求人 NEW

大地と生活と仕事と

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

土には歴史が堆積している。

その上で、私たちは生活している。

何を残し、どんな種を蒔いていくか。

%e9%81%93%e3%81%ae%e9%a7%85%e4%ba%88%e5%ae%9a%e5%9c%b0-1 佐賀県・白石町(しろいしちょう)

江戸、明治、昭和の時代、50年に一度、有明海を干拓して土地を形成してきました。

海では生産量日本一の有明海苔が、柔らかな土の陸地では玉ねぎやれんこんなどの農産物がさかんにつくられています。

%e3%82%8c%e3%82%93%e3%81%93%e3%82%93%e3%81%bb%e3%82%8a%ef%bc%92 豊穣な土地を誇るまちは今、道の駅の開業に向け、動きはじめています。

今回は、地域おこし協力隊として、新たな果樹の栽培をしていく人を募集します。ゆくゆくは、道の駅に農業部門をつくり、雇用していく考えだそう。

はじまったばかりのプロジェクトについて話を伺うため、白石町を訪ねました。



羽田空港から福岡空港までおよそ2時間。そこから地下鉄と列車を乗り継ぎ、1時間ほどで肥前白石駅に到着した。

辺りに高い建物はなく、広大な平野が広がっている。

町役場までは歩いてみることにした。

迎えてくれたのは、産業創生課の片渕将陛(しょうへい)さん。まずは白石町について話を伺います。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 白石町は、干拓によってできた土地。平成17年に旧福富町、旧白石町、旧有明町が合併しました。

町全体の面積のうち平地の耕作面積地は約6000ha。一次産業に従事する方が多くいる。

平成31年3月に、町の東側にあたる旧福富地区に、道の駅が開業する予定です。

「ただ、『結局、町の一部だけでやるんでしょ』という町の人の声も伝わって来て。そうじゃなくて、山間地域をふくめて、町全体でやっていこうよという考えなんです」

そのために、片渕さんたちは町の人に声をかけ、道の駅の会議を運営している。

また、メジャーな農産物以外に、新たな特産物を栽培していくという課題にも取り組んでいます。

解決に向けて声をかけたのが、町の西側にある白岩(しらいわ)集落のみかん農家さんたち。

「町全体の気質的に、『どーもならんさ』というふうな風土があるなかで、白岩はちょっと雰囲気がちがって。『やってみらじゃ』と言ってくださった。それで、一層やりたくなったんです」



一体どんな人たちだろう。白岩地区の農家さんたちに会いに、連れて行ってもらいました。

20分ほど車を走らせ坂を登っていくと、橙色の実がなるだんだん畑が現れた。

振り返れば、うっすらと有明海が見える。

今回隊員に加わってもらう人のための住宅も、この地区にあります。

整地をしたばかりの果樹の試験栽培場に到着。

%e8%a9%a6%e9%a8%93%e6%a0%bd%e5%9f%b9%e6%95%b4%e5%9c%b0 3月ごろからは、りんごや桃、ブルーベリーなど7、8種類の果物の苗植えをしていく予定。

今は、土壌の調査や、品目の選定、場内の配置の仕方について検討を進めています。

お正月の出荷に向け収穫作業で忙しいなか、みかん農家さんたちが集まってくれました。

%e3%81%bf%e3%81%8b%e3%82%93%e8%be%b2%e5%ae%b6%e3%81%95%e3%82%93%e6%96%b9 日に焼けた肌に刻み込まれたしわからは、自然を相手に仕事をしている力強さを感じます。

果樹試験組合の組合長を務める下村弘己さん(写真右端)が、白岩地区の歴史を教えてくれました。

中山間地域である白岩地区は、戦後の食糧難を迎えた昭和23年、戦地から引き揚げた人たちが開拓してきた場所。

「はじめは、食料になるジャガイモをつくって。昭和40年くらいから、みかんがいいんじゃないかということで、本格的に栽培をはじめました」

けれども、みかんの産地の競争は激しくなり、収益をあげるのは難しくなった。

そうしたなか、次の世代の人たちは、農家を継がずに外に働きに出ていくように。高齢化も進み、放棄地が増えている。

せっかく1世の人たちが開拓した土地を荒らすわけにはいかない。2世3世でなんとかしよう。

下村さんたちの想いと、町としての想いが重なって、新しい品種の果樹栽培に向け、白岩果樹試験組合が立ち上がりました。

また、下村さんたちは、新しい特産品づくりに向けて「璃の香」というレモンづくりに挑戦しています。

果汁が多く、酸味もほどよい。ジェラートにできるかもしれません。

「僕たちの代では、特産品とよべるようになるまでみることはないと思う。しかし、10年後、次の世代の人たちが定年を迎えるというときに、特産品が地域に根づいていれば、また継いでいける」

「1世の人たちが開拓して、ここまでみかんづくりを根づかせ、地域を守りながら生活してきた。今度は僕たち2世が、次の世代の人たちのためになんとかしていかんと」

「せっかく来たから食べ比べてみて!」と、なんと6種類も、みなさんがつくっているみかんを用意してくれていた。

%e3%81%bf%e3%81%8b%e3%82%93%e3%82%ba 手前から、太陽、はやか、スイートスプリング、大津、佐賀マンダリン、清水。

甘さや酸味、香りの強さ、口当たりのよさ、味の残り方など、それぞれに特徴がある。

「甘さだけじゃなく、いろんなものを追求しながらつくっとるけん。どれが正しいということはないわけよ」

種類は違えど、これから果樹を栽培していくにあたって、下村さんたちは心強い存在だと思います。

それに、県の施設である果樹試験場の職員の方から、必要な情報やノウハウを教えてもらうこともできます。

下村さんは、どんな人と一緒に活動していきたいですか?

