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自分たちの手で

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

鹿児島県大隅半島の中心にある鹿屋市。

北部には高隈山系が連なり、西側は錦江湾が広がる。

山と海に恵まれた自然あふれるこの地で、日本でここにしかいない豚を育てる人たちがいます。

サドルバック ふくどめ小牧場では、サドルバックという品種をはじめとした豚の養豚から、食肉加工、販売までを一貫して行っています。

自分たちで大切に豚を育て、食のかたちでお客さんへと届ける。

ここで、ハムやソーセージをつくり、販売する人を募集します。

経験は問わないそうです。移住を考えている人、新しい土地でチャレンジしたい人。ぜひ、最後まで読んでみてください。



羽田空港から1時間半ほど。鹿児島空港に着くと、取材の窓口となってくれた入佐香織さんが迎えに来てくれた。

入佐さん-1 鹿屋市出身の入佐さん。これまでは地元を離れて、国内外でさまざまな仕事を経験してきた。巡りめぐって、3年ほど前から鹿屋市や大隅半島の魅力を伝え、人を呼び込むコンテンツをつくる仕事をしているそう。

車窓からは濃い緑色の山々が眺められた。

ふくどめ小牧場がある獅子目町へ向かう途中、民家の横になんとポニーがいた。

「一般の家なんですよ。たまに子どもたちがキャベツの芯をあげたりして」と、入佐さん。

これが日常の風景なのかと思ったら、驚くと同時に心が落ち着くような気持ちになった。

「山も水もきれい。地元の人から見ても、ここは自然豊かな地域です」



お昼前に小牧場に到着した。

動物とふれあう牧場を想像していると、予想は外れるかもしれない。

カフェレストランがあり、細い道を挟んだ反対側に養豚場がある。

レストランは、豚舎をモデルに自分たちで建てたそう。外にはテラス席と子どもが遊べる小さなブランコもあった。

入り口のドアを開けると、ショーケースにはハムやソーセージ、ベーコンが種類豊富に並んでいた。その一つひとつに添え書きがしてある。

ショーケース 取材の前に、ランチをいただくことに。

ハンバーグや竜田揚げといったメニューのなかから、サンドイッチとオーガニックレモネードを注文した。

サンドイッチ ハムのお肉は柔らかく、なかに入っているスパイスのいい香りがする。焼いたソーセージは、香ばしくてぷりっとした食感。写真のバゲットのほかにも、メニューにはお店で焼いたパニーニもあるという。

店内はだんだんと、家族連れやカップルのお客さんで混み合ってきた。この日は日曜日。大切な人とゆったり休日を楽しむには、とっておきの場所のよう。



店内が少し落ち着いたころ、加工品の作業場を見せてもらいました。

gift 作業場では、次男でマイスターの洋一さんと、お母さんの鶴美さんが、一つひとつギフトセットの箱詰めをしているところでした。注文は全国から来るといいます。

冷凍庫のなかも見せてもらうことに。扉を開けると、冷気とともに旨味がぎゅっと濃縮されたような匂いに包まれた。

ベーコン 写真のチロールシンケン(生ハム)は8ヶ月間熟成させて、もう食べごろなんだとか。

ほかにも白カビが特徴の生サラミなど、種類によって熟成させる期間はさまざま。1〜2ヶ月かかるものから、2年かかるものまであるそう。

すべてこの小牧場で育てている豚のお肉を使ってつくられている。



養豚をするのは、洋一さんの父・福留公明さんと、兄の俊明さん。場内の養豚場へ行くと、公明さんが自慢の豚を連れてきてくれた。

ひろあきさん1 背中から前脚にかけて毛が白くなっているこの豚が、日本ではここでしか飼育されていない、サドルバックという種類の豚。もともとはイギリス発祥で、いまでは世界中で希少な品種になっているそう。

お父さまの影響で養豚をはじめた公明さん。44年前からこの小牧場を営み、最初は黒豚を育てていた。

15年ほど前に、次男の洋一さんがドイツでハムづくりの修行をしていたころ、サドルバックに出会う。

アメリカの大学で品種の保存のために飼育していることを知り、話し合いの末、5頭を輸入できることになった。

「そこからおいしい豚をつくるっちゅうことでやっていきました。試験的につくったエサを食べさせては解体して、試食をして」

海藻末やトウモロコシなどをブレンドし、ご飯を煮てつくるエサは、実に30年以上も研究を繰り返してようやく完成した。

「サドルバックはさらっとした上質な脂身が特徴です。同じエサをやっても黒豚は脂のしつこさが残る。エサによって肉の味は全然変わるから、豚の種類によってエサも変えているんです」

ふくどめ小牧場では3通りのエサをつくって、サドルバックのほかにも、サドルバックと黒豚をかけ合わせた「幸福豚」、一般的な品種の豚を育てているそう。

エサをつくる手間に驚く。さらにエサは人も食べられるのだとか。

「シェフの方々が直接見に来たときにエサを試食できるんです。『こういうエサを食べさせたのがこの豚の肉になる。だから美味しいというのをお客さんに説明できますよ』って言って。そうするとみんな喜んでくれます」

