※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
東京から名古屋に到着。そこから、特急列車に乗り換え2時間半ほど。車窓右手に山と川を眺め、ふと左手を見ると、視界に海が広がった。
訪れたのは、三重県尾鷲市。

人口はおよそ1万9千人。その8割ほどが市街地に、2割は9つある浦々の町に暮らす。
尾鷲市全体で41%と高齢化が進むなか、若い世代もまちを離れていっている。
全国各地で見られるように、ここでも、テーマとなるのは「空き家」です。
今回は、地域おこし協力隊として、定住・移住をすすめるコーディネーターを募集します。
仕事は大きくわけて2つ。
移住を考えている人が利用する空き家バンクや、移住先での暮らしと仕事をイメージできるWEBの充実。写真と文章で物件を紹介しつつ、リノベーションやDIYといった住まい方、そして尾鷲での仕事の提案もしていきます。
もう一つは、本格的な移住のまえに、尾鷲で暮らしていくことを体験してもらうための移住体験住宅の整備。
尾鷲市初となる移住体験住宅のオープンに向け、プロジェクトは現在進行中。
全国から参加者を募り、古民家の改修ワークショップが行われる日に、現地を訪ねました。
尾鷲駅で迎えてくださったのは、観光施設「夢古道おわせ」の支配人、伊東さん。
尾鷲で生まれ育った伊東さんは、もう20年、地元のために、さまざまなプロジェクトを仕込んできた方です。

峠で隔てられていたからか、それぞれの町に固有の文化があり、住む人の気質も言葉も違うそう。
「僕はいま、そういう小さな浦々ごとに何か芽を出すようなことを仕掛けて、変化を起こしていきたいと考えていて」
「ずっとこのまちにいる人もいれば、期間限定のチャレンジをする人も、いつく人もいる。いろんな人がいるなかで、僕にできることをやろうかなと思っています」
関わり方はそれぞれでも、地域のなかで同じ方向を向ける人がいるということは、きっと心強いと思います。
移住体験住宅のプロジェクトやワークショップについて、市役所の野田さんに話を伺うなかで、その気持ちは一層強くなりました。

舞台となったのは、「みやか」と呼ばれてきた築百年の古民家。
東京に住みながらずっと手入れをしてきた大家さんと、九鬼町で漁村の文化や建築を研究していた大学の先生たち、そして野田さんや協力隊との不思議なご縁が重なって導かれた場所です。
ここで、2泊3日のワークショップが行われ、全国から参加者が集まった。
土壁塗りなどの講師は、数年前に九鬼に移住してきた塗装の職人さんが任ってくれた。

これから、母屋の2階部分と離れを、移住体験の住居スペースに。母屋の1階は、移住体験に来た人とまちの人の交流スペースにしていくという。
作業を終えた夕方、九鬼町民の方も参加してバーベキューがはじまった。
みんなで魚を捌いたり、思い思いにピザのトッピングをしたりしながら、自然と会話が生まれていた。

「オープン後もツアーやイベントを企画したり、九鬼だけでなく、浦々それぞれに体験住宅をつくっていきたい。今後の運用の仕方について、これから来てくれる人にも、まちの人の意見を取り入れながら一緒に考えていってほしいです」
野田さんは、高校・大学と地元尾鷲を離れ、卒業後に帰郷して市役所に勤めた。
「当時はまちをなんとかしようとか、強い思いはなかった。でも、仕事をしていくうちにだんだんと、育ててくれた故郷に恩返ししていかなあかんなって」
「自分が学生時代から習っていた剣道を、今では尾鷲の子どもたちに教える側になって。そういう順番が巡ってきているのかなと思っています」
定住・移住をミッションとする地域おこし協力隊は、野田さんと共に、すでに2人の方が活動中。
主な仕事は、空き家バンクを活用して定住移住につなげること。
まずは、尾鷲市内に空き家を持っている人に物件を登録してもらい、書類調査や現地調査を行っていく。
現地の写真撮影をして、間取り図や、家の造作、周辺環境の紹介とともにHPに情報を掲載する。
移住希望者から問い合わせを受けたら、内覧の案内をして、大家さんとの交渉につなぐところまでを担う。
今年10月の時点で、登録物件数は78件、そのうち成約したのは37件と、結果を出しつつあります。
日々の空き家バンクの活動に加えて、いま力を入れている活動のひとつが、移住とセットで「仕事」を紹介すること。
今年の3月から活動している鈴木さんに伺いました。

