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北陸新幹線が延伸開業して、東京からもぐっと近くなった金沢。21世紀美術館や近江町市場のほかにも、最近ではリビタが手がけるホテル『HATCHi』などの新スポットも誕生しています。
これからもっと面白くなっていくであろうこの街で、こんどは海沿いで新たな場所が誕生します。
金沢の小さな港町、金石(かないわ)町で今秋にオープンする『コッコレかないわ』。
お味噌汁食堂『そらみそ』、グリーン&ブックやキッズファッションのお店、オフィス、大学のラボ、フリースペースなどが集まる複合施設です。
これまで湾岸工事や新幹線関連の工事で金沢を支えてきた加賀建設株式会社を中心に、建築家やデザイナーなど、様々な人たちがこのプロジェクトに参画しています。
今回募集するのは、コッコレかないわの顔となる「お味噌汁食堂“そらみそ”」の店長。
単に飲食店で働くというよりも、訪れる人にまちの魅力を伝えたり、面白い人同士をつなげたりするコーディネーターのような役割です。
経験や年齢は問いません。お味噌汁食堂に限らず、ゆくゆくは施設全体をコーディネートしていきたいといった熱意のある人を求めています。
東京から2時間半。金沢は平日にもかかわらず観光する人たちで賑わっている。
駅の改札を出ると、加賀建設の鶴山秀二さんが車で迎えてくれました。
意外にも、駅から海沿いの金石町へは車で15分足らず。そういえば金沢で海を見るのははじめてかも。
「よく金沢には海産物がおいしいと観光に来られる方が多いんですけど、海を感じられる観光地はと言うと、あんまりないんですよね。うちの会社はほんとうに目の前が海なんですよ」
賑やかな中心市街地とは打って変わって、穏やかな雰囲気の港町。
町の合間を縫うように流れる運河が、町の独特な風景をつくりあげています。
「空気が澄んだ日には遠くに白山が見えて、陸の方の景色も綺麗なんです。だけど、やっぱり一番は海に映る夕日ですね」
そう話すのは、秀二さん(写真右)のお兄さんの鶴山雄一さん(写真左)。
ここから雄一さんを中心に話をうかがっていきます。
加賀建設はふたりのお父さまが社長の会社です。雄一さんが専務を、秀二さんが課長を務めています。
創業は1943年。当時は漁師町だった金石町で、漁師の人たちが出資し合って木造船をつくる会社を立ち上げたのがはじまりでした。
その後は木造住宅を手がけるようになり、現在は建設会社として土木を中心に、金沢の港湾工事や新幹線関連の工事を行っています。
いまは若手の育成にも力を入れ、20〜30代が多い会社なのだそう。この業界ではめずらしく女性の現場監督もいることから、メディアに取り上げられることもあるのだといいます。
そんな加賀建設が中心となって複合施設『コッコレかないわ』とお味噌汁食堂『そらみそ』はオープンします。
ところで、どうして建設会社が味噌汁なんでしょう?
これまでの経緯をうかがいます。
「あるご縁で金沢出身の建築家の中永勇司さんとお仕事をすることになったのがはじまりです。弟の家を設計いただいたんですよ」
「非常に難しい施工を成功させたということで、だんだんと建築家の方とのご縁も増えて、特徴ある建築物を建てられるようになったんです」
「いくつかの建築物を手掛けていくなか、中永さんは『金沢から外に出てみて初めてわかることが多く、金沢の魅力をもっと高めることができないかな』って、ずっと話をされていたんですね」
新幹線効果で金沢は連日賑わっているけれど、その恩恵を多く受けているのは中心市街地。
街外れにある金石町は昔に比べてだんだんと活気がなくなってきているのだそう。たくさんあった木材屋さんは減り、公園で遊ぶ子どもたちの姿も少なくなったといいます。
金石町の元気を取り戻すために何かできないか。
そこで雄一さんがふと思い浮かんだのが、加賀建設が使わなくなった倉庫をリノベーションしてカフェをはじめたオーナーさんのことでした。
「5年ほど前に、ここでカフェをしたいですって突然訪ねてこられたんです。海沿いの静かで寂しそうな場所を探して、金石にたどり着いたそうで。大きな倉庫だったので、2階は中永さんが設計してうちの会社が使えるスペースに、1階は別の方が設計してカフェになったんです」
聞くと、カフェのオーナーの方は以前IT業界で働いていたのだそう。
実績がとくにあるわけでもないし、知り合いでもない。よく貸すことになりましたね。
「まわりからも『こんなところじゃ絶対人は来ないよ』とか言われました。でも、そのときは単純に、ここに人が集まるようになったら面白そうだなって思ったんですよね。オーナーの方の内面に持っているものに惹かれたのかもしれないです」
ところがオープンすると、落ち着いた隠れ家的なカフェとしてたちまち人気店に。
金石町の可能性を感じた雄一さんは、町を盛り上げるためのお店づくりを考えはじめます。
ここで強力な助っ人として現れたのが、『ホテルCLASKA』や『超福祉展』などのプロジェクトを手がけた株式会社Tone&Matterの広瀬さん。建築家の中永さんからの紹介でした。
「それからは3人で事業を考えていきました。規模は大きくないけど、まちの魅力を高められるような空間。新しい人が集まって、交流が生まれて、まちのことを一緒に考えて行動できるように。その発信拠点となるような施設をつくろうとはじまったのが『コッコレかないわ』です」
さらに、グラフィクデザイナーの横山博昭さん、男性2人のフードユニットつむぎやがプロジェクトに加わり、『コッコレかないわ』はこれまでにない複合施設としてスタートすることになりました。
