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恋するものづくり

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”アンテナショップ”と呼ばれる地域物産をあつかう店を目にしたことはありますか。

地域の食べものや工芸品を通じて、知らない土地がぐっと身近になる。そんな場所。

たとえばそこで「家」が売られているとしたら、どんなだろう。

これからお話するのは、岐阜県は中津川市・加子母(かしも)地域で建設業を営んできた中島工務店の仕事。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 本社のある岐阜から遠く離れた東京で、わざわざ上京してきた職人が地域の木材で家を建てる。そんなものづくりを30年続けています。

今回募集するのは住宅の建築を主としている東京支店で、それぞれ設計と現場監督、モデルハウスのスタッフとして働く人。設計と現場監督は中部と関西にある支店でも募集があります。

ときには非効率にも見えてしまう、加子母への愛をこめた丁寧なものづくりをぜひ知ってほしいと思います。


その名のとおり貯木場や材木屋があつまる新木場駅近く。

中島工務店の運営するTOKYOSTYLEは大きな材木店がならぶ通りの隙間にふと現れた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 一目で木のぬくもりを感じる、ひのきを使ったモデルハウスだ。東京支店はこの近くにある。

ひのきの淡い香りのなかで待っていてくれたのは中島工務店・東京支店主任の中島創造さん。社長の息子さんです。

P1050196 (1) 「林業と農業と畜産業。この3つが加子母の主産業で、林業の終着点が建築業です。わたしたちは加子母地域の林業のひとつとして家づくりをしています」

加子母地域のおよそ94%を占める山林では、色合い美しい東濃ひのきが育つ。家の材料となるひのきを育てるところをはじまりとするなら、販売を担う東京支店はものづくりのゴールという立ち位置。

明治時代に加子母の山を地域の人たちで等しく分け合ったことから、加子母では「山林は地域のもの」という意識が根づいているのだそう。外から大きな企業が入ってくることがなかったため、ほかの土地で失われつつある地域の交流が今でも大切にされている。冠婚葬祭はみんなで集まり、お祝いごとがあればたとえ東京でもお祝いに来てくれる。

「加子母で昔からもっとも大事にされているのは、地域を大事に思える人づくり。住人みんながものすごく地域を愛してるというのが加子母の特徴です」

加子母の山はそれぞれの所有物ではなくて、地域の財産。

東濃ひのきを使って地域の大工衆と家をつくるのも、加子母の林業を思ってのこと。

中島工務店には地元のお抱え大工衆がいて、家を建てる段階になると製材された木材とともに上京してくる。そのため、各支店の2階はどこも大工たちの宿泊所になっているそうだ。

「われわれは岐阜から出てきて外貨を稼いどるわけですね」

そう中島さんはおどけてみせるけれど、東京支店は加子母のものづくりを発信する重要な拠点なのだと思います。


加子母のことになると話が止まらない中島さんの横で、ニコニコと話を聞いていた吉澤さんは東京支店の支店長。お客さんと打ち合わせをしながら図面を引いていく、営業設計をしています。

P1050190 東京出身の吉澤さんは加子母に恋に落ちてしまったスタッフの一人。以前はとあるハウスメーカーのフランチャイズ企業で働いていました。

たまたま加子母出身の同僚がいたことがきっかけで中島工務店の存在を知ったのだそう。実際に加子母にも訪れ、東濃ひのきに囲まれた暮らしを体感したといいます。

「山でカエルやヘビを捕まえるなんていうのは、東京育ちの私からしたら憧れなわけです。実際に行ってみたら、トラックが丸太を積んで走っているところを目にして。製材所に行くと、そこら中に切られた丸太が転がってるんです。あぁ、ここは本当に林業の土地なんだなって感動しました」

「それで、こういう国産の木材を使ったきれいな住宅をつくりたい。本当の建築がしたいって純粋に思ったんですよね」

本当の建築?

「うん。いまハウスメーカーが建てている家というのは、ほとんどが木をはり合わせてつくった集成材やツーバイフォー材が使われているんです。その多くが海外の木材で、規格化されたものだけを使うんですよ」

「贅沢な国産の無垢の木をそのまま使うって、設計士は憧れるんじゃないかな」

決まりきった規格内での設計に物足りなさを感じている人にとって、自然素材を扱えることはよろこびだという。

その後、縁あって中島工務店に転職した吉澤さん。まずは現場監督をすることに。ものづくりの現場を大切にする中島工務店では、設計として入っても最初に現場監督を任されることもあるそう。

「設計士や建築家の多くは、完成のイメージは持っているんです。でも、完成までにどうやってものづくりが進んでいくかということには結構おざなりになりがちで」

「たとえば無垢の素材って反ったり縮んだりしてクセがあるんです。フローリングを貼るとなっても、どのくらい隙間を詰めて貼るのか。その微妙な加減は、現場にいて大工さんの仕事を見て覚えていかないといけません」

