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舞台とつなぐ

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

「どんなにいい舞台でも、言葉がわからないと分からない。舞台とお客さんをつなぐ間口になっていることが、字幕のおもしろくていいところだなと思います」

オペラ、歌舞伎、演劇、ミュージカル。映画でおなじみの字幕は、さまざまな舞台でも使われています。

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高さ4メートルにもなる字幕パネルに表示される文章は、じつはひとコメントずつ人の手によって出されているもの。

日本でも数社しかない舞台字幕専門の会社“Zimakuプラス”。

今回は、事前の準備から現場でのオペレーションまで、舞台字幕を担う人を募集します。

コメントを出すタイミングや消し方、文字の明るさまで。本番中のオペレーションには高い集中力が求められる一方で、舞台裏では臨機応変に動き回り、機材の準備をします。

舞台をつくりあげる最後の要。厳しいこともあるかもしれないけれど、やりがいと誇りのもてる仕事になると思います。

ゆりかもめ日の出駅のすぐ目の前。Zimakuプラスのオフィスは、夕刊の印刷工場をリノベーションした建物のなかにありました。

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入ってみると、静かにオペラの曲がかかっている。工場らしいひんやりした廊下と違い、部屋のなかはやわらかい空気。

大きな木のテーブルに座り、代表の奥出さんにお話を伺う。

「僕は、もともとは銀行員だったんです。8年勤めたころ、特撮が好きだったことを思い出して、そんな仕事に関われないかと考えはじめました」

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「たまたま、母と姉が歌舞伎がとても好きで、耳から解説を聞くイヤホンガイドを使っていたんですね。そのイヤホンガイドを提供している会社が求人をしていて、『特撮ではないけれど、エンターテイメントの世界の雰囲気だけでも味わってみたら』と母にすすめられたんです」

入社して1年ほど働いたとき、先代の社長に字幕をつくってほしいと頼まれた。

当時の字幕は、舞台上にある横長の画面へ映写するものだった。よりよいものをつくれないかと、まずは200件近いネオンサインの会社に電話をかけた。

「ようやくLEDをやっている人がいると紹介してもらって、1995年に字幕一号機をつくりました。けれどあたらしい機材は舞台実績がなく、どこも使ってくれませんでした」

そんなとき、舞台の企画制作を手がける会社の代表の方が、あたらしい字幕を探していると聞いた。

お会いしに行くと、こんなことを言われたそう。

「オペラの最後、病床で亡くなっていくシーンで字幕がバンっと消えてしまうと、字幕ばかりが気になってしまう。歌声とともにフェードインしたり、声が消えるようにLEDを消すことができたら採用しよう」

当時の技術では難しく、どこに掛け合っても「できない」と言われてしまった。

あるとき、落ち込んだまま別件で立ち寄った工場のおじちゃんに、ぽろっと話をこぼした。

「そしたら『あっ、できるよ』っていうんですよ。小さな工場のおっちゃんは、じつはシリコンバレーに留学したことがあるような人だったんです。その場でばーっと回路を書いてくれて。後光が差して見えましたね(笑)そしてリハーサル前日に、世界ではじめてひとコメントずつフェードイン、フェードアウトができるLED字幕ができました」

初出は1996年、オペラ「蝶々夫人」。

「舞台の両サイドにある縦書きの文字盤は読みやすいんです。それに自家発光するLEDは照明の影響を受けませんし、舞台の暗転でもきちんと暗くなる。本番で使われるたびに、うちでも使いたいとのオファーを受けるようになりました」

「このオペラの2日目、あたらしい機材を採用してくれた代表の方が『今日、字幕の初日が出たな。おめでとう』と言って握手をしてくれたんです」

2日目に、初日が出た?

「1日目はまだ改善するところがあって、2日目に完璧にできたんです。見ている人は見ています。『自分の仕事を認めてもらえたんだ』って実感したあの握手が、一番うれしかったですね」

やがて日本一の字幕シェアを誇るまでになった。

その後、先代の社長が亡くなられたことを機に、2008年字幕専門の会社としてZimakuプラスを立ち上げる。

最近では、“字幕メガネ”の愛称で知られるスマートグラスやスマートフォンなどのマルチデバイスを使い、自由に表示する言語を変えられる「Zimaku air」を展開しています。

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「字幕を見たくない人や多言語の対応など、今後はパーソナルな字幕が主流になるだろうと思います。そういう意味で今は第二創業期なのかな」

実は、会社のスタッフは奥出さんをふくめて6人。今回募集する人は、字幕の業務すべてに関わります。

「舞台の現場に行くので、地方出張や直行直帰もあります。わりと自由な雰囲気でやってはいるんですけど、非常にまじめで緻密な部分も多いんですね」

華やかな印象だったけれど、すこし違うのかもしれない。

具体的に、どんな仕事をするのですか?

