求人 NEW

心に芽生える

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「あ、キンモクセイ」

帰り道すがら気づいた、甘い香り。

どこで咲いているのだろう。探すと意外と自分のすぐ隣にあったりして、何だかうれしい気分。

目まぐるしい毎日に、季節の移ろいすら忘れそうになるけれど。こんなひと時を、人は自然と求めていると思う。

5baimidori01 「花芽が膨らみはじめたなとか、ああ花が散っちゃったなとか。本当にささやかなことだけれど、暮らしの豊かさや人の幸せってそういうことでしょうと思ったりするんです。そのために私たちは緑をつくっている」

そう話すのは、株式会社ゴバイミドリの宮田さん。

オリジナルの緑化システムを使って、都市部にあるビルや住宅などの緑化を手がけています。

今回募集するのは、その緑化プロジェクトの一連を担当する人。

図面作成から施工管理、その後のメンテナンスまで。ほかにも緑に関するワークショップやスクール、里山の植生保全活動など、さまざまなイベントを宮田さんと一緒に企画運営してもらいます。

 
東京・曙町駅から歩いて7分ほど。

住宅街の中に、緑に囲まれた白い建物が見えてくる。

5baimidori02 この建物はシェアオフィスとして使われていて、近年ユニークな会社が集まっています。

ゴバイミドリもここにオフィスを構えている。

共用スペースのバルコニーで代表の宮田さんに話をうかがいました。

5baimidori03 優しい表情が印象的な方。話し方もおっとりしていて、気兼ねなくお喋りできる。

そんな宮田さんの後ろに見えている金網を使った植栽。これがゴバイミドリ独自の緑化システム「5×緑」です

バルコニーのあちこちにも大小さまざまな5×緑のユニットが置かれていて、コンクリートやタイルの上にもかかわらず植物が元気よく生い茂っている。

「ここには100種類以上の植物がいるんですよ」

え、そんなに!

たしかに1つのユニットだけを見ても、背の高い木や低い木、足元にもいろんな形や色をした草花が植わっている。

「そう、緑色だって単色じゃないんですよね。薄い緑、蒼い緑、黄色い緑、光に揺れる緑… いろんな植物がいて、いろんな緑がある」

5baimidori04 よく見ると、普段はあまり見かけない植物もちらほら。

それもそのはず。5×緑に使われる植物のほとんどは里山で植生する日本の在来種です。

「まちにはよくサツキだけが植わっていたりするけれど、昔から日本にある里山の風景には多様な植物が共生していて。畦道にはタンポポやスミレが咲いていたし、山ではアケビやクワの実が採れました。そんな里山の豊かな植生は、人が森や田んぼを手入れすることで守られてきたんです」

ところが都会では開発が進み、土はコンクリートで覆われ、かつての植生は失われている。地方でも耕作放棄地が増え、山の管理も行き届かなくなり、豊かな里山の環境を保つことが難しくなっている。

ずっと昔からある固有の草花を失わないために。

ゴバイミドリは栃木県にある“馬頭の森”という里山とネットワークを構築し、里山に住む人たちに森の管理を委託。再生された林床に生える植物を5×緑のユニットに使用するシステムをつくりました。

都市で里山の自然を楽しむことが、里山を守ることにつながる。まちと里の環を生む事業でもあります。

5baimidori05 ゴバイミドリを立ち上げる以前は、都市計画のコンサルティング会社に勤めていた宮田さん。この仕事をはじめたきかっけは何だったのでしょう。

「当時、勤めていた会社が社員に起業を勧めていたり、資産を持つべきだと持ち家制度があったりして。それで旗竿地を買って家を建てたのですが、道路から家までのアプローチを不動産屋さんがぜんぶコンクリートで固めていたんですね」

「いいお庭にしたかったけれど、雑誌に載っているイングリッシュガーデンは似合わないし、そもそも誰に頼めばいいのか分からなかった。そんなときにお願いできたのが、仕事の関係でお知り合いだった田瀬理夫さんなんです。そしたら想像をはるかに超えるものができちゃったんですよ」

そう言って見せてくれた写真には、緑が溢れんばかりに生い茂る庭が写っていた。

なんとコンクートを剥がすことなく、上に設置するだけでこれほどの緑化ができたのだという。

5baimidori06 宮田さんの庭をつくった田瀬理夫さんは、緑化建築の代表格とも言われる「アクロス福岡」を手がけたランドスケープデザイナー。実は5×緑のシステムの原型をつくった方です。

田瀬さんは土のない都市でも緑を増やせるようにオリジナルの植栽基盤を開発。金網でカゴをつくり、そこにアクアソイルという人工土壌を入れ、その地域に合わせた植物を植える、軽量でデザイン性の自由度が高い画期的な緑化システムです。

「田瀬さんはアクロス福岡をつくる当初から『あれを山にする』と言っていました。そのころから地域性といったことを非常に大事にされていて、開発した緑化システムを自身の設計に入れていらっしゃっていたんですね」

「ただ田瀬さんは設計側ですから、どんなに細かく緑化システムに使う材料の指定をしても、施工会社がそれを守らないこともままあったわけです。何よりその都度現場の人が対応するので、技術の集積がないんですね」

