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糸いろどるセンスと身体

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

頭を使うよりも、身体を動かす仕事。考えるだけでなく、感じる仕事。

今回紹介するのは、そんな仕事です。

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どの家庭の裁縫箱にもある横田株式会社のダルマ糸。この糸の染色工場で働く人を募集します。働いているみなさんが幸せそうなことと、なんだか心も体も健康的なのが印象的でした。

経験は問わないそうです。身体を動かしながら、染色していく仕事に少しでも興味があれば、ぜひ読んでみてください。

京都駅で地下鉄に乗り換えて、北大路駅へ向かう。駅からバスに乗るとすぐなんだけれども、20分弱ほど歩いてみた。京都の中心部から離れて、ゆったりとした空気が流れている。

大徳寺前の交差点からすぐのところに横田株式会社の紫野工場が見えてきた。

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横田株式会社の創業者、横田長左衛門が糸の製造と行商をはじめたのが1901年のこと。「価格は一時、品質は永遠」という信念を持って、最高級品にのみダルマのマークをつけました。

まさにこの工場では、そんな糸を染色している。

インターホンを鳴らすと、奥から声がする。作業を止めてでてきたのが工場長の山崎さんです。

早速、工場のなかを案内いただきました。

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たくさんの糸の山を通り抜けると、見たこともない機械が並んでいる。大きな釜のようなものや、たくさんの水が流れているもの。蒸気が出ていて、近づくとメガネが曇る。ものすごく熱い。

この工場の役割は、本社からオーダーがあるごとに糸を染めるというもの。

とはいえ、綿はもともと自然なもの。油も含んでいるし、不純物がたくさんある。単に染めるだけではなく、まずは不純物などを取り除いて、ムラのない状態にしていくところからスタート。

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そのあとは色を染めていくことになる。けれどもこれがなかなか難しい。なぜなら簡単に色が合うわけじゃないから。調合室にあるたくさんある染料から選んで調合していく。そのあとは機械にかけて染めて、たくさんの水で洗い、最後は乾燥させる。

染めたあとの糸を見せていただいたら、とても鮮やかで美しかった。

山崎さんにそれを伝えると、ちょっと聞きなれない言葉が返ってきた。

「わたし、色を触っているのが好きなんですよ」

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色を触る?

「ものすごくへんな言い方ですけども、色をまぜて色を決めていくんです。もちろん、目的の色があって、それに合わせていくんですけど。自分の感性をつかって、調整していくんです」

「振り返れば、小学生のころから絵の具を触っているのが好きで。たとえば黄色と青をまぜたら緑ができちゃったとか。そんなことから楽しくなったんでしょうね」

山崎さんは京都生まれ京都育ち。手描き友禅をやっている家庭に生まれた。

「いつも父母が自宅で作業していました。そういうこともあって、スーツを着て働くようなイメージはなかったんですね。なんとなく職人になるんだろうな、って漠然と感じていたんです」

絵を描くのが好きになって、美術の学校に入学し、日本画を学ぶことになる。卒業してからは帯のデザインを仕事にした。

「昨今の西陣の不景気もあって、なかなかデザインで食べていくのも難しい世界でした。それで30歳のときに染色のほうへ進みました」

ところが勤めていた小さな工場が連鎖倒産をしてしまった。38歳の山崎さんは、ちょうど募集があったこともあり、横田株式会社へ入社することに。そして15年ほど働いて、現在に至る。

この仕事の難しさはどんなものなんでしょう。

「色合わせですね。どうやって目的の色に近づけていくか。データはあるんですよ。だけれど、染料の生産の時期やロットが変わっていると差がでたりする」

「それに綿そのものだって、一つひとつ土壌や環境が変わる。自然のものですから。データ染色しているので、一回で決まることももちろんありますけど、調整も必要なんです。ただ、染色をしているのはとても楽しい」

一番楽しいのはどんなときですか?

「ぶれている色を直すときに、一回で決まるとき。これはすごい楽しい。自分の感性があっていたんだ、って感じるんです。あとは一発で想像どおりに色がでたときとか」

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色というものを独特の目線で見ているんですね。

「どうなんでしょう。たとえば色を見たときに『これはあの染料とこの染料でつくれるな』と思ってしまう。それは仕事でなくても、ただぼんやりと色を見ていても、そう思ってしまう」

「…たとえば、食品とか(笑)」

食品?

「大根のたくあんとか。この色いれたらつくれるなって、勝手に想像してしまうんです」

山崎さんの話を聞いていると、なんだか天性の才能や長い経験が必要な仕事のように思えてくる。けれども決してそんなことはありません。

山崎さんと一緒に働く木下さんは、なんともともとは横田で営業をしていた方。

なぜ入社したのか聞いてみました。

「うちの母親の裁縫箱にも、自分が家庭科の授業でつかっていたのも、ダルマの家庭糸でしたので。母親はずっといい商品だと言っていましたし、知名度もすごいですよね。安定している企業だし、はじめから横田一本で入社しました」

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平成3年に入社して、はじめは営業部に配属された。大阪の本社や九州に配属されていたものの、9年前に今の染色工場へ配属になった。

経験なかったのに、難しくなかったですか?