「ここを守っていこうという必死さや想いに共感してもらえるような人。それから、広く知ってもらうためのアイデアや販売力を持った人かな」



農家さんたちは、地域に誇りを持ち、自然を相手に生活をかけて仕事をしている。

そんな姿を間近で見ている、協力隊の長(ちょう)夕紀菜さん。2015年7月から活動しています。

役場に戻って、話を伺います。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 大学時代から、ボランティアなど人のためになることをしたいという想いがあったそう。

大学院を修了後、友人が地域おこし協力隊で働いていることを知る。それがきっかけとなった。

今はどんなことをしているんですか?

「昨年より開催している、『売れる加工品づくり講座』のサポートをしています。加工品をつくりたいという人と一緒に商品を考案したり、商品デザインについて生産者さんと話し合ったりしています」

時期によっては、加工品の商談会のため出張に出ることも多いそう。農産物の収穫シーズンに入ると、直売所の手伝いにもかけつける。

%e7%9b%b4%e5%a3%b2%e6%89%80-1 個人的にも、月に1回『白石サポート通信』という便りを書いているという。

協力隊として活動してみて、印象に残っていることはありますか。

「はじめて直売所に入らせてもらったときなんですけど。直売所のスタッフさんが出荷者さんに、『この子東京から来たから、農業のことをいろいろ見せてあげて』と言ったとき、その方は少し面倒だなといった顔をしたんですね」

それでも、出荷でいらしたときにわからないことを正直に聞いてみると、「そんなことも知らんとね!」と言いつつ、教えてくれた。

「れんこんのきんぴらも、私は輪切りにしていたんですけど、『縦に切りなさい。そうすると、繊維が残ってシャキシャキした食感が楽しめるでしょ?』って」

そんなふうに、だんだんと距離が縮まっていった。

「今では、いつでも来なさいって言ってくれたり、顔見たら車からでも手を振ってくれたりするようになって。それがすごくうれしいですね」

町の人と関わるなかで、長さんはどんな人が協力隊に向いていると思いますか?

「農家さんは天候に大きく左右されます。心配になるのは当たり前だけど、大丈夫、がんばっていこうよ!と、プラス思考に捉えられる人のほうが合っていると思います」

「笑顔でいられることが一番。それがないと心が折れますね」

長さんは、心が折れそうになったことはなかったんですか?

「実際に農作物に被害がでたことを目の当たりにしても、自分には頑張れとしか言えないんですよね」

昨年は例年より雨が降り、なかなか玉ねぎの苗を植えられなかった。やっと天候が戻ると、「今日植えなきゃいつ植えるんだ」と、農家さんたちが、深夜2時まで苗植えをしていることもあったそう。そして翌朝6時には起きて仕事をしている。

%e7%8e%89%e3%81%ad%e3%81%8e%e8%8b%97%e6%a4%8d%e3%81%88 「そういうなかで、自分がめげてはいられない。応援しかできないけど、私もがんばろう、と思います」

長さんが、これからの目標を教えてくれた。

「野菜ソムリエの資格を取って、保存方法やおいしい食べ方など、直売所や道の駅まで買いに来てくれる人に伝えられるようにしたいですね」

これから加わる人も、果樹の栽培に携わることで、ものの背景まで伝えながらお客さまのもとに届けられると思います。



この日、道の駅の会議があるということで、インタビュー後、私も会議に参加させてもらいました。

玉ねぎ農家さん、れんこん農家さん、きゅうり農家さんなど生産者の方や、直売所のスタッフさん、美容師さんなどが仕事を終えてかけつけた。

10回目の会議を迎えたこの日は、道の駅のコンセプトを話し合う初回。どんな道の駅にしていきたいか、テーブルの上に大きな紙を広げてポストイットしていきます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 黙々と書きつつ、近所同士で話し合ったり。たまに笑い声も聞こえてくる。

意見が一通りでたところで、考えていることをチームで共有していきます。

「とにかく土と触れ合える場所。白石ってそういう町だと思う」

「農作業とか漁業体験ができればね。ほんものの田舎体験できるんじゃない?」

「泥湯とかよかよねってお客さんに言われたことはある。れんこん畑に足を入れてみるのは、よそではできないかも」

「でも、畑に行くのは大変かな…」

「枠ばつくってもらって、潟(がた)スペースみたいなのをつくるのはどうだろう」

自然と意見が出て、場が温まっていくのを感じました。

最後に、チームごとに話し合ったことを発表して、会議は終了。

参加メンバーの方にも、話を聞いてみました。

「みんな気持ちはあるとですよね。でも、住んでいるとどれも当たり前すぎて、外の人には何が売りになるのかわからない。この会議だけでなく、私は飲食店でお客さんと話す機会もあるけんが、パイプ役になれたらなと思います」

片渕さんが帰りがけにこんなことを話してくれました。

「目をこらしてみると、まちにはいろんな人がいて。そういう人たちと一緒に、まちをつくっていけたらと思いますね」

誰かに与えられるのではなく、自分たちでつくっていく。

今回は紹介しきれなかったけれど、日本や世界中を旅してきて、今はれんこんづくりに奮闘している方、goenという純喫茶をオープンした方など、それぞれの挑戦をする人がいます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 根づかせていくことは時間のかかることだと思うけれど、可能性を秘めた種を蒔く人たちが、この町にはいる。

白石町でこれからどんな芽がでるか。続きが気になったら、まずは足を運んでみませんか。

(2017/1/10 後藤響子)