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「メディアで紹介されるとき、『日本の製造業は大丈夫か?』とか、『不況のなかでがんばる製造業』みたいな前置詞が絶対につきますよね。あれをなくしたいっていうのが、ひとつのモチベーションなんです」正直なところ、取材前の頭のなかでは、自分も似たような前置詞をつけていました。
逆境に立ち向かいながらもなんとかここまで続けてきた人たちの熱いエピソードを、どこか思い描いていたような気もします。
けれども、今回お会いした方々はもっと軽やかで柔軟に、それでいてぶれずに、いいものづくりを追求する姿勢が印象的でした。
主に医療機器や航空宇宙関連の部品を製造している株式会社由紀精密。今回は設計開発担当を募集します。
一見ハードルが高そうに感じられますが、基礎教育を受けたことのある人であれば大丈夫とのこと。
夢のある、由紀精密の仕事を紹介します。
東京から東海道線と相模線を乗り継ぎ、1時間ほどで北茅ケ崎駅に到着。そこから線路沿いに10分ほど歩くと、由紀精密の本社が見えてくる。
階段を上がり、玄関を入ったところで迎えてくれたのが代表の大坪さん。
由紀精密は大坪さんの祖父が創業した会社で、その3代目社長にあたるという。
前職では、ものづくり系のITベンチャーに勤めていたそう。
「社長の下で新しいプロジェクトをおこしたり、M&Aで他社を買収して改善するコンサルティングも経験できて、面白かったんです」
「けれど蓋を開けてみたら、実家の会社は今にも倒産しそうで、本当に悲惨な状況だったんですね」
なんとか由紀精密を立て直そうと、前職に区切りをつけて戻ってきた大坪さん。
まず取り掛かったのは、お客さんにアンケートをとることだった。
「なぜ仕事を発注してくださっているかというと、みなさん『品質がいいから』とおっしゃる。そこで、『品質』を活かせる航空業界に進もうという話をしました」
「航空機は部品の数が少ないので、ロットの少ない部品づくりに対応したり、品質管理の仕組みを見直し提案するなどして、信頼を得ていきました。今では大手の旅客機メーカーにも多くの部品を納入しています」
さらに、舞台は宇宙まで広がっていく。
気象情報を観測する超小型人工衛星の筐体製作や、「スペースデブリ」と呼ばれる宇宙ゴミを掃除する大がかりなプロジェクトにも携わるように。
メッセージを載せたタイムカプセルを月面に届ける「ルナ ドリームカプセル プロジェクト」では、シンガポールのアストロスケール社とともにプロジェクトを進行。カプセルの設計・製造を行い、キッズデザイン賞の内閣総理大臣賞も受賞した。
また、パリ航空ショーやMIDESTなどといった海外の展示会にも積極的に出展。
フランスには子会社を設立し、日本と欧州とをつなぐ存在になろうとしている。
「日本の技術を持っていったり、あっちから日本の技術に興味のある人を連れてきて、いろんな人と会ってまわったりとか。そういった架け橋になるようなビジネスをやっています」
このほかにも、医療機器や機械式時計、国産旅客機のMRJなど、身近なものから専門的なものまで幅広い分野のモノをつくっている由紀精密。業績は右肩上がりだという。
倒産の危機からここまで立て直せた要因はなんだったのだろうか。
「自社にデザイン・設計の部門を持ちつつ、ものづくりの現場も抱えているというところですね。この本社の1階は製造現場になっています。そのほうが、一貫したものづくりができると思うんです」
大手メーカーの場合、デザイン・設計後の製造段階からは外注することが多いし、量産しない1点モノは効率が悪いので、そもそも手をつけない。結果として、高い技術を持つ由紀精密のような中小企業が重宝されるという。
選ばれる理由は、きっとそれだけではない。企業理念にあふれる想いを感じる。
「『普遍的価値を追求する』というのが、うちの理念なんです。その場しのぎではダメで。脈々と続く文化のなかで培ってきた信頼ややり方、能力を伸ばし、時代を問わない、いいものをずっと追求していきましょう、ということです」
「イノベーションのジレンマという話がありますよね。突き抜けると、周りのニーズに合わずに、結局ダメになってしまうと言う。でも、ぼくはそうは思わなくて。ニーズを自分たちでつくり出せばいいと考えているんです」
ニーズをつくり出す。
「突き抜けたものをつくったなら、それを活かす方法を考えて、さらにまだ世のなかにない周りのものもつくって、使えるようにすればいい。そうすれば逆に、誰にもつくれないものができあがるんですよ」
宇宙のような無人の極限環境で扱う部品は、市場としてはニッチかもしれない。けれども、その分野でこそ基礎技術の高さが活かせるし、誰もやったことがないことこそ、培ってきた信頼があるから任されるのだと思う。
突き詰めた技術を活かす方法のひとつは、デザインの力で伝えること。
ここで、由紀精密のデザイナーを務める前川さんにもお話を伺う。
