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いろいろな地域や企業を訪れて感じることは「ちゃんと事業をつくれれば解決される課題が多い」というものです。たとえば、人口が減少している地域で人を増やすには、仕事をつくるのがいいかもしれないし、成熟期から衰退期に移行している企業を復活させるには、新しい事業を考えたほうがいいかもしれません。
今回は東京の島「新島村」で「しごとをつくる合宿」を開催します。

まずは島の課題をインタビューして、同じグループのメンバーとともに解決案を考えます。そして、最後に島の方々に発表です。
もし自分も地域で仕事をつくりたい、新島という島に興味がある、という方がいればぜひ参加してください。日程は10月13日(木)〜16日(日)まで。東京竹芝桟橋から船で向かいます。
記念すべきはじめての開催です。僕自身、とてもワクワクしています。
新島村は東京の島々です。新島と式根島、そして無人島から成り立っています。
訪れる方法は主に3つ。客船で8時間ほどかけていくか、高速船で2時間半、もしくは飛行機なら30分ほどで到着します。
島に到着すると、まず目に飛び込んでくるのは白い砂浜とエメラルドグリーンの海。

ほかにも温泉があったり、サーフィンやダイビング、釣りができたり、海の幸、山の幸にも恵まれている。
都内から150キロほどの距離なのに、同じ東京都だとは思えません。
ぼくはこの島に通って8年目です。東京都にはこんなに素晴らしい島があるのに、なぜ多くの人が知らないのだろう、と思います。
もちろん、今でもいい島々なのですが、もっとよくなると思います。
まず話を伺ったのが、新しくNABLA(ナブラ)というホステルをつくろうとしている梅田久美さん。
訪れたのは、まだ工事中のNABLAでした。ここは今回の合宿の宿泊予定地でもあります。
「ナブラとは漁師の言葉で、小魚が大きな魚に追われて海面が沸き立っている状態のこと。新島ではナムラということも多いです。海の上では、糧を得るために人も鳥も大きな魚もナブラを目指します」

客室は4部屋あって、2段ベッドが並んでおり、定員は24名。ちょうど今回の合宿の参加者数と同じなのも縁を感じます。

久美さんは新島出身です。もともと実家は電気や空調などの設備工事を請け負っており、今もその仕事を続けています。
なぜNABLAをつくろうと思ったのでしょう。
「村の真ん中に大きな建物が廃墟のようになってずっと空いていたんですよ。7、8年そのままで。私、もともと古い建物が好きで、コーガ石もすごく好き。もったいないなあっていう気持ちがあって、中を見せてもらえる機会があったんです」
はじめは単身者用の住宅にしようと考えた。けれども間取りをみて、直感的にゲストハウスにすることを思いつく。
「そのときに影響を受けたのがsaro(サロー)です。saroがあったからこそ、宿をやってみようと思いました」

「saroができたことによって客層がちょっと変わったんです。見ていても『あの人、saroのお客さんじゃないかな』っていうのがわかるんですよ」
「でもsaroはなくなってしまって。だからほかの今ある宿のお客さんを取る形ではなくて、saroのように新しい客層で集客したいと思っています。たとえば、海外の方々が訪れる宿がまだ少ないんです」
たしかに島には民宿が多い。ホステルのような業態ができれば、食事はつかないのが基本だから、島の飲食店にも貢献できるかもしれません。
今回、しごとをつくる合宿を開催する上で、久美さんに島で事業をつくる難しさについて聞いてみました。
すると島出身の久美さんでも、NABLAをつくるために苦労したんだとか。
もっとも難しいことは、空き家を貸してもらうこと。
「島の人って、きれいにしなきゃ貸せないっていう気持ちが強くて。だから、直せれば貸したいんだけど、お金をかけてまで貸す人はいないんです」
もしかしたら島の人たちは古い家だと思ってしまうかもしれないけれど、とても美しい建築だと思います。なんと島の7割の家がコーガ石でできているのだとか。

