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「アイデアはぼくたちとお客様のどちらかが一方的にもっているというわけではないんです。話していくなかで、ぼくたちとお客様とのあいだに『こういう方向で』みたいなものが立ち上がってくる。ぼくはそこが未来だと思うんです」そう話すのは、株式会社ルーツ代表の今津新之助さん。
立場を超えて、人と関わる。そこから未来が生まれていく。
沖縄・浦添市にある株式会社ルーツは、そんなふうに可能性をみつけていく会社です。
たとえば、離島で継続できる仕事をつくったり、地域でつくられた商品のブランディングをしたり。
「こんなことを思っているんだけど、できるかな」というような、いろんな相談が舞いこむそうです。相談いただいたら自分たちだけで考えるのではなく、いろんな人たちと一緒になって考えています。
今回は地域コーディネーターと、ルーツの活動を裏方として支える総務・経理のスタッフを募集します。
飛行機で那覇へ飛び、那覇空港からモノレールとバスを乗り継いで一時間ほど。バス停からすこし歩いたところにルーツはありました。
迎えてくれたのは、代表の今津さん。
この日はとくに忙しかったよう。
すこしの間待っていたのだけれど、「なにか不自由はないですか?」とお茶やサーターアンダキーを出してくれた。
相手の気持ちを尊重してくれる姿勢がとても印象的でした。
仕事が落ち着いたところで、話をうかがいました。
「ぼくは思春期のころに、思いがけない病気にかかりました。それがきっかけになって、幸せや豊かに生きることってどういうことなのか考えるようになったんです」
「自分一人でできることは限られている。だけど、人のもっている可能性を伸ばし、より良い社会づくりに生かすことができれば幸せなんじゃないかと思った。それぞれに合ったいろんなやり方で輝いていけるような社会をつくっていけたらと思ったんです」
まずは自分自身がそういう人生を体現しよう。そう思ったのがはじまりだったと言います。
「若い人たちは、パワーに満ち溢れていると思います。そのパワーをもっと社会に活かしていく機会をつくれればいいなと思ったのが、ルーツを立ち上げたときの想いでした」
「あるとき、ある島の海人(うみんちゅ)と出会って。すごく人間的な魅力のある人で、生きるっていうことの見本のような人だったんです」
「親しくなるなかでこんな話を聞いたんです。自分の息子や娘に『島に帰ってこい』ってよう言わんねんやって。聞くと『島には仕事がないし、島での生活は厳しいところもある。でもオレはこの島が好きなんや。どうしたらええんやろな、新之助』って。そのとき、この人のために何か力になりたいって思ったんです」
この海人との出会いがきっかけとなって、地域の相談ごとに応える「地域コーディネート」のお仕事が生まれた。
今では、沖縄の離島を含めて、さまざまな地域から相談がきているそうだ。
具体的には、どんな仕事なのだろう。
地域コーディネーターの平田さんを紹介してくれました。
平田さんはもともと地理学、とくに離島が好きで、卒業論文の研究のためにトカラ列島を訪れていたことが転機になったそうです。
「トカラ列島で、生まれた島のために特産品をつくったり、島を研究する70歳の方に会ったんです。その人のやっていることが、すごくカッコよかった。将来こんな仕事ができたらいいなと思っていたんです」
就職の決まっていた会社に入社したけれど、ひょんなことから島のおじいさんを思い出した。いろいろと調べているうちにルーツを知り、地方での営業を経験したのち入社。
「ひとつの地域に住んでどっぷりつかることは、自分には難しい気がして。けれど、ルーツのような関わり方でも地域をサポートできるんじゃないかと思ったんです」
平田さんは昨年から1年ほど伊是名島の観光コーディネーターの育成にたずさわっているそう。
どんな相談だったんでしょう?