そんな様子を端から見ていた宮田さん。

ちょうど勤めていた会社が独立を勧めているタイミングで、「自分の手がけたことで少しでも世の中がよくなるような仕事がしたい」と考えていた。

「私は業界のことを全然知らなかったので、田瀬さんの緑化システムをユニット化してプロダクトとして提供すればいいのにと思っていた。ブランディングして、もうちょっと一般の人でも気軽に使えるようになったらいいのになって」

「そう考えていたら、これこそ自分の心に適う仕事になるんじゃないかと思って。田瀬さんにお願いをして、2003年からメーカーや関係者のみなさんたちとチームを組んで、ゴバイミドリをはじめたんです」

5baimidori07 はじめはユニットで提供していたものの、集合住宅・オフィスビル・大学のキャンパス・スタジアム・美術館などさまざまなプロジェクトを手がけるうちに、5×緑でつくる階段やカーテンウォールなど多様な緑化建築を現場施工でつくれるようになっていった。

馬頭の森の人たちや日本の在来種を育てる生産者さんとのネットワークも、そういったなかで築かれていきました。

「私がゴバイミドリをはじめてから、絶対に忘れないシーン、これが原点だなと思う出来事があるんです。目黒の柿の木坂にある『もえ木』という集合住宅を緑化して、もう何年も経って緑がモリモリ育っていて」

「ここには白花山藤の藤棚があって、毎年春に花を咲かせるんです。その時期になると私もよく様子を見に行くんですけど、道路の向こう側からお父さんと男の子が手をつないで歩いてきて、男の子が『すごい葉っぱのお家だね』って。お父さんも立ち止まって『わぁ本当だねぇ』って」

5baimidori08 「ほんの数秒の出来事なんですけど、そういうことなのかなと思っていて」

そういうこと?

「ただ前を通り過ぎるだけだった人でも、ちょっと心が動いたりする。近所のおばあさんが『ここのお庭すごく好きなのよ』と言ってくれる。こんな都会でも蜂や鳥がやってきて、はじめは庭に無関心だったお父さんもひっそりと楽しんでいたりする」

「ただ植物を増やすだけじゃなくて、その後ろにある暮らしの楽しみとか、日本人がいままで持ってきた感受性みたいなものを無くしてしまわないように。そのために私たちは緑をつくっているんだという思いがすごくあります」

その思いをより確実に形にしていくために。

これまではオフィスビルの壁面緑化などスーパーゼネコンともかかわる大きなプロジェクトもあったけれど、今後はオーナーシップのあるクライアントとの仕事に注力し、価値観を共有できる人たちと緑をつくっていこうとしています。

また緑化プロジェクト以外にも進めているのが、毎回ゲストをお招きして、みんなで緑のある風景について考える「5×緑の学校」や、どんぐりの苗を小さな金網の箱に自分で植えてつくる「どんぐりキューブ」づくりの子ども向けワークショップなど。「5×緑の学校」は、働き方研究家の西村佳哲さんにもご協力いただいている。

岩手県の遠野という地域にある宿泊施設とサテライトオフィスの契約を結び、スタッフがいつでも自然のある環境で仕事ができるようにもしています。

5baimidori09 「こういうのを楽しんだり、私たちの価値観を共有できる人に来ていただきたいんです」

ただ日々の仕事はCADを使って図面を描いたり、施工会社との調整があったり、見積りをつくったり、根気のいる仕事です。その先で暮らしの楽しみが生まれていることも、忙しい毎日からは見えにくいかもしれない。

宮田さんと馬頭の森でのイベントを一緒に運営したり、ワークショップを企画してもらうことでバランスをとってほしいといいます。

だから、設計の仕事をしていた人はすぐに活躍できる環境だと思う。施主の要望に応えたり、よりよい提案をしたり。仕事の形は基本的に同じです。

ゴバイミドリで設計を担当する玉井さんは、こう話します。

「シンボルツリーを植えたいというご希望があって、お子さんがいらっしゃるなら実が食べられる木を提案したり、奥さまがお料理好きな方なら山椒を入れてみたり。季節ごとの花を楽しめる組み合わせにしたりとか、常緑樹や落葉樹、いろんな手触りの葉っぱの植物を入れてみたりします」

5baimidori10 玉井さんは創業当初からこの会社で働いています。前職のころから体調を崩していたこともあり、はじめは自分のペースに合わせながらゴバイミドリの仕事を手伝っていた。

その後も家庭とのバランスをとりながら、いまでは中核メンバーとして働いています。

こうした働き方の多様性も、ゴバイミドリの特徴だと思う。

「まあ人数の少ない会社なので。そういった意味でも体力も気力もある年代の人のほうがいいかもしれないですね」

「あとは人が好きな人かな?」

植物よりも人ですか?

「私自身は人が苦手なんですけど。私たちの仕事って、ただ緑化すればいいんじゃなくて。やって終わりの仕事ではない。そのあとも植物は順調に育っているのか、暮らしを楽しむきっかけになっているのか、いろいろ気になります」

「しばらく経ってお客さんから『すごくいい庭になって、ご近所さんたちからも褒められるんです』なんて連絡をいただくと、私もすごくうれしいんです」

5baimidori11 緑を通じて、人と人のつながり、人と自然の関係を紡ぎ直す仕事。

きっとまだまだいろんな広がり方ができると思う。

宮田さんや玉井さんと一緒に、ゴバイミドリのこれからを形づくっていってください。

(2016/12/2 森田曜光)