「基本的にひとりでひとつの舞台を担当するんですけど、まず字幕の編集作業があります。一コメントずつ誤字脱字やレイアウトをチェックし、音楽をききながらどのタイミングでコメントをだすか秒数を確認していくんです」

「かと思えば、舞台裏では全身黒ずくめになって走り回り、機材を組み立てるような体力勝負の部分もある。本番になれば、5時間のオペラだったりすると多いときで2000コメント、5時間集中して2000回たたくこともあります」

自分の指一本で出すコメントを2000人ものお客さまが見ている。その緊張感に耐えられず、やめてしまった人もいるそう。

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「どこでも誰でもできる仕事ではないです。けれど、いい仕事をしていくとだんだん周りが認めてくれて、『彼が来たときはばっちりだったよね』って言ってくれる。ばっちりっていうのは、お客さんに何も言われなかった、ということでもあるんですよ」

何も言われなかった?

「誰も字幕に気づかずに『ミュージカルが楽しかったね』といってお帰りになる。字幕を意識させなかった、ということが僕らの最大の褒め言葉なんです」

緻密で完璧なプロの仕事。たしかに誰にでもできる仕事ではないけれど、その分やりがいもあるように思います。

「舞台のお客さんが笑ってくれたり楽しんでいる様子が伝わってくると、やっぱりうれしいですね。字幕があるから内容をわかって笑ってくださると思うので」

そう話すのは、音大出身という女性スタッフの佐藤さん。

学生のとき舞台字幕の本番中の現場を見学させてもらったことがきっかけで、字幕の世界に入ったといいます。

「屋上が気持ちいいんですよ」と案内してもらった。佐藤さんは、はたらいて10年になる。

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舞台裏方は男の世界というイメージがあるけれど、どうなんだろう。

「昔にくらべれば優しくなったけど、やっぱり男社会ではありますね。ただ、きちんとやっていけば『佐藤さんが来てるなら安心だね』と言ってくださることもありますよ」

力仕事であっても、様子を見つつ人手を借りて指示を出せればよいそう。けれど、現場ではいろんなことが起こるのだといいます。

「大きな機材ですから場所が必要になります。あるとき機材を組み立てようと思ったら、その場所ですでにオーケストラの方が練習していたんです。事前に確認をとっていても、行ってみると『聞いてない』と言われてしまって」

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劇場や公演が変われば、場所も関わる人も変わる。舞台に関わる人たちが、営業や制作、主催者などそれぞれ分かれている公演だと、情報が共有されていないこともあるそう。

「誰に話を通したらいいのか考えながらあちこち駆け回ったり、オーケストラの方に謝りながら場所をあけてもらって機材を組み立てたり」

「事前にできるかぎりのことをやっていても、それでも現場はいろんなことが起こるので、その場その場で最善を考えて動きます」

「よかったら現場を見に来ませんか」と誘われ、東京文化会館でリハーサルを見させてもらった。

この日のリハーサルは、ブルガリア国立歌劇場による「トゥーランドット」。舞台裏ではいろんな衣装をまとった人たちが慌ただしく動き回り、外国語が飛び交う。これから舞台をつくりあげていく高揚感と、気の抜けない緊張感があった。

劇場でお会いしたのは、この公演を担当している山口さん。山口さんをふくめて、みなさん丁寧な話し方をしてくれるのが印象的でした。

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この日は字幕原稿の書き手さんと打ち合わせをした後、リハーサルに臨むそう。

どんなふうにしているのだろう。

「オペラの字幕は基本的に、歌に合わせてコメントを出します。やっぱり歌うより先に内容がでてしまうとネタバレ感がでてしまうし、遅いと舞台の進行と合わなくなってしまう。小さな声から歌い出すときは、ゆっくりフェードインするんですけど、気をつけないと読み切る前に次のコメントにいってしまうんです」

「お客さんにもやもや感がのこってしまうと、そのあと観劇に集中できなくなってしまいます。この曲のテンポでこの文章量ならよめるかな、ということもリハーサル一発で確認していくので、ある意味本番よりも集中しますね」

準備をして本番へ臨んでも、歌い手さんが歌詞を忘れてシーンを飛ばしてしまうことも。そんなときは、急いで楽譜を追いかけて合わせるそうだ。

「けれど、ひとつの舞台をみんなでつくりあげているので、お客さんがすごい拍手をしてくださったり、字幕がミスなくきっちり終わったときには何とも言えない幸福感があります。その一瞬のためにやっているところがあるんですよね」

山口さんは、どんな人が向いていると思いますか?

「舞台は生きものです。いろんなことが起こりますし、基本的には孤軍奮闘しなきゃならない。その都度、自分で考えて、きちんと振る舞える人であればやっていけると思います」

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舞台はさまざまな人と関わって一緒につくる。あいさつやお礼、約束を守るなど、あたりまえのことがきちんとできるといいそう。

ここで、代表の奥出さん。

「友達になれなくても、仕事を通して仲間になれると思うんです。会社に来たら自分の好き嫌いは置いておいて、お互いリスペクトできるような関係をつくれる。そんな人に来てほしいですね」

たとえば、集中力が切れないように前日は早めに眠る。ツアーで地方へ行ったときはなまものを控えるなど、食事にも気をつける。

気持ちも体調も、自分をきちんと管理できる人だといいのかもしれません。

最後に奥出さんからメッセージを。

「やりのこした仕事は一生後悔するかもしれないし、やり遂げれば夢のようなツアーになるかもしれない。舞台という作品に携われるのは誇りであり、やりがいのある仕事だと思います」

(2016/06/23 倉島友香)