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一緒に仕事をするとき、集まった仲間の興味ややりたいことがまったく同じとは限らない。それぞれに違うから、意見がぶつかることだってある。
違うからこそ、いい場ができていくこともあると思う。
La Terrasse Awaji はホテルと呼ばれる大きな木造の建物とコテージを、それぞれ1組限定で貸別荘として運営している場所です。
これからホテルを中心にカフェや散策路、果樹園づくりなど、いろいろなことがはじまっていきます。
今回はこの場をつくっていく人を募集します。まずは貸別荘の運営から。
経験よりも、この場所を好きになれるかどうかが大切だと思います。
淡路島へは新神戸駅からバスで1時間ほど。
この日はとてもいい天気で、鮮やかな青を眺めながら明石海峡大橋を渡る。
島の東側の道を進んでいくと、ときどき大阪湾が車窓から見えた。
橋を渡ってから15分ほど進むと、最寄りのバス停に到着。すぐに紅(こう)さんが声をかけてくれた。
「話しやすそうでよかった。どんな人がきてくれるんだろうって、どきどきしてたんですよ」
この辺りのことを教えてもらいながら山道を上がっていくと、5分ほどでLa Terrasse Awajiに着いた。
庭にはたくさんのハーブが植えられていて、清々しい空気。
ホテルと呼んでいる大きな宿泊棟には最大17人、コテージには最大12名が宿泊可能で、どちらも1組ずつ限定の貸別荘になっている。
ホテルのドアを開けると立派な暖炉が出迎えてくれた。まるでヨーロッパの山荘にでも泊まりに来たような感覚になる。
大きな窓からは海が見渡せて、遠くのほうにうっすらと大阪の街が望める。
「満月のときには、ここから月が出るんですよ。大阪湾がふわっと光ってね、きれいなんです」
最初にお話を伺ったのは代表の中村さん。神戸で人気のケーキ屋さん「ダニエル」のパティシエでもある方です。
「いい物件があると聞いてこの場所を購入したのが15年前です。これまで自分たちの別荘として使ってきたんですが、3年ほど前から宿として運営しています」
「普通に貸別荘として打ち出してもつまらないから、友人や家族と自由にパーティーをする場所にどうですか、と呼びかけるところからはじめました」
パティシエが貸別荘。正直、意外な組み合わせです。
「ダニエルでレストランやカフェを運営する経験をしてきたんです。新しく場所をつくるのって、楽しいじゃないですか。果樹園をつくって、日本ではなかなか手に入らないフルーツを育てたいんですよね。それをケーキに使うんです」
「池を掘って、そこで育てた魚を食べる。きれいな水でないとおいしくないやろうから、井戸を掘るとかもいいですよね。バナナの木を植えて、葉っぱの上にお寿司を並べるパーティーなんかもいいですよね」
すると横で聞いていた紅さんが「そんなのはじめて聞きましたよ」と笑う。
こんなふうに、中村さんからはどんどんアイディアが出てくるのはよくあること。
関わるメンバーが全員賛成できることもあるけれど、あれ?と思うことだってある。お互いにゆずれないところをすり合わせながら、少しずつ進めていく。
「幸せプロジェクトと呼んでまして、ここに関わった人は幸せになってもらいたいんです」
「幸せって人によって違いますよね。それぞれが意見を出し合って、一通り満ち足りている状態をつくること。もちろんそのためにはお金も必要なので、お客様に来てもらわないといけません。来た方にも、あそこに行くと気持ちいいよね、と思ってもらえたらいいなって」
「よかったら、外をご案内しましょうか」
道を挟んで向かい側の山には、将来カフェをつくりたいと考えているそう。
山の斜面に沿って席をつくり、棚田越しに見える海を眺めながらのんびり過ごせるような場所。風が谷間を通っていくので気持ちがいい。
「ホテルに泊まったお客様が、朝ごはんを食べるのに使ってもらうといいですよね。ふだん神戸でダニエルのケーキを食べていただいている方が、週末にここへ来て散策してくれるのもうれしいじゃないですか」
「シティーにあるものがこの環境にある。その違和感を楽しんでもらう。さらにもう一つ踏み込んでいくと、その先に新しい価値があるような気もしているんです。まだ具体的にはわからないけれど、まずはやってみないと」
カフェや果樹園をつくることのほかにも、やりながら、いいと思うことには取り組んでいきたい。
ホテルの裏にある山には遊歩道が整備されていて、散策することができる。今は養蜂をしていて、将来はこの山に小さなコテージを建てていきたいと考えているところ。
「淡路はウバメガシという木が多いんですよ。固くていい備長炭になります。うねうねしていて、おもしろいですよね」
そう話してくれたのが、この遊歩道を整備した太樹さん。紅さんの旦那さんで、一緒にホテルとコテージの運営をしています。
「ホテルの建物はカナダの木を使ってできています。日本の気候に合っているわけではないので、3年に1度は防腐剤を塗ったりメンテナンスをする必要があるんです」