たとえば、水産業界で全国に名をはせる尾鷲物産や、伊東さんが支配人を務める夢古道おわせなど、尾鷲には市外に誇れる中小企業がある。
また、経営や設備の面に問題はなくても、後継ぎがいないことから店をたたんでしまう個人商店も多い。そうなる前に、受け継ぐ人を見つけられたら。
「仕事を紹介することで、地元を出た人のUターンにつながるかもしれないし、仕事がないのを理由に移住をためらっている人にとっても、前向きに考えてもらう手段になると思うんです」

「それまで歩んできた出世のレールから外れるという感覚があるのは、正直怖かったですね」
「でも、来てみたら意外となんとかなることもあるし、来てみないとわからないこともある」
活動を始めて、立派な造りの空き家が多いことに驚いたという。自分ならどう使うかな?と想像を巡らせて、任期を終えてから自身で起業することも視野に入れている。
どんな人が向いているでしょうか。
「地元の人とコミュニケーションをしっかりとって、住民のニーズを汲むことができる人。そして、そのために動いていける人ですね」
移住してくる人だけでなく、まちの人にとっても、あたらしく人を受け入れるためには心の準備が必要。
双方の間を行ったり来たりして考える仕事なんだと思う。
鈴木さんとともに、昨年6月から活動しているのは、木島さん。

「でも、サービスが行き届いていなかったり、質問をしてもなかなか回答が返ってこなかったり。移住希望者と移住先のマッチングには、もっといいかたちがあるはず、と感じていました」
そんなとき、日本仕事百貨で、定住移住をコーディネートする協力隊の募集記事を見つける。
「もしかしたら、自分が感じていたことが活かせる仕事なんじゃないかなと思って」
活動をはじめて1年4ヶ月。順調に移住者が増える一方、課題も浮きあがってきた。
「移住しても、心細く感じることや分からないことが、きっとたくさんあると思うんです。私たちのプロジェクトの最終目標は、移住者の方々に尾鷲に根づいていってもらうこと」
「市役所で勤務している現状では、対応できるのは平日の限られた時間ですが、今後は、移住後のケアや相談窓口などをメインに活動していきたいですね」
同時に、もっと空き家を発掘していかなくてはいけない。
ところが、空き家の所有者が高齢の方の場合、インターネットに不慣れなことが多い。
木島さんたちは、時間さえあれば尾鷲市全体をフィールドとしてまちを歩き、地域の方に空き家バンクの利用について情報を発信している。
それは、顔を合わせてコミュニケーションをとることを大切にしているから。
「空き家を持っている方には、うかつに貸してしまって、まちの人に迷惑をかけては困るという意識が強くあります。誰にでも貸せるわけじゃありません」
「協力隊も、移住者であり、よそ者です。私たちがちゃんと信頼関係を築くことで、はじめて相談をいただけると思うんです」
空き家の活用や定住・移住というテーマは、将来的にもずっと取り組みつづけなければならないこと。木島さんは、自分たちの活動は、地ならしをしていくようなものだと話す。
「手つかずのままの空き家は、倒壊や不衛生などの問題をはらんで、邪魔者あつかいされてしまいます。でも、利用の仕方によっては、地域の資源になると思うんです」
「尾鷲には、地元のひのきを使って、大工さんが丁寧につくった家がたくさん残っていて。そうした古い家が、本当にだめになってしまうまえに、どうして登録していただきたいかということも、まちの人に伝えていきたいです」

「夕方、移住者の方が引っ越してきた家の辺りに、近所の方が集まって話をしていて。『今まで真っ暗だったけど、住んでいなかったところに明かりが点くって、やっぱりいいわね』と喜んでくださったんです」
「町の人たちは、家々の明かりがどんどん減っていくのをずっと見てきた。そこに1軒でも明かりが点くということは、町の人にとっては、すごく大きなことなんだなって」

受け継がれてきた景色のなかに、ひとつ、またひとつ、小さな明かりが灯っていく。
木島さんたちの活動そのものに、似ているのかもしれない。
尾鷲にはいま、定住・移住の仕事を担当している木島さんと鈴木さんのほか、浦々の集落に5名、観光物産協会に1名、総勢8名が地域おこし協力隊として活動しています。
協力隊同士の横のつながりを活かして、市内外の人々や企業と空き家をつなぐことで、何か新しいことがはじまるかもしれない。
家々の灯りが消えてしまわないよう、つないでいく。
それはきっと、尾鷲の文化や歴史を、未来に残し伝えていくこと。
尾鷲の地で芽吹きつつある動きを、ぜひ確かめてみてほしいです。
(2016/10/24 後藤響子)