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「書く」からうまれるもの

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

みなさんは最近、手書きで何かを書くことってありますか?

私自身、いまこの文章もパソコンで打ち込んでいて、手書きで何かを書くことはめっきり少なくなりました。

けれども「書く」ということは、自分の気持ちやアイディアを整理したり、書いた人の人となりや感情が伝わってきたり。

書いたものの先にいる人のことを考える時間も、なんだか毎日をあたたかく、豊かにするような気がします。

kakimori01 東京・蔵前にある文具店「カキモリ」での取材は、そんな「書く」ことの価値をあらためて見直すきっかけになりました。

今回は、これからのカキモリを一緒につくっていく人を募集します。



オープン前の朝9時。お店を訪ねると、「おはようございます」と代表の広瀬さんが扉を開けてくれた。

kakimori02 実家は、祖父の代から続く文房具屋。カキモリをオープンしたのは、2010年のことだ。

「オープン当初は、世の中になんでもデジタル化していこうという流れがあって。手書きで書くことの大切さを伝えたいと思っていたんです」

「加えて、文房具業界の専門店がどんどん衰退していくなかで、今の若い人たちに文房具を大切にする気持ちや、文房具が好きだという気持ちを育んでもらいたいと考えていました」

どうすれば文房具に興味を持ち、買ってもらえるのか。

広瀬さんは、「モノに愛着が湧くようなお店」を目指しました。

たとえば、普段触れる機会の少ない万年筆で試し書きができたり、自分で表紙から選んだオリジナルのノートを製本してもらえたり。隣には、万年筆のインクを自分好みに調合できるインクスタンドも併設しています。

kakimori03 実際に使ったり、つくったり。そうやってモノに愛着を持ってもらうことが、書くきっかけになる。それは同時に、蔵前で共に働く生地屋さんや印刷屋さんなど、文房具に関わる職人さんたちの仕事を守ることにもつながっていく。

広瀬さんの話からは、カキモリを起点に良い循環が生まれていることが感じられます。

一方で、オープンから6年以上が経ち、考えは少しずつ変化してきた。

「私自身も、やっぱり書く時間は減ってきていて。書く時間は、日常のなかでも特別な時間になってきています。デジタルで効率化できることはどんどんしてもいい。でも空いた時間にスマホでニュースを見るんじゃなく、そのぶん自分の時間をつくって、書くのがいいのかなと」

kakimori04 「時間は少なくても、自分の考えをまとめるとか友達のことを考えるとか、そういう“人”でしかできないことをやっていくためのツールなのかな、と最近は思っているんです」

“人”でしかできないことをやっていく。

確かに。手書きだとなんだか余白が多いというか、自分の思いに立ち返る時間が増える気がします。

「そうですね。私も昨日の夜、今日の取材に備えて考えを整理していたんですけど。パソコンだとメールとか、別のことに意識がそれちゃったりするんです。でもペンと紙だと、そのことだけに集中できて、頭の中が整理されていく」

「それは人の本質的なところなのかなと思って。AIや新しい技術が現実に迫っているからこそ、自分の発想力とか学び続ける姿勢が大切になってくる。最後は紙とペンだよなって思っています」

そんなカキモリは、今第二の創業期を迎えている。きっかけは、表参道にPOPUPショップを出店したこと。

「外国の方へのアプローチと、国内でもより多くの人にカキモリのことを知ってもらおうという思いから、出店を決めたんです」

kakimori05 ところがお店を開けてみると、訪れる人は少なく、カキモリの良さを伝えきることもできなかった。結果、2年間の出店を予定していたPOPUPショップを、わずか3ヶ月で閉めることになる。

「アクセスのしやすさとかはあまり関係なくて。カキモリの思いや考えは、本店の蔵前に来たほうが伝わる。だったら表参道よりも、蔵前に行こうと考える方が多かったんです」

「それなら蔵前で、しっかりとお客様の声に応えながら、お店をより充実させていくほうがいいんだとわかりました」

今後は、表参道での失敗やお客さんの声を踏まえて、海外への出店も視野に入れているそう。

「最近は海外からのお客様が増えて、自分たちの国にも来てほしい、自分たちで文房具店をはじめるから商品を卸してほしいと言ってくださる方もいるんです。その声に応えていきたい」

「それに、職人さんが次の代に変わっても仕事を続けてもらうためには、カキモリも成長し続けていなくてはいけない。だからこそ、カキモリに価値を感じてくれる人のところに、どんどん出ていかなくてはと思っています」



前回の募集で入社したお二人にも、お話を聞いてみました。左から、中村さんと菅原さんです。

kakimori06 中村さんは、前職ではアパレルメーカーで営業の仕事をしていた。

「仕事相手はバイヤーさんだったので、自分たちが必死につくった商品を、誰が着ているのかもよくわからなかった。喜んでくれる姿を、直接見たいなと思っていたんです」

そんなときに、日本仕事百貨でカキモリの求人を見つけた。

人と直接関わる仕事はほかにもあるけれど、どうしてカキモリだったのでしょうか。

「自分も、気づけば文房具にこだわっていたなと思って。ちょっとペンやノートを変えるだけで、仕事にやる気が出たりとか」

「すぐに生活の中に取り入れられるのがおもしろいし、そこにカキモリのフィルターを通せばもっとおもしろいことが人に伝わるかなと思って。その身近さにも惹かれました」

kakimori07 入社後は、すぐに表参道のPOPUPショップの店長に抜擢される。大切にしていたのは、お客さんの気持ちや考えに思いを巡らせること。

「3ヶ月の中で、万年筆のラインナップを変えたんです。手にとる人が少なかったので、じゃあ手にとってもらえる万年筆ってなんだろうと。安いものか、かわいいものか。知識もないですけど、みんなに相談しながら」

