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地方へ移り住み、林業に就く。そんな光景がこれからは当たり前になるかもしれません。

ところが近年、木材の国内自給率が2000年を底に回復しはじめたり、若い人を中心に林業に従事する人も少しずつ増えはじめています。
最近では林業をテーマとした映画が公開されたり、全国各地に林業女子会が登場したり。政府も2025年の国産材の供給量が1,7倍になることを目標に掲げています。
いま日本の林業は少しずつ盛り上がりはじめています。
今回募集するのは、林業で働くことに興味のある人。林業のリアルを体験する林業就業体験合宿を、九州にある佐賀県佐賀市が2泊3日で開催します。
「佐賀」と「林業」の組み合わせにあまりピンとこない人がいるかもしれません。実際に佐賀県の森林面積は全国で下から数えて6番目に少ない。ところが、人の手が加えられた人工林の割合の高さでいうと、佐賀県が全国第1位です。
なかでも佐賀市は南北に長く広がり、山も平野も海もすべて揃ったまち。下流の平野部では諸富家具などの木工業が盛んで、米や麦、野菜が採れる。有明海では海苔が養殖されています。
どの産業も豊かな山あってのこと。佐賀市はいま再び林業に注力しています。
実際に林業とはどんな仕事なのか、佐賀市を訪ねてきました。
佐賀空港から車で40分ほど。まずは佐賀市富士町で富士大和森林組合が作業しているところを見学します。

上の写真の機械はハーベスタといって、先端の青いアームの部分が伐倒・枝払い・集積などいくつもの作業を全てひとつで担います。
操作するのは、今年13年目の辻さん。
富士大和森林組合では世代交代が進み、30~40代の若い人たちが主力メンバーになっています。

よく見ると、足元にはペダルがいくつもあって、両手に持つレバーにもそれぞれ10個以上のボタンがついている。辻さんはこれらすべてを操作しながらスムーズに搬出作業を行っています。
機械の動かし方も、作業する順番もすべて緻密に考えられている。林業は単純な労働作業と思われがちだけど、人によって作業効率が大きく変わるといいます。
「まぁこの操作は最初難しかったですよ(笑)。けど、やればやるほど体でだんだん覚えていって。車の運転が上手い人なら、機械も向いていると思います」
辻さんが富士大和森林組合に入ったのは19歳のとき。数ヶ月ほど工場で働いたけれど性に合わなかったそう。
たまたま知り合いに紹介されて林業をはじめた。とくに林業のことを知っていたわけではなく、林業がしたいと思っていたわけでもなかった。
「けど、景色が変わるのがすごくよくて。春夏秋冬で山の風景は変わるし、現場も毎回変わる。それが自分に合ってたんかな」

地ごしらえといって、木を伐採した跡地を整理して苗木を植えられる状態にする作業。春には苗木を植え、夏には苗木の成育を妨げる雑草の草刈りを行う。秋には2〜4mのはしごを登って木の枝打ちを。伐木は冬を中心に行われます。
「どれも結構頭使う仕事なんです。勉強の頭というより、気が利く頭のほう。ずっと流作業だから、次の人の仕事がしやすいように考えてしていかんと。自分の仕事だけこなして後は雑にしてたら、次の人が詰まっていくけん」
一歩間違えれば大ケガにもつながる。しっかりコミュニケーションをとりながら仕事をして、日頃から信頼関係を築くことも大切なんだといいます。

13年目でもまだまだなんですね。
「そう。だから林業やりたいっていう最近の人を見ると、大丈夫かなってちょっと心配。夏場の草刈りは本当に地獄ですからね。植林したばかりだから日陰はないし、蜂もいるし」
どんな人が向いていると思いますか?
「元気と体力さえありゃできると思う。逆にこれがないと林業できないってことはないです」
今年4月に林業に就いたばかりの梶原さんにも話をうかがいます。

昨年の体験合宿に参加し、林業に就くことを決めたといいます。
「それまでは土木を仕事にしようと思っていました。うちのじいちゃんも父さんも、ずっと土木をやってきたので。でも、合宿に参加してみたら想像していたよりもずっと面白くて」
土木よりも?
「土木の現場とは違って、衝撃でした。2日目の現場見学で、チェーンソーで木をボーンっと倒すのを見て『すげえ!』って。機械を使ったりするのもかっけえなって」
「現場の人たちみんなが合宿のときに言ってたのが、達成感があって気持ちいいからやめられないって。最初は何でもなかった山を自分たちの手できれいにして、仕事終わったあとにその山を見るのがすごくいいって。そういうのも聞いたりして、自分も林業やりたいなって思ったんです」
実際に働いてみてどうですか?
「きつい(笑)。でも、辞めたいとかは思わないですね。友達の話を聞いたら、楽そうな仕事なのに自分と同じ給料でなんやこれと思うこともある。けど、羨ましいというよりは、その仕事楽しいのかなって。自分はきついし、時々やってられないやと思ったりもするけど、やっぱり仕事終わったら今日も一日頑張ったなって達成感が得られる。楽に稼ぐことよりも、きついけど達成感があるほうが楽しいのかな」

