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モノと人生の交わり

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「その人がどういう人生を送ってきたのか、どういう環境にあるのか。それを本当に知ったうえで査定をしないといけないですね。査定の金額だけではなく、モノに対するこだわりや愛情もできる限り汲んでいきたいと思うんです」

東京・世田谷に、“くらしのくら”というリサイクルショップがあります。

kurashinokura01 不要になったモノをなんでも引き取るのではなく、大切に使われてきたモノを適正な価格で買い取る。買い取りから店頭・ネットショップでの販売までを一貫して手がけるお店です。

今回は、家具と着物の買い取りを担当するスタッフをそれぞれ募集します。これまでの経験は問いません。

さまざまなモノや人が行き交うこのお店では、お金では測ることのできない価値や関わりを見出せるように思いました。



渋谷駅から、バスに揺られること約30分。深沢不動前というバス停で降りると、すぐにくらしのくらを見つけることができた。

少し早く到着したので、店内を見てまわることに。くらしのくらでは陶器や着物、骨董、貴金属そして家具を扱っている。

ほどなく、会長の野坂さんと代表の高木さんが声をかけてくれた。

kurashinokura02 実は親子だというお二人。まずは高木さんに、このお店の特徴について聞いてみる。

「お客様はモノの価値がわかる方が多いですね。ブランド品はもちろんですが、作家不詳のものでも素晴らしいと感じれば、ちゃんと評価してくれるエリアかもしれません」

たとえば、産地不明のアンティーク雑貨や、見ているとなんだかあたたかい気持ちになる絵。そういうものに、訪れる人たちも価値を見出してくれる。

「だから私たちも安心して、ブランドにこだわらずに自分たちが良いと思った品物を並べられるんです。今はモノを買う人も売る人も、インターネットで相場価格などを下調べしている方が増えてきました。だけど、なんでもネットで価値を決めてしまうのはおもしろくないなって」

「それぞれのスタッフの感性でいいと感じられるものに、価値を見出していきたいと思っています」

kurashinokura03 お店に来るのは、ほとんどが世田谷エリアに住む地域の人たち。買いに来る人も、売りに来る人もリピーターが多いという。

ネットショップにも常連さんがいる。商品を購入するたびに俳句を送ってきてくれる方がいて、毎回返句に頭を悩ませている、という話もしてくれた。

人と誠実に向き合おうとしているお店なんだな。

くらしのくらは、会長の野坂さんが脱サラをしたときに、ユニークなリサイクル店に出会ったことがきっかけで17年前にオープンした。

最初は、歩いているだけで楽しいテーマパークのような場所にしたいと、食器から洋服まで雑多なモノを大量に並べていたという。

「ある日、大量の有田焼を見たお客様から『もうちょっといい食器を扱っている店を見たほうがいいわよ』ってお叱りを受けて。それをきっかけに、質の高いものだけを置くようにしました」

kurashinokura04 店頭に並ぶ品物の値段は、買い取りを担当したスタッフが自分で決めている。買い取りマニュアルなどはないそうだ。品物は多岐にわたるので、商品の値付けは難しい。けれどもそれが、この仕事の醍醐味でもあるといいます。

「モノの価値を考えるとき、その人の感性が出てくるんです。たとえば好みやモノに対する造詣の深さも影響します。知識が深ければいいかというと、そうでもなくて。自分の感性を信じて10万円と決めたら、それがその値段ですっと売れたりとか。そういう奥深さもあるんですよ」

一方で、人がモノを手放すのは、結婚や引越し、離別など人生のターニングポイントであることが多い。

だからこそ大切にしているのが、モノを売る人の想いに心を寄せること。

「娘さんから、お母様が大事にしていた帯を買い取ったことがあります。お母様のことは知らないけれど、擦り切れた帯を見ればどれだけ帯を大切にしていたかがわかるし、娘さんがお母様のことを想って大切に保管していた気持ちも感じるわけです」

「モノに込められた気持ちを知った上で、その着物や帯がお店に並んで再び生かされていく現場に立ち会える。それがこの仕事のおもしろいところですね」



ここで働く人たちにも話を聞いてみます。まずは、着物買い取りを担当している大石さん。

kurashinokura05 「どういうふうに織られて、染められて、どんな人がつくったんでしょうって考えるのが楽しいんです。同じ大島紬でも、時代によって柄の感じも全然違うし」

「昔の着物には、今の着物にない大らかさがありますね。明治時代のものとか、もう今はつくれないだろうなっていう着物に出会うときは、やっていてよかったなと思います」

着物を愛おしそうに手にとりながら、話してくれる。

もとはOLをしていたという大石さん。手に職をつけたいと和裁をはじめ、着物の仕立ての仕事に関わったのち、その知識を活かせる仕事を探してくらしのくらへやってきた。

主な仕事は、着物の買い取りと店舗の一角にある着物コーナーでの販売だ。

お客さんのお宅に伺っての買い取りは、月に7〜8件。そのほか、宅配便で届く場合や店舗への持ち込みもあるので、月に20件ほど買い取りをしているという。

「着物もお客様の状況も、本当に同じケースはひとつもないんです」

買い取りのなかでも、着物は特殊だと話します。

「この仕事をはじめた頃、たんすの中にぐちゃぐちゃに入っているものは、大事にしていなかったんだろうなって勝手に思っていたんですけど。たとえ何十年かぶりに出したものでも、売る方の着物への思い入れってかなり強いんです」

kurashinokura06 祖母の代から大切にしているものや、母から娘に受け継がれたもの。脈々と受け継がれてきた歴史や想いがあるぶん、買い取りにも時間がかかる。長いときには、たんす一棹(さお)で3時間かかることもあるのだとか。

