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都市の油田を掘り起こせ!

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

日本には油田があります。

それは各家庭や飲食店のキッチン。使用済みのてんぷら油や賞味期限切れの油が再利用できることを知っていますか。

p1280618 廃食油にアルコールと触媒を入れて反応させ、蒸留すれば出来上がり。燃料としてバスを走らせることもできるし、今や大がかりなイベントやイルミネーションの電源にも使われています。

23年前、廃食油からバイオ燃料(VDF)をつくることに世界ではじめて成功した株式会社ユーズは、そんな取り組みを少しずつ世のなかに広めている会社です。

今回はここで働く人を募集します。

正直に言って、日々の仕事は地道なことの積み重ねが多いと思います。そのなかでも、環境のことや関わる人たちのこと、そして自分自身がどうありたいか、向き合いながら続けていける仕事だと感じました。

ユーズの描くビジョンと地道さ、両方ともよく知った上で応募を考えてほしいです。


東京・墨田区八広。

町工場の立ち並ぶエリアを歩いていると、「油」という文字が目に入ってきた。

p1280481 ここはユーズの運営する「油田カフェ」。地域の人が気軽に利用できたり、周辺町工場の勉強会や懇親会にも使えるような広さがある。

外観の写真を撮っていると、「こんにちは!」と声をかけられた。代表の染谷さんだ。

p1280502 高校卒業後、アジアを放浪。そこでの経験から環境問題への興味が湧き、廃油回収業を営む実家の染谷商店に就職した染谷さん。

その後、VDFの開発に成功し、1997年にユーズを設立。新聞やテレビのほか、HeraldやTIMEなどの海外メディアに取り上げられたこともある。

「油を中心に循環型社会をつくるのがひとつの目標なんです。一滴残らず油を集め、東京を油田に変えるというやり方でそれを実現したいと思っています」

そんな想いのもと、2007年からの10年間に東京で出た廃食油をすべて資源に変えるプロジェクト「TOKYO油田2017」を立ち上げ、これまでの9年間にもさまざまな取り組みを展開してきた。

p1280530 「店舗から出る油が産業廃棄物として回収されている一方、家庭では年間10万トンが流されたり、生ゴミと混ぜて廃棄されているんですね。そこで、薬局やおせんべい屋さん、花屋さんなど、協力してくださるいろんなお店に回収ステーションを設置しています」

地域の人は、ペットボトルに入れた廃食油を近所の回収ステーションに持っていく。それを定期的にユーズのスタッフが回収にまわり、工場で精製するという仕組みだ。

できた油は、石鹸にしてスカイツリー下の商業施設「ソラマチ」で販売されたり、自由が丘でコミュニティバスの燃料として使われたり、キャンドルづくりワークショップの材料になったりと、形をさまざまに変えて活用されている。

「SHIBUYA BOSAI FESやアースデイ東京などの電力も、VDFを使った発電機でまかなわれています。これまでは環境イベントが多かったですが、最近ではFOOD FESでも活用していて。そこで出た油も再利用するんです(笑)」

東日本大震災後、節電の目的で目黒川のイルミネーションにかかる電力も自給するように。周辺のマンションや飲食店、商業施設に声かけするも、当初の反応はあまりよくなかった。それが現在では、100%地域の廃食油で賄われているという。

img_3739 「まさに地産地消ですよね。マンションの方も、このイベントのために1年分の油をとっといてくれるようになって。風力や太陽光は自然任せですが、自分たちの提供した油でイルミネーションが灯るので、みなさん実感があって楽しいと言ってくれます」

さらに、廃食油を精製することなく、そのまま投入することで発電できる機械の開発にも成功。将来的には、全国各地で普及させていきたいと考えているそうだ。

「バックトゥザフューチャーの時代ですよ。これが一町村に一台あるだけで全然違います。災害が起きてもそこで充電できますし、トイレにも入れます」

「生活していれば、油は出てくる。ずっと枯れない油田がそこにあるっていうことです。これからは、地域で電気をつくれる社会が実現します」

10月には新会社を設立し、売電事業にも取り組みはじめる。太陽光発電に取り組む仲間たちと協力しながら、まずは地元町工場の電力供給を目指している。

「その会社で利益が上がったときには、地域の問題解決にあてようと。高齢化している地域ならバスを走らせたり、このあたりなら町工場で勉強会を開催する予算にあてたり。地域ごとにお金の使い方を変えるご当地電力会社として、ひとつのモデルをつくりたいと考えています」

img_4341 染谷さんの口からは、「油」に続く頻度で「地域」という言葉が出てくる。それは環境という意味に限らず、人との関わりを大切にしていきたいという想いの表れだと思う。

「このあたりの町工場も、いろんな優れたものをつくれるんですよ。彼らの知恵と技術をもってすれば、できることの幅もこれから広がっていくんじゃないかと思っています」

認知度や技術力の向上に伴って、構想は膨らみつつある。

その一方で、現在のユーズを支えているのは地道な日々の積み重ねだという。

「今回募集する人は、トラックに乗って油を回収してくるのが主な仕事になります。わたしたちはエコディネーターと呼んでいて」

エコディネーター?

