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心揺さぶるお店

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

取材を終えて、なんだか1冊の本を読み終えたあとのような感覚があった。

想像を掻き立てながら、楽しみ、驚き、ときには受け止めきれないほどの深さを知る。

自分の知らない世界が、ここには詰まっている。

festinalente001 神保町にあるセレクトショップ「FESTINA LENTE」

ここで販売スタッフを募集します。

 
神保町駅から歩いて5分ほど。

スーツ姿の人々が行き交う交差点にある昭和47年築の古い建物。ここの2階にFESTINA LENTEはあります。

festina-lente02 店内には想いの詰まった作家さんの作品やアンティーク雑貨が置かれていて、外とは別空間な場所。

昨年の5月末にオープンした新しいお店です。

神保町といえば「オフィス街」「喫茶店」「本」「カレー」といったイメージ。この辺りで雑貨店はあまり見かけない。

どうしてここでお店を開くことにしたのだろう。はじめにオーナーの福沢純さんにうかがいます。

「お店の数軒となりに竹尾さんという紙の問屋さんがありまして。特殊紙の大手で、紙好きの人間にとっては聖地のような場所なんですよ。私は出版社をやっていることもあり、もともと紙についてとても執着があって、その手触りやインクの香りがたまらなく好き。紙フェチなんです(笑)」

「それで竹尾さんの近隣でお店を持ちたいと思っていたら、この建物を見つけて一目惚れしました。ここであれば私のつくりたいお店ができると確信があったんです」

festina-lente03 福沢さんはFESTINA LENTEのオーナーでありながら、普段は文京区にある出版社を経営しています。

幼いころから福沢さんは本に囲まれた環境で育ってきました。

「父親がもともと作家として糊口をしのいでいた人でしたので、家には海外の本や珍しい本がたくさんありました。新潮社版の世界文学全集はもとより、カフカやエドガー・アラン・ポー、ボリス・ヴィアンといった小学生時分に読むには少し早すぎる蔵書ラインナップで」

「そのおどろおどろしい装丁のなかにはどんな世界がひろがっているのだろうと、自然と私も書くのも読むのも好きになっていった。とくに海外文学が昔から好きで、ヘンリー・デイビット・ソローの『ウォールデン 森の生活』という本をよく読んでいたし、小説だとポール・オースター。その作家は大学の卒論を書くほど好きです」

生まれは長野。大学進学を機に上京し、日本大学芸術学部で文藝を専攻。

卒業後は出版社に入社し、そこで編集・装丁・制作進行と本づくりの現場に携わり、学術専門書から詩集、絵本、写真集まで、あらゆるジャンルの本を製作していた。最近では海外作家の本を翻訳して日本へ広めるような仕事をしている。

才能があるけれどまだ埋もれているような海外の作家を日本で紹介したい。その想いで働き、出版社を営むかたわらで、別の気持ちを長年あたためていたといいます。

「作家さんって当然、本以外でもいらっしゃいますよね」

絵や陶器とか?

「そうです。物書きの作家さんは文字を組みあげて作品とするけれど、ものづくりをする造形作家さんの作品は形ありきです。本は読むのに何日もかかってようやく感想が言えるものですが、形のあるものは見た瞬間に心を惹かれる」

「そんな強い求心力を持っているモノの秘密はいったい何なのだろう。そこを知りたいという気持ちがずっとありました」

そう話しながら、福沢さんはお店に置いている作品をひとつ手にとって見せてくれた。

festina-lente04 小さなガラス瓶の中に、真っ白な綿毛のついたタンポポの種が収められた作品。「涙ガラス制作所」という作家さんがつくっている。

福沢さんはもともと本のほかにもものづくりに強いこだわりがあり、学生時代からよく個展へ行ったり収集したりしているのだそう。

「この作家さんの個展にも学生のとき行ったことがありまして。綿毛の入った作品のほかにも、涙をモチーフにした作品もつくっていらっしゃるんです。はじめて見たときの印象というのを今でも覚えていて。なんと穢れのない純粋さなんだろう、と。人間には表と裏の両面があるけれど、この作家さんは本当に無垢な気持ちを形として留めている。非常に尊敬の念を抱いたし、涙の理由に想いを馳せると身震いするような詩的な感情がわきあがってきます」

