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「このキッチンは、ひとりでつくったやつですね」そう言って、携帯に保存された写真を見せてくれた。
写真のキッチンは、さまざまな木工事に関わる職人、籾木さんの作。全体の造形や素材など、お施主さんの要望を聞きつつ、現場ごとにつくりあげる。
職人って、かっこいい仕事だ。素直にそう思った。
今回募集するのは、数々のリノベーション案件を手がけてきた株式会社ルーヴィスで現場ごとに関わる職人さん。大工や電気、塗装、設備に左官、クロス張りなど、いろんな分野の職人を幅広く求めています。
正社員としての雇用ではなく、案件ごとの業務委託契約となります。何かしらの経験はあったほうがいいけれど、ここで学んでいくこともできるそうです。
まずは先ほどのキッチンを手がけた籾木さんに会いに、中目黒の現場を訪ねました。
ルーヴィスを中心に、さまざまな現場で働く籾木さん。
なぜ職人を目指すことにしたのだろう。
「子どものころ、たぶん部屋の模様替えからスタートしていて。宮崎のすんごい田舎の人間なんですけど、やっぱりそういうことをやりたいなと思って東京に出てきました」
大学では造形工学科に進み、椅子をつくったり、建築をかじったり。
そこで一度は挫折を味わうことになる。
「かっこいい形をつくらなきゃいけないのに、できない。自分には建築は無理だなと思ったんです」
そんなとき、オランダのドローグデザインに出会った。
「ハンマーの形をしている貯金箱とか、服を束ねた椅子とか。とにかく自由で面白いんですよ。ぼくがデザイン好きになった原点はそこにあります」
その後、大学を卒業して専門学校に入学。デザインを学びながら、仲間4人のユニットで活動をはじめた籾木さん。
たとえば道端に家具でジャングルジムをつくって、それをミラノサローネに持ち込んだり。雑誌やメディアにも取り上げられたそう。
その延長ではじめたのが、展示空間をディレクションする仕事だった。
「でも、それもぼくには合わなくて」
合わなかった?
「高級なマンションギャラリーとか、そういう空間をつくっていたんです。マンションを探してお客さんが見に来るんですけど、物件が売れたら壊すんですよ。たくさんのお金をかけて、なんてことをしてるのかなって思って」
「それで、家具屋さんに修行に出ました。25歳だったかな。職人としては遅いスタートですよね」
そこで7年ほど修行を積み、同僚とともに独立を決意。仕事のあてもないままに退職してしまったという。
「正直厳しいなっていうときに、知り合いから『ちょっとうちの現場手伝ってくれねえか?』って声がかかって。今みたいに現場メインでやりはじめたのはそれからです」
ただ、現場の仕事はよくわからない。一緒になった職人さんに教わったり、その仕事ぶりを間近に見ながら、少しずつ覚えていった。
「松陰神社前で『STUDY』とか『nostos books』、『MERCI BAKE』の内装をやった鈴木さんのところで仕事していたときに、ルーヴィス代表の福井さんが大工を探していたらしくて。鈴木さんから福井さんに、ぼくを紹介してくれたのがきっかけでした」
それがおよそ5年前のこと。今では、ルーヴィスの現場で家具造作といえば籾木さんの名前がまず挙がるほどの信頼を得ているようだ。
「最近、鈴木さんから『早く帰ってきて』って電話がくるんです(笑)」
決して熱く語りはしないけれど、誇らしげな横顔に想いが滲み出ているような気がする。
「キッチンやら家具やら、そういう現場造作の多い仕事は楽しいですね。現場ごとに状況も変わるので、頭使って、うまく差し引きして」
「最近だと、床から天井いっぱいまでガラスのフィックス枠をつけたいって言われて。ただ、床も天井も、水平のレベルがてんでバラバラなんです。急きょ床を上げ、天井を下げることでまっすぐな箱をつくってあげて…。あれは大変でした」
挫折や葛藤を乗り越えて職人となった今も、日々試行錯誤を続ける籾木さん。
ひとりで作業することも多いなか、ルーヴィスのスタッフとの関わりが支えになることもあるという。
「『これつくってください』『わかりました』という関係ではなくて。『こうしたらどう?』と提案もしますし、ちゃんと受け入れてくれるので。職人側としても面白いんです」
どうしても縦割りになりやすい業界にあって、これだけ柔軟な関係性が築けていることは珍しいという。
「ルーヴィスのスタッフは若い子が多いし、経験という意味ではまだまだなんですけど。そこまでやるかってぐらい、本当にみんながんばるので、それに応えたい気持ちはあります」
「上から目線でガミガミ言うんじゃなく、一緒にやる感覚を持てる人がいいかなと思いますね」
電気、大工、設備、塗装、クロス張り、床張りなど、幅広く職人を求める今回の募集。
籾木さんが家具づくりの世界から入ってきたように、リノベーションの現場にまだ関わったことがない人にも飛び込んできてもらいたい。
「ぼくも人生の流れ的には変わり者ですし、新築を建てる大工さんとはまったく違うものが求められる現場なので。何でもいいから、特化したものを持っている人は強いかなと思います」
