求人 NEW

公園の魔術師たち

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

誰かの役に立っていると確実に思える、地道な陰の仕事。株式会社システムリバースの取材を通じて、そんなふうに感じました。

会社を支えるのは、セールスエンジニアと呼ばれる営業職と現場スタッフ。社長を含めて全員が施工現場に立つ、アットホームな会社です。

小学校や公園など、公共施設の補修事業に注力するシステムリバース。仕事内容だけではなく、どこか建設業界が持っているノリと違う。

会社があるのは、葛西臨海公園にも近い東葛西。東京メトロ東西線「葛西」駅から歩いて7〜8分ほどにあるマンションの1室がオフィスだ。

出迎えてくれたのは、工事部長の郷間(ごうま)大輔さん。

SR_gouma 入社して8年。ビルメンテナンスの会社に勤めたあと、知人の紹介で入社。「路頭に迷いかけていたところを社長に拾ってもらいました」と語る郷間さん、いまは取締役だが、最初の1年はアルバイトだった。

「会社の方針、営業スタイル、MMAという新技術。それらを学ぶうち『ここにはチャンスがあるな』と思って入社を希望したんです」

システムリバースの強みは、MMA(メタクリル樹脂)を使った補修、改修、修繕の施工技術を持つことにある。

sample MMAは、強度と耐久性を兼ね備える素材。そして、すぐに固まるという特徴がある。夏場だと10分くらいで固まるので、工事がスピーディーで済む。公園の遊具の補修なども、ほとんど1日で終えられるという。

アルカリや酸に強い特性があるので、トイレの床材などでも大きな力を発揮する。紫外線による劣化がほとんどないのもメリットだ。

「FRPでできている遊具が傷んでくると、これまではほぼ撤去しかありませんでした。古すぎて、どこも直せないですから」

直すだけではない。たとえば、足立区の遺跡公園にある土偶像。MMAで補修をかけたあとに「どうせならもっとリアルに」と水性系塗料でエイジング塗装した。

dogu 「僕も足立区に住んでいたので、娘たちを連れて見せにきました。7歳になる上の子には『ふーん』て言われましたけどね(笑)」

「MMAにもいろんな種類があります。うちの会社には材料メーカーがよく出入りしているので、最新の技術情報も使ってさまざまな提案ができるんです。これもMMAです」

MMAソフト まるでゴムのようにやわらかく曲がる。けれど、とてもちぎれそうにない。

「このMMAは、高速道路のエキスパンションなどに使われますが、クラック(ひび割れ)の補修にも使えます。硬いものからやわらかいものまであるので、補修用途によって選べるんですよ。現場ごとに最適な方法を考えて提案させていただきます」

「なんだか、メーカーの宣伝みたいだな!」と笑いながら、話に入ってきたのが後藤 悟社長だ。

SR_shacho  
MMAによる「よみがえり工法」という商標名は登録しているものの、自社で特許を取っているような技術ではない。施工技術は企業秘密だが、どうやらシンプルな方法らしい。

「従来の建設のやり方とは発想を変えているだけなんですよ。ただ、ほかにやれる業者がいないので引っ張りだこ。うちの仕事は素人ほど早くできるようになるんです。固定概念がなく、ゼロから教えたほうが早く覚えられるから」

どうして1社独占なんだろう。

「大手は面倒だから参入して来ないんです。彼らがやるのは、工期が長くて金額が大きいものばかりだから」

楽しく仕事をして、どんどん給料を稼いで、自分の夢を実現してほしいと語る社長。ボーナスも年3回出す。

「会社のお金で資格も取らせてあげたいです。そうすれば、たとえうちの会社がつぶれても、それを生かせるじゃないですか。自己啓発したくない社員は、別にいいんだけどね。ただ、うちの弱点は仲がよすぎなことかな」

仲が良すぎて困っているとこぼすのは、社長の奥さんで経理担当の紀子さん。

DSC_0319 いい居酒屋も会社の周りに多いみたい。

「うちはね、お酒の注ぎっこはしないの。一杯目は乾杯するけど、酒の強要はない。これはどんなお客さんともだね」

いわゆる接待営業はこの会社にないという。

「なんで仕事相手にそういうことができるか。それはうちが技術を持っているから。この補修は、塗装屋さん、左官屋さんの仕事じゃないからどうしよう、という “困ったときのシステムリバース”。頼りにされた仕事はできないとは言いたくない。飲みながらみんなで方法を考えるんです」

いま増えている工事は、学校のトイレや水飲み場。写真はMMA樹脂で石材調に仕上げ、人造大理石を補修した例だ。

手洗い場石材調 また、多くの保育園や幼稚園にある「非常用すべり台」は、使用禁止になっていることが多いそうだ。風化してボロボロになってしまっているため、いざ使うときにケガをしてしまう。

後藤さんは、遊具メーカーにはこういうものを修繕する人がいないという。モノを直して長持ちさせるのではなく、どんどん新しくつくるほうが儲かるからだ。
 
 
「建築業界もそうだけど、アパレル業界もそう」

実は後藤社長、前職は売れっ子のファッションデザイナーだった。

「もともと宮城県の山奥で育ったから、いっさいデザインの勉強はしていなかったんです。自分では『農業ファッション』と呼んでいたけど、それがウケてしまってね。とにかくデザインした服がものスゴく売れましたよ」

