。これは普段のこどもの様子が見られるよう、お母さんが「お母さん先生」として保育園で1日お手伝いをするというもの。
こどもにとってほんとうに大事なことは何かを考え、「当たり前」にとらわれずに進めていく。
その姿勢を長年みてきた園長の服部先生にもお話を伺いました。
先生からは、ゆっくりとやわらかい言葉たちがでてくる。
「先代の美智子先生がシュタイナー教育をはじめられて、『未来を担うこどものためにこれしかないと思ったから』と言われたとき、あっ、と思ったんです。やっぱりトップの柱が最後までぶれないというのは、ついていくほうも安心だし、こどもや保護者のためにすごくいいことだと思います」
40年前に美智子先生の経営する幼稚園に入り、10年ほど前から清流みずほ保育園で働いています。
「わたしもルドルフ・シュタイナーってどんな人だろうというところから研修で学びました。いまでも完璧にはわからないけれど、こどもを急かしたやり方だけはしたくないと思っています」
「もうひとつ気をつけているのは、小さい子は見ているということ。」
見ている?
「2歳、されど2歳なんですよ。たとえば、お部屋に手を後ろにして歩く先生がいると、まだ小さくて平衡感覚がとれないような子が、まねして手を後ろにして歩く。すると、転んだときに頭からぶつかる」
「そのくらい、こどもは自分のすべてを見ているんですね。あまり難しく考えてしまうと困るんですけど、やっぱり自分が保育士であるという自覚はしっかりもってほしい。こどもにとって保育士は第二のお母さんだし、ここは第二のおうちのような、気を許せる場所でありたいなと思っていますね」
自分の言動に気を配ったり、小さなこどもを見たり。まずは大人自身に余裕があるといいのかな。
「そうですね。この仕事はのんびりしているように見えるけれど、やはり0、1、2歳の小さな子ですから、わりと神経は使うんですよね。だから、できるだけ時間には帰ってもらって、今日はデートだわ、っていう日があってもいいんじゃないかなと思うんです」
「そのためには、時間をどういうふうにつかったら帰れるかを考えてほしいかな。うちは、私がのこっていてもみんな帰っていきます。自分の仕事をこなせば、わたしはそれでいいと思います」
ここで、他の園を経験してきたという、おひさま保育園の吉野園長先生にお会いしました。
吉野先生は、別の幼稚園からここの系列の園へ来て10年になる。入ってみてどうですか?
「はじめ来たときは、前の幼稚園と違うので違和感はありました。ただ、前の幼稚園の仕事やこどもの教育に関して疑問をもっていたところがあって」
疑問?
「いちばんは、絵の描き方でした。市展に何人入選させる、というところに重きが置かれていたので、市展に向けて描くときは先生の指導がどんどん入っていくんですよ。でもそれって、いくらやってもこどもは全然楽しくなさそうなんです」
実際、同じような絵が同じようにできてしまい、どのクラスの先生の絵かすぐわかるほどだったそう。
「もうちょっとちがう教育の仕方はないのかなと思ったとき、ここのシュタイナー教育を知って。来てみると、こどもたちの絵が誰にも教えられていない絵なんですよ。へたとか上手いとかではなくて、のびのび描いているんですね」
「うちの子たちはたぶん『上手だねー』って友だちの絵をほめながらも、みんな自分がいちばんうまいと思っている(笑)だから私たちもなにかを伝えることはしないです。伝えたければ、先生自身が描く。素敵だなと思えば真似するし、思わなければ自分で描く。どの子にも絵の道への可能性をのこしてあげられるのは、いいなと思います」
お話を聞くうちに、どんなこどもたちがいるのか気になった。
0、1、2歳のこどもたちはお昼寝をしていたので、3、4、5歳のお部屋をみさせてもらうことに。すると、何人かのこどもたちが集まり、お絵描きをはじめた。
「これがみたかったんです。だれも『自分はへただから』と隠さないで、描きたい子は描く。だれがへたとか上手いとも言わないんです」
ふと、吉野先生がこどもをぎゅっとして何かを話していた。
「わたしが前にいっていた園では、先生がピーって笛を鳴らして『みなさーん、集まってくださーい』って言うんです。でも、ここは言わないんですよ。なにかをしてほしいときは、こうやってそばにいってふつうの会話でちゃんと話ができるんです」
先生方の接し方が、こどもの反応にもあらわれているように思います。
吉野先生は、どんな人と働きたいですか?
「こどもを大事に思ってくれる人がいちばんかな。こどもに言うことを聞かせて静かに遊ばせるのは、かんたんにできることなんです。でも、それはこどもにとっては相当窮屈なこと。こどももひとりの人間として見つめられる先生というのは、魅力的ですね」
シュタイナー教育について詳しくなくても、研修やドイツの視察など学ぶ機会は用意されているそうです。
気になる方はぜひ一度、訪ねてみてください。
こどもを想い、ほんとうに大切なことを考え学びたいという方にぴったりの環境があると思います。
(2016/2/8 倉島友香)