「実際に変えてみたら、手にとってくれる人が増えた。売り上げに大きく影響したわけではないですが、カキモリ本来の書く楽しさっていうのは、手にとってもらってこそかなと思うので。少しでも伝えられてよかったと思います」

常にお客さんのことを考えながらお店をつくっていくことは、カキモリが創業当初から大切にしていることだ。

蔵前のお店でも、万年筆のインクで絵を描く人のことを考えて退色しにくいインクに変えたり、金額が高くても良いものをつくりたいという声に応えて、オーダーノートの表紙のラインナップを増やしたり。

直接言葉として伝わらないことでも、アンテナを張って感じ取る力が求められます。

現在は蔵前のお店に立って接客をしつつ、今後のカキモリについて考える企画の仕事をメインに担当している中村さん。

今後、蔵前周辺に新たな拠点となる場所をオープンする計画に携わっているそう。

「候補地の下見にも同行しています。最終決定はもちろん広瀬ですけど、自分はどう思っているのか、どうしたいのかっていうことは尊重してくれます」

「発言するからには準備も必要だし、何を根拠にしているのかきちんと考えておく必要があります。自分の興味のあるなしに関わらず、責任を持って仕事をしていきたいですね」



「カキモリのスタッフも、蔵前のまちも、なんだかあたたかみがあるというか。すれ違う人が挨拶をしてくれたり、窓ガラス越しに外から手を振ってくれたりとか。まわりのお店とも相互にいい関係が築けているのは、蔵前独特なのかなって思います」

そう話すのは、蔵前店でサブリーダーとして働く菅原さん。もともとは幼稚園で働いていた方です。

kakimori08 実際に働いてみてどうですか。

「やっぱり想像以上に忙しくて。土日には、100冊くらいノートのオーダーが入ります」

多い日には、店の外に列ができてしまうくらい混雑するのだとか。

「お店自体が変化していくなかで、自分は何ができるかなって考えるのがすごい楽しくて。今のサブリーダーという役割も、リーダーが手一杯になっていた時期にサポートをやりたいと話したら、すぐにやらせてもらえて。やりたいと思ったことは実現しやすいです」

「柔軟なぶん、昨日言っていたことが、今日には変わっていることもあります。今よりも良くなるためなので、しっかり飲み込んでやっていけるといいのかな」

今もかなり大変なはずなのに、菅原さんはそんなことを感じさせない。やわらかな雰囲気だけど、自ら動いて困難をプラスに変えていける人だと思う。

主な仕事は、店頭での接客。ほかにも、商品やオーダーノートのラインナップも決める。お店づくりも含めて、販売スタッフに委ねられている部分は大きい。

kakimori09 印象的だった出来事をたずねると、今も大切にしているという、ある手紙のことを話してくれました。

「以前、万年筆のペン先を買いに来られたお客様がいて、結構悩まれていたんです。『どういうのがいいかな』と相談を受けて、お話を聞きながら一緒に選んでいました」

ところが、最後まで悩んでいたもう一つのペン先を誤って包んでしまったそう。

後日、お客さんからの連絡で間違いに気づき、すぐに新しいものと手書きの謝罪文を送ったといいます。

「そしたらすごくあたたかいお手紙をいただいて。いろいろと相談に乗ってもらえたことがうれしかったし、選ぶ時間が楽しかったのでまた行きますと書いてくださったんです」

「あってはいけないミスなんですけど、パソコンの文字よりも気持ちが伝わりやすかったのかなって。ミスしておしまいではなく、起きたあとにどうするかによって、少しでも良い方向に向かうことができると学びました」

真摯な対応が良かったんだろうし、そんな想いで働いているからこそ、お客さんもお店で過ごした時間にモノを買う以上の価値を感じたんだと思う。

自分で選び、考える時間を楽しんでほしいから、商品には短文の説明書きが添えられている。一方で、蔵前まで来たからにはスタッフと話したい、もっとお店のことを知りたいという方も増えているそうだ。

入社するまで、万年筆を触ったこともなかったという菅原さん。カキモリで働くようになって、自分自身にも変化が出てきたといいます。

「やっぱり文房具が好きになりましたね。万年筆も買ってみました。休みの日にはスタッフ同士で文房具屋さんめぐりをすることもあります」

kakimori10 隣で聞いていた広瀬さんも、「それって、仕事がお金を稼ぐ手段だったらあり得ない行動だと思う」とうれしそう。

「スタッフが自分の仕事だと思って取り組んでくれているのがうれしいですね。もちろん大変なこともあるけど、今後も自分たちがワクワクするようなことをしていきたいです」


働く人自身も楽しみながら、「書く」ことの価値を伝えていく。

変化を続けるカキモリで、自分も一緒に挑戦していきたいという方をお待ちしています。

(2017/2/17 並木仁美)