「伊是名島出身の尚円王(しょうえんおう)という琉球王国の王様がいるんです。その王様は1415年に生まれて、今年で600年。それにちなんで伊是名島では、生誕600年祭で島おこしの事業をしようということになっていました。それで『観光案内できる人を育てていきたいんだけど、どうしたらいいかしら』という相談を役場担当者から受けたのがきっかけでした」
「話をききに伊是名島にいってみると、600年祭の一回きりのイベントで終わらせるのはもったいないと思いました。もちろん担当者もそのことは分かっていたのですが、行政の事業として予算も期間も決まっているから、長期展望と結びつけられずに困っていることがみえてきたんです」
お金や期間のことは一旦置いて、「そもそもどうしたかったのだったっけ?」と一緒に状況を整理する。「そもそも」を明らかにしてから、現実と擦り合わせていく。
平田さんが注目したのは、島の民泊事業だった。
「ガイドが一人増えても産業として続いていかないんです。それよりも、島の人たち自身が旅をコーディネートできるようになるのがいいんじゃないかという方向性が見えてきました。70軒近くある民泊の人たち自身が観光コーディネーターとしてスキルを高めていけたら、島が盛り上がっていくんじゃないかと思ったんです」
そして、島の観光振興をカタチにするために、観光地として地域プロデュースの実績あるプロの方をこのチームに招き入れた。
「島の人とぼくとプロの人と。島を歩いて、おもしろいものを見つけて、島の魅力を再発見していきました。ぼくが間に入ることで、プロが教える・プロから教わるという関係を超えて、プロの方とともに取り組むというフラットな関係がつくれるように意識していました」
この事業を楽しんで進めているうち、島の民泊を自分もやってみようと考える人が増えてきたそうです。
「今年の2月に、お客さんを案内するツアーとシンポジウムを開きました。『いままでの島おこしは続かなかったけど、今回のは島の誰々さんが楽しそうにやってるから気になって』と言って来てくれる人もいて。少しずつ広まっている感じがしますね」
島の人にとって島おこしは「行政がなにかやっているなあ」と遠巻きになりがち。
けれど平田さんたちが一緒になって楽しんでやっていると、島の人にも伝わっていく。
とはいえ、地域コミュニティに入っていくことは、デリケートな部分もある気がします。
「そうですね。地域には、その地域ならではの事情が必ずあります。ただ、そのことに地域の人たちも目を向けてこなかったわけじゃないし、よそ者が気づいたとしても、上から目線で教えようとしても地域の人たちのやる気にはつながらない」
「その地域にとって最適なことを、その地域の人と一緒に考えるようにしています。必要があれば、外の人も呼んでくる」
まったく同じ地域はない。だから地域ごとに新しい知識を吸収したり、自分が変化していくことが大事になるように思いました。
地域の人と関わっていて、うれしいこともあるそうです。
「この夏、島の600年記念シンポジウムが有名な歴史家やアーティストを招いて開催されたんですけど、ぼくにその司会をして欲しいと島の人に頼まれたんです。信頼関係を感じて、すごくうれしかったですね」
「ルーツで仕事をしていて、すごくワクワクすることが多いんです。そもそもの目的ってなんでしたっけ、みたいなことが話せて、こういうふうにやりたいんだよね、っていう話をきいて、一緒に考えて。未来はこんなふうに良くなっていくんじゃないかって、ワクワクするんです」
もうひとり、会社とともに変化してきたという方を紹介します。
もともとは経理・総務を担当していて、いまは地域コーディネーターの仕事をしている西野さんです。
自然体でお話ししていて、明るい気分になる方です。
西野さんの生まれは北海道。日本をもっと知りたいという思いから、大学進学の際に沖縄に来ました。
「ルーツの仕事は、“あいだの存在”であることなのかなと思います」
あいだの存在?
「たとえば、会社さんのなかで上司と部下が思っていることを、お互いに話し合えるようにしたりとか。そのために、現状はどうなっているのか一緒に整理したり」
「違う立場の人がお互いに話せるような土台をつくる。そして、どんなことがしたいか、どんなことができそうかを一緒になって考えていくんです」
相手の気持ちに寄り添い、お互いが気持ちを伝えられるような“あいだ”になる。
いろんな考えや想いがあるから、想像をめぐらせられるといいのかもしれません。
「相手と話すなかで生まれたアイデアを実現しようとするときに、今までやったことがないことをすることが多いんです。ルーツとしての軸は変わらないんですよ。でも毎回新しいことをやることになりますし、はじめてのことだからって『できない』とは言わないです。相談をいただいたら、まずは一緒に考える」
地域コーディネーターは、地域に住む方はもちろん、行政の方、NPOや企業、外部のプロフェッショナルなど、関わる方がたくさんいる。それぞれへの対応力も求められるそうです。
人との関係づくりが大切になりそう。気をつけていることはありますか?
「杓子定規なやりとりを重ねるよりも、踏み込めそうだなとおもったら距離を縮めて本音で話ができるように心がけています。ビジネスライクじゃない感じですね」
人好きな人だと楽しめそう。
「そうですね。あとは、惚れっぽい人とか」
「うちのメンバーはみんな、けっこう惚れっぽいと思うんですよ。あそこの社長が素晴らしい!とか、伊是名が面白い!とか。そういうふうに好きになるから、もっと知りたいとか、なにか力になりたいと思うんじゃないかな」
聞いていた今津さんが、続ける。
「地域や人との関わりのなかで、僕たちは学び続ける。学び続けることによって、僕たちは変化し成長し続けることができます。だから僕たちは関わり合いを通じて、自分と他者、そして未来の可能性を拓いていくのだと思います」
学び続けること。変わり続けること。きっとその感覚は、ルーツにある仕事ならすべてに共通しているのだと思います。
人と人との間に生まれるあたらしい未来や、自分の可能性。いろんなことが花ひらいていくご縁が、ここにはあります。
(2016/2/17 倉島友香)