「そういった言葉ではとても狭すぎて表現できないような感情を蒐集したい。いつかお店を立ち上げて、貴重な作家さんの作品をもっといろんな人に紹介したいと思ったんです」

自分の身の回りに置くだけでなく、人に紹介したいと。

「やっぱり、自分ひとりだけのよろこびって限られているじゃないですか。他者と共感したり、自分とは別の感じ方を知るほうが大きなよろこびだと思う。べつに私の感じ方と全く同じものを思ってもらわなくてもいいわけです。本だって同じものを読んでも、感じ方や良し悪しの評価は十人十色なわけですから」

festina-lente05 そんな想いではじめたお店だから、置く作品は必ずしも可愛らしいものだけではなく、単におしゃれな雰囲気のお店にしたいわけでもない。

上の写真はGREEN-EYED CREATIONという作家さんが手書きの点描でデザインした作品。蛾のデザインをプリントしたブローチには、妙なリアルさに一瞬ドキっとする。

PAPYRUSという山梨のメーカーさんがつくる、未確認生物がデザインされたカレンダーもある。

festina-lente06 ほかにもアンティークの食器やタオルといった生活雑貨、フルーツティーなど。

どれも不思議と惹きつけられるようなものたち。何だか気になって手にとってしまう。

「そういう気持ちをここでは大事にしているんです。言葉にならない感情。ただ美しい、綺麗といった単純な言葉で表現するのではなく、すごく惹かれるものがこの作品にはあるけれど、この気持ちは何なのだろう?と自問する」

「そしてその『何か』の秘密は解き明かすのが難しいほうがよく、家に帰ってもまだよく分からないようなものであったほうがいいと思っています」

自分はこんなものが好きだったのか。そんな気づきもこのお店ではあるかもしれない。

「みんな個性を求めている反面、右も左も平準化されている時代傾向がありますよね。そんな中でも、あらかじめ決められたことやお仕着せの価値観では満足できない人たちが当然います。そういう人たちと作家さんや未知の世界をつなげるような仲介のお手伝いができたら幸せだと思っています」

 
FESTINA LENTEを切り盛りしているのは、店長の葛西志稀さん。

現在スタッフは葛西さんただひとり。これから加わる人は葛西さんと一緒にお店を任されることになる。

festina-lente07 葛西さんはどんな人かというと、福沢さん曰く“雑貨バカ”らしい。

以前は保険会社で事務員として働き、その前は古着のバイヤーとしてアメリカへ仕入れに行くような仕事もしていた。

「雑貨バカになったのはお店で働きはじめてからなんです。もともと古着のバイヤーをやっていたのは、古着をはじめ、とにかく古いものが大好きだからで。ここも来たのも、はじめはアンティークショップだと思っていて」

「実際に来てみたら、置いてある商品のほとんどが現代につくり出された”新しい”ものばかり。でも、アンティークの什器の上に置かれて、古いものと一緒に並んでいる姿がすごくマッチしていた。それは私にとってものすごく衝撃的で、そのときから古いものと同じくらい雑貨に魅力を感じられるようになったんだと思います」

いまお店に置かれているのは、ふたりが直感的にいいなと思うものや好きなものだけ。

展示会へ行ったり、ネット上で見て気になったら実際にものを見に行ってみたり、人に会いに行ってみたり。そうやって作家さんとの関係を築いて、お店をつくっている。

本物の花を使ってアクセサリーを製作しているPrairieという作家さんも、Instagramを通じて出逢い、作品を置くようになった。一目惚れした葛西さんは、プライベートで作家さんのいる栃木まで直接会いに行ったのだそう。

