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ごうごうごう。シュンシュンシュン。150度以上に煮立った飴の釜からは、いくつもの音とあまい湯気が立ちのぼる。
とろけた飴が冷却板に移されると、工場の空気が一気に変わります。
完成までの制限時間は約40分。飴が固まる前に完成させる手ぎわのよさも、職人たちの腕の見せどころです。
つくっているのは切っても切っても同じ絵柄が出てくる”組み飴”。
1枚のデザイン画を頼りにひとりがパチンパチンと大胆に飴を切ったかと思えば、隣ではトントントンとやさしく整形していく。またたく間にできあがったパーツを組み合わせてカットしていくと、手作業ならではのゆがみが愛らしい、デザイン画どおりの切り口が姿を現します。
取材したのは株式会社ナカムラ。
ここで世界を視野にいれて働く組み飴職人を募集します。
職人というと黙々とひとりでものづくりをするイメージがあるかもしれないけれど、組み飴づくりはひとりではできません。
よいものを、みんなでつくる。
もしかしてその”みんな”の中に、憧れの企業やアーティストがいるかもしれない。いろんな立場の人たちが同じ方向を向いて響き合う飴づくりは、まるで協奏曲を奏でているようでした。
名古屋駅から車で15分ほどのところ。住宅街の中に株式会社ナカムラはありました。
清潔でこじんまりとした事務所の中で、スタッフの方が働かれている。
新しく入る人は1日に2度、出社と退社のタイミングでここへ来て、それ以外は近くの工場で作業することになる。
どんな取材をしようかな。気になって、取材前にインターネットで”組み飴”をキーワード検索してみた。
検索結果の一番上に出てきたのはナカムラが運営する”まいあめ工房”というサイト。検索結果の順番は、そのサイトへのアクセス数の順だろうということはわたしも素人ながら知っている。開いてみるとピンク色を基調にしたページに組み飴のことや制作実績・受注状況がわかりやすくならんでいた。
「ネットのコンテンツをつくるとき、どういうものが検索結果の上位に来るか。それがわかっていれば効率のいい集客ができるんですよ」
そう話してくれたのは代表の中村貴男さん。
駄菓子の卸問屋だったナカムラ商店をお父さまから引き継いで今年で30︎年目。受注生産の組み飴販売を会社の主軸事業にしたいと考えているそう。
飴職人のお話を聞こうと思っていたら、まるでIT企業のようなお話がはじまっておどろいてしまった。
貴男さんは学生のころからパソコンいじりが趣味だった。インターネットがこんなに広まるずっと前から、効果的な集客が出来るホームページのつくり方や、アクセスログがどのようにマーケティングに関わっているのかを10年以上勉強・実践してきたのだそう。
「ずっとパソコンでモノが売れたらなって思ってたんだ。営業きらいなんだもん」
そうおどけて見せる貴男さん。でも、もともと駄菓子の卸売りをしていたはず。どうして組み飴を販売することにしたのだろう。
「もともと卸売りで飴を扱っていたんですよ。まず賞味期限が長いし、日本の組み飴というと文化的要素もあるよね」
「あとね、ためしにつくったサイトに組み飴の紹介を載せていたら”KISS”というバンドの日本人の友達から『メンバーにオリジナルの飴をつくってほしい』という依頼が来たんだよ。飴は言語を介さなくても伝わるコミュニケーションツールになると思った」
満を辞して10年ほど前に開設されたホームページからは、民間企業からの飴制作の依頼が後を絶たない。たとえば、気軽に渡せる会社のロゴの飴があったら、もらった人はきっと嫌な顔をしないはず。コミュニケーションの潤滑油になってくれているのだろう。
「でも、いくら集客ができてもヘタな飴だったら意味がないんだよ」
「つくる人たちの技術がしっかりあって、クオリティの高い飴をつくってるという一番の前提がないと信頼してもらえない。この受注生産は成り立たないんです」
じゃあ、まいあめ工房の組み飴はレベルが高いということ?
「もちろん。誰がなんと言おうと浅野さんが世界一だよな!」
貴男さんが周りにいた社員さんたちに声をかけると、みんな大きくうなずいた。
うわさの組み飴職人・浅野さんは、ナカムラ商店時代から組み飴を納品してくれていた組み飴メーカーの社長さん。
まいあめ工房内で受注した飴は、浅野さんともう1つのメーカーにつくってもらっている。新しく入る人はナカムラの社員ではあるけれど、浅野さんに弟子入りする形で働くことになるという。
技術をぜひ目で見てほしいと案内された浅野さんの組み飴工場では、パートの女性をふくめた5人ほどが働いていた。
浅野さんはその中央にいて、工場の一部のように馴染んでいる。
夏でも冷やすことのできない作業場で、炊き上がり着色された飴が作業台に移される。浅野さんとほかの職人さんたちが、20キロにもなる飴を断ち、整形し、必要なパーツをつくっていく。
驚くことに、作業場所には完成イメージを描いた一枚のA4用紙が貼られているだけだった。
浅野さんは自分でも手を動かしながら「それもう少し細くせなあかん」とか「正三角形にしろ」「太いの持ってきて」とつぶやくように指示を出す。
信じられないけれど、組み飴の設計図は浅野さんの頭のなかにあるようだ。それに合わせてみんなが無駄なく動き、淡々と飴が組まれていく。
聞けば浅野さんはたった2cmの組み飴の中に「世界遺産」という文字を組みこめるそう。たとえば「十」という文字を飴にするとき、用意するパーツは最低でも7つ。固まるまでの時間内に切って整形することを考えたら、浅野さんの技術力は一朝一夕に真似できるものではないことがわかります。
その日の仕事を終えた浅野さんが取材に加わってくれた。
「組み飴づくりはチームワークだよ」
チームワーク?