そのほとんどが、「話を聞く仕事」とも言えるかもしれない。

「これは◯◯先生につくってもらったのよ、と着物好き同士で盛り上がることもあります。ときには、着物を着ていたころの思い出話や息子さんのこと、今に至るまでの生い立ちを聞くこともありますね」

kurashinokura07 華やかな思い出とともにしまわれていた着物は、シミや虫食いで買い取れなかったり、お客様の想像より安くなってしまう場合もある。

「言葉にはかなり気をつけていますけれど、『そんなに安くなっちゃうのね』って悲しい顔をされる方もいます」

納得してもらうためには、その価値をきちんとわかっていると相手に伝えることが重要。大石さんは触っただけでその生地がシルクなのか、シルクとレーヨンとの混紡なのかという微妙な違いまでわかるそうだ。

とはいえ、まずは着物が好き!という気持ちを持っていることが一番の条件とのこと。

kurashinokura08 経験を積みながら、産地や染めの方法、織り方について学んでいく。店舗には自分の着物を持って相談にくる方もいるので、同時並行でTPOにあわせた着物の格やコーディネートの勉強も必要だ。

「着物は見かけより重いので、意外と力仕事です。埃やカビがあるものもありますし、そういうことに抵抗の無い方がいいですね」

「着物が好きだという想いがあれば、どんどん覚えられると思います。いいものに巡り合う喜びもありますし、楽しみながら働くことができる仕事ですね」



続いてもう一人紹介したいのが、家具の買い取りを担当している林田さんです。

kurashinokura09 トラックを運転してお客さんのもとに向かう。査定をして、買い取りが決まると品物を梱包して運び出し、店舗に戻ってクリーニング、値付けというのが家具買い取りの一連の流れです。

やっぱり、力仕事というイメージが強いです。

「そうですね。引っ越しのときに、業者さんが家具を梱包して運び出してくれるじゃないですか。あんな感じに近いかも(笑)」

ちなみにこれまで扱った中で一番大きかったのは、横1メートル70センチ、高さ2メートルのアンティーク飾り棚。

「基本的には分解できることが多いんですけど、その飾り棚はできなくて。3人がかりで、部屋の壁に当たらないように出したのが一番きつかったですね」

kurashinokura10 入社1年半の林田さん。過去には、着物と貴金属の買い取りをしていた。一度は違う職へと離れたものの、「やっぱり買い取りの仕事がしたい」とくらしのくらに入社したそう。

買い取りの仕事の、どんなところに魅力を感じているのでしょうか。

「人助けとモノ助けというイメージでしょうか。結局、いい品物でも捨ててしまえばそれで終わっちゃうんです。その品物の価値を見つけて、次の人に受け継いでいく手助けをしたい」

受け継いでいく手助け。

「お家に眠っているなんでもない家具を、それを必要とする人にバトンタッチしていくことで、新たな価値が生まれていくので」

「モノに魂はないと思うんですけど、くらしのくらを経由して新しい人のところにいった家具が、以前よりも居心地が良さそうに感じることがあるんです。同じ家具でも、その家の雰囲気や配置によって印象が変わるので。それを見られるのがおもしろいですね」

着物の買い取りと同様に、モノを売りたい人の話にしっかりと耳を傾けることが求められます。

「最初は『手放したいので買ってください』って呼ばれるんですけど、話を聞いていくとその理由が鮮明になっていくんです。たとえば引っ越しとかリフォームで売るというのではなく、将来の後始末の時に子どもたちに迷惑をかけたくないので、というように」

kurashinokura11 「『どこで売るの?』って聞かれた場合には、この家具は深沢エリアでも好きな方が多いのでお店で、こっちはインターネットでと、手放したモノがどうバトンタッチされるか説明します。値段というよりも、売った品物が大事にされるかを気にかけるお客様が多いですね。それは僕が売る側だったとしても、気になるところだと思うんです」

手放す人の気持ちに寄り添ってくれるのがうれしいです。

査定は未経験の人でも大丈夫ですか。

「最初は戸惑うと思いますが、大丈夫ですよ。基本的に二人一緒で買い取りをします。それはできるだけ適切な査定をする、家具を丁寧に扱いたい、というのが理由です。同行しながら、査定や家具の搬出の仕方を現場で勉強していくことができると思います」

査定には、他のアンティーク家具店での販売価格など勉強が欠かせない。その上で自分の感覚にあったモノも仕入れることができるので、感性を磨ける仕事だと思います。

kurashinokura12 くらしのくらでは、それぞれの価値観や感性を活かしながら働く姿が印象的でした。

さまざまな人やモノが行き交うこの店は、新しい世界に出会うきっかけにもなるかもしれません。

興味があったら、まずはぜひお店を訪ねてみてください。

(2017/2/20 並木仁美)