前川さんは、自社のロゴやWebサイト、グラフィックやプロダクトデザインを担当する以外にも、他社へのコンサルティングや、デザインに関する諸々のサポートを行っている。
むしろ、現在は他社へのアプローチがほとんどだそうだ。
「技術はあるけれど、デザインのリテラシーはあまりないという中小の工場や製造業社からの依頼が多いですね。こうしたい、ああしたいという想いを聞いて、それに対してどうするかというステップを考えるところからはじめます」
「たとえば会社のロゴマークをつくりたいとか、会社のCI(コーポレート・アイデンティティ)を考えたいとか。ホームページに載せるビジュアルを一緒につくりたい、とかですね。言葉の定義からはじめたりすることもありますし、それぞれのプロセスはお客さまによって異なります」
こうした外部からの受託の仕事は、それまでデザインの視点がほとんどなかったところから、対話しながら構築していく面白さがあると話す前川さん。関わるお客さんの業種も様々だ。
基礎知識を押さえておくことに加えて、相手の言わんとすることを汲み取る力が必要になる。
「デザインって、うまくいかないときに理由をつけたくなるんですよ。予算が足りないとか、お客さまがどうだとか。でも、そのなかでやるのが仕事だと思っています」
「言い訳しないで素直に向き合うことが大切です。素直に話を聞きつつ、アウトプットで切り返す。合気道のように相手の力をうまく引き出して、一緒に少し高くジャンプするような姿勢が大切ですね」
それは今回募集する設計開発担当者にも言えることだと思う。
開発部部長の永松さんは、もともと大手のメーカーで設計をしていた方だ。
「開発のほうでは、まず仕様の相談をうけ、それを実現するためにはこういう機械をつくればいいのでは?という提案をして、設計からモノを納めるまでの一連の流れをやります」
「『ソフトウェアや通信技術は熟知しているけれど、実際にどうやって箱におさめたらいいのかわからない』ですとか、『極限環境、無人環境に耐えうるモノを効率よく、安くつくるにはどうしたらいいか』というような相談が主ですね」
形のないところから、形あるモノをつくりあげるのは難しい。納期や予算の見積もりを立てるのも永松さんの役目だというが、当初の想定を超えてしまうこともときにはある。
過去に超小型人工衛星のレプリカをつくったときには、その場にいた全員で協力して組み上げたこともあるという。
基本的には、納得いくまでじっくりやってみようというスタンスだそうだ。
「みんな楽しんでやっているんですよね。たとえ赤字になっても、それが顧客満足につながっていたりしますし、自分たちの糧にもなるので。そのときに考えたことは、次からも使えるんです」
「ここだとお客さまの顔がはっきりとわかるし、使ってみてどうだったかっていうフィードバックが返ってくるんですよ。これは設計者としては一番嬉しいことですね」
一方でプレッシャーに感じることも。
「一発でいいモノを出さなきゃいけないっていう感じはあります。大手はまず社内をクリアするのが大変で、世に出るまで時間がかかるんですよ。その点、ここは人数も少ないですし、ひとりひとりが考えてすぐにアウトプットしなきゃいけない場面も多いです」
とはいえ、前提となる経験や知識のハードルは高くないらしい。設計スタッフ4名のうちふたりは高専出身、永松さんともうひとりの方は物理が専攻で、図面を引いたこともなかったというから驚きだ。
代表の大坪さん自身も、こう話している。
「ぼくも去年入社した社員から教えてもらいながら、和気あいあいとやっていますよ。月に一回は全社員で集まって会議もしますし、上下関係やセクショナリズムはそこまでないと思います」
気になってWebサイトのスタッフページを見てみると、ひとりひとり個性豊かな自己紹介が載っていて面白い。ここにも由紀精密の雰囲気がにじみ出ている気がする。
「どの案件も、自分たちにとってはじめてのことばっかりなんですよ」と永松さん。
「となると、みんな同じスタートラインなので。経験があるから、この人が言っていることは絶対だ!っていうことはまずないんですよね。ぜひ、それを楽しめる方にきていただければと思います」
今後は、外部からの相談にも応えつつ、自社開発のプロダクトにも力を入れていく。
デザイン・設計・製造の一貫したものづくりができる環境を活かして、これからもさらなる「普遍的価値」を追求していくのだと思う。
最後に大坪さんがこんなことを言っていました。
「やっぱり、やるからには夢のある仕事がいいですよね。宇宙のゴミを掃除するなんて壮大なこと、これまでにもやろうとする人や論文はいっぱいあるんですけど、実行する人がいなかった。宇宙業界をはじめ、これから町工場をどんどん盛り上げていきたいです」
なんだか、少年のような方々でした。
ビジネス的な鋭い視点や大きなビジョンももちろんあるのだけれど、根本にあるのは、ものづくりが好きだという純粋な気持ちなのだと思います。
一緒にワクワクを感じられたという方は、ぜひ応募してみてください。
(2016/02/05 中川晃輔)