『コッコレ』とは、ラテン語で『小さい丘』を意味する『colle』と、『集まる』を意味する『co』を組み合わせたもの。
2階建ての施設の真ん中には公園のような小さな丘。囲うように3つの建物がたちます。
建物の1階には、つむぎやがメニューを監修するお味噌汁食堂『そらみそ』、加賀建設が手掛けるグリーン&ブックのお店、extragoods(エクストラグッズ)のキッズファッションのお店が入ります。
『そらみそ』では、もともと金石町が漁師町だったことにちなんで温かい味噌汁とおにぎりを提供。地域のこだわり味噌と地元の新鮮な食材を使うのはもちろん、家庭の食卓で並ぶものにひと手間ふた手間かけた、新しくどこか温かい味をつくるのだといいます。
加賀建設が手がけるグリーン&ブックのお店では、金沢になかったグリーンショップと事業を展開していくそうです。そして、新しい木製遊具づくりにも挑戦。遊具の制作・販売は加賀建設に委ねられ、新事業部を設立します。
extragoods(エクストラグッズ)が手掛けるのは、子どものための衣服や雑貨をデザイン・製作・販売し、売上げの一部を子どものために寄付するプロジェクト。企画主旨に賛同してくれた有名ブランドからオリジナルテキスタイル・糸・ボタンの提供をお願いし、それを販売したり、オリジナルの子ども服をつくるそうです。親子向けのワークショップなども催す予定。
「2階には地域にある大学に声をかけようと思っていて、学生たちと一緒にまちのことを考えたいです。シェアオフィスもつくる予定です。もし一緒にやりたいという人が出てきたら、テナントとして完全に貸すことも考えています」
遊ぶ、知る、食べる、つくる、植える、働く、選ぶ… いろんなアクティビティを組み合わせることで、観光客も地元の人も集える空間を目指しているといいます。
いくら紹介があったとはいえ、これだけ力のある人たちが小さな金石町のプロジェクトに参画することに驚き。
そう伝えると、「なぜかみなさん最初に金石町へ視察に来たときが晴れだったんですよね」と雄一さん。
「金沢ってどちらかというと曇り空が多いんです。けど、みなさんがいらっしゃるときはとてもよく晴れて、ほのぼのとした港町を歩きながら、雰囲気のよさに共感していただけたんです」
「私も町のためになることをしたいと口に出して伝えているので、話し合ううちにいつの間にかみなさんとパートナーになっていた。だから、コッコレかないわを話すときはなるべくみんなで集まって、全部の場所をみんなで決めてつくっているんです。たとえ建築の部分の話でも、そらみそのレシピを考えているつむぎやさんと一緒に考えたりしています」
コッコレかないわの全体の管理・運営とそらみその店舗経営を加賀建設が行い、新たにグリーン&木製遊具の事業もスタートします。
すでに2店舗目となる物件も購入済みだというほどのスピード感。
これまで土木・建築一筋だった加賀建設にとって大きなチャレンジです。
「戸惑いみたいなのは正直あるんです。木製遊具の事業も、最初の話が出たのが今年の4月ですから(笑)。だけど、建設会社としてこれまでと同じ姿のままでいいのかって言ったら、やっぱりどうかなと思う。そこは変えていかなきゃいけない。コッコレかないわができることで、建設会社としても変わるタイミングなんです」
雄一さんを突き動かした大きな一因に、プロジェクトに集まった人たちが持っている“ワクワク感”があったそう。
「うちの会社がやっているのは公共事業だから、私らは図面通りに堅実な仕事をしてきた人間です。集まったみんなは面白さとかワクワクで生きている人間なんです。この人たちがつくるデザイン案を見るたびに、これができたらすごいなって思う。ただかっこよければいいとか、ただおいしければいいとかじゃなくて、芯のあることを考える、人間的に魅力的な人たちなんですよね」
だからこれから加わる人も、ワクワク感を持っている人に来てほしい。
「ずば抜けた調理経験や技術力がある人じゃなくて、できれば若い人に来てほしいんです。熱意を持ってひたむきに頑張る。プロジェクトメンバーや地元の人たちに教えられながら、コッコレかないわと一緒に成長していくような」
それでいて、お店の看板となるような素直で笑顔のいい人。
なんだか魔女の宅急便の主人公が思い浮かぶ。
「そうそう!そんなイメージ(笑)。地域のおばあちゃんたちと一緒に働きながらね。前向きさとか好奇心があればウェルカムです。だんだんとお店が形になっていけば、イベントを企画してもらったりして施設全体のことにも携わってもらいたいです」
最後に、雄一さんがこんな話をしてくれた。
「これからやろうとしてることの空気感と、本来建設業の持っている空気感って一緒じゃないんです。そこにスタッフも僕自身も正直戸惑いがある。会社としてどこまで干渉させようか、それはまだ悩んでいるところです。だから、これから来る人を少し戸惑わせてしまうかもしれないです」
そんなときは弟の秀二さんを頼ってほしいです。
秀二さんは11年勤めていた銀行を辞めて、今年の4月にコッコレかないわのマネージャーになりました。外からの目線で加賀建設を見つめて、柔軟に対応してくれるはず。
急ピッチで進めているため、まだ未確定な部分も多いのだそう。きっとオープンしたときが完成なのではなくて、ずっとつくり続けて進化していくような施設になるのだと思います。
だから気長に根気よく、でも一緒にワクワクしながらつくり上げていってください。
(2016/7/21 森田曜光)