「うん。一番すごいなと思った出来事があって。主任の森永さんが現場ででっかい木を倒したんですよね。倒れた瞬間びりびりってきて、鳥肌がぶわってなって。人の仕事を見て鳥肌が立ったのは、そのときが初めてなんですよね」
「うわぁすげえ、俺もああなれるかな、無理かなぁって(笑)。ここにはすごい人たちがいっぱいいるんですよね。辻さんも冗談ばっか言って陽気な人だけど、いざ仕事するとすごいんですよ。自分も将来、ああいう人みたいになれたらいいな」
辻さんや梶原さんが在籍する富士大和森林組合は、佐賀市内では一番大きな森林事業者。今回の体験合宿の受け入れを行っています。
移動中の車内で話をうかがったのは、富士大和森林組合の組合長杉山さんと佐賀市富士町の地域おこし協力隊の門脇さん。

「林業というのはまだまだ職業としての認知が低いんじゃないかと。もちろん大変な仕事だと思います。一番暑い時期に草刈り機を持って下草を切らないかんし、木を倒すときには危険を伴う。後に続く人たちを増やすためには収入のことも考えて、もっと森林整備を拡充させていきたいんですね」
「だけど、地元の人だけではなかなか新しい発想が出てこない。都会の人に林業に参加していただいて、これまでとは違った見方・考え方で挑戦していければもっと発展していけるんじゃないかと思うんです」
そんななか、佐賀市では都市部から地域おこし協力隊を募集しました。
協力隊の門脇さんは埼玉から旦那さんと一緒に佐賀へ移住。活動の拠点である富士大和森林組合では広報を担当するほかにも、新商品開発にも携わっています。

「いま新たに考えているのが、アロマエッセンシャルオイル。現場で木を枝払いしたあとの枝や葉っぱが山に残るんですが、これを蒸留にかけて商品化できないかなって」
そういえば辻さんが機械を動かすのを眺めている間、ずっと木のいい香りが漂ってました。
「そうなんですよね。この森の香りをみなさんにお届けできたらと思っています。私はこれからも今までにない新しいことにチャレンジしていきたいけど、現場でも新しいことにチャレンジしてくれる仲間ができたら、よりいろんなことができるだろうなって」
「山を持ってる人たちは、次の世代に山を残しても価値がないよねって思っているんですよね。でも、よそから来た私からしてみたら、資源の塊だし宝の山だよねって。いま日本の山は岐路に立たされていると思います。これからの森についてのあり方をもっといろんな人が考えていいと思うし、意見を出し合っていいと思うんです。一緒に草の根のところからはじめてくれる人が来てくれたらうれしいですね」
林業は佐賀市の基幹産業。きっと林業のことを考えはじめたら、自然とまちのことも考えるようになると思う。
富士町の中心地に「古湯」という地域があります。
2200年以上も前から続くといわれる“ぬる湯”の温泉地で、15軒の温泉旅館が並びます。38度の低めの温泉は美肌の湯として知られていて、福岡からも観光客がやってくる。

今年5月には「ふるゆ温泉おさんぽ市」というイベントを仲間たちと一緒に企画して、空き地や空き店舗を利用した大きなマルシェを開いたそう。毎年9月に開催する古湯映画祭も大好評なのだそう。
また、古湯自治会長のもと空き家対策プロジェクトチームの一員として、移住相談に対するアプローチも行っています。1年目でなんと13軒の空き家が埋まったのだとか。
ユニークな人たちが増え、アンティークショップやカフェなど新しいお店ができはじめている。最近では「泊まれる図書館」のクラウドファンディングが成功しました。
「移住してきてくれる人が増えれば増えるほど、このまちや林業を考えてくれる仲間が増える。いまもだいぶ集まってきて面白んですけど、もっともっと入ってきてもらってもいいなって」
取材の終わり、温泉旅館の女将が経営しているカフェ「古湯キッチンTen」に。
門脇さんと同じく佐賀市へ移住してきた方々の輪の中に入らせてもらいました。

農薬や化学肥料を使わない農業をしている人、まちの困りごとに応えるようなNPOを立ち上げた人。
どの人も、濃くていい人たち。きっと一緒に面白いことを考えられたら、ほかの地域にも負けないことができると思う。

まだまだ可能性のある佐賀市に、まずは合宿で体験しに来てください。
(2016/8/1 森田曜光)