加子母の大工たちが持つ自然素材を理解した昔ながらの技術は、いまとなってはとても尊い価値がある。そんな技術に日々触れられることは、中島工務店のものづくりの現場にいる醍醐味だと思う。

現場監督:国産材利用促進イベントで建て方作業1 机上の設計では無垢の木の家はつくれない。

家づくりに関わるたくさんの人の想いや知識、建材のふるさとのこと。そこまで想いを馳せられてはじめて心のあるものづくりができるのだと思います。


現場監督が専門の桂川さんにもお話をうかがう。

桂川さんは以前ほかの工務店でも現場監督をしていたことがある。中島工務店の仕事は、ほかのハウスメーカーに比べて何か違うのでしょうか。

P1050203 「職人さんの手配や打ち合わせの内容はそんなに変わらないと思います。でも、産地直送の木材を使うので、木材検査のために加子母まで製材しているところを見に行ったりしますね」

普通だったらカタログを見て、その中から選んで発注しておしまい。

木を育てるところから人が住むところまでを、地域の仕事として完結させている中島工務店だからこそ、ものづくりの精神にも筋が通っているように感じます。


ところで、中島工務店が大事にしている「加子母」と「ものづくり」。

それをいちばん知ってほしい相手は家を建てるお客さんのはず。

お客さんとはどんなつき合い方になるのだろう。ふたたび中島さんに聞いてみた。

「うちの会社に家づくりをご依頼いただくと、最大3回、1泊2日で加子母にご招待するようになっとるんです」

お客さんを加子母までご招待するんですか?

「はい。まず勉強会と言って東京から車を出して加子母地域をご案内します。ひのきが生えているところや製材するところなんかを見学してもらうんです。どういう流れで家が建つのかを知ってもらいます」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 実際に家を建てることになったら担当の現場監督と一緒に2度目のツアーへ。そこでは自分の家に使われる木の検査に立ち会う。自分の家の材料になる木を見に行くなんて、聞いたことがありません。

家が完成したあとに加子母へ3度目のツアー。自分たちの家のために切った木を想いながら、新たな苗木を植樹する。その木はいつか誰かの家族の家になる。こうやって人が守り循環するものづくりを体感してもらうのだそう。

「1年くらいかけて家を建てていくので、その中でお施主さまと地元の人との交流が何度もあって。 みんなでご飯を食べたり、魚釣りをしたり、キャンプをしたり。お客さんは関東の人だけれど、岐阜にふるさとがひとつ増えたような。そんな気持ちになってもらいたいんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 家づくりを通して、自分たちの大好きな加子母を好きになってもらいたい。このツアーは中島工務店が関東に支店を出したころからずっとやっているそうだ。

お客さんたちの反応はとても良く、毎回ファンが増えていく手応えがあるとうれしそうに語ってくれる。

聞けば広告費よりも実際に建てる家にお金をかける、そんな中島工務店に依頼してくるお客さんはこだわりの強い人ばかりだそう。

「家を買うという感覚の人は少ないです。家を”つくる”という人ばかり」

そのため設計でも打ち合わせは納得いくまで回数を重ねる。

やっていることはすごく素敵だけれど、そのぶん社員さんたちは大変ではないのでしょうか。

「たしかに時間も取られますし、お客さんとの距離も近い。それが負担になることもあると思います」

「ただ、われわれの中では『最速が最善ではない』という考え方をしています。仕事の効率を重視するなら、ほかのメーカーさんのほうがはるかによいと思いますね」

1棟1棟に時間をかけるため年間の着工件数は少ないのだけれど、残業は決して少なくないそう。

それでも社員の皆さんを突き動かすのは、加子母とものづくりへの熱い想い。

無垢の木に触れる贅沢さもやりがいだと話してくれた。


最後にご紹介したいのは、1月にオープンしたばかりのモデルハウスTOKYOSTYLEで受付事務をされている高田さん。

追加 高田さんと一緒に、ここの場づくりをしてくれるスタッフを探している。

中島工務店の家を紹介する場所かと思っていたけれど、どうやらそれだけではないようです。

「家の紹介よりも、中島工務店の取り組みや加子母地域の紹介をしていただきたいです。そのためのイベントをやることがメインで、平日時間のあるときは会社の事務関係をやってもらいます」

つくりたいのは加子母のアンテナショップならぬアンテナプレイス。すでに左官ワークショップや、加子母産の楽器を使った演奏会などが開かれたそう。こんなふうにイベントを企画したり、この場所を運営していってほしい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ものづくりが好きな人の方が楽しめるとのこと。たとえば建築系の学生なら土日のアルバイトでもいいかもしれない。会社で進路相談にも乗ってくれるそうだ。


加子母。今回はじめてこの地域を知った人も多いかと思います。

ここを慕いこの地域のための家づくりをしている人たちがいる。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 中島工務店の仕事に興味が持てたら、一度TOKYOSTYLEへ行ってみてください。そしてぜひ、加子母を訪れてほしい。

やさしい香りのひのきたちと、懐かしい風景がきっと迎えてくれると思います。

(2016/5/12 遠藤沙紀)