「夏に一気に稼いでしまうというやり方もあります。離島ブームのころは、みなさんそんな感じだったかもしれませんね」
離島ブームとは70年代に起きたもの。沖縄や海外を訪れることはまだ敷居が高く、多くの若者が伊豆諸島に殺到した。
ぼくは当時を知りませんが、とても賑わっていたようです。
「フランクフルトを焼いたら飛ぶように売れた」とか「ディスコが何軒もあった」とか、いろいろな話を聞きました。
とはいえ、今となっては過去の話。当時とはちがった形で仕事をつくらなくてはいけません。
今度は新島での暮らしについて聞いてみました。
「まず通勤時間がないこと。だから家族と密に関われます。たいていの人は、お昼ご飯は家に帰っていますし、残業のある職場もほとんどありません」

どんな人が合っていると思いますか?
「やっぱり自然が好きな方が一番いいと思います。細かいことを気にしない、大らかな人のほうが過ごしやすいかもしれないですね」
NABLAができたら、ぜひ訪れたい。今は働く人も募集しているそうですよ。
次に話を伺ったのが商工会の下井勝博さんです。今回の合宿をはじめようと動いた張本人。
島にはどんな産業があるのか聞いてみました。
「大きな法人と言ったら、ほとんどが建設業者です。あとは焼酎をつくったり、海運業とかですね。新しい事業というのは、あまり増えていないです」

今回は、この合宿を通して新しい事業が生まれるきっかけとしたいそうです。新しい事業をつくる上でポイントとなるのは、だれをターゲットにするかということ。
ひとつは観光客を相手にして、夏の繁忙期に一気に稼いでしまうやり方。ほかには島の人を相手にすることも大切だし、何か名物をつくって村の外へ販売していく方法もあるかもしれない。
「ここから物を送る場合、チルド便はゆうパックしか使えません。ただ、常温なら送料は関東エリアと同じなんです」
もうひとつは3年後に光回線が島に通じること。下井さんは、さらにそれが先進的な形となるように、旗振り役も務めているようです。
光回線によって、こちらでもできる仕事が増えるかもしれません。
もう一人話を伺ったのが、村議会議員の木村諭史さんです。木村さんも下井さんとともに、この合宿を応援してくれている方です。
あらためて新島で事業をつくることについて話を伺いました。
「まずここは、島内だけではビジネスベースの事業をつくることが難しい島だと思います。公共事業に依存しやすい体質があるし、離島ブームのときは黙っていてもお客さんが来ました」

たとえば、二地域居住しながら、島の農産物のブランド化に貢献しているチーム『nieve』は、雑誌TURNSに掲載されたり、メンバーがビジネスとして島と関わる事例もあるそう。なんと結婚式も新島で行ったことがあるようで、島の人たちとつながっていることがよく伝わってくる。
最近では島ファンが高じて、島でのwebサイトやパンフレットのデザイン、映像制作で関わっている人もいるそうです。
島に共感しつつ、島への愛情と専門性を発信してくれている方々です。
ただし、新島村からそういった人たちと積極的につながろうという動きは十分ではありませんでした。そこはもっと工夫できるのかもしれません。
取材を終えて、夕焼けに染まる海岸でぼんやり考えてみました。いつもここで考えると落ち着きます。

島で新しい事業をつくるには3つの方向性があると思いました。
ひとつは今まで訪れていない人たちを呼び寄せること。そのときに夏以外にも人を集めることができたら素晴らしい。
もうひとつは新島村でつくったものを島外へ販売すること。すでに有名なものとして「くさや」がありますし、「あしたば」も個人的に好きなものです。そういったものを活かすこともできるかもしれません。
そして、インターネットを使って島で働ける仕事をつくることにも可能性を感じました。3年後には光回線が通じます。東京都内からも、毎日船や飛行機が出ていますから、都内で打ち合わせをすることも可能です。
この3つを組み合わせることもできると思います。
何より仕事をつくる上で大切なことは、まずやってみることです。いきなり今の仕事を辞める必要もありません。まずは週末に通うことからスタートできるかもしれません。NABLAに宿泊すれば、きっと久美さんたちに相談することもできます。
事業をつくることで課題を解決できれば、多くの方に喜んでもらえます。それに自分のことを待っている人たちがいる島ができたら、なによりうれしいことだと思います。
(2016/8/30 ナカムラケンタ)