たまたま葛西さんと同い年ということもあって、いまでは仕事上の関わりだけではなく、尊敬する友人のひとりとしてとても大切な人だという。

festina-lente08 これから入る人も自分の感性を発揮して、FESTINA LENTEに新しいエッセンスを加えてほしい。

ただ、好きであれば何でもいいわけではないと思う。

ふたりに共通している価値観とはどんなものだろう。

「ひとつ、想像力があると思うんですよね」と答えてくれたのは、福沢さん。

「ものを見たとき、それをただのモノとして見るか、あるいは背後にあるものを見るのか。ものって物質的なものだけれど、見えないところに広がりがあります。涙ひとつ見ても、誰の涙なんだろうか、悲しい涙なのか嬉しい涙なのか。そういった想像が止めどなく連鎖的にできるひとには、私は手放しで魅力を感じます」

ここにあるのは一過性のものではなく、歴史やつくり手の過去が積み重なって形になったものとも言えるかもしれない。

本物の花を使ったアクセサリーをつくるPrairieさんは、自分がつけたいと思うアクセサリーが見つからず、ないのであれば自分でつくろうと思ったことが制作のきっかけだったそう。

それから試行錯誤を繰り返し、プリザーブドフラワーやドライフラワーを使うことに着想したという。

「きっと本物のお花にこだわりたかったのだと思います。本物のお花が持つ、繊細なありのままの美しさや儚さ。それをそのままを表現したかったのだと」

festina-lente09 そんな想いや背景の詰まったものがセレクトされたFESTINA LENTEには、実に多様なお客さんがやってくるそう。

お客さんによって手に取るものは様々。お客さん一人ひとりが、思い思いに時間を過ごすという。

「ここでは接客という気負いした形じゃなくて、お客さまのサポートをするんです。必要なときに、お客さんと商品を繋ぐ手助けをする感覚でしょうか。常連のお客さまはまるで家族のようにあたたかくて、最近あった出来事や旅のお話、趣味や好きなものの話をお互いに長い間話し込んだりして」

店頭業務のほかに仕入れや商品管理はもちろん、経理関係など細かい作業もある。商品の数や種類は多く、すべての特徴や背景を覚えるまで時間はかかるという。

また、月に1度くらいのペースでイベント出店や店内での個展を企画することも。これから頻度を増やす予定だけれど、イベント時には重たいアンティーク什器を移動したり、商品の搬入や搬出をしたりと、まだ人手の少ないお店だから大変なこともあるらしい。

festina-lente10 お店を運営するには、意外と地味なこともたくさん。ただどれも、好きであればあまり苦に感じることではないかもしれない。

葛西さんもそんな様子。

「日本仕事百貨さんにわたしたちの求人をお願いしたいと思ったのは、このお店をものすごく好きになってくださって、可愛がってくださる方じゃないとダメだと思ったからなんです」

「FESTINA LENTEはまだまだ発展途上。愛情をかけながら一緒に育ててくださる方を募集したい。気持ちがないとできない仕事なので。ここへ来て、ここが好きだと思ってくれたのなら、その気持ちを伝えていただける方と一緒にやっていきたいです」

festina-lente11 最後に、葛西さんがこんな話をしてくれた。

「私たちが扱っているものは、生きていく上で必要なものでは決してない。けど、心の隙間を優しく埋めてくれる。好きなアクセサリーを身につけることでその日がハッピーになったり、ただそれだけで日常がグっと輝く。そういう意味では、一人ひとりにとって欠かせないものだと思うんです」

きっとそういった経験のある人なら、すぐに葛西さんや福沢さんと話が合うと思う。そうでなくても、このお店へ来ればその感覚が芽生えるかもしれない。

応募するのを迷っている人も、お店が気になっている人も。まだ行ったことないのない人は、ぜひ一度FESTINA LENTEを訪ねてほしいです。

(2017/1/7 森田曜光)