エサに含まれている海藻末も、公明さんがノルウェーを訪れたときに自分の目で確かめて選んだもの。今後は直接輸入したいと考えているそう。

「ほんとの手づくりだよね。豚も自分たちで育てて、加工するところまで。これ以上の安心安全な肉っちゅうのは探してもない。それだけは自信がある」

ひろあきさん2 自分たちで一貫してつくるから、すべて正直に伝えられる。

「少ない生産体制で手間をかけてやっているので、週に10頭しか解体できないんです。限られた頭数で、限られたものしか卸せない。卸先にも、『今週の分はもうないです』って伝えることもあります。それをわかってもらえるところとしかうちは取引できないです」

そう話すのは、末っ子長女の智子さん。

ともこさん 以前はITの会社に勤め、中国や東京でキャリアを積んできた方。

2年前に戻ってきて、販売や事務全般をして、父や兄がそれぞれの仕事に専念できるように支えている。

「お父さんと長男が豚を育てて、次男が加工品をつくって。こうやってみんなで売って。自分たちの育てた豚は、自分たちでお客さんに届けるっていうのがいちばん基本のスタンスです」



マイスターの洋一さんにも加わってもらい、さらにお話を伺います。

洋一さん 21歳から10年間ドイツで食肉加工の知識と技術を蓄え、6年前に帰ってきたそう。

「日本の一般的なお肉屋さんでは、たとえばソーセージをつくりたいからソーセージ材を20kg、脂を10kg買うという考え方なんです。僕らはそうじゃない。ロースやバラ、肩ロースなどの生肉用と、残ったウデやモモの肉でこれをつくろう、あれをつくろうと考える」

「筋が硬くてお客さんにとって扱いにくいウデやモモの部位も無駄にしません。大切に飼った豚なので、みんなに食べてもらえるように、自分たちがひと手間かけて加工して販売する。そうしたら豚1頭まるごと売れるんじゃないかなと思って」

ふくどめ小牧場のハムやソーセージづくりの特徴はなんですか?

「シンプルにつくるということ。一般的にはミックスといって、肉の種類が混ざっているものが多いですが、うちは1種類でつくっています」

ほかにも、日本人に合った味にするために、塩漬けの工程では保存に必要な最低限の量まで減塩する。塩も鹿児島の塩を使用したり、胡椒は加工する直前にミルをつかって潰したり。

ちょっとした手間をかけてでも、自分たちにできることは自分たちでしたい。

「野菜も育てて、春には掘ってきた筍を料理に添えてみたり。そういうところに魅力を感じて、遠くから来てくれるお客さんもいる。田舎を味わってもらうためにこの場所は運営しています」

洋一さんのなかでは、これからの構想が膨らんでいるよう。

「ハムと一緒に、本場ドイツの味をもっと楽しんでもらおうと、ビールもつくりたい。1〜2年はお金をうまないことも覚悟して。徐々に徐々にかたちにしていくんです」

隣で聞いていた父・公明さんも、薪ストーブで暖をとったり、自家製のソーセージやベーコンを使ってピザを焼いたりしたいと、楽しそうに話してくれました。

この場所だから味わえるものを訪れた人に届けたい。そんな想いがあるんだと思います。

洋一さんに、どんな人と働きたいか聞いてみます。

「オールマイティにこなせる人。製造も販売も、自分で先のことを考えてもらわないと。僕は説明しないので」

職人の仕事。こだわりも強いし、マニュアルがあるわけでもない。

「失敗してもいいからやっていいよと言うこともあります。それで大きな失敗をしても『よく頑張った!』と評価するけれど、小さいことはイライラして(笑)」

加工の仕事は力もいるし、生肉を扱うからきれいな仕事ではない。忙しいときはゆっくり休憩を取れないこともあるといいます。

覚えることは多いだろうし、厳しい指導もあるかもしれないけれど、チャレンジしていく気持ちが大事になるようです。



スタッフの拓哉さんにもお話を伺います。

たくやさん バンド活動をしつつバイトをしていたときに、音楽フェスで洋一さんと出会ったのが、ここで働くきっかけだったそう。

入ってみてどうでしたか?

「家族経営のなかに最初に飛び込んだのが僕でした。最初はあったかいなと思ったけど、気を遣うこともありました(笑)。でも一長一短で、面白いところでもあります」

スタッフとその家族をふくめ、みんなで新年会や忘年会などイベントを楽しんでいるそう。

勤めて5年になる拓哉さん。ふくどめ小牧場は「鹿屋らしくない」といいます。

「買ってくれる人たちは都会の人が多いんです。出張に行って、高級なレストランなんかを相手に肉を卸しているというのは、やりがいがあります」

地域に根を張りながら、外からの需要にも応えていく。人との出会いが多いことも、仕事の面白みになっているよう。



最後に洋一さんの言葉を紹介します。

「食というのは、夢のある仕事だと思います。もちろんつらいこともありますけど、食べる人の笑顔も見れるし。いい仕事だと思います」

自分が生活する土地で豚を育て、ハムやソーセージをつくり、お客さんへと届ける。

ここにしかない味をつくる一員になる。それはきっと誇りをもてる仕事だと思います。

8月26日には、智子さんを東京にお招きして「鹿児島の仕事ナイト」も開催します。こちらはどなたでもお気軽に足を運んでみてください。

そして10月14日〜16日には、鹿屋市が主催する「かのや移住×仕事体験ツアー」が企画されています。

まずは鹿屋を訪れてみてはいかがですか。ここにしかないモノ、ここにしかいない人たちが待っています。

(2016/08/16 後藤響子)