「司令を出す自分みたいなやつがおって、それをアシストしていろんなパーツを用意してくれる人がいたり、整形してくれるパートさんがいたりする。最終的に司令を出したやつが全部組み上げていくんです」
経験のない人に、そのアシストは務まるのでしょうか。
「まずは触る前に飴を炊いてもらうよ。温度の勘が大事だから。あとは何にも言わんかもしれない」
何も言わないというと?
「形をつくるときに『それ三角、四角』くらいは言うかもしれないけど、それだったらパートさんでいいわけで」
「『これ◯◯ですか?』って自分から聞いてくれたら、次の指示は出すよ。目で見て覚えることが多いかもしれないけど、気持ちのある人は自分から動くよね」
職人の現場だ。マニュアルがあるわけじゃない。ときにはピリピリした空気になることもあるという。
「まあ一通りわかればやってみればええじゃん。失敗するかもしれんけど、失敗はおそれてもしょうがないわな。やるしかないよ」
いつも新しいデザインの飴の依頼が来るから、常に成長しつづけないといけないという。
浅野さんは飴づくりをはじめて40年以上だけど、「まだまだ失敗はあるよ」と話してくれた。新しく入る人も失敗をおそれずに、いずれチームを率いる人に成長してほしいと思います。
続いてご紹介したいのは、浅野さんのもとで組み飴の修行をしたという渡辺さん。ヒロさんと呼ばれています。
ヒロさんはまいあめ工房で依頼を受けた飴をつくる、もうひとつのメーカーの方。
浅野さんとヒロさんはライバル企業の人のはずだけれど、ナカムラの社員さんと浅野さん、ヒロさんがそろうと、なんだかその場にあたたかい空気がただよいます。
「ほかの会社さんの飴もつくることもあるんですけど、自分たちがつくった飴がどういう使われ方をするのか、どんな人のところに行くのかっていう情報ってほとんど入ってこないんですね」
「ナカムラさんのまいあめ工房の仕事は『こういうところで使うからちょっと気合入れてくれ』って伝えてくれる。工場内の士気も変わりますし、パッと見同じような飴ができたとしても、気持ちを込めて気合を入れてつくったものと、数だけ求められたものとでは全然違うと思います」
受注生産だからこそ、自分のつくった飴を誰がどのような使い方をするのかが見える。それはそのままモチベーションになるのだそう。
しかも、ナカムラが得意とする戦略的なWEBマーケティングで得られる仕事は、BEAMSやTabioといった自分ひとりでは到底関わることがかなわないような国内の有名企業や、アーティストとのコラボだったりする。
「自分の知っている会社だったり、そこでどういう使われ方をするかというのも聞いてると、納得がいかないときにはもう一回やり直したりしますね」
ときには師匠の浅野さんに教えを乞うときもあるのだそう。そうやって技術力があがっていけば、さらにまいあめ工房の信頼度はあがっていく。マーケティングと技術力が高めあえば、もっと仕事の質もよくなっていく。
これからナカムラでは、国内はもちろん世界を相手にもっともっと組み飴を広めていきたいと考えているそう。すでに攻めの企画ははじまっている。
たとえばスマートフォンのアプリで有名な「instagram」。
浅野さんがつくったinstagramのアイコンの組み飴を、instagram社の社長に頼まれていないけれど送ってみた。
なんとそれがきっかけで仕事が生まれ、日本で行なわれたパーティに正式に招待されたこともあるそうだ。
そのほかにもFacebookやApple、googleとの仕事も生まれている。
一見無謀にも見える攻めの企画を担当しているのは、貴男さんの息子・慎吾さんと奥さまの佐枝子さん。
「たとえばミスチルのコンサートでライブグッズをつくりたいって言ってくれたら、企画書を持っていくこともできますよ。ほかの企業では無理なこともうちは可能性があると言いきれます」
大好きなテレビ番組の飴をつくりたいと慎吾さんが話をする隣で、佐枝子さん。
「職人さんからこれやりたいねって私たちを感化してもらうこともあると思うんです。一緒になって組み飴を世界へ広めていきたいと思ってくださる方が来てくれたらいいな」
みんな企画の話をしているととても楽しそう。
今までつくってきたクオリティの高い組み飴に自信があるからこそ、冒険を楽しむ姿勢が生まれるのだと思います。お互いが信頼し合い高め合う空気がそこにはあるように感じました。
戦略と技術力、そして若い感性が響き合い、組み飴の世界は広がります。日本の伝統・組み飴が見せてくれる大きな夢、楽しめそうだと思えたらぜひ応募してみてください。
(2016/7/4 遠藤沙紀)