「エコ+コーディネーターの造語です。回収作業は、お客さんとのコミュニケーションや社会に対する問題意識がなければ、単に運転と回収を繰り返すルーティーンで終わってしまう。地道な作業には間違いありませんが、決してそれだけではないんです」

「現場を回るほか、イベントのスタッフをしたり、たまに小学校で講演の機会をいただいたり。小さい会社ですし、全員がエコディネーターとして、なんでもやります」

img_1746 力仕事のようだけれど、女性でも可能だという。

「大変だね」と作業を手伝ってもらえることもあるし、回収先によっては女性のほうがコミュニケーションをとりやすいこともある。

染谷さんも、過去にはトラックで回収に出ていたそうだ。

作業量を軽めに設定することもできるので、そこは柔軟に対応できると染谷さん。

「あとは飲食店の勤務経験がある人も合っているかもしれません。たまにカフェのスタッフにも回収に出てもらうんですが、飲食店のみなさんの気持ちがわかるからか、伝わるものが違うみたいなんですね」

今はエチオピア人のスタッフも活躍中。それぞれに想いを持った人たちが、染谷さんのパワーに巻き込まれるように集まっているような印象を受ける。


4年前、日本仕事百貨を通じてここにやってきた藤原さんもそのひとり。

前職はIT企業に長く勤めていたという。

p1280589 「パソコンを見ながら、一日中難しい顔をしていました。それで『なんかなあ』と思っていたときに、東日本大震災が起きたんです」

「電気がなければ機械は動かないので、すったもんだして。そうやって振り回されるぐらいなら、もうちょっと地に足つけて、かつ世のなかの役に立てる仕事がしたいなと思っていました」

天候や波の状態に大きく左右されるサーフィンが趣味なこともあり、環境への関心はもとからあったという藤原さん。

「誰だってより良い環境で暮らしたいはずですよね。みんな地球にいるんだから」

たしかに。でも、ITから油回収業への転職は大きな決断だったのでは?

「そうですね。日々の生活が、夜型から朝型にまるっきり変わりました。7時には始業して、それぞれ担当の回収コースに向かいます」

img_3843 一日に20〜30軒、ひとりで回る。道中ではイレギュラーなことも起きるので、その場ごとに自分で判断しながら、効率よく回る必要がある。

「車にスーツを積んでおいて、途中で着替えて営業をして、また着替えて戻ってくることもありましたね(笑)。そういう環境にも馴染める人がいいです」

「理想は理想でしっかりと持ちつつ、現場の仕事との折り合いをつけて。シビアな話をすると、各自が日々の売り上げを立てていかなければ、会社が回らない。ユーズの言っている資源循環型社会にはつながらないんです」

念を押すように藤原さんが言うのには、理由がある。

「こちらからお金を払って回収する業者もいるなかで、わたしたちは料金をいただいて回収しているんですよ。だからこそ、ゴミを集めるのではなく、それ相応のサービスを提供できるようにならないといけない」

「たとえば現場で『これはちょっと入れすぎですね(笑)』とか、『満タンに入れないで2つに分けても、回収代1つ分にしときますから』とか。臨機応変に対応して、来たときよりもきれいにして帰るような心遣いが大切ですよね」

13730930_920834008039397_2253454442463055351_o 最近は大型の商業施設も回収ステーションに加わっており、現場の状況も個人店とは大きく異なる。

回収容器は使いやすいか、回収方法はわかりづらくないかなど、関わる人が少しでも気持ちよく利用できる配慮を心がけているそう。

「仲良くなって、“自分のお客さん”っていう関係になると楽しいですよ。そうすると逆にね、お互いに無下にできなくなってくるので。『今週はレストランのおばちゃんのところいかなきゃ』『ちょっとコーヒーもらおうかな』っていうときもありますしね(笑)」

関係性が築ければ、回収のやりとりもスムーズになり、余裕が生まれてくる。

「日々の仕事が落ちついてくると、+αのチャンスが出てくるんです。売電事業なら、ちょっと勉強してみようか、少し関わってみようかという感じで、自分のキャリアプランを立てられる。目指すところが出てくると楽しいですよ」

12046962_903415773085398_5768796458662744735_n 藤原さん自身、ようやくそういうフェーズに入ってきたという。この日も、新横浜で開かれる数十万人規模のイベントでVDFを使いたいという問い合わせが届いていた。

来年は「TOKYO油田」プロジェクトで設定した2017年を迎える。いろんなことが実を結びつつ、新しいこともはじまっていく一年になりそうだ。

藤原さんはどんなところを目指していますか。

「今のところ、回収先のみなさんに対しては『油を回収しますよ。環境活動に参加できますよ』というところまでしかアプローチできていません。せっかく同じ意志を持っている人たちがいるのだから、もっと横のつながりをつくっていきたいです」

「ステーションは全国に300ほどあるので、つながりかけているところはすでにあるはず。そこをちゃんと拾って、大きな輪にしていくのが目標ですね」

地道にコツコツと。かつ、手応えはしっかりと。

都市の油田を掘り起こす仕事は、まだまだ続きそうです。

(2016/9/28 中川晃輔)