お客さんが少なくなる冬の間は、建物や場所の整備をしていることが多いそう。
なんでも自分でできるんですね。
「小さいころから葉っぱや石をひろって遊んでました。もっと自然のあるところで暮らしたくて、沖縄の大学で建築の勉強をしたんです」
卒業制作のつもりではじめた古民家の移築にはまり、卒業後もカヤックのインストラクターをしながら、沖縄で暮らしていた。テント生活をしていた時期もあったんだそう。
「台風の時期はさすがにつらくて、ゲストハウスに住み込みで働いていました。いろんな人が来るので、話をするのが楽しかったですね。地域のおじちゃんが『ここに来るだけで旅行してる気分になる』って言ってるのを見て、宿っていいなと思いました」
実は、紅さんと出会ったのがこのゲストハウスだった。
「太樹に出会ってからビーチコーミングを知りました。海辺に流れ着いた流木やガラスなんかを拾ってくるんです。自然の美しさを見る力がすごくあって、それに惹かれたんだと思います」
ホテルの客室などにそっと置かれているオブジェはすべて太樹さんがつくったもの。
ふつうに落ちていたら気がつかないけれど、こうして手が加えられることで、愛しいかたちをしているように感じる。
「小さいころからの習慣なんやろね。落ちているときはただの木なんだけど、手に持った瞬間からそれは、きれいなものになる。だから連れて帰ってきてしまう。自分がきれいだと思ったものを、いいと言ってもらえるのがうれしくて」
「宿も一緒やねんな。自分たちの好きなところで働いて、きれいに手入れをする。来た人に好きやな、淡路島へ来てよかったと思ってもらえる。共感してもらえるのがうれしいのかもね」
「はじめに淡路島にやってきたのは、太樹の実家の神戸から近い場所がよかったから。仕事も住む場所も決まってなかったけど、どうにかなるなって」
太樹さんは建築事務所で、紅さんは名産のたまねぎ収穫や繁忙期の海の家でのアルバイトをするところから淡路島での生活がはじまった。
その後、知り合いから紹介してもらい、La Terrasse Awajiで働くことになる。
当時はまだ宿としての運営をはじめたばかりのころ。シーツの色や宿泊のルールを決めるところから、手探りでここまでやってきた。
「掃除をしてお客さんを出迎えます。その後はなにかあったら電話がくるんだけど、暖炉の火の付け方がわからないとか、ガスが止まっちゃったとか。最初は大変でしたね」
お客さんは家族や友人とともに、好きなようにすごす。これだけ大きいと、掃除が大変そうですね。
「掃除や改修も目の届く範囲なので、全部自分たちでできるのはおもしろいかな」
「大切な休日にわざわざ泊まりにきてくれるわけじゃないですか。マニュアル通りの答えみたいになっちゃうけど、お客さんが心地よさそうに過ごしてもらえるときって、普通によかったって思うよね」
今後はヨガや映画の上映など、もう少しお客さんと関われるような企画を考えてもいいかもしれない。
実は2人は、春にはここを離れる予定。将来、太樹さんが一からつくった空間で宿をやりたいと考えていることを話してくれた。
太樹さんのように建築の知識を持っている必要はない。2人が続けてきた宿の運営を引き継ぎながら、少しずつ自分のやりかたをつくっていければいいと思う。
最後にもう1人、山のメンテナンスを中心に担当している山本さんを紹介します。
山本さんはもともと、楽器のチェロをつくる職人だったそう。
「当時はまだ日本がバブルだった時代で。チェロをつくるための楓の木をカナダに見に行ったとき、環境を破壊する日本には売れないと言われてしまうことがあって。それやったら自分で植えようかなって」
帰国したあと造園業に転職。中村さんとはダニエルの庭の手入れを頼まれたときに知り合って意気投合し、ずっと友人としての付き合いが続いてきた。
「山の木を切ってしまうことが、人間の横柄やないかと思う人もいるかもしれません。けれど人間もそこで暮らしていかなくてはいけないので、ある程度ルールを決めていく仕事をするようにしています」
森を散策しているとき、4人はとてもたのしそうだった。一見バラバラの4人に見えるけれど、自然を見るときの目は近いものがあるんじゃないかな。
紅さんが、あるエピソードを教えてくれた。
「庭にあるユーカリの木に、とてもきれいに生えている枝があって。もう少し伸びたら切って飾ろうと思っていたんです。太樹と毎日見守っていたら、ある日なくなっていて。山本さんも同じのに目をつけてたみたいで(笑)」
この夜は贅沢に、1人でホテルの棟に泊まらせていただいた。
翌朝目を覚ますと、海や山の色が少しずつ変化していくのを眺めることができた。
4人がこの場所で夢見ることはそれぞれだけれど、お互いの意見が重なることでこの場の心地よい空気がつくられているように感じました。
そこに自分も重ねられるように思ったら、まずはぜひ淡路島を訪れてみてください。
(2017/3/1 中嶋希実)