「難しいですよ。山崎のように小さいころから関わってきたわけじゃない。色も元からそういう色があるものだと思っていたんですよね」

決められたものをいれればいいというような。

「そう。けれども実際には三原色の組み合わせ。なんで三色からこんな色になるのか、はじめは理解できなかったです」

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だんだんなれていくのはどんな感覚なんでしょう?

「目と身体でおぼえる、っていうんですかね」

すると山崎さんが「もともと、そういうのが好きなんやと思う。ものをつくったり、そういう感性はあるんやろうな」とのこと。

たしかにとても感性を使うし、身体性のある仕事だと思う。

色を合わせること以外にも、木下さんが難しいポイントとして挙げるのは「もつれやすい糸の扱い方」なんだそう。

「扱いにくい糸があるんですよ。もつれやすい糸。はじめて先輩の作業を見たとき、手のひらに目ができているんかなと思うぐらい(笑)」

「みんな、身体でおぼえていくんです。最初は難しくて閉口するんだけれど、知らぬ間にできるようになっちゃう」

ほかにも大変なことは、工場内の暑さだという。

「冬でもTシャツ1枚ですからね」

冬はちょうどよさそうですけど。

「そうですね。ただ、中と外の温度差がかなりある。色を見る工程では、いろいろ場所を変えてみるんですよ。日光の下で見たり。僕ら、メガネかけているでしょ。中にはいると一瞬でまっしろけになって、前が見えなくなるんですよね」

「夏は42度にもなりますよ。染色機は90度で動いているときがありますから、輻射熱ですごいことになります。染色機の間に入ると大変です。もちろん、長居はしませんけどね」

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ところが身体は丈夫になるそうで、湿度が高いこともあるのか、風邪をまったくひかなくなるそう。木下さんも営業をしていたときは毎年風邪をひいていたものの、工場に来てからは大丈夫なんだとか。それに「痩せますよ」とのこと。

話を聞いていて印象的だったのが、終始おだやかな顔の木下さん。

大変なことばかり聞いたので、今度はうれしいことを質問してみる。

「実際に手芸屋さんとかで見ると『これは自分が染めたやつだ』ってなるところとか」

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「子どもと買い物にいくと『これ、お父さんが染めたやつ』って言えるじゃないですか。見たら自分が担当したものかどうかわかるんです」

横田では滋賀県にある工場で、撚って糸をつくる。その糸が、すべてこの工場に来て染められて、また滋賀のほうに戻されて商品として整えられるそうだ。

余談だけれども、なぜそんな工程になっているのかといえば、この場所にはたっぷりの地下水があるからなんだそう。もともとの水はちょっと鉄が多いそうなので徐鉄して軟水にしたものを使用している。

続けて、どんな人がこの仕事に合っているか聞いてみる。

まずは工場長の山崎さん。

「力仕事が多いから、男性のほうが向いているのかな。ただ、女性もいますよ」

「あとはちゃんと自分から聞ける人。声をかけてもらうのを待っている人だと難しいですね。知りたい人には秘密にしないから。多少うっとうしいくらいでも聞きに来てほしい。勝手に解釈されたらトラブルの原因になるから」

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次に木下さん。

「細かいことが好きな人かな。ぼくら二人とも細かいことが好きなんです。車とかバイクも好きで、自分で加工したり取り付けたり。あとはぼくから見たら、経験はいらないですよ」

二人が話していて一致したところとしては「気にしい」のタイプがいいということ。

「これくらいでいいでしょ」ではなくて、「ちゃんとやらないと気が済まない」ような人。

あとはとてもチームで仕事をしているように思います。みんな黙々と働いているのに、状況に合わせて柔軟に分担できているみたい。

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まさに阿吽の呼吸。

ゴールに向けて仕事をしている姿は、スポーツチームを見ているようにも感じました。

取材を終えて、京都の街を歩きながら取材を振り返ってみる。しみじみと「いい仕事だったなあ」と感じた。

取材前は同じような作業が続くので、単調な仕事なのかもしれないと思っていた。

木下さんも「同じような作業のようでいて、毎日ちがう。それが面白い」とのことだった。

デスクワークではなく身体を動かしたり、五感を活かすような仕事。あっという間に時間が過ぎていくのだろうな。毎日18時くらいには仕事がすべて終わるそうです。

最後に工場長の言葉を紹介します。

「工場だから3Kのイメージがあるかもしれない。たしかに手に染料もつくし、暑いし、重いものも運ぶ。ただ、汚いというのはないですよ。それよりも面白いっていうのはありますね。私らは面白いと思ってやっているんで。15年経った今でもいまだに飽きずにやっている」

(2016/9/7 ナカムラケンタ)