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じっくりと、信じるものをつくり上げていきたい。そんな方にぜひ知ってほしい仕事と出会いました。
アイビーログ工房は、高知県でログハウスをつくっている会社です。
ログハウスとは、丸太を主要な構造材とした建築物のこと。なんとなく、キャンプ場のコテージや別荘のような、非日常に佇むイメージがありました。
一方、アイビーログ工房が手がけるログハウスのほとんどは個人宅だといいます。間取りやデザインもさまざまで、ひとつとして同じものがない。
「自然の素材には力があるのよ。ずっと嫌にならない力っていうか。丸太も一本一本違って、本当に魅力的ですよ」
我が子のようにログハウスを語るのは、代表の岡原拓彦さん。
山の木を伐るところからはじまり、100年、200年と生き続けるログハウスを丁寧に建てていく。今回はそんなログビルダーを募集します。
ログハウスのことはよくわからなくても大丈夫。一から手に職をつけたい人、自然が好きな人にはぴったりな仕事だと思います。
高知龍馬空港からタクシーで20分ほど。
田んぼや畑をいくつも通り抜け、山へと向かうのぼり坂の途中に一軒のログハウスが見えてきた。
ここがアイビーログ工房のオフィス兼作業場。外には丸太や大きなクレーン車が並んでいる。
昨年、10キロほど離れた場所にあった工房からこの場所に引っ越してきたという。
外から眺めていると、扉が開いて、代表の拓彦さんが「どうぞ」と招き入れてくれた。
「引っ越してからできることの幅が広がったんですよ。ここの壁に土佐漆喰を塗るときも、イベントにしたら結構な人が来て楽しんでくれたし」
メーカーとしてログハウスを建てるだけでなく、まだ世に知られていないログハウスの魅力を伝え、広めていきたい。
「だからこそ、ログハウスを知らない人にも応募してきてもらいたい。次の世代を育てていくことが大切なんだよね」
そう話す拓彦さんは、なぜログハウスの世界に足を踏み入れたのだろう?
もともとは商船の船乗りで、国内外合わせて15年ほど海の上にいたそうだ。
きっかけとなったのは、港の本屋さんで何気なく開いた1冊の本。
「偶然、『夢の丸太小屋に暮らす』っていう雑誌の創刊号を見て。えらい惹きつけられて、ともかくこれをやってみたいと思った」
「雑誌の企画で、カナダにログハウスビレッジつくりませんか?って。それ応募して、カナダに2軒建ててきました。帰ってきてからは、高知のログハウスの会社で5年ぐらい働いたかな」
その経験から見えてきたのは、ログハウスの強さと弱さ。
頑丈で地震などには強いぶん、雨風にはめっぽう弱い。
「2〜3000万円かけた家が10年後にひどい状態になったら、お施主さんも、建てる側も悲しいでしょ。そういう悲しい家はつくりたくないなっていうので、ポストアンドビーム構法をメインにして、9割以上はそれでやってきてる」
ポストとビームとは、柱と梁のこと。柱と梁を組み合わせる建て方は、日本の在来軸組構法に近く、間取りの自由度も高くなる。
ほかにも、雨風にさらされる箇所には焼杉を使ったり、耐久性が高く調湿効果もある土佐漆喰で壁を仕上げたりと、なるべくメンテナンスのいらない家づくりにこだわってきた。
「ただ、建築に100%はなくて、どこかに必ず弱点がある。だから、直したくなる家にするっちゅうのも大事で」
直したくなる家。
「たとえば、うちでは新月の前1週間の間に木を伐る。そうすると虫がつきにくくなるんだけど、そこへお施主さんも一緒に行って伐るわけ」
「その木は、家のなかのどこか見えるところに使う。そしたら子どもにも、木を伐ったときのことを話すでしょ。親父が苦労してつくった家だとわかったら、子どもにとっても愛着が湧いてくる。こういう家づくりをしていきたいのよ」
一時的にかっこいい家なら、安価で建てられるかもしれない。けれども、その家は20年、30年後もかっこいいだろうか?
拓彦さんは疑問を投げかける。
「自然素材とかエコロジーを売りにした家もあるけど、結局素材をつくるまでにすごくエネルギーをかけてる。そして、廃棄するときもものすごいエネルギーがいる。はっきり言うと、要はゴミになってしまうのよ」
「ぼくらがやりよるのは、自然に還る素材。地元の素材だったら環境問題も起きないし、それこそ今の時代に合ってるんじゃないかと思うんだよね」
扱うのは、高知県産材。木材以外に関しても、化学物質を含む断熱材などは使わず、いつかは腐るものばかり。
その土地に育った素材だからこそ、気候に合うし、住み心地が違うという。
機械加工のほうが何倍も早いけれど、手作業にもこだわる。一本一本の形、表情を活かすために、信頼できるのは自分の手と目。
「食べものにはこだわっても、住まいの素材にこだわる人って、今あまりいない気がするな。ぼくも最初はそうだった」
拓彦さんも?