絶好調だったある日、札幌へ出張した夜。同業者との宴会の帰り道、ふいに仕事への情熱を失ってしまう。

「いまで言うと心の病気というのかな。それまでの仕事を辞めて、田舎で農業をやろうかと思って」

突然のことにアレ?と紀子さんは思ったという。

「金もない、人も知らない、技術もないという状況で、女房には迷惑かけたね」

紀子さんは賛成しなかった、就農への夢。

次の仕事を模索していたとき、建設業界の知人に出会う。そこで知ったMMAに可能性を感じて、2000年に紀子さんとこの事業を立ち上げた。

いまでは東京本社11人、仙台支社2人のファミリーになった。


いちばん新しく入社したのが、以前の募集記事を読んで仙台支社に入社した、田中世界さんに話を聞くことができた。

仙台出身の39歳。記事を読んだ印象と、実際に入ってからのギャップはあっただろうか。

「会社の雰囲気は伝わってきた通りでした。ただ、仕事の内容が多岐にわたっていて、こういうこともやるんだというのは入ってみて分かりましたね」

前職はコーヒー豆の販売業。

「ものをつくるとか、身体を動かす仕事をしてみたかったのですが、それだけではない仕事という条件で見つけたんです」

仙台支社では、遊具の補修工事が多いそうだ。

仙台田中 昨年6月に入社し、上京してから3カ月の研修。その後、家族の待つ仙台へ戻った。いまは月1回のペースで東京に出張している。

未経験からの転職。研修はどんな感じで進んだのだろうか。

「実際に施工現場に立ち会い、作業をやらせてもらいながら現場を覚える感じです。道具の名前から始まって、本当にゼロから学ばせていただきました」

「経験のない業界なので大変な部分もありますが、分からないところはちゃんと教えてもらえるし、そういう面でとてもいい環境だなと思います」

どんな人が向いていると思いますか。

「まずはやる気。自分みたいにゼロからでもちゃんと受け入れてくれる会社なので、やる気さえあれば。いちばん大事なのはそこなのかな、と感じているところです」

もうひとり紹介したいのが岩崎秀明さん。入社して10年、ベテランのスタッフだ。会社のユニフォームは、社長の「いかにも建設業っぽいのはイヤ」という発案で、コットンのパンツとシャツ。

岩崎写真 千葉在住で、趣味はサーフィン。本音では「がっちり半年働いて、がっちり半年休む生活ができないか」と思っている。

二十歳位から建設業に携わってきた。

「主に僕は現場に出ています。防水とか塗装とか、以前にやってきた作業は生きたんですが、ここはほとんどが元請けの仕事なので、お客さんと話すことが多いです。それまで直接オーナーさんと話す機会がなかったから、大変でした。最初のころはスムーズに状況を説明するのが全然できなかったんですが、いまは慣れました」

朝は8時ごろに集合。都内の移動だと小一時間、9時から現場に入る。

「受ける仕事がこれだけ細かくなると、それぞれの現場が違います。先に考えて材料だとか道具だとか、ちゃんと段取りしなくてはいけません。大がかりな現場だと協力会社さん、個人でやってる職人さんに手伝っていただきますね」

同じ現場がない。淡々と日々同じ作業を繰り返すような、頭を使わず身体だけを動かしたい人には向かないかも知れない。コミュニケーション力もいる。

「やってることが新しいから、現場でも新しいやり方が自然に生まれる。どうやったらきれいになるか、早くなるか。そこを極めるのに、やりがいを感じます」

公園補修 社長の故郷である宮城県。震災前に施工していた物件の耐久度が評価され、復興の一翼を担う仙台支社がある。

最近は東京に似てきたという仕事内容。先日は「ベガルタ仙台」のホームスタジアム(ユアテックスタジアム仙台)にある通路を補修した。

「仙台の地元の人を採用したいです。アパートを用意するので、半年間、東京で技術を覚えてもらってから、仙台へ帰ってもらえれば」と郷間さん。


「仙台支社のほかにも、いろんな地方からの問い合わせもありますし、海外にもチャンスはあると思っているんです。社長は売上高じゃなくて、利益率を考えろと言います。でも、僕はこの新しい技術を困っている人たちに広めたいんですよ。」

「おまえ、経営者みたいだよ!」という突っ込みが社長から入る。テンポがよくて明るい雰囲気の職場だ。

近所の公園で、人生の数年をすごす子どもたちの心を想像してみた。

ある日の朝。突然、なれ親しんだ遊具が撤去されていたら、どんなにさびしいだろう。

そうではなく……。

なれ親しんだ遊具がピカピカに生まれ変わっていたら、どんなにうれしいだろう。

threeshot 朝8時に集まって精いっぱい働き、17時には終わらせる。

「明日あの遊具を見て、子どもたちはどんな顔をしてくれるかな」と思い浮かべながら、ファミリーのような社員たちで乾杯するビール。さぞかし美味しいだろうな。

IMG_3073 この仕事には力が必要なシーンもあるし、古いトイレの現場だってある。楽ではないだろうけど、仕事に矛盾を感じることがなく、葛藤も少ないと思う。

職場から得られるのは「誰かのため、確実に役立っている」というやりがいだと感じました。ガテン系のようでそうでない、一風変わった会社。気になった方は、社員のみなさんとぜひ会ってください。

(2016/5/19 神吉弘邦)