現場をあとにして、今度はルーヴィスのスタッフの方にも話を聞くことに。
こちらは施工管理担当の玉木さん。
まず、あらためてルーヴィスという会社について聞きたいです。
「そうですね。会社としてルーヴィスがいつも言っているのは、“選択肢を増やす”ことです」
選択肢を増やす。
「たとえば、古い家やマンションを買って、直しながら住んでもいいじゃないかと。新築至上主義に一石を投じて、選択肢を増やすことがひとつのテーマですね」
住まいに限らず、オフィスや店舗などのリノベーションも手がけてきたルーヴィス。
実は、日本仕事百貨のオフィスがある「リトルトーキョー」の工事でお世話になった会社でもある。
そのときは、5階建てビルの1階を中心にリノベーション。
4階のオフィスにいると、工事の振動が伝わってきて驚くこともあったけれど、職人さんと挨拶を交わすことで不思議と安心できたのを思い出した。
漠然とした不安は、顔が見えるだけで解消されることもあるのかもしれない。
「スタッフと職人さんだけじゃなくて、職人さん同士も仲がいいんですよ。バーベキューや忘年会は必ず盛り上がりますし、そういったつながりから別の仕事が生まれたり、新しいプロジェクトがはじまることもありえるんじゃないかと思います」
選択肢を増やすこと、顔を合わせてコミュニケーションをとること。
そしてもうひとつ、大事にしていることがあるという。
「“まずやってみること”。今、神奈川県の三崎口ではベーグル屋さんをやっているんです」
古倉庫の活用法を考えたとき、浮かんできたのがベーグル屋さんのアイデアだった。
リノベーション後の経営は外部に任せることもできただろうけれど、別会社を設立して継続的に関わることに。
「工務店だからといって、家をつくるだけじゃなくてもいいし、面白いと思ったことにはどんどん挑戦していく会社ですね」
まずやってみるという姿勢は、玉木さん自身のスタンスと通ずるものがある。
建築を学んだ経験はなく、新卒でルーヴィスに応募した玉木さん。
「まあとってくれないでしょうと思いつつ面接に来たんですけど、代表の福井さんはちょろっと話を聞いただけで『いいよ。いつから来れる?』みたいな感じで(笑)」
入社翌日に担当物件を割り当てられるも、何をすればいいかわからない。
そんなときの支えになったのは職人さんの存在だった。
「事あるごとに職人さんに電話して、いろいろ教わりました。もちろん、裁量を与える福井さんもすごいと思うんですけど、職人さんたちが面倒がらずに教えてくれたから今があるなって。本当に感謝しています」
特に専務の内藤さんから教わったことが印象に残っているという。
内藤さんは、以前まで大工をしていた女性の方だ。
「解体工事のときには、普段表に見えないつくり方や、つくった人のクセが見えてくる。ただ解体するんじゃなくて、ちゃんと裏側を見て学びなさい、と」
「あとは『あなたの現場でしょう』ということもよく言われました。職人の言いなりでやってもダメで、最終的には自分の責任で考えなきゃいけない。教わったことはたくさんありますね」
籾木さんのように同じ目線に立ってくれる人もいれば、内藤さんのようにビシッと指摘してくれる人もいる。
それぞれのスタイルはあれど、根底にあるのは思いやりの気持ちだと思う。
「今、すごく信頼関係の厚い方たちが残ってくれていて。きちんと仕事をしてくれるからこその信頼ですし、逆に職人さんからしたら、ちゃんと対価を払うことも信頼につながっていると思います」
「口先だけで『横並びの目線でものをつくっています』と言いたくないですし、ただ仲良くするだけじゃなく、きちんと仕事として成立させるバランス感覚も大事ですよね」
隣で聞いていた設計担当の岸田さんも、大きくうなずく。
「ビジネスライクではない関係を構築しながら、仕事としてきちんと成立させてしまうっていうのは、簡単そうでなかなかできることじゃないなと。他人事のように言いますけど、それはルーヴィスのすごいところですよね」
30歳で自らの設計事務所を構えた岸田さんは、もともとルーヴィスとの付き合いがあったそう。
今年1月に入社してから3ヶ月が経ち、ルーヴィスの内側をより深く知るフェーズに入ってきている。
「職人さんの得手不得手から性格まで把握できれば、設計の段階から現場をイメージしてデザインできますよね。ぼくもそこまで自分のできることを拡張していかなきゃいけないと思っています」
設計担当であっても、職人さんと頻繁に顔を合わせるのがルーヴィス。
岸田さんはどんな人と働きたいですか。
「ぼくらはやっぱり、職人さんとの相互関係のなかで一緒に空間をつくっていきたい。お互いの専門性を尊重しながらも、より広い視点から意見を交わせるような人だといいのかもしれません」
「籾木さんのような方でも、まったく違う道のりを歩んできた方でもいいと思っています。いろんな経験やスキルを持った方に来ていただけたらうれしいですね」
話の端々に感じられる、スタッフと職人の信頼関係。
その心地よさが、ルーヴィスの手がける空間にはそのまま表れているように思います。
これを機に、新たな関係が育まれていくのが楽しみです。
(2017/04/17 中川晃輔)