「そう。なんでかっていうと、知識がなかったから。知らないからなんでもよくなる。逆に言えば、知るとこだわりたくなる」
「環境意識や設計に関しては、日本では一番こだわってるログハウスメーカーやと思いますよ。でも日本一じゃいかんな。世界一にならんと。高知から世界に発信できるような会社にしたい。ぼくはいい歳だから、それを彼らに託したいわけよ」
話のバトンを渡されたのは、息子の玄八(げんや)さん。アイビーログ工房の2代目だ。
幼少期をログハウスで過ごし、大学進学と同時に千葉へ。そのまま千葉の工務店で働いた後、高知へと戻ってきた。
「ログハウスって、人を包み込むような住み心地なんですよ。夏はエアコンがいらないほど涼しいし、冬は暖炉のおかげで暖かい。土佐漆喰の調湿効果もある。大学はアパート暮らしだったので、余計に差を感じていたんです」
つくり手からはじめた父・拓彦さんと、住み手の視点からこの世界を志した玄八さん。
より良いログハウスを目指すからこそ、意見がぶつかることもあるという。
「言われたままに育ったら、いつまでも親方は超えられないと思うんです。それは嫌だから、自分の意見ははっきりと言うようにしてますね」
家族経営、しかも職人の世界に入っていく不安を感じるかもしれないけれど、ひとりのログビルダーとして意見を交わすおふたりの姿からは、想像以上にフラットな関係性が感じられる。
それから、明確な役割分担がないのもアイビーログ工房の特徴のひとつ。
「今あるログハウスメーカーって、淘汰されて残ってきた会社だから、こだわりも強い。一部では若手と上の世代との考え方のギャップも生まれているように感じます」
「その点ここは、社長からこうせい!って言われることはあまりなくて。機能的に満足させられれば、デザインは自由度が高いと思います」
たとえば、階段や手すりはログハウスの顔とも言える存在。
通常は棟梁がやるような仕事なのに、玄八さんはかなり早い段階で任されたそう。
「そら死ぬ気でやるしかないですよね」と玄八さん。
「できると信じてるから任せるんだよ」と拓彦さんが応じる。
「やる気のある人なら『こんな階段にしたいな』って、どこかで思っちゅうわけ。その階段をぼくは見たいのよ。こいつはこんな階段をつくったか、と」
「ぼく自身、昔から新しいことをしたくてたまらなかった。いつやらせてもらえるのかって、親方の仕事をじーっと見てた。そういう気持ちがあったからね、できることはやらせたい」
本人のやりたい!という気持ちを感じとり、腕を見極めて任せる。それって信頼関係がないと難しいことだ。
ここで、拓彦さんが部屋の一角を指差す。
その先には、木を3パターンに使い分けた引き出し収納があった。
オフィスを訪ねるお客さんにとても好評だというこのデザイン。
拓彦さんは「プロはああいうことせんよな」と笑う。
「プロはしないけど、面白い。だから、アマチュアの視点って大事で」
アマチュアの視点。
「みんながみんなはじめからプロやないでしょ?アマチュアの人がいいと思うことを、プロの腕でトラブルがないようにすることが大事なのよ」
適当でいい、というわけではなく。素直にいいなと思ったアイデアを形にするため、プロとしての腕と知識をフル活用する。
そんな試行錯誤の積み重ねが、ログハウスの表情を豊かにしていくのかもしれない。
この引き出し収納をつくったのは、日本仕事百貨での募集に惹かれて1年半前からアイビーログ工房で働く岩橋さん。
「去年の8月にテーブルを任されたんです。それがここにきて最初に任された仕事で」
「デザインも自由、どの材料を使ってもいい。はじめて自分でつくったものが、お客さんに喜んでもらえて。そこが大きな転換点になったかなと思いますね」
以来、本棚をつくったり、重要な部材の加工を行ったり。任されることの幅が広がって、先ほどの引き出し収納のようなものまで自由につくれるようになってきた。
「社長もそうですし、楽しんでやろうよっていう空気感はありますね」
「ただ、根底は家を建てる職人。そこは覚悟を持って来たほうがいいです。ぼくは職人のイメージがなかった分、苦労したので」
実際に働いて、大変でしたか?
「入った当初は、家に帰ったらすぐ倒れて、朝起きたらすぐ行かなきゃという感じで。大変でしたね。だんだん自分の身体の使い方を覚えていくと、楽になります。そこは慣れもあると思いますね」
「あとはチームで動くので。自分の役割は今これだなとか、何日先までに完成だからこうやっておかないと、とか。指示があるわけではないので、常日ごろ考えていかなきゃいけないのは大変かもしれません」
どんな作業があるのか、外に出て見させてもらうことに。
取りかかったのは、二本の丸太を組み合わせ、大きな一本の梁に組み立てる作業。
片方の丸太を拓彦さんがクレーンで吊り上げ、接合部分がずれないようにゆっくりと下ろしていく。
岩橋さんが丸太のわずかな傾きを確認し、玄八さんは手で合図を出しながらハンマーで叩く。
うまく噛み合わない部分をのこぎりで削っては外し、削っては外し。微調整を繰り返す。
チェーンソーでダイナミックに形をつくることや、丸太を組み上げていく様子ばかり想像していたので、思ったより地道な作業もあることがよくわかった。
最後に、岩橋さんの言葉を紹介します。
「くさい話ですけど、働くなら地球がよくなるために働きたいなと思ったんです。衣食住のなかでも、家って人生で一番大きな買い物だから、そこを変えれば人の意識も変わるんじゃないかなって」
「何より、ログハウスを好きな人が来てくれたら一番いいですね」
じっくりと組み上げるログハウスは、100年、200年先まで生き続けるといいます。
そしていつか土に還ってゆく。
形がなくなってもなお、未来にあたたかな手触りを残す仕事だと思います